BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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すみません、GGSTDR前までにパヴァーヌ1章を終わらせる!と頑張っていた反動でしばらくモチベが消失していました。完全なスタミナ切れです。
大分ゲージ回復してきたのでまた少しずつ更新再開していきたいと思います。


私の望む世界

「ええっ!? ウヅキちゃん連邦生徒会に編入するの!?」

 

 シャーレの休憩室にメトの驚いた声が響き渡った。

 同じ部屋にいたカタカタヘルメット団のメンバー達も、メトの声に驚いて動きを止めそちらへ振り返る。

 

「お、おい……声デカいって」

「ご、ゴメン……でもびっくりするって」

 

 メトの言葉にウヅキは頬をポリポリとかきながら視線を逸らした。

 

「まあ、柄じゃないっていうのは分かってるよ。それに、そもそもテストとか面接とか通ったらの話だし」

「でも、どうして連邦生徒会なんかに……?」

 

 メトの問いかけは、その場にいる他のメンバー達の疑問そのものだった。

 ウヅキ達カタカタヘルメット団にとって、連邦生徒会は自分達の危機に手を差し伸べなかった薄情者達と言ってもいい。

 ある意味で、好きでもない不良生活を送ることになった敵と言ってもよかった。少なくとも仲良しこよしをしようと思える相手ではないはずだ。

 その連邦生徒会に編入するなど、一体何を考えているのか。そんな場の雰囲気を察したウヅキはゆっくりと息を吸ってから視線だけで辺りを見回す。やはり、皆がウヅキのことを見つめていた。

 

「確かに、連邦生徒会はアタシ達に対して何もしてくれなかった。……でも、だからこそあそこに行ってみようって思ったんだ」

 

 言って、ウヅキは手に持っていたペットボトルのお茶で唇を湿らせる。こんなたくさんの視線にさらされながら自分の進路について話すのは、友達の前であってもやっぱり緊張するものだ。

 

「先生達に拾われて、いろんなところで仕事させてもらって。世界はアタシ達が思うよりずっと広くて、いろんなことがあるって知ってさ。最初はそれだけでもすごい良かったんだ。世界ってこんなに自由なんだって、思った」

 

 ウヅキはまだキヴォトスのことを全然知らない。シャーレに厄介になって、そこで色々な仕事をさせてもらってそのことを強く実感した。

 いろんな生徒がいて、いろんな大人がいる。皆違うことに一生懸命で、世界はウヅキが知っているよりもずっと広くて自由だった。

 

「でも、仕事の中で時折邪魔してくる不良とかと戦ってて、思ったんだ。アタシ達だけがこんな美味しい思いしてていいのかなって。アタシ達は運が良かったから、こうしてまた悪いことしなくていい生活に戻れた。でも、アタシ達みたいに好きで不良やってるわけじゃない奴らだってきっとまだたくさんいるはずだよなって」

 

 確かに世界はウヅキが思うよりもずっと広くて自由だった。でも、それを知ることすらできない生徒がいるということを──そういう現実があることをウヅキは知っている。

 自分達はそんなどうしようもない現実の中で、比較的幸運に恵まれたということも。

 

「そう思ったらさ……なんかそれを見て見ぬふりをするの、嫌だなって思ってさ」

 

 とはいえ、ウヅキ個人に出来ることはたかが知れている。肩書も実績もない人間に力がないのは、それこそ不良時代の経験で痛いほど知っている。

 だから、肩書と実績の片方……あるいはその両方を手に入れる必要があった。

 

「でも、そういう奴らを助けようって思ったら普通の学校じゃダメだよなって。普通の学校の、普通の部活程度じゃ、アタシ達が先生にして貰ってることは出来ない気がするんだ」

 

 ウヅキが望むのは、どうしようもない現実にあえぐかつての自分達と同じ生徒達にこの広くて自由な世界を知ってもらうこと。

 シャーレの先生達が色々とやってくれたのとまったく同じレベル、同じ範囲のことが出来るとは思ってない。きっとまた先生達の力を貸してもらうことになるかもしれない。

 それでも。あの暗闇から引っ張り上げられる助けになれるのなら。

 

「だから、連邦生徒会の編入試験を受けることにしたんだ。あそこなら、キヴォトス全体に働きかけることも不可能じゃないだろうしさ」

 

 そこまで語り切って、ウヅキは再び手の中で弄んでいたペットボトルのふたを開けてお茶を一気に煽る。パサパサだった口の中を、体温でぬるくなったお茶が潤してくれた。

 お茶を飲むのに息を止めていたウヅキはホッと息を吐きながら恐る恐る視線を目の前に座るメトの方へ向けた。

 自分のこの決断は、少なくともずっと一緒だったメトと離れ離れになる可能性が高い。そんな自分の決断を、彼女はどう思うのだろう。

 連邦生徒会に入ると決めたのはそれなりに前だったけれど、メトがそれを嫌がったら。それが怖くて、結局今の今まで打ち明けることが出来なかった。

 でも、もうこうして口に出してしまった。ならば、覚悟を決めるしかない。

 そんなことを考えながら、ゆっくりとメトの方へ視線をあげる。

 そこには、穏やかに微笑むメトがいた。

 

