BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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『先生』に求められた役割

 それは唐突だった。

 背後からのとてつもない衝撃。直前に響いた音から背後から撃たれたことは明白だ。

 

「くっ、ううっ!!」

 

 今日は散々な一日だ。バイト先に委員会の皆と先生達が押しかけて来て、その対応ですごく疲れたのに。

 自分は――自分達はこんなに大変な思いをしているのに大人は誰も助けてくれない。

 だから今更先生達が助けてくれるなんて言葉、鵜呑みになんて出来なかった。

 

「こ、んのォ!!」

 

 振り返って引き金を引く。

 先生がどんな魔法を使ったか分からないけど、送ってくれた物資でピカピカになった愛銃が火を噴く。

 私を撃ったらしいヘルメット団のクズ達が悲鳴を上げて倒れた。

 大人なんてクソだ。なのに、そんな大人であるフレデリック先生とジャック・オー先生は夫婦で。

 大人っぽい落ち着きに満ちた、女の子なら誰もが一度は夢見る素敵なやり取りを見せつけられて。

 どうして私達ばっかりがこんな辛い思いをしなくちゃいけないんだろう。

 バイト中だったからそんな気持ちを顔に出さないように必死で、皆が帰った後のことはよく覚えてない。

 

「捕らえろ」

「だぁれがアンタ達なんかにッ!」

 

 振り向き、地面を蹴ってリーダーっぽい赤服の生徒との距離を詰めようとした。

 でも、次の瞬間私の体は凄まじい熱と衝撃でメチャクチャにされて、意識がチカチカとする。

 何かが目の前で爆発したんだと分かったのは、赤服の生徒がさっきよりも遠くにいたことと、吹き飛ばされた時にどこかに打ち付けたっぽい背中がものすごく痛かったからだ。

 

「ケホッ……ケホッ……」

 

 息が上手くできない。何が起こったのかもよく分からない。

 ああ、ホントに最悪だ。

 こんなことなら――先生の言葉を素直に信じてれば良かったのかな。

 ホントは分かってる。きっとフレデリック先生達は私達を裏切らない。

 熊からパンダは生まれない。それくらいには信じていいはずだって。

 でも認めたくない気持ちもあった。ずっと対策委員会の皆だけでやってきたのに今更大人の力を借りるなんて。

 だって、認めてしまったら私達だけじゃ何にもできないって分っちゃうから。

 

「でもッ……私、達は……私は……!」

 

 さっきまで自分の体の一部だったように感じていたはずの銃がとても重い。

 足はガクガク震えて、銃を構えるどころか立っているのだって大変だ。

 それでも……。

 

「あきらめ……ない……」

 

 グッと奥歯を噛みしめて、ガタガタの体に鞭を打って銃を構える。

 でも、引き金を引く前に銃声がした。

 次の瞬間、ぼやけた視界は綺麗な星空と空に浮かぶ大きなヘイローで一杯になっていた。

 

「う……ぐ……?」

 

 立たなきゃ。戦わなきゃ。

 ここで私がアイツらを止めないと、また学校が襲われる。

 皆と過ごしたアビドスを守らなきゃ。

 なのに、体は動かない。目の前がだんだん暗くなっていく。

 そうして、真っ暗になっていく視界の中でヘルメット団じゃない、もっと綺麗な赤が映ったところで私は意識を失った。

 

 

 

「遅くなってごめんね」

 

 フレデリックの勘が当たってしまった。

 そうなるかもしれない。そう彼に言われていたはずなのに、セリカがこんなになる前に間に合わなかった。

 その事実は、ジャック・オーの心に波を立てるには十分だった。

 

「お前、誰だ」

 

 意識を失ったセリカをかばうように立つジャック・オーの正面へ歩いてきたヘルメット団達が銃を構える。

 全員がセーフティを外して、引き金に指をかけている。

 状況は圧倒的に不利だ。それでも、ジャック・オーは一歩も引く気はなかった。

 

「私はジャック・オー。シャーレの先生の一人よ」

「シャーレ……だと!?」

 

 ヘルメット団達に動揺が走る。

 それはそうだろう。なんせシャーレの先生が指揮するアビドス高校の生徒にいいようにやられたのは、つい昨日の出来事なのだから。

 でも、それはジャック・オーには関係のないことだ。

 ほんの少しだけ怒りに歪ませながら、ジャック・オーは目の前の生徒達に問う。

 

