BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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私たちの冒険はこれからも──!

 ついにミレニアムプライスの授賞式当日になった。

 飛鳥はゲーム開発部と一緒ではなく、授賞式会場へと足を運んでいた。

 本当はモモイ達と部室で結果を待とうとも思っていたのだが、カタカタヘルメット団のウヅキ達が会場の警備やスタッフとして参加するということで彼女達の保護監督も兼ねて現地へと赴くことになったのだ。

 会場に着いた飛鳥が授賞式が始まるまでの間会場のあちこちを練り歩いていると、カタカタヘルメット団の生徒達が授賞式のセッティングやミレニアムの生徒達の指示を仰ぎながら荷物を運ぶ姿が見受けられた。

 そうして歩くこと数分。カタカタヘルメット団の生徒を取りまとめるように指示を出しているウヅキの姿が見えた。

 せわしなくあたりを見渡しながら近くの生徒に指示を出したり、現場を統括しているのであろうミレニアムの生徒に指示を仰いでいるところを見るとやはりカタカタヘルメット団という集団を取りまとめていただけあってウヅキは周囲がよく見えているようである。

 そんなことを飛鳥が考えていると、ウヅキがこちらに気づいて微笑を浮かべながらこちらに駆け寄ってきた。

 

「お、飛鳥先生! 来てくれたんだな」

「やあ、片寄さん。状況はどうかな?」

「今のところ不審者も不審物もないし、裏方で準備してる皆からも問題があったって報告はない。順調だよ」

「それは良かった。仕事にも馴染めてきたかい?」

 

 飛鳥が問いかければ、ウヅキはほんの少しくすぐったそうな笑みを浮かべた。

 

「おかげさまで、最近は私達に変なこといってくる奴らも減ったよ。むしろ、行く先々で良くしてもらえることも増えたんだ」

 

 こないだなんか、まかない料理を振舞って貰えたりしてさ。と照れくさそうに、けれど嬉しそうに笑うウヅキの姿に飛鳥はホッと胸をなでおろした。

 どうやら、彼女達の更生は非常に順調と言って良さそうだ。

 そんなカタカタヘルメット団の喜ばしい現状に飛鳥が頬を緩めていると、ウヅキが何かを思い出したかのように声をあげた。

 

「そう言えば、飛鳥先生はミレニアムのゲーム開発部とゲーム作ってたんだっけ? えーっと……て、テール……なんだっけ?」

「テイルズ・サガ・クロニクル2かな?」

「そう、それ! アタシはまだやってないけど、カタカタヘルメット団の皆の中でもちょっとずつ流行っててさ。面白いらしいじゃん?」

 

 ウヅキの言葉に、飛鳥は我がことのように嬉しくなるのを自覚した。

 飛鳥もモモイ達がWeb版をアップロードした後に是非遊んで欲しいといわれ、実際に遊んでみたのだが。

 正直、思っていた以上にその世界観に没入してしまったのだった。

 それまで、研究以外で寝食を忘れそうになることなどフレデリックやアリアたちとの会話以外なかったのに、テイルズ・サガ・クロニクル2をプレイしている時は完全に時が経つのも忘れてプレイをしていたのだ。

 そんなゲームにあまり縁のなかった自分ですらそこまでのめり込んだゲーム開発部渾身の新作が褒められたのがどうにも不思議なことに嬉しく感じられたのだ。

 だから、その面白かったという感想は是非とも彼女達に届けられるべきだと飛鳥は思う。

 

「それはよかった。是非とも遊んだ皆にはインターネットとかで良かったって感想を書いて欲しいと伝えて欲しい。モモイさん達も喜ぶからね」

「分かった。……っと、そろそろ戻らないと。じゃあ先生! ミレニアムプライス楽しんでってくれな!」

「うん。片寄さん達も仕事頑張って」

 