「そっか。ウヅキちゃんらしいね」

 

 微笑むメトから発せられた言葉は、そんな優しい響きに満ちたものだった。

 ウヅキらしい、という言葉に一番面食らったのはウヅキだった。

 だって、自分は不良グループのリーダーをやるようなワルだったのだ。それが、連邦生徒会に入って世直ししようと思ったなんて言い出すのだ。普通は何を馬鹿なと笑われるところだろう。

 ウヅキなら笑いこそせずとも正気を疑うくらいはする。

 そんなことを考えるウヅキにメトは穏やかな表情で続ける。

 

「シャーレに来て、先生達にいろんな場所でいろんな仕事させてもらってさ。みんなそれぞれ何かに気づいたと思うんだ。だから色々考えが変わったりとかもあると思う」

「ん……そうだよな」

「けど、ウヅキちゃんの考えてることの根っこは何にも変わってないんだなって、今の話聞いて思ったよ。ウヅキちゃんは、ずっとそうやって困ってる誰かに手を差し伸べてたよね。私達にそうしてくれてたみたいにさ。そして、今度はその手の届く場所を増やそうとしてる」

 

 メトの言葉に、ウヅキは確かにそうなのかもしれないとかつての自分の行動を思い返す。

 

「ふふ、でも確かに連邦生徒会っていうのは意外だったかな。あの時、公園で普通の暮らしがしたいって言ってた時から考えたら随分おっきく出たね?」

「……まあ、それは。うん……やっぱ無茶かな?」

 

 メトの言葉にウヅキの心にやはり無謀だっただろうか、という不安が沸き上がって来る。

 けれど、それに対してメトはゆっくりと首を左右に振った。

 

「ううん。ウヅキちゃんなら絶対大丈夫だよ。私が……ううん、ここにいる皆が保証する。ね、皆?」

 

 メトが振り返ってずっと話を聞いていたメンバーに問いかければ、皆口々にウヅキを励ますような言葉を笑顔で口にしてくれた。

 そんな光景に、ウヅキも思わず笑みがこぼれる。

 そして、いつかこんな気持ちになれる人がもっと増えるような世界にしようという決意を新たにした。

 ならば、後は努力あるのみだ。だが、その前に。

 

「じゃあ、今度はメトの番な。メトはどうするんだ?」

 

 自分ばっかりこの先のことを話すのはなんだか不公平だから、友達のこれからについても聞いてやらなくちゃ。じゃないと、何かあった時に助けてあげられないから。

 

「え!? 私? 私はトリニティ総合学園に行こうかなって。あそこの図書館、すっごい本がいっぱいあるらしくてさ」

「ええ!? あそこキヴォトスでも屈指のお嬢様校だぞ!? 大丈夫なのか?」

 

 驚いた声をあげるウヅキにメトが頬を膨らませる。

 

「ちょっと、それどういう意味!? 私じゃテーブルマナーもおぼつかないって言うの!?」

「いや、アタシ達テーブルマナーとかドレスコードなんて雑誌くらいでしか見なかったじゃんか……」

「それはそうだけど! っていうかヘルメット団で一番お行儀良かったの私だったでしょ! なんとかなるって! ……多分」

「まあ、どうしてもヤバかったら先生に色々教えて貰えばいいんじゃないか?」

 

 そう言って、ウヅキはシャーレにいる三人の先生の顔を思い浮かべた。飛鳥先生は知識としてはそういうマナーを持っていてくれそうだけど、実演できるかどうかは怪しい。

 あの運動不足が極まった先生は、いまだに外回りの仕事に行くと翌日は筋肉痛で使い物にならなくなっているのだから、そんなマナーを実践しようものなら次の日はフォークもナイフも持てなくなっていそうだ。

 フレデリック先生は論外だ。悪い大人じゃないのは確かだけど、あんな乱暴な人はマナーという言葉からは遠くかけ離れているに決まっている。

 

「……教えてくれそうなのジャック先生くらいしかいなさそうだなぁ」

「そうだよね……」

 

 ウヅキの言葉にメトが相槌を打ち、周りの皆もうんうんと首を縦に振っていた。

 なんだか、その光景がおかしく思えてウヅキは笑いがこみあげてくるのを押さえられなかった。

 そんなウヅキに釣られたのか、メトや周りの皆もクスクスと笑い始める。

 ひとしきり笑った後、メトが皆のいる方に振り返って声をあげた。

 

「ねえ、皆もこれからどうするのか教えてよ!」

 

 メトの言葉に一瞬皆はキョトンとしたけれど、すぐにその表情には笑顔が戻る。

 そうして、あたりが暗くなるまで休憩室は明るい声でにぎわっていた。

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