手洗いうがいを済ませたヘルメット団と対策委員会の生徒達が体育館に入ると、そこには給食用の鍋と大量の発泡スチロール製のお椀や割り箸などが用意されていた。
給食鍋のところには薄いビニール手袋をつけたフレデリックが立っており、彼の目の前にはおにぎり二個入りのプラパックが大量に詰められた容器が置かれている。
「ジャック・オー。味噌汁をよそうの手伝ってくれ。出来るだろ」
ヘルメット団と共に体育館に入ってきたジャック・オーを見たフレデリックが、彼女に向けて人差し指でこっちに来るようにジェスチャーをしながらそう言った。
「あー! せっかく大変な仕事をしたのに、私のことをねぎらうどころかまだこき使うの?」
「おいおい、これから取引する相手に配膳をやらせようってのか?」
「こういうのは皆で交代しながらやった方が親睦も深められると思わない?」
「今日やるのは緑溢れる田舎でやるボーイスカウトじゃねえ。お前もホスト側なんだからゲストをもてなせ」
「……はーい。じゃあ皆! 順番に並んでね。多分全員分はあるはずだから、焦らないで一人ずつ朝ご飯貰っていくのよ」
フレデリックの言葉に一瞬ぶすくれたように唇を尖らせたジャック・オーだったが、すぐに切り替えて生徒達に号令をかける。
それから、ヘルメット団と対策委員会それぞれの生徒達がおにぎりと味噌汁をもらって体育館の開けたスペースに座る。
ちなみに机こそないものの体育館の床の上には人をダメにするソファが人数分用意されており、食事を食べるためにヘルメットを外したヘルメット団の生徒達の何人かは食事の前にデロデロに溶けていた。
「ああ……コンクリとか痛んだ床じゃない、柔らかいソファだ……ダメになる……」
「お味噌汁……温かい……ぐずっ……」
「お米の硬くないおっきなおにぎり……美味しいな……うう……」
余程久しぶりだったのか、真っ当な食事をしながらすすり泣くような声が体育館のあちこちから聞こえだす。
つい数日前は学校を狙う側と守る側として敵対していたはずなのに、こんな光景を見せられてしまった対策委員会の生徒達は皆一様に言葉を失っていた。
「まだおにぎりもお味噌汁も余ってるから、欲しい人がいたら言ってね」
ジャック・オーの優しい声が体育館に響き渡ると、既に完食したらしい何人かが勢いよく立ち上がる。
そのまま周りの生徒を蹴飛ばさないように気を付けながら、彼女達は給食鍋の前に並んだ。
「私達もいただきましょうか~」
そんなヘルメット団達の様子を見ながら、ほんの少し声を抑え気味にしたノノミの言葉に対策委員会の皆も頷き空いていたソファに腰を下ろす。
「わぁ~このソファ、ダメになるぅ~……」
まず真っ先に人をダメにするソファの魔力にやられたのはやはりというか、ホシノだった。
貰った味噌汁だけはこぼさないように注意しながら、全身の力を抜いて脱力した姿はいっそ芸術的ですらある。
「ん……美味しい」
先生二人から配られたおにぎりと味噌汁に口をつけ、思わずそんな感想を溢したのはセリカだった。
飲食店でバイトしている彼女は、賄い飯としてラーメンをご馳走されることもあった為ちょっとは舌が肥えている自負があった。
正直、大体三十~四十人分にも届きそうな量の食事を特急で用意したのだろうから、質より量だろうとこの朝ご飯の味にはそこまで期待していなかったのだ。
けれど、いざ口にしてみれば程よく暖かくて甘辛い味付けの味噌汁と、やや冷めているもののもちもちした食感の米にモソモソしない鮭の具が入ったおにぎりが胃袋に優しく染みこんだ。
「これ、美味しいね」
「はい~。一体どこで作られたものなんでしょうか。ぜひ今度は買いに行きたいですね」
ノノミの言葉に対策委員会の皆、それと彼女達の会話が聞こえていたヘルメット団の生徒達が頷く。
そんな彼女達の疑問に答えたのはフレデリックだった。
