BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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仕事がしんどい……コミュニケーションをするってマジでストレスだなって最近再確認しました
喋りたくない……


シャーレの暴力教師

 セリカ達を率いて昇降口を出た時、既にヘルメット団はほとんど全員撤退を済ませていた。

 一人だけホシノに銃口を向けられたまま身動きが取れない生徒がいたが、メンバーの大半が黒のヘルメットに黒の制服だった中で彼女だけが赤いヘルメットに赤い制服を身に付けていた。

 フレデリックはドローンで彼女が他のメンバーに指示を出していたことを思い出す。 

 恐らく団のトップまたは幹部にあたる生徒のはずだが、団員達が司令塔を残して逃げ出した辺り人望がなかったのか。それともあるいは――。

 

「く、くそっ! やるならさっさとやれ!」

 

 フレデリックの思考は破れかぶれになって大声でトドメを刺せと喚く不良生徒の声で中断された。

 ヘルメット越しなのでその表情までは分からないが、そのくぐもった声からは隠し切れない怯えがにじんでいた。

 そして、その怯えの対象は間違いなくフレデリックだった。何故かと言えば、不良生徒は銃口を向けるホシノではなくフレデリックを見て体を震わせていたからだ。

 

「お前知ってるぞ! 最近キヴォトスに来て片っ端からアタシ達みたいのをぶちのめしてるシャーレの暴力教師だろ! SNSでも見た!」

「ミスターぐらいつけろ。それと先に銃を向けたのはアイツらだ」

「暴力教師なのは否定しないんだ……」

 

 シロコは若干表情を引きつらせるが、フレデリックは特に気にすることもなく肩をすくめた。

 実際、行く先々でフレデリックを知らない不良生徒達が絡んできてその度に"指導"をしていたのだ。

 だが相手が複数いて、かつ銃という絶対的なアドバンテージを持っている以上フレデリックとしても立ち回りという点に限って言えば加減するわけにもいかなかった。

 狙いをつけられる前に距離を詰めるのは当然として、うかつに撃てばフレンドリーファイアしかねないような絶妙な位置を確保し、同士撃ちを恐れて隙をさらした生徒を投げ飛ばして複数人をまとめて無力化すると言ったことを何度もやってきた。

 結果、銃もないのにやたらと強い暴力教師がシャーレにいるという何とも不名誉な情報が出回ったのだった。

 それで自分を見た生徒が火遊びするのを止めるというなら問題ないだろ、とフレデリックは欠片も気にしなかったが。

 だが、一方でSNS越しにしかフレデリックを知らない不良生徒からすれば自分は目の前の男にボコボコにされるのかと気が気ではないようだった。

 そんな彼女の様子に眼鏡のブリッジを押し上げながら小さくため息を吐いて、フレデリックは生徒と目線を合わせるためにその場にかがみこんだ。

 噂の暴力教師の顔が目の前にある、という状況に不良生徒の口から引きつったような小さな声が漏れる。

 

「一応先生として聞くが。何が目的でこの学校を狙う?」

「あ……ぁ……」

「……。答えられねえか? なら――」

「そいつを投げこめええええ!! リーダーを助けろおおお!!」

 

 フレデリックが続きを口にしようとした瞬間、校門の外から気合いと共に何かが投げ込まれた。

 その直後何かがリーダーと呼ばれているのであろう生徒の足元に落ちてきた。

 

「ッ!? せ、先生ッ!!!」

「チッ!」

 

 悲鳴のようなノノミの叫びに反応する間もなく、爆音と閃光がフレデリック達を覆いつくす。

 

(スタングレネード……!? クソッ!)

 

 目を焼く閃光と鼓膜を破らんばかりの爆音をまともに食らってもなおフレデリックが気を失わなかったのは未だ抜けきらないギア細胞*1のおかげだったかもしれない。

 それでも十数秒は行動不能になることを強いられた。

 ようやく視覚と聴覚が戻って動けるようになった時にはあの赤い格好の不良生徒は他の不良生徒に背負われて校門まで逃げだしているところだった。

 

「逃がすかぁ!!」

 

 そんな逃げ出すヘルメット団達を逃がすまいと、セリカが犬歯を剥き出しにしながら吠える様に声を上げてアサルトライフルを連射する。

 が、ほんの数発でカチンというむなしい音が響き渡った。

 

「なっ……!?」

 

 感情のままに射撃をしたせいか、思わずセリカの視線がヘルメット団から手元の銃へと移る。

 それは明確な隙だった。キヴォトスでの戦闘においては余りにも大きすぎる隙に、ヘルメット団の中でも目ざとい者がセリカへと照準を合わせる。

 しかし、相手が引き金を引くより先にセリカをホシノが突き飛ばし、シロコがカウンタースナイプを決めた。

 ダメ押しとばかりに鋭い目つきをしたノノミがミニガンを掃射して、こちらを攻撃しようとするヘルメット団達を蹴散らした。 

 だがそこまでだった。

 まずノノミの掃射が中途半端なところで止まり、勘の良い不良が頭を出したのをシロコが迎撃するも二人倒したところで弾切れを起こす。

 ホシノに至っては先の戦闘が終わった時点で弾が切れていたようで、目つきこそ鋭くしているものの銃口は敵の方へ向けていなかった。

 完全な弾切れ。つまり、アビドスの生徒達にもう戦闘能力はない。

 撤退を選んでいたカタカタヘルメット団がその事実に気づくのに、そう時間はかからなかった。

 

「……奴ら、完全に弾切れだ! 今なら簡単に学校を占領できるぞ!!」

 

