セリカと別れたフレデリックはそのままアビドス高校へと戻った。
高校へはホシノ、アヤネが既に登校してきており、挨拶もそこそこに二人はBDを使った学習を始めると言って部室を後にした。
フレデリックはそんな彼女達を見送り、昨日ヘルメット団のアジトで回収した武器やスマホを机の上に広げる。
スマホ用のケーブルとシッテムの箱の子機に改造したタブレット端末を懐から取り出して、回収したスマホに接続する。
次いで通信法力を起動して飛鳥にコールした。
何回かコール音が鳴った後、応答を示す電子音がフレデリックの鼓膜を震わせた。
『おはようフレデリック。出張先ではよく眠れたかい?』
「おかげさまでな。中々快適な場所を確保できた」
『それは良かった。……ちなみに、それってどこかな?』
「あ? ノノミって生徒がいるだろ。どうやらアイツ、良い所のお嬢様みたいでな。自宅がマンションだったんで、空き部屋を一つ借りた」
飛鳥の問いに応えながら回収したスマホの電源ボタンをホールドする。しかし、戦闘の余波で故障したのかうんともすんとも言わない。
『か、借りた? ……それ、賃貸契約したってことかい?』
「当たり前だ。お前から渡されたカードもあったしな。使わせてもらった」
『……だから昨日シャーレ宛にそのメールが来たのか』
「何か言ったか?」
怪訝そうに眉をひそめながらフレデリックが耳元の術式へ視線を向けながら問いかければ、飛鳥は咳ばらいを一つしてから答えた。
『フレデリック。出張先の拠点を確保するのは構わない。でも、学校内に寝泊まりできる場所がなく、賃貸やホテルを使うなら事前に連絡してくれないか』
「ああ? そういうのはあとで申請すりゃいいんじゃねえのか?」
『いやまあ、経費申請のフロー的にはそうなんだけど……心当たりのない賃貸契約の連絡が急に来たら君、どう思う?』
「……あー、まず詐欺を疑うな」
飛鳥の言葉にフレデリックは気まずそうにポリポリと頭をかく。
確かにそれは報連相を怠ったフレデリックに非がある話だった。
「悪かった。次からは気を付ける」
『そうしてくれ。……それで、用件は何かな?』
「っと、そうだった。飛鳥、アロナの力を借りたい」
『アロナの……? いいけど、何をするつもりだい?』
飛鳥の問いにフレデリックは昨日起きた出来事をかいつまんで説明をした。
『継続的にアビドス高校を襲ってきた武装集団……確かに、話を聞く限りどこかの学校に通っているとか、そういう後ろ盾のあるわけでもない生徒達に出来ることではないだろうね』
「ドーナツとコーヒーがなけりゃ地元警察だって動かない。何度も通報されるとあっちゃ、追加でピザでも貰えねえとやる気にはならねえだろ」
『つまり、バックで誰かがヘルメット団を支援していた』
「よくある話だ。社会的に信用の無いヤツらを使って目障りなヤツを消す。失敗しても元から札付きだから足もつきにくいし、金や物資をチラつかせて詮索するなとでも言っておけば自分達の情報も漏れにくい」
『……まして、学校という枠からはぐれてしまった子達であれば、きな臭かろうと継続的な物資の支援と明確に拠点として使えそうな土地という報酬を前に飛びつかずにはいられない』
胸糞悪い話だった。フレデリックとてそういった話を見たことがないわけではない。
それどころか、フレデリック自身が賞金稼ぎだったのだ。むしろそういった話には馴染みがあった。
そういう話に巻き込まれた時は、決まって戦友のカイ*1がその場に現れてはウザったく絡んできて辟易したものだが、今となっては悪くない思い出だ。
つい元の世界のことに思いを馳せていた自分に気づいたフレデリックは思考を切り替えるために軽く頭を振った。
「だからアジトから回収してきた端末を解析するのにアロナの力を借りたい」
『なるほど。アロナ、行けそうかい?』
『うーん……フレデリック先生、今って子機とその端末繋がってますか? 物理的にでも、ネットワーク的にでもどっちでもいいんですが……』
「一応物理的にケーブルで接続はしているが……電源が点かない」
フレデリックの返答にアロナが困ったように唸った。
『流石に接続先の電源が落ちてしまっていると解析のしようがありません……何とか、その端末の電源さえ入ってしまえば……』
「まあ、だよな。とりあえず電源を点けられねえか見てみる。その間にこれを見てくれ」
そう言ってフレデリックはタブレットのカメラを回収してきた何丁かの小銃や拳銃へ向ける。
