彼らには時に生徒たちの導きになりつつ、時に生徒達と一緒に楽しいことをして、時には彼ら自身も生徒達から何かを学んで、これまでの長い人生で失った青春の続きを謳歌してもらいたいと思います。
生徒達のヘイローについて言及するの忘れてたのでその辺の追加で描写しました。
「……先生、起きてください! 飛鳥先生!」
鼓膜に叩き付けられる、鋭い女性の声。
いや、女性へとなりつつある少女の声だろうか。
妙だ。僕にそんな年頃の知り合いなんていなかったはずなんだけど。
まだハッキリとしない意識の中、それでも自らを呼ぶ誰かの声に応えるために飛鳥=R=クロイツはゆっくりと目を開く。
「……っ。おい、もう少し静かに話せ。頭に響く」
今度はとても聞きなれた低い男の声。
「……う~~~ん! いけない。寝ちゃったみたいね」
そしてもう一つ。これもまた
「……少々待っていてくださいと言いましたが、皆さん揃って熟睡されてしまうなんて。お疲れだったみたいですね」
そっとあたりを見渡す。
アメリカ合衆国に来た覚えはないのだけれど、一瞬そうと錯覚するくらいに高い場所からの景色が窓の外に広がっていた。
世界各国の首脳陣が集まったホワイトハウスの会議室に比べて3分の2程度の広さのオフィスと、上質な執務机。
そこから少し離れた窓際に設置された応接スペースのソファーで、飛鳥と彼の親友達は眠っていたらしい。
皆が皆今しがた目を覚ましたようで、フレデリックは眼鏡のブリッジを押し上げながら目頭を揉んでいる。
その隣に座るジャック・オーはググっと大きく伸びをしていた。
まるで状況がつかめない。ここまでの記憶もやや曖昧だ。
確か、直近で思い出せるのは月のコロニーで世界平和の実験を続けていた飛鳥のもとにフレデリックがジャック・オーと共にスペースシャトルに乗って遊びに来たのだったか。
急な来訪に困惑した飛鳥に、してやったりと笑みを浮かべたフレデリックとそれを見て穏やかに笑うジャック・オー。そんな彼らに釣られて自分も笑った覚えがあった。
その後はコロニーの生活スペースに二人を案内して……。
「……夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください」
ふと、自分の隣からあの鋭さを感じる少女の声が降って来た。
そちらへ顔を向ければ夜を感じさせる艶やかな黒をベースに紺のインナーカラーの髪を腰よりもさらに下に伸ばした少女が立っている。
何より特徴的なのは、その頭の上に天使の輪のようなものが浮かんでいることだった。
混乱する頭で、ひとまず返事をしなければと飛鳥は口を開く。
「……あ、ああ。すまない。えっと、君は……」
「失礼いたしました。もう一度、改めて今の状況をお伝えします。私は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です」
そうしてそこからリンによっていくつかの説明がなされた。
ここが数千の学園から成り立つ学園都市『キヴォトス』と呼ばれる場所であること。
飛鳥達が自分達連邦生徒会が呼び出したと思われる『先生』であること。
呼び出した理由は学園都市の命運をかけた大事なことの為であること。
実際に任命したのは、現在行方知れずになっている連邦生徒会長であること。
その説明をしながら、飛鳥達はリンに促されるままエレベーターで階下に降りた。
その道中、外部からの来客の受付をしているのであろうレセプションルームを通り過ぎようとしたとき、リンは何人かの女生徒に取り囲まれた。皆、リンと同じく頭の上に天使の輪のようなものを浮かべている。
曰く、自分が所属している学園の風力発電がシャットダウンした。
曰く、連邦矯正局なる場所で停学中の生徒が一部脱走した。
曰く、スケバンのような不良達が登校中の生徒を襲い、治安維持が難しくなっている。
曰く、戦車やヘリコプターを始めとした出所不明の武器の不正流通が急激に高まり、学園生活に支障を及ぼす懸念があること。
「おいおい……世紀末世界の演劇にでも巻き込まれたのか、俺達は」
混沌とした事態の報告を聞いたフレデリックが眼鏡のブリッジを押し上げて眉間を揉みながらボヤく。
フレデリックの言葉にその場にいた生徒達がキッと彼をにらみつけた。
とはいえ、飛鳥も今耳にした情報はにわかに信じがたいのは同意だった。
故にこっそりと”本”へアクセスする。
膨大な情報が飛鳥の脳内へ流れ込み、飛鳥はそれらを一つずつ精査していく。
結果、目の前の生徒達が言っていたことはすべて真実だということが分かった。
一連の動作がフレデリックがぼやいてからほんの数秒の出来事だった。
「ッ! 失礼ですが、あなたはどちら様ですか? 今は緊急事態ですから、部外者は……」
黒いジャケットに水色のタイをした少女が、かなり大柄で人相も良いとは言えないフレデリックに臆することなく詰め寄ろうと一歩踏み出す。
しかし、それをリンの一言が止めた。
「そちらはこの事態を解決してくれるフィクサーになってくれる先生とその補佐の方々です」
「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生方だったのですね」
流れるような黒髪に黒を基調としたセーラー服―ただしスカートは魔改造されており、深くスリットが入れられ太ももが露わになっている―の少女が納得したように頷いた。
そこからリンが再びその場にいる者達へ聞こえるように説明を始めた。
飛鳥達『先生』は行方知れずの連邦生徒会長が立ち上げた超法規的機関「シャーレ」の担当顧問に任命されたこと。
「シャーレ」は連邦組織の為、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒達を制限なく加入させられること。
さらには、何の制約もなしに戦闘活動を行うことすら可能であること。
ひとまず今はそのシャーレの部室がある建物の地下へ飛鳥達を連れて行かなければならないことが語られた。
そこは今いる場所から30㎞離れてるとのことで、リンは懐から取り出した端末で誰かにヘリを要請する。
しかし、モモカと呼ばれた通信相手はリンの望む答えを返さなかったのか、リンは小さく肩を震わせながら端末をしまった。
「その様子じゃ優雅に空の旅とはいかなそうね?」
くすりと笑ったジャック・オーにリンは小さく息を吐く。
「……だ、大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大したことではありません」
「移動手段があればいいのか?」
声を上げたのはフレデリックだった。
フレデリックの言葉に、リンはやや困惑したような表情を浮かべる。
「いえ……どうやら私達が向かう先では激しい銃撃戦が行われているようでして……下手に乗り物で向かえば流れ弾で先生方が負傷する可能性があります」
「なんで銃撃戦が起きてんだよ……」
「銃撃戦自体は別にキヴォトスでは珍しいものではありません。ですが、万が一を考えて無策でお連れするわけにもいきませんね」
そう言ってリンは彼女に詰め寄ってきた女生徒たちへと目を向ける。
銃撃戦が珍しくねえってどうなってやがる、というフレデリックのボヤキは無視された。
「な、なんでこっちを見てるのよ」
フレデリックに詰め寄った少女が何かを察したのか、わずかに顔を引きつらせる。
「いえ。ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいて心強いな……と」
そう言ってリンはニッコリと笑顔を浮かべた。