 持ち場に早足で戻っていくウヅキの背を見送りながら、飛鳥は先ほどの気持ちから一転して祈るような気持ちになることを抑えられなかった。

 テイルズ・サガ・クロニクル2のWeb版はウヅキからの話を聞く限り成功するように思われるけれど、部としての実績として認められるかは怪しいところだ。

 どれだけ画期的な研究をしたとて、研究成果をインターネットにただ公開するのと、学会などの公的な場面で発表するのとでは認められやすさというのは大きく変わる。

 単にインターネットで公開しただけでも実績として認められることはあるだろう。だが、やはりそれには多くの時間が必要だ。

 ”鏡”を巡った騒動でゲーム開発部と共に校則違反をした仲のエンジニア部やヴェリタスは元々多くの実績があるから今日のミレニアムプライスで受賞を逃しても廃部とはならない。

 しかし、ゲーム開発部はここが最後のチャンスである。Web版が正当な評価をされ、それが実績であるといえるようになるまで待っている時間はもう無いのだ。

 

「さて、本当に後は待つしかないけど……モモイさん達は大丈夫かな……?」

 

 自分が発表するわけでもないのに、少し鼓動が早まってきた心臓を落ち着かせようと飛鳥は深呼吸をする。

 けれど、一度暴れ始めた心臓は中々落ち着くことはなかったのだった。

 

 

 

 ミレニアムプライスに入賞した7つ全ての作品の表彰が終わった。

 その中に、テイルズ・サガ・クロニクル2とゲーム開発部の名前はなかった。

 けれど、飛鳥は全くそれどころではないとはやる心を抑えることも出来ないまま超高速で頭の中で魔法の構築をし、その場からテレポートする。

 テレポート先はゲーム開発部の部室前だった。

 

「み、皆!」

 

 ノックもせずに部室の扉を慌てて開けた飛鳥が目にしたのは、穴だらけになったディスプレイとお通夜のような雰囲気のゲーム開発部の生徒達の姿だった。

 

「あ、飛鳥先生……」

 

 顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしたモモイとミドリ、二人ほどではないにしても涙を流すユズとアリスたちに飛鳥は説明の時間も惜しいとばかりに手を差し伸べる。

 

「説明は後で。とにかくみんな、僕の手を掴んで」

「え、え……?」

 

 飛鳥の言葉が呑み込めず、キョトンとしながらも四人は彼の手を掴んだ。

 その瞬間、既に魔法の再構築を終えていた飛鳥はテレポートを再発動させる。

 転移先は、さっきまで飛鳥がいた授賞式会場だ。

 

「ミレニアムプライスはこれまで、生徒たちの才能と能力で作られた作品に対し、『実用性』を軸に据えて授賞を行ってきました。これはよりよい未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています」

「え。えっ……? こ、ここって……?」

 

 驚きの声をあげそうになっていたミドリに、飛鳥は人差し指を立てて注意する。

 

「静かに。そのまま見てるんだ」

 

 飛鳥の注意に四人が両手で口元を覆って黙り込む。

 その間にも、審査員の発表が続いていた。

 

「今回は『特別賞』を設けます、その受賞作品は……ゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』です」

 

 審査員の言葉に、四人の表情が驚愕に染まる。

 

「レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と想像を超えていく展開、一見してそれらとマッチしそうにない不可思議な世界観、と最初は困惑の連続でしたが……新しい世界を旅して、一つ一つ新たな絆を結びながら、魔王を倒しに行く……そういったRPGの根本的な楽しさが、しっかりこめられた作品だと思います」

 

 審査員の言葉に四人の表情が今度は喜びと達成感に染まっていく。だが、審査員の言葉はそこで終わりではなかった。

 

「それだけではありません。きわめて個人的な感想とはなりますが……この作品をプレイして、私はこれを作ったゲーム開発部に深く感謝したいと思ったのです」

「えっ、ええ!? な、何で……!?」

 

 審査員からの予想だにしない言葉に、再び皆の顔が驚きの色に染まる。

 

「このゲームをプレイしていて、最初は初めてゲームに夢中になった頃の思い出を、鮮明に思い出しました。それだけでも十分表彰に値すると思っていました。しかし……個々のゲームの世界を旅していて、もっと違うものを思い出したのです。私がどうして、ミレニアムプライスの審査員を務めるようになったのか。その原点を」

 

 そんなことを語る審査員の表情は誰が見ても分かるほどに穏やかで、温かい思い出を振り返っている時のものだ。

 

