BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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手に入れたもの(3)

 飛鳥がゲーム開発部の部室にたどり着いた時、アリス達はディスプレイに釘付けになって固まっていた。

 飛鳥の入室に気が付いた彼女達が勢いよくこちらに振り返るが、その表情はどこか驚きに満ちている。

 

「やあ、G.Bibleの中身が見られるようになったって聞いたけど、どうかな?」

 

 そう声を掛けてみれば、アリス達はお互いの顔を見合わせた。

 もしかして、思ったようなものが得られなかったのだろうか。そんな不安が飛鳥の中に湧き上がる。

 けれど、次に飛鳥の方を見たアリス達はどこか楽し気な笑みを浮かべていた。

 

「飛鳥先生! せっかくだから先生も見てください!」

 

 アリスがそう言い、モモイとミドリが飛鳥の背を押して、ユズがソファに飛鳥の座るスペースを作った。

 あれよあれよ座らされた飛鳥は、よほどいいことが書いてあったのだろうと思いながらソファの目の前に置かれたディスプレイに目をやる。

 そこには、簡潔な一文だけが書かれていた。

 

『ゲームを愛しなさい』

 

 余りにも簡潔な一文。おおよそ『最高のゲームを作れる秘密の方法』だとは思えない。

 自分の目で見たものが信じられず、飛鳥は震える声で隣に座ったアリスに問うた。

 

「ま、まさか……これだけ、かい? そんなはずはないと思うのだけど……」

「あ、そう言えばアリス達もここまでしか見ていないです。モモイ、次のページ行ってください!」

「はいはーい」

 

 アリスに促されて、モモイが操作する。

 すると、画面が切り替わって新たな文章が表示され始めた。

 

『あなたがこのボタンを押したということは、ファイルが壊れた、もしくは何か問題があったのでは、何らかのエラーが生じたのでは……と疑っている状況なのでしょう』

「お、おお……良かった。あれで終わったら悪い冗談じゃすまない所だったよ」

 

 背中にじっとりとした嫌な汗が噴き出たのを感じながら、飛鳥はホッとため息を吐いた。

 そんな彼を横目で見ながら、モモイがさらにボタンを押す。

 そしてディスプレイに更に文章が表示された。

 

『しかし、エラーではありません。残念ですが、これが結論です。ゲームを愛しなさい!』

「………………」

 

 目の前に映し出された結論に、飛鳥はあんぐりと口を開けて固まった。その口からはかすれた吐息の音しか出てこない。

 

「ば、馬鹿な……あれだけ皆が苦労して手に入れたものが……師匠の邪魔をかいくぐってまで手に入れたものの中身がた、たったこれだけだというのか……?」

 

 ようやく飛鳥の口から何とかしぼり出されたのは、そんな失意の言葉だった。

 

「あ、悪夢でも見ているのか……僕は……?」

 

 失意の余り呆然とそんな情けない弱音を吐く飛鳥だったが、不意にクスクスという笑い声が彼の周りから聞こえてきたことに気が付いた。

 緩慢(かんまん)な動作で辺りを見回せば、なんとゲーム開発部の皆がおかしくてたまらないといった様子で笑っているではないか。

 一体どういうことなのだろう、と飛鳥は疑問に思う。表情にそれを反映する気力はもう無かったけれど。

 しかし、そんな飛鳥の内心を察したようにアリスが飛鳥の手を取って笑う。

 

「飛鳥先生、この結論こそがアリス達のクエストクリア報酬なんです!」

「……え?」

 

 アリスの言葉に、飛鳥はそうか、とは答えられなかった。

 だって、『ゲームを愛しなさい』などという具体性のかけらもない一文を『最高のゲームを作れる秘密の方法』とは呼べないからだ。

 方法、というのであれば具体的な手順や必要な要素を書き出しておいてしかるべきである。これはあくまでゲーム制作に臨むときの心構えと呼べるものであって、決して方法と呼べるものではない。

 そんなことを考えて険しい表情になった飛鳥に、ユズが穏やかな表情で語りかけてきた。

 

「先生。昨日先生が迎えに来てくれた時に私が言った『何となく気づいたこと』がこれなんです」

「花岡さん……?」

「げ、ゲームが、私達を繋いでくれました。わたしにとっても、皆にとっても。この部活で過ごす時間は夢みたいなものでした」

 