「この子をどうするつもりだったの」

「お前には関係ないだろ」

 

 リーダー格らしい赤い服の生徒が銃口をジャック・オーに向けて答えた。

 

「そこをどけ。私達はソイツを連れて行かなきゃいけない。銃もヘイローもないお前に何が出来る?」

 

 怪我をしたくなければどけ。言外にそう告げるリーダーに、けれどジャック・オーは正面から彼女を見返した。

 倒れたセリカの頭部にヘイローは浮かんでいない。

 それはつまり、完全に彼女が意識を失っていることを意味している。

 今、セリカに銃弾が当たれば彼女は死ぬ。

 そんな状態の生徒を前にして、見なかったことにして去るなんて選択肢にはない。

 

「怪我をした子供を見捨てるなんて、大人としてナンセンスと思わない?」

「正義のヒロインなんて、今更流行らないんだよ。時代遅れだ」

「そうかしら? 私は好きよ、そういう分かりやすいの」

「ハッ! 最終的に敵も味方もおてて繋いでハッピーエンドか!? そんな世界がどこにあるんだバカバカしい!」

 

 それはワルを気取っただけのチンピラから出て来たカッコつけのセリフではなかった。

 守ってくれる存在がいなかった、導いてくれる存在がいなかった……奪い奪われる世界で生きるしかなかったもたざる者の血を吐くような言葉(悲鳴)だった。

 その言葉にジャック・オーはハッとする。先程まで燃え盛っていた怒りの感情が急速にしぼんでいくのが分かった。

 だって彼女達を通して、ある女性の背中が見えたからだ。

 それはイノ*1の姿だ。

 持たざる者、追われる者、尊厳を求める者。ヴァーノン大統領*2の言葉がジャック・オーの脳裏に蘇る。

 まさに目の前でヘルメット越しにも伝わる強い敵意を露わにした彼女達のことだと、ジャック・オーは思った。

 それなら、きっと今すべきことは拳を振りかざし合うことではない。

 今すべきこと。それはきっと手を差し伸べることだ。かつてジャック・オーがフレデリックにそうしてもらったように。

 

「そうね。確かにアナタの言う通りよ。人の思いは対立する。すれ違う。皆が同じ未来を、理想を思い描くことは出来ない」

「だったら!!」

「でも、それなら聞かせて。……貴方達の夢は何?」

 

 ジャック・オーの言葉にヘルメット団達がうろたえる。

 一体目の前の女は何を言っているんだ。何の話をしているんだ。

 そんな彼女達の姿を見て少し抽象的過ぎただろうか、と考えたジャック・オーは問い直す。

 

「夢って言葉は適切じゃないかしら。じゃあ、そうね……今日帰ったらやりたいことは?」

 

 ジャック・オーの問いかけにリーダ格の生徒は後ろを振り向く。

 

「おい、こんな奴の話を――」

「砂の入ってこない家で、柔らかいベッドで寝たい!」

 

 そう叫んだのは誰だったか。けれど、一度漏れ出したささやかな願いは他の生徒達に伝播していく。

 

「温かいシャワーを浴びて、足を延ばしてお風呂に入りたい!」

「美味い飯を腹いっぱい食べたい!」

「皆で一緒にゆっくりしたい! 遊びたい!」

「来週出るアルバムが欲しい!」

「お、おい……! お前達ッ!」

 

 慌てたように周囲をなだめようと赤服の生徒が声を荒げたその時だった。

 

「リーダーがもう私達の代わりに大人にバカにされなくてもいい世界が欲しい!」

「……っ!?」

 

 ヘルメット団の言葉にリーダーの動きが止まる。

 

「人の理想は、未来を同じものにはできないかもしれない。でも、今日出来ること、明日やりたいことの為に一緒にあがくことは出来る」

 

 ジャック・オーは再び真っすぐと赤服の生徒をまっすぐと見据える。

 今度は怒りではなく、彼女という一人の人間と向き合うために。

 

「私は先生だけど、神様じゃない。だから、今すぐハッピーエンドなんて呼び寄せられない。でも、私の望む未来(世界)を守る為にあがく位はさせてもらえないかしら」

 