「あ? 朝っぱらからいきなりこんな人数の飯用意してくれる店なんてねえぞ。材料だけ調達して俺が作ったに決まってるだろ」
その時生徒達全員に衝撃が走った。
このとても美味しい朝ご飯を作ったのが、シャーレの暴力教師と恐れられた大人だったなんて。
「昨日黒見セリカを襲った時に使った戦車、ブラックマーケットから融通されたやつなんだ!」
「襲撃の為の物資調達に使う資金、いつもカイザーローンの奴がくれてた!!」
「多分アタシ達にアビドス襲えって言ったのもカイザーの奴らだと思う!」
「なんかゴツいエラソーな奴が一回アタシ達のアジトに来て一杯武器だけ置いてった! 露骨に見下されたけど、PMCいっぱい連れてて何にもできなくて……あー!! 思い出したらムカついてきた!」
この美味な食事を作ったのが目の前のガタイの良い大人だったと分かるや否や、出るわ出るわ貴重な情報が。
情報を提供しているヘルメット団達は今ヘルメットをかぶってないためはっきりとその目が見える。全員が本気の目だった。
皆本気でフレデリック達の庇護下に入ろうと必死だった。こんな食事を情報提供するだけで受け取れるのであれば、絶対にこのチャンスを逃すわけにはいかない。そんな気迫が見て取れた。
先程までの様子を見れば、それも仕方ないのだろう。
「ちょ、ちょっと……これって……」
「うわあ、胃袋掴まれるってこういうことなんだね……おじさん改めて食の素晴らしさを思い知ったかもしれない」
「カイザーの連中! やっぱり悪徳っていうだけはあったのね!!」
あまりの情報量に対策委員会の皆は若干顔を引きつらせたり、毎月借金を回収しにくるカイザーローンが黒だったことに怒りをあらわにしたりとそれぞれの反応をする。
そんな感じで辺りがにわかに騒がしくなった頃、体育館の外で突然爆発音が響き渡った。
「な、なんだ!?」
「もしかしてカイザーの奴らか!?」
「アタシらを消しに来たんだ!!!」
「武器とかどうするんだ! 全部外に置いてきちまったぞ!?」
襲撃に驚き、恐慌状態に陥りかけるヘルメット団達を他所に対策委員会の皆は目つきを鋭くして体育館の壁に立てかけていた自分の装備を手に戦闘準備を整えていた。
「ジャック・オー。俺は対策委員会と外の様子を見てくる」
「分かったわ。私はヘルメット団の子達を見てるわね」
「頼んだ。おい、行くぞ」
フレデリックの言葉に対策委員会達は皆力強く頷いて、体育館の外に出る。
「あ、アルちゃーん! 誰か出て来たよ!」
フレデリック達が外に出た時、校門の外はごうごうと燃える炎と黒煙が上がっていた。
それがヘルメット団が学校の敷地の外に置いてきた装備だったことは明らかだ。
そして、この状況を引き起こしたのであろう張本人達がグラウンドに少し入ったところに待ち構えていた。
桃色のロングストレートに後頭部から左右に生えた二本の角が特徴的な狙撃銃を持って不敵に笑う少女に、深紫の髪に黒い略帽を被ってショットガンを抱えたオドオドした少女。それから長い銀髪をサイドポニーにまとめた小柄な少女が体躯に見合わない軽機関銃を肩に担ぎ、その隣には
「一応聞こうか。キミ達、何者かな?」
油断なく銃を構えたホシノがそう問えば、襲撃者の中で中央に立っていた桃色の髪の少女が一歩前に出た。どうやら彼女がリーダーのようだ。
リーダー格と思しき桃色の髪の少女は狙撃銃を軽々と片手で持ち上げ、銃口をフレデリック達の方へ向けて笑みを浮かべる。その姿はどこまでも自信に満ち溢れていた。
「私達は便利屋
便利屋68。それが、新たにアビドス高校へやってきた脅威の名前だった。
あはははは。もはや原作シナリオが崩壊しつつあるような気がするけど気合で何とか走り続けるぜ
大丈夫だ脳内チャートではどうにかなる見込みなんだ。行ける行ける。