BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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アプローチ

 補習授業部の合宿が始まった。

 合宿、と言ってもトリニティの敷地の外に出るわけではない。

 合宿所として指定されたのは本校舎から離れた場所に位置する別館だった。

 だが、そこは本校舎からは離れており、何よりしばらく使われていないらしい。

 ジャック・オーはヒフミたちと共にそこへたどり着いたが、たどり着いた合宿所の中を見てまず最初にやるべきことがあると悟った。

 

「お掃除しましょう!」

 

 別館の中は長いこと使われていないにしては綺麗だった。

 それは裏を返せば、実際に普段使いをするには埃や汚れが目立つということでもある。

 そんな環境では頭に入るものも入らないことも多いだろう。勉強というのは普通、退屈なものである。

 退屈な状態では集中力は簡単に欠けてしまうものだ。それこそ、机に被った埃を見つけるとかだけでも。

 そもそも、ジャック・オー自身埃っぽい環境で過ごすのは嫌だったのである。

 イゼオの自宅も、帰る頃には埃が積もっていることだろう。帰れたら、まずは大掃除からしなければなるまい。

 そんな取り留めのないことを考えていると、ハナコがジャック・オーの言葉に賛同を示してくれた。

 

「……いいですね! 先生の言う通り、勉強をするのなら気持ちの良い環境でというのは賛成です」

 

 若干の間が気になったが、まあいいだろう。どうせこれから少なくない時間を共にするのだ。じっくり、という暇はないだろうがそれでもハナコと打ち解けられるチャンスはいくらでも作れるはずである。

 

「うん、衛生面は大切。実際、戦場でもすごく士気に関わりやすい部分だ」

「お掃除……まあ、確かに大事よね」

「はい。ジャック・オー先生とハナコちゃんの言う通りかもしれません。やる気が空回りしても困りますし……」

 

 そこでヒフミは目を閉じて、何かを考えるような表情になる。恐らく、三次試験まで落ちてしまった場合のペナルティ──退学について考えているのかもしれない。

 改めて、補習授業部の子達には申し訳ないなとジャック・オーは心の中で苦笑した。

 ナギサの為でもあるとはいえ、自分の都合でこの子達にはいらぬプレッシャーと苦労を背負わせることになる。

 全てを明かした時、皆からはなんて勝手なことを、と怒りを向けられても不思議ではない。

 それでも、ジャック・オーにも望む世界がある。

 だから、ここからは悪あがきでも何でもするのだ。かつてフレデリックが、自分にそうしてくれたように。

 

「それでは汚れても良い服に着替えてから、10分後に建物の前に集合としましょう!」

 

 ヒフミの言葉に、皆が頷く。ジャック・オーもまたその言葉に頷いてから生徒達とは別に割り当てられた部屋へ向かう。

 一人用の小さな部屋だ。荷物も最低限の着替えくらいしか持ってきていない。

 掃除ということなのだから、流石にいつものシャーレの先生向けの恰好ではマズいだろう。

 持ってきていたジーンズと黒を基調としたTシャツ──妙ちくりんな2.5頭身のマスコットキャラがRock Youと彫られたヘッドギアをつけ、その下にはBAD GUYのBADの部分だけ赤いペンキで取り消し線の様に塗りつぶされているデザインがプリントされている*1──に着替える。

 それからヘアゴムで髪をポニーテールにまとめてから、ジャック・オーは別館の建物前へと移動を始めた。

 そして、汚れても良い服に着替えた生徒達と共に役割分担をしながら別館中を掃除した。

 基本的には生徒達に任せていたが、高い所やがらくた、家具が多い場所などはジャック・オーがサーヴァントを呼び出して掃除する。

 

「シャーレの先生達は魔法を使うと聞いていましたが……こうして実際に目の当たりにしてみても実感がわきませんね……」

 

 呼び出されては戻ってを繰り返しながら掃除をするサーヴァントたちを見て、ハナコがボソリと呟いたのをジャック・オーは聞き逃さなかった。

 

「まあ、皆が思うような派手な魔法は飛鳥君が一番得意だからね」

「飛鳥……飛鳥=R=クロイツ先生でしたね。ジャック・オー先生達を含む先生の中で主任を担当されていると聞いています」

「あら、よく調べているわね」

 

 掃除する手を止めて、ジャック・オーはハナコの方へ振り向いてからウィンクをする。

 当のハナコは掃除の手を止めることなく真意の読めない作り笑顔を浮かべた。

 

「これからいっぱいお世話になるんです♪ そんな人たちのことを詳しく、それこそあられの無いところまで知り尽くしたいというのは自然だとは思いませんか?」

「ちょっとそこ! エッチな話はダメ! ダメったらダメ!!」

「はぁい♪ ほら先生、掃除に戻りましょう? コハルちゃんを怒らせちゃいました」

 

 そう言って再び手元へ視線を落とすハナコに、けれどジャック・オーは目を逸らすことなく問いかけた。

 

「それで、私のあられもない姿は見られたかしら?」

「――ええ。色々と、ぞくぞくするような噂をたくさん聞きましたよ」

「ぞくぞく、ね。そんな噂を聞いて、貴女の目に私は今どう映ってるのかしら」

 

 自分の問いかけに、ハナコが僅かに目を泳がせたのをジャック・オーは見逃さなかった。

 けれど、決してそれを指摘はしない。

 そのことにハナコはどう思ったのか、小さく息を吐きながら再び笑みを浮かべた。

 

「先生、情熱的なお誘いはありがたいですが今はお掃除をしないと。私としては、そういうプレイも興味がないわけではないのですが……先生は違うのでしょう? いの一番に、掃除を提案するくらいなのですから♪」

「あら、これは一本取られちゃったわね。ふふ、そうね。それじゃあ掃除の続きをしましょうか。……コハルを怒らせたくないしね?」

 

 影から顔を真っ赤にしながらこちらを睨みつけているコハルにウィンクを送りながら、ジャック・オーは再び掃除用具を手に取る。

 ハナコもまた、コハルに小さく手を振りながら掃除の続きを始めるのだった。

 

「お、女の子同士なんてそんなのダメッ! やっぱり先生とハナコは別! 別の場所行きなさいよー!!」

 

 そして、別館にコハルの甲高い声が響きまわった。

*1
GGSTストーリーモードラストに登場したソルの追っかけの青年が来ていたTシャツ

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