「私は、科学が大好きです。誰も想像できなかったような画期的な技術、それらが実現してくれる夢のような光景。まさに”魔法”のようなことが出来る科学というものを心の底から愛しています。だから、私はずっと科学に携わってきました。そして、そんな科学がこれからも発展していってほしい。私だけでは想像すらできないような発想や技術で、この夢の続きをずっと見ていたい。……そんな気持ちで、こうして様々な作品を審査する立場に立つようになったのだということを、思い出しました」

 

 不思議な時間だった。審査員の言葉に、誰もが聞き入っていた。飛鳥でさえ、彼の言葉に聞き入っていた。

 

「まさに魔法にかかったみたいな時間でした。未来に憧れたあの頃を思い出すだけではなく、立ち戻らせてもらえるとは。人には、原点を見つめなおす時間が必要だと思うのです。未来を追い求める為にも。そんなとても大切なことに気づかせてくれたからこそ、私はこの作品を特別賞という枠を作ってでも表彰したいと思ったのです」

 

 そう締めくくった審査員の言葉に、会場中から万雷の拍手が送られる。

 飛鳥もまた、そのうちの一人だった。

 そうしてひとしきり拍手した後、後ろにいるであろうゲーム開発部の生徒達の方へ振り返る。

 そこには、抱き合って喜び合う四人の姿があった。

 

「これ、これって私たちやったんだよね!?」

「うん、うん……! 私達、表彰されたんだよお姉ちゃん!」

「なんだか、夢みたい……!」

「こ、これは……アリスは、アリスはこれからもみんなと一緒にいていいのですか……?」

「うんっ! そうだよね、先生!? 私たち、廃部にはならないんだよね!?」

 

 ほんの僅かばかりの不安をのぞかせながらこちらに問うてくるモモイに、飛鳥はスマホを片手に頷いた。

 

「ああ。君たちは確かにミレニアムプライスで受賞するという文句のつけようがない実績を残した。だから、廃部は回避だ。……そういう認識でいいかな、早瀬さん」

 

 ユウカの名前を出した瞬間、モモイ達の肩が跳ねてキョロキョロと辺りを見回す。

 が、ユウカの姿は辺りにはない。代わりに、飛鳥の持つスマホから彼女の声が聞こえてきた。ちょうど彼女から電話がかかってきていたのだった。

 

『あくまでも臨時の猶予、という言葉が抜けていますよ飛鳥先生。……でも、先生の言う通りよ。おめでとう、モモイ、ミドリ、アリスちゃん、ユズ。生徒会としては来学期まで廃部は保留ということになったわ』

「ほ、本当!? 私たちを油断させて騙す嘘とかじゃないよね!?」

『その声はモモイね? 全く……こんなことで嘘をついてどうするのよ。正式な受賞じゃないとはいえ、あなたたちはちゃんと結果を出した。なら、もっと胸を張りなさい。あなたたちは間違いなくいいものを作ったんだから』

「よ、よかったぁ……」

 

 胸をなでおろすミドリとユズの姿に飛鳥が微笑んでいると、ユウカがそれから、と付け加えてきた。

 

『部室の延長申請とかと部費の受取処理とかは必要だから、落ち着いたら生徒会室に来てね。それと、ヴェリタスのマキちゃんがおめでとうって。……ああ、後飛鳥先生』

「なにかな?」

『急にうちの生徒を連れて行かないでください。その……心配したんですから。もしかしたら皆が特別賞のこと知らないまま変な気を起こしたんじゃないかって』

 

 さっきまでのはきはきとした喋り方から一転、しおらしいものとなったユウカの言葉に飛鳥はスーッと体温が下がったような感覚を覚えた。

 確かに、言われてみればそう見えてもおかしくはない。彼女達の受賞を知って、いてもたってもいられなくなっての衝動的な行動の結果周囲にどういう影響を与えるかまでは気が回っていなかった。

 

「す、すまない……以後気を付けるよ」

『本当によろしくお願いします。まあ、色々積もる話もあるんですがそれはまた今度ということで。では』

 

 そうして電話が切られた。

 それがきっかけだったかのように、再びモモイ、ミドリ、アリス、ユズの四人は互いを抱きしめ合った。

 

「アリスちゃんっ!」

「私たち……っ!!」

「これからも、ずっと一緒だよ!」

 