 大切な思い出を振り返って(いつく)しむような表情のユズの言葉を、ミドリが繋ぐ。

 

「そんな夢みたいな時間が終わらなければいいなって、私達はずっと過ごしてきました。でも、廃部になりそうってなって……先生が来て、廃墟に行って……アリスちゃんに出会いました」

 

 ミドリの言葉をモモイがさらに繋ぐ。

 

「連れて来たアリスが、テイルズ・サガ・クロニクルが面白いって言ってくれた。それだけでも私達は嬉しかったけど、アリスの武器を手に入れに行って魔王……じゃなかった、フレデリック先生と戦って。それからフレデリック先生と飛鳥先生のライバル対決を見て……」

「モモイ達にロッカーから引っ張り出されて見た先生達の戦いを見て、もっとゲームを作りたいって思いました」

「アリス、あの時は不安でした。もしかしたら、アリスはユズとミドリとモモイの仲間にはなれないんじゃないかって。でも、皆はアリスを受け入れてくれました」

「それから、アリスちゃんも加えて皆でテイルズ・サガ・クロニクル2を作り出して……すごく楽しくて」

「でも行き詰って結局G.Bibleの中身を見る為に皆で大冒険してさ! 最後はハッピーケイオスなんて変な名前の黒魔導士とも戦った!」

 

 昨日までの濃密な日々を振り返りながら、皆とても充実した表情をしていた。昨日の作戦結構前の、強張った表情をした彼女達からはとても想像できない程に。

 そんな彼女達が立ち上がってG.Bibleの結論を映すディスプレイと飛鳥の間に並ぶ。

 

「飛鳥先生、アリス達はゲームが大好きです! 遊ぶのも、作るのも!」

「私達に足りない最後のピースって、これだったんです」

「み、皆で一緒に作ったゲームを、誰かに面白いって言ってもらう。それが、わたしの夢でした。でもそのことばっかり考えてて、一番大事なことを忘れかけてたんです」

「だから飛鳥先生。G.Bibleが見せてくれた結論……それに気づいたことが私達が昨日までの大冒険で手に入れたものなんだよ! だから──」

 

 アリス、ミドリ、ユズ、モモイがそれぞれの言葉で飛鳥に語り掛け、最後に再び顔を見合わせる。

 そして、これまでの話を統括するかのようにアリスが一歩前に出た。

 

「だから先生、アリス達はもう大丈夫です! きっと、いいものがつくれます!」

 

 アリスの言葉に、その言葉に頷くモモイ達に。

 飛鳥の脳裏に、ホワイトハウスでイノと決着をつけた時のフレデリックの姿が浮かんだ。

 

”だから何か、飽きもせずにずっと続けられるもんがねえとよ。世の中誘惑が多すぎる”

 

 どうやら、もう大丈夫みたいだ。飛鳥は自然とそう思えた。

 これから期日までどうするのか、とかそういった具体的な話は一切出てこなかった。本来ならそれは非常に憂慮(ゆうりょ)すべき事態だ。

 けれども、今のゲーム開発部ならきっと言葉通りに良いモノを作り上げられる。そんな気がした。

 

「そうか。君達にとっての”飽きもせずにずっと続けられるもの”が見つかったんだね」

 

 だって、彼女達は見つけたのだ。この世界で生きていく上で、何よりも大切な自分を定義する物(アイデンティティ)を。

 自分に何が出来るとか、何をすべきとか。そういうもの(使命)ではなく。

 自分が自分でいられるために必要な定義(やりたいこと)

 それを見つけられたのなら、もう何かを言う必要もないだろう。飛鳥に出来る残りのことは、万が一彼女達がダメだったときのフォローを考えておくくらいだ。

 

「分かった。ミレニアムプライスの期限まで後6日だ。頑張ろう」

 

 飛鳥がそう言って微笑めば、ゲーム開発部の生徒達もつられてまた笑った。

 ひとしきり笑った後、不意にモモイが拳を天に向かって突き出す。

 

「さあ、ゲーム開発部一同! テイルズ・サガ・クロニクル2の開発、再開だ!」

「「「おー!!!」」」

 

 

 明るく希望を感じさせる声が部室いっぱいに響き渡った。

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