「コイツらはヘルメット団が使ってた武器だ。なんでもいい。製造元、あるいは出荷元を始めとした流通経路。役に立ちそうな情報がないか探ってくれ」
『了解しました! このスーパーアロナちゃんにお任せください!!』
『僕の方でも色々調べてみる。フレデリックには端末の電源復旧とか、アビドスの子達からの情報収集とかを頼めるかい?』
「ああ。それはこっちでやっておく。……それと、数日中には一度ソッチに戻る。ジャック・オーにも伝えといてくれ」
そんなフレデリックの言伝に、飛鳥はクスクスと笑いだした。
『そういうのは直接伝えるべきなんじゃないのかい?』
「……じゃあ後で伝えておく」
飛鳥の指摘に渋い顔をしながらも、とりあえず問題の先送りをしようとしたフレデリックだったがその目論見は見事に外れた。
何故なら当の本人の声が術式から聞こえて来たからだ。
『あら、後って具体的に何分後の話なのかしら』
「聞いていたんなら話は早い。……ま、近いうちには必ず帰るさ」
『クスクス……じゃあここはこういうべきなのかしら? 近いうちっていつ? そもそも仕事と私、どっちが大事なの?』
悪戯っぽくそんな意地の悪い問いかけをしてくる通話越しのジャック・オーに、フレデリックはたまらず顔をしかめた。
「おい……勘弁してくれ」
『あはは! 冗談よ。でも、ちゃんと近いうちには帰ってきてよね。そしたらゆっくりお酒でも飲みながら近況報告しましょ』
「静かに飲める店でも探しておくか」
『ついでにムードが良くて美味しいご飯も食べられると満足度はさらに上昇するわね』
「スイーツもつけた方がいいか?」
『さっすが! 話が分かる旦那様は嫌いじゃないわ』
「ハハ。探しておく」
他愛もないそんなやり取りに、自然とフレデリックの頬が緩む。
世界の破滅と天秤にかけてなお、共にいると決めた相手の笑顔はフレデリックにとって何よりも大事なものだ。
ジャック・オーと離れている今、彼女のことが心配じゃないと言えば嘘になる。
かといって、未来を悲観した子供を見て見ぬ振りをするというのも気に入らない。
かつてアクセル*2が自分に向けて叫んだ言葉が思い出される。
【ダメなんだよ! そんな俺じゃ、そんな濁った俺の目じゃ……アイツの笑顔をまともに見れやしないんだ!】
自分の望みの為に他を見捨てる。アクセルはそれを良しとはしなかった。
例えその結果自分の望みを永遠に叶えられなくなったとしても、あの青年は自分の大切な人に胸を張れる自分であることを選んだ。
あの姿はフレデリックが世界の破滅よりも大切な
「じゃあ、また連絡する」
『ええ。気を付けてね』
通信が切られて術式が消える。
次にシャーレに帰ってジャック・オーにあった時、胸を張って真っすぐと彼女の瞳を見られるように。
フレデリックは今出来ること、今やると決めたことをやり通す。
そう誰に言うでもなく心の内で決意をして、作業を再開するのだった。
GGXrdのストモでアリエルスを撃破したオラトリオ聖人でジャスティスを人間に戻せなかったとき、窮地に陥ったソル達を救ったアクセルのあの姿はソルにとっても大きな影響というか感銘を与えていてもおかしくないなと思いました。
ソル自身も言及しましたが、一定空間のみの時間圧縮というあまりにも大きな力を使えば通常であれば相応の代償を要求されます。
いわゆる並行世界を渡るアクセルのその力を二度と使えなくなってもおかしくないようなレベルだったんでしょう。
アクセルの目的はずっと元の時代に置いてきた恋人のめぐみに再会すること。けれど、ソルを助ければその目的は果たせなくなるかもしれない。
ソルにとって恋人の為にと足搔き続けるアクセルの姿には大なり小なりシンパシーを感じていたはずです。
そんなアクセルが自分の願いを捨てることになったとしても、恋人に誇れる自分でありたい。その為にソルの助けになったのです。
その姿はきっとソルの心に強く刻まれたはずです。アリアの半身としてソルの前にジャック・オーが現れた時から何があろうと彼女の隣に居続けると決めたと言っていたソルですが、アクセルのあの行動があったからこそ全能の神となったイノを前にしても”悪あがき”することを止めずにいられたのかもしれません。ただジャック・オーの隣にいるだけではなく、彼女とアリアに誇れる自分であるために。
そうだったらいいなと、思っています。