 三人からの言葉に、アリスは目尻に涙を浮かべながら喜びを噛みしめた様な笑みを浮かべて三人を抱きしめ返す。

 

「はい……! これからも、よろしくお願いします……!」

 

 こうして、廃部という世界の危機を乗り越えたゲーム開発部の大冒険はひとまず終わりを迎えたといっていいのだろう。

 余りにも強引なパーティ加入をさせられたあの日が懐かしくも思えるくらいには、飛鳥にとっても濃密な日々だった。

 それでも、この出会いがなければ分からなかったこと、気づけなかったことがたくさんある。

 そんなことを考えていた時、飛鳥ははたとあることに気が付いた。

 今こうしてゲーム開発部を授賞会場に連れてきたこと。明らかに校則違反だと分かっているのに彼女たちの味方に付いたこと。そもそも廃部の危機を助けたいと思ったこと。

 どれも、理屈よりも感情を優先しての行動だった。それは飛鳥が、ほんの少し前まで強い苦手意識を持っていたものだ。

 けれど、今こうして感情のままに動いている自分がいる。

 

「そうか……僕も、君たちに随分と助けられたんだね」

 

 喜びを分かち合うゲーム開発部の生徒達を見つめながら、ボソリとそんなことを呟けばモモイがこちらに振り返った。

 

「先生、何か言った?」

 

 モモイの問いに、飛鳥はなんだか気恥しくなって呟いたことをそのまま伝えるかどうか迷った。

 なんて伝えようか。そう考えていると、ふとある言葉が浮かび上がってきた。

 これならいいかもしれない。そう思いながら、飛鳥は笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「君たちのような勇者と一緒に旅が出来て、良かったなって言ったのさ」

 

 飛鳥の言葉にモモイがキョトンとして、けれどすぐにどこか勝気な笑みを浮かべる。

 

「なに言ってんのさ先生! 私たちの冒険はこれからなんだから、こんなところで終わる気になっちゃダメだよ!」

「え」

「そうですよ先生! これっきりになんてさせません。もっと一緒にゲーム作りましょう!」

「先生がいてくれたら……きっとこれからも頑張れます!」

「そうです! アリス達の冒険はこれからですし、勇者のパーティには魔法使いが必要です! だから──」

 

『先生! これからもよろしくお願いします!』

 

 声を揃えて、笑顔で手を差し伸べてくるゲーム開発部の生徒達に飛鳥は思わず面食らった。

 けれど、それもほんの一瞬のことだ。飛鳥もまた、釣られるように笑みを返してその手を握り返すのだった。

 

 

 

 誰もいないゲーム開発部の部室。

 そこに置かれたモモイのゲーム機の電源がひとりでに点く。

 真っ赤な背景に浮かび上がった文字と共に、電子音声がモモイのゲーム機から漏れ出す。

 

『AL-1S……いえ……ア リ ス……私の……私の、大事な……!』

 

 何者かの言葉の最後はノイズにかき消され、そして再び沈黙する。

 モモイのゲーム機も、何もなかったかのようにその光を失っていた。

 ──冒険は、まだ終わっていない。




以上で原作時計じかけの花のパヴァーヌVol1編終わりです。
ここまで一年かかったってマジ?

来週からはついにGGSTDRも始まります。その前に何とかパヴァーヌ1章を終えられてよかった……。

ギルティのアニメが始まるのに合わせてエデン条約編を始めたいけど、その前にちょっと幕間も挟みたいのでギリ間に合わないかも。
とは言え、キリの良いところまで本当に良かった。

節目なので諸々挨拶を。
感想くれている方、ありがとうございます。返信は基本してませんし、これからもすることは余りないと思いますがちゃんと読んでます。励みになってます。
最終編までまだまだ遠いので、そこまでにあと何年かかるかみたいなレベルではあるんですが、ちゃんとエンドマーク付けられるようにこれからも頑張ります。

お気に入り、評価付けてくれている方もありがとうございます。高評価は特に励みになっています。
せっかくなのでここまで読んで続き期待してくれる方は評価ください。
もしかしたらめっちゃ更新速度にブーストがかかるかもしれません。

それでは、一旦この辺りで。
これからも何卒BlueArchive -Strive-をよろしくお願いいたします。
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