 誰が上げたかも確かではないそんな声にその場にいた不良達が揃って(とき)の声を上げる。

 対するアビドスの生徒達の表情は苦々しく、けれど諦めるつもりもなく皆が揃って拳を握り締めていた。

 

「やれやれだぜ」

 

 そんな中、スタングレネードの影響が完全に抜けたフレデリックがため息を吐いて歩き出す。

 まるで気負わないその姿に、その場にいる全員が視線を釘付けにされた。

 そんな視線をこれっぽっちも気にすることなくフレデリックは駐車スペースに止めた自分のバイクへと歩み寄ると、そのボディから愛用の武器(ジャンクヤード・ドッグ)を取り出す。

 

「お前らは先に校舎に戻ってろ」

 

 ジャンクヤードを肩に担ぎながらちょっと用事があるから先帰れ、くらいの口調で無茶苦茶なことを言うフレデリックにアビドスの生徒達は言葉を失う。

 一方、カタカタヘルメット団達はそんなフレデリックを見て馬鹿にするように笑った。

 

「馬鹿じゃねえのかあああ? いくらテメーが暴力教師つったってこの距離を詰める前にアタシらが撃つ方が早いに決まってんだろ!」

「そうだそうだ! そんな無駄にデカいガラクタで一体何が出来るっていうんだ!」

「引っ込めオッサン!」

「怪我したくなかったらな!」

 

 勝利を確信しているからか、好き放題言うヘルメット団にアビドスの生徒達の表情がみるみる険しいものになっていく。

 そんな生徒達を肩越しに見ながら、フレデリックは先ほどよりも強めに指示を出した。

 

「おい。先に戻ってろ」

「ハァ!? でもアンタ一体これからどうする――」

「……()()()いいんだね?」

 

 反発しようとしたセリカを遮るように彼女の前に手をかざして、ホシノがフレデリックをまっすぐと見つめる。

 先ほどまでの脱力した彼女とはやはり別人のような鋭いその視線は言外に語っていた。本当にお前は信じられるのか、と。

 だからフレデリックは不敵に笑って言った。

 

「熊からパンダは生まれない。その程度には()()()いい」

 

 そんなフレデリックの態度に納得をしたのか、ホシノは銃を下ろしてセリカやシロコの手を掴む。

 

「皆、校舎に戻るよ」

「え!? 先輩本気!?」

「先輩、いくら何でも先生一人置いて行くのは……」

「いいから。今は言うことを聞いて」

 

 きっといつもはそんな声を出さないのだろう。やや低めの圧を感じる声でホシノがそう言うと、セリカとシロコは驚いたように目を見開いて動きを止めた。

 その隙にホシノはセリカの手を、ただ一人ホシノの変わりように驚いていなかったノノミがシロコの手を引いて校舎の方へと走り出す。

 それを横目で見送り、フレデリックは改めてカタカタヘルメット団の前に立ちふさがった。

 

「一応聞くが、何のためにこの学校を狙う? テメエらの狙いは何だ」

 

 フレデリックの問いに、カタカタヘルメット団は笑って銃口を向けて笑った。

 

「オッサン一人に何が出来る!」

「……めんどくせえな」

 

 不良達は答える気はないらしい。

 フレデリックは首に手を置き左右に傾けた。

 ゴキゴキと硬い音が鳴り、なんとなくスッとする。

 ジャンクヤードを逆手に持つように柄を握る。

 敵は十数名。距離は10mと少し。

 ジャンクヤードに法力を流し込み、術式の起動準備を始める。

 発生させる事象は爆炎の発生(タイランレイヴ)に設定。出力は30%に絞る。

 さらに範囲を狭めて射程を20m程度まで届くように術式を調整。

 懐かしい感覚だった。賞金稼ぎを辞めてからまだそう長い月日が経ったわけでもないのに。

 それでも、闘うことは百年近く続けてきたことだ。

 "種"*2を抜かれてから平和に暮らしていたとはいえ、永い間体に積み重ねた戦いの記憶はそう簡単には消えたりしない。

 チャンスは一度。しくじればフレデリックも無事では済まない可能性が高い。

 やるかやられるか(Heaven or Hell)

 だがそんな状況、今まで何度だってぶちのめしてきた。

 今度も同じだ。ならやることは一つ。

 

「覚悟はできてんのか?」

 

 ジャンクヤードを持つ手とは逆の拳をグッと胸の前で固めて戦闘態勢をとる。

 バイク屋の店主でも、シャーレの顧問の一人でもない。

 一人の戦士に立ち戻ったフレデリック(ソル=バッドガイ)を前に、ヘルメット団は気圧されていた。

 たった一人のヘイローも持たない大人一人に気圧される。

 そんな異常事態に抗おうと、銃を手渡されたあの赤い格好をしたリーダーが僅かに震える声で叫んだ。

 

「ハッ! 覚悟をするのはテメーの方だこの暴力教師!」

 

 そうして銃を構える。他のメンバーもそれに合わせて銃口をフレデリックに向けた。

 ならばあとはやるしかない。この状況では言葉など既に意味をなさないのだから。

 故に、フレデリックはジャンクヤード・ドックを振りかぶって術式を発動させた。

 

「御託は! いらねえ!」

 

 直後、アビドス高校の校門前で爆炎が迸りカタカタヘルメット団達が宙を舞った。

*1
飛鳥が開発した人工細胞。素体となる生物本来の各器官の細胞と融合させるとその器官が持つ本来の機能を全うするだけではなく、機能の強化や再生能力の獲得など凄まじい性能を持つ

*2
背徳の炎と呼ばれている情報有機体を封じ込めた物。これを埋め込まれたフレデリックは不滅の存在となって百年以上もの間戦い続けることになった。

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