 ヘルメット団達はアビドスの生徒達を襲った。その罪は消えない。

 きっと、他の人達にもたくさん迷惑をかけただろう。その全てを償うには、長い時間がかかるかもしれない。

 それでも、目の前の子供達が居場所を失わない為に罪を償う機会まで失わせるわけにはいかない。

 

「なんなんだ……なんなんだよお前はッ!」

 

 肩を震わせてリーダーが叫ぶ。

 その姿は、ただのチンピラなどではない。居場所を失った小さな子供のものだった。

 ジャック・オーはそれを見て、何かが腑に落ちた感覚がした。

 未来を悲観した子供達に寄り添うこと。未来に夢を見られるように導くこと。

 そして子供達の居場所を守ること。

 きっとこれがキヴォトスでジャック・オー達に求められた役割なのだ。

 だから、ジャック・オーはすうっと息を吸ってハッキリと口にした。

 

「私は『先生』よ。貴方達を導く、ちょっと変な『大人達』。そうでしょ、フレデリック?」

 

 ジャック・オーの言葉にヘルメット団達の動きが再び固まる。

 何故なら、何時からそこに居たのかセリカを背負って立ち上がったフレデリックがそこに居たからだ。

 あの意味の分からない爆炎で自分達を吹き飛ばした、シャーレの暴力教師。

 その存在はヘルメット団達を怯えさせるのに十分だった。

 しかし、そんな彼女達など気に留めずフレデリックはジャック・オーの隣に並び立った。

 

「ジャック・オーの言う通りだ。テメェらは確かに火遊びが過ぎたかもしれねえ。だが、取り返しのつかないやらかしはしてねえ」

 

 そう言ってフレデリックは背負ったセリカをちらりと見る。

 気を失っているが息はしっかりしているし、法力で簡単なスキャンをした結果大きなケガもしていなかったのは確認済みだ。

 つまり、これはせいぜい喧嘩の範疇で済ませられる。対策委員会の生徒達はきっと納得しないかもしれないが、何とか説き伏せるのもフレデリックの仕事だろう。

 だから、今は目の前の生徒達(ヘルメット団)を説得するのが先決だ。

 

「取引だ。テメェらが使った武器と戦車、その供給をしたヤツの情報を寄越せば宿と飯、それからいくつかの仕事をシャーレが用意する」

「貴方達が先に契約してた大人からも私達が守ってみせる。どう? 悪くない条件だと思うんだけど」

 

 フレデリックとジャック・オーが持ちかけた取引に、ヘルメット団の何人かが銃を下ろす。

 状況は、急速に動こうとしていた。

*1
GGSTのラスボス。人の形をした神。人でありたかった神。その力で全人類に全能の力を与えることで、全ての人間を自分と同じ存在にして自分の居場所を求めた

*2
ギルティギア世界のアメリカ合衆国大統領




GGXrdから、世界とは何か、罪とは何かみたいな話が良く出て来ていたと思います。
今のところの自分の解釈は「世界=自分の望む景色」であり「居場所とは罪を赦すことで生まれる=最終的にお互いを受け入れあえる関係を作ること」となっています。
ジャック・オーがフレデリックの隣に居ることを望んだように、メイがジェリーフィッシュ海賊団の皆とジョニーと共にいられることを望んだように、エルフェルトが目に映る親しい人が悲しまないことを望んだように、ギルティで語られる世界とはそう言ったものなのかなと。
また、居場所についてはソルが飛鳥との決着をつけることが一番赦せると語っていました。恐らく、自分の抱えた思いや言葉、それら全てを思ったように正しく伝えることはソルも飛鳥も下手くそだということを分かっていたからだと思います。
だから、ごちゃごちゃ話すよりも拳に全部乗せて喧嘩をした方がスッキリするし、そうしてお互いの全部を出し合えばきっとまた昔の様に親友に戻れる=居場所を作り直せると言ったのだと思っています。
また、罪についてはザトーもGGSTにて「犯した罪を償うのは、人でありたいから。許しを請うことすら止めたら、それはもう死人である」と言う旨を語っていました。
これについてはブルアカ本編でも何人か分かりやすく該当する生徒がいますよね。
せっかくなので、この辺のテーマもうまく絡めて今後の物語を展開していきたいです。
大筋は原作通りにするつもりですが、もうなんかその場のライブ感で改変していっちゃえみたいな気持ちです。
よろしくお願いいたします。
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