BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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バッドニュース

 ジャック・オーの自習をしているようにという書き置きを読んで、ヒフミたちは改めて模試をやってみようということになった。

 ヒフミ自身はメト本人から昨日着た直後に受けた模試の結果を聞かされてはいたけど、皆にもちゃんと知ってもらおうという意図があったのもある。

 そうして試験時間が終わってそれぞれの自己採点が終わって解答用紙を集め終わった時、ちょうどジャック・オーが教室に入ってきた。

 

「あ、ジャック・オー先生!」

「グッモーニン、皆! 遅くなってごめんね」

 

 何か用事があったようだが、まあそこは先生だから仕方がないだろう。それよりも、ヒフミはジャック・オーにみんなの解答用紙を確認して欲しかった。

 

「いえいえ。それより見てください、自習時間中に模試をやったんです! これ、その結果なんですが先生にも見てほしくって!」

「ん、ありがとう。どれどれ……あら、アズサもコハルも60点越えてるじゃない!」

「自分でも驚いている。まさか、たった一日でここまでできるようになるなんて。昨日作ってくれた先生の問題集のおかげかもしれない」

「ま、まあ? 私はエリートなんだから本気を出せばこのくらいは余裕ってわけ!」

 

 ジャック・オーの言葉にアズサとコハルが自慢げに胸を張る。たった一日。それだけでこれだけの成長をしたというのは、傍から見ていたヒフミにとってもなんだか誇らしいことだった。

 

「ヒフミは73点、メトも87点か。貴方たちは問題なさそうね」

「えへへ、頑張りました」

「む、90点は行けなかったかぁ」

 

 メトは流石の高得点だった。でも、自分だって負けていない。昨日やった一回目の模試よりも点数は上がっている。

 これについてはアズサの言う通りだった。ジャック・オーが昨日すぐにまとめてくれた苦手分野の解説付き問題集のおかげだろう。

 やや難解な部分もあったけれど、その辺りはハナコが丁寧に説明してくれたからちゃんと理解できた。

 おかげで、今日の模試でも前なら分からなかっただろう問題も解けたのだ。

 そんな積み重ねたものが結果につながる、ということへの歓びがじわじわと沸き上がってきた時だった。

 

「……ハナコも調子は出てきたかしら?」

 

 ヒフミはジャック・オーの言葉に冷や水を浴びせられたみたいな錯覚を覚えた。

 ヒフミも見てしまっていたのだ。解答用紙を集めた時、8点という明らかに合格ラインに届いていないハナコの結果を。

 ジャック・オーの声は柔らかで、優しいものだった。そこに困惑だとか、焦りというものは全く感じられない。

 

「……ええ、この調子ならあと3回受ければ合格ラインにまで乗せれそうです♪」

 

 なんとなく気まずくて、けれど気になってしまったからチラリと横目でハナコの方を見る。

 いつも通りのニコニコとしたハナコがそこにはいた。けれど、ちょうど見えてしまった。

 そんなハナコがキュッと手を握りしめたところを。

 いや、もしかしたら見間違いかもしれない。だけど、見間違いじゃなかったなら──

 ハナコのことがぐるぐると頭の中で回り始めたヒフミの思考を、ジャック・オーの躊躇いがちな声色が断ち切る。

 

「うん。皆頑張ったわね! ……なんだけど、少し良くないニュースがあるの」

「あら、先生がそんな表情をなさるなんて……いったいどんな悪いニュースなんでしょう?」

 

 ハナコに問いかけられ、ジャック・オーは少し息を吸ってからヒフミたちの方を見回しつつ真剣な表情で口を開いた。

 

「さっき、ティーパーティーのミカから特別学力試験について連絡があったわ。……次回から、テスト範囲が広がるのと合格ラインが80点にまで上がることになったって」

「ええっ!?」

「それは……厳しいな」

「ちょっと、何それ!? 何かの間違いなんかじゃないの!?」

「まあ……」

「…………」

 

 ヒフミは勿論だけど、皆もそれぞれ驚いたような反応をしていた。メトだけはやっぱり、みたいな反応だったけれどたぶん自分がここに入れられた理由からどうしてか察したのかもしれない。

 教室にどんよりとした雰囲気が漂い始める。当然だ。だってこれは、昨日今日の努力の結果に水を差すには十分すぎるほど悪いニュースなのだから。

 それに、この補習授業部が作られた本当の理由を知っているヒフミだからこそ合格するための難易度が上がってしまったという状況の深刻さが理解できてしまう。

 テストの合格条件は、全員が合格点をとること。現状では、メトと……後は本調子に戻ったハナコが行けるかもしれない程度だ。ヒフミ自身でさえ、既に合格ラインを下回っている。

 本当に合格できるのか。そんな不安がヒフミの中で鎌首をもたげた時だった。

 

「まあでも、大丈夫よ! だって合宿始まって今日でまだ三日目よ? なのにみんなこれだけ点数を上げて来れたんだもの。この調子で頑張れば、ヨユーよヨユー!」

 

 どんよりとした教室の雰囲気をぶち壊すように明るい声でみんなを元気づけたのは、ジャック・オー先生だった。

 単純な理屈だ。楽観的と言っても良い。ヒフミたちだって高校生だ。そんな単純な言葉で簡単に考えが変わるほど単純なつもりはない。

 けれど、その単純な言葉が今は活力に変わって来るのがヒフミにはハッキリと分かった。

 だって実際先生が言う通りなのだ。たった一日、個人個人に合わせた苦手克服の問題集をみんなで教え合ったりしながら解いただけでこれだけ点が取れたのは紛れもない事実である。

 じゃあ、二日続けたら? 三日、一週間続けたらどうなるだろう?

