BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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ヒフミがやりたいと思ったこと

 ヒフミが寝室に引き上げて行ったのを見送ってから、ジャック・オーはにこやかな笑みを引っ込めた。

 情報が足りない。今はその一言に尽きる。

 今日はもう夜も更けているから情報を集めるのは難しいだろう。だが、今手元にある情報を整理することは出来る。

 それに、現状をフレデリックたちに共有もしておきたかった。

 今は深夜12時を回ろうとしているころだ。フレデリックたちも、まだ起きているだろう。

 ジャック・オーが通信法術を起動させると、数回ほどのコール音の後に通信がつながる音がした。

 

『ジャック・オーか。どうした?』

「あ、フレデリック。ごめんなさいね、こんな遅くに」

『ああ。どうだ、合宿(そっち)の方は?』

 

 フレデリックに問われ、ジャック・オーは先ほどヒフミと話したことや今考えていることを説明した。

 

『そのナギサってやつがヒフミに”トリニティの裏切り者”を探せ、と依頼した訳か』

「私はないとは思ってるけど、貴方の意見は? ヒフミちゃんがそうだと思う?」

 

 補習授業部の活動が始まってから今日にいたるまで、ヒフミという生徒を見てきたジャック・オーとしては彼女だけは確実に白と考えていた。

 だが、アビドスの件で実際に彼女に会ったことがあるわけではない。ここは念のためフレデリックの意見も聞いておきたいところだった。

 

『ねぇな。あり得ねぇ。アイツはそういうこざかしいことが出来るタイプじゃねぇ』

「うーん、同意見なのは嬉しいけどバッサリ切り捨てるわね」

『ハッキリしねぇよりマシだ』

「ごもっともね。いいわ。次に移りましょう。ナギサはエデン条約締結にこだわってる。でも、あの子の真の目的はそこじゃない気がするの」

『ミカやセイアって奴らと関係がありそう、とさっき説明してたな』

 

 フレデリックの言葉にジャック・オーは頷く。

 

「ええ。問題は、どうしてエデン条約を締結するとナギサの目的が達せられるのかというところよ。フレデリックはエデン条約については?」

『概要程度ならな。ゲヘナとトリニティの中心メンバーが全員出席する、中立的な機構……【エデン条約(Eden Treaty)機構(Organization)】、通称ETOとかいう団体を作る。そして、それがトリニティとゲヘナの間で紛争が起きた場合、出張って黙らせるってくらいか』

「つまり、ETOが出来上がってしまえば両学園は下手に互いを攻撃できない。もしも戦争でも仕掛けようものなら、ETOによって共倒れになるから。言ってしまえば、私たちの世界の国連に近い感じかしら」

『あれと比べれば大分子供のおままごとだ。本当に中立を(うた)うつもりなら、外部から第三者を入れるべきだな。元は対立していた組織の中心メンバーでしか構成されない中立組織なんざ、いつ崩壊したっておかしくない。相互監視をするにしても、2校しかいねぇならバランスが崩れた瞬間に決戦兵器のセーフティが外れるようなもんだ。大体、条約締結で設立される組織が武力組織だけってのもどうなんだ?』

 

 それは余りにも真っ当な意見だった。もしもナギサがゲヘナ側を失墜させETOの権限を独占できた場合、2校分の軍事力がたった一人の権限で自在に振えることになる。

 エデンの名を関するには、少々危うすぎる体制と言わざるを得ないだろう。あるいは、歯向かうものをすべて排除した先にこそ楽園(エデン)は得られるのだという皮肉のつもりだとでもいうのか。

 

「エデン条約について考えたら少しはナギサの考えも分かるかと思ったけど、こうなるとちょっと難しいわね」

『ジャック・オー。お前から見てナギサはどう見えた? エデン条約を利用して焼け野原を作りたがるようなやつだったのか?』

 

 フレデリックの問いかけにジャック・オーは一次試験が終わった後にナギサと話した時のことを思い出す。

 ミカとセイアがいないことを悲しむような目、自分が彼女に宣戦布告した時の動揺、そして警告。

 なりふり構わず武力を手にしたい人間にしては、少々迷いを振り切れてなさすぎるように思えた。

 

「いいえ。そんな子には見えなかったわ。でも──」

 

 その時、唐突にジャック・オーの部屋の扉がノックされた。

 

「ごめん、フレデリック。誰か生徒が来たみたい。また今度ね」

『夜更かしは程ほどにしとけ。エデン条約については俺の方でもゲヘナの奴らに聞いてみる』

「ありがとう。貴方こそ、夜更かしは程ほどにして歯を磨いてから寝てね」

『ハ、飛鳥に言ってやれ。じゃあな』

 

 軽口を互いに叩き合いながら、通信を切る。

 

「どうぞ、入って」

「あ、えっと……あはは。何度もすみません」

 

 入ってきたのはヒフミだった。

 

「ヒフミ? まだ何か不安なことでもあった?」

 

 さっきの今でまた自室に来訪してきた彼女を心配してみれば、ヒフミは首を振った。

 

「いえ、そうではなく。先生がさっき私に言ってくれた、私がやりたいと思ったことについて相談したくて」

「あら、早いわね。もう何か見つかったの?」

「はい! え、えっと実はソレでちょっと先生の力も借りたいなって思って……」

 

 

 

「みなさん、こちらをご注目ください!」

 

 翌朝、ちょっぴり寝ぐせをつけたヒフミの気合の乗った声が合宿所の教室に響き渡った。

 ちゃんと寝られてもいないだろうに、その目に強い意志の光を宿したヒフミが自分達がやるべきは一週間後の第二次特別学力試験で合格するのだと発破をかけていた。

 そんなヒフミは、カバンからプリントの束を取り出した。

 

「……今から、模擬試験をやります!」

 

 唐突なヒフミの行動に戸惑う他の生徒達にヒフミは語る。

 試験に受かる為には闇雲に勉強しても非効率であるから、着実に目標を達成する為にも現在の自分の実力、得手不得手を正確に把握する必要があるのだと。

 

「その為に、昨晩これを準備して来たんです! 昨年トリニティで行われた試験問題のほぼ全部がここにあります!」

「ぜ、全部!? たった一晩で!?」

 

 驚きの余り声を張り上げたのはハナコだった。

 そんなハナコに、ヒフミはちょっと困ったような笑みを浮かべながら頬をかく。

 

「ま、まあかなりジャック・オー先生に手伝ってもらったというか……ほぼ全部先生がやってくれたようなものなのですが……」

「あら、私は過去問を集めたのと今日やる模擬試験を作るときにちょっと口を出しただけよ。ほとんどはヒフミが作ったでしょ」

「えへへ……じゃなくて! とにかく、第二次特別学力試験を想定したちょっとした模擬試験を用意したのでまずはこれを解いてみましょう!」

「レギュレーションは本番と同じ、試験時間は60分、100点満点で作ってあるわ。問題と解答用紙配るからみんな席について」

 

 ジャック・オーの言葉に生徒たちがそれぞれ席に着き、指示されなくとも筆記用具以外をカバンにしまった。

 それを確認したジャック・オーは裏にした問題と解答用紙を持ってそれぞれに配る。

 全員に配り終わった後、教卓に戻ったジャック・オーは教室を見回した。

 生徒たちが姿勢を正すのが見える。

 

「準備は良い? ──それじゃ、試験開始!」

 

 そうして、ジャック・オーの合図で模擬試験が開始された。

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