 

「た、確かに……昨日今日だけでこれだけ点数が取れるようになったんだったら、私が本気出せば満点なんて余裕かも……」

「うん。……ってことは、この調子ならモモフレンズのグッズもいっぱい貰えるということになるのか? 俄然(がぜん)やる気が出てきた」

 

 コハルとアズサの表情も不安そうなものから、もしかしたら……というものに変わっていく。行けるかもしれない。これなら、本当に満点合格とまではいかないまでも全員が合格ラインを越えることは十分に可能なんじゃないだろうか。

 そんなヒフミの気持ちを後押しするように声を上げたのはメトだった。

 

「大丈夫、きっと行けるよ! みんなで一緒に頑張ればきっと何とかなるって!」

「そうです! 今日からはちょっと大変になるかもですが、この調子だったらみんなで合格も夢じゃありません! と、言うことでですね!」

 

 これならちょっとくらい勉強以外に時間を割いてもきっと何とかなる。そんな確信を得たヒフミが、昨晩考えていたことを口にしようとしたその時だった。

 合宿所のインターホンが鳴らされる。こんな離れた合宿所に用がある人なんて、そうそういるものじゃない。

 では一体誰だろう。そう思った時だった。

 

「侵入者か。大丈夫、準備は出来てる」

「へ?」

 

 直後、建物を揺らすような爆音と振動が辺りを襲った。それを食らったのであろう、誰かの悲鳴も。

 

「ブービートラップ。誰かの侵入を感知したら起動するようにしてある」

「アズサちゃん!?」

 

 思わず声を上げてしまったが、仕方がないと思う。ここには合宿できているのであって、別に籠城戦をしに来ているわけではないのだ。

 しかし、そんなヒフミの心の叫びも空しく再び爆音と衝撃が起こる。

 

「逃げても無駄だ。逃げる方向を予測して、その先にもちゃんと仕掛けてある」

「アズサちゃんっっ!!?!?」

「あぁ~……なんか、ちょっと懐かしいなこの騒がしさ……」

「金田さんまでっ!?!?!」

 

 突然のカミングアウトのような何かにヒフミはぐりん、とメトの方へ向く。

 メトはと言えば、遠い眼でどこかを見つめながら語りつづける。

 

「昔さ、ヘルメット団の子が寝てる間に襲われないようにってトラップ仕掛けたんだけど……朝起きたその子が仕掛けた場所忘れちゃって。探してる間にこう……ね?」

「きゃぁあああああっ!?」

 

 三度目の爆発と悲鳴が合宿所に響く。それを聞いてメトが遠い眼をしながら頷いた。

 

「あんな感じで、ことごとく作動させてそれはもう大騒ぎになったもんだよ……」

「そ、それは大変ですね……じゃなくて!? 助けに行かないと!!」

 

 このまま放っておくと、合宿所中がまた火薬と煙まみれになってしまいかねない。というか、その前に誰か用事があってきた人が怪我しかねない。

 そうなってはマズいとヒフミは教室を飛び出す。幸い、爆発が起きた場所は音や振動の距離から大体合宿所の入り口だろうと目途は立っている。

 転んだりしないようにダッシュで現場に駆けつけてみれば、一人の生徒がせき込んでその場にへたり込んでいた。

 

「けほっ……けほっけほっ……」

「だ、大丈夫ですか!? け、怪我とかは……?」

 

 へたり込む生徒に駆け寄って声を掛ければ、煙でせき込んだその生徒は目に涙を浮かべながらも答えてくれた。

 

「きょ、今日も平和と、安寧が……けほっ、けほっ……あなたと共に、けほっ、ありますように……」

「まずご自分の安寧を心配して下さい!?」

 

 まず他者の心配をしてくれるのはとても優しいとは思うのだが、優先順位とかもっと色々他にあると思う。

 ともかく、ここに置いておくわけにもいかないのでヒフミはへたり込んだ生徒を連れて行かなければと彼女の手を取ろうとした時だった。

 彼女は、見覚えのある特徴的な制服だった。学生服、というよりは修道服に近いデザインだ。

 

「あれ、よく見たらその服装……シスターフッドの……?」

「あら、マリーちゃんじゃないですか?」

 

 後ろから生徒の名を呼んだのは、ハナコだった。どうやら知り合いらしい。

 

「あ、は、ハナコさん……」

 

 名前を呼ばれたマリーという生徒は、ハナコを見て驚いた表情を浮かべていた。ハナコに会いに来た……という訳ではなさそうだ。

 

「と、とにかく! こんなところで立ち話もなんですし、移動しませんか……?」

 

 気になることは色々あるけれど、まずは場所を変えよう。そんなヒフミの提案に異論を唱える者はいなかった。

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