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陸八魔アルは絶好調だった。
大口の依頼にあり付けた上に、今のところ作戦の推移は順調だ。
その上、制服を見るにアビドス高校の所属と思しき生徒から「お前達は何者だ」と問われたのだ。
であれば、やることなんてたった一つしかない。
「私達は便利屋68。金さえもらえれば、なんでもする……なんでも屋よ!」
キマッた……! どこからどう見ても完璧な名乗り口上だ。
これぞアウトロー! 今、陸八魔アルは――便利屋68は最高に輝いている!
「それで? その便利屋サマが一体この学校になんの用だ?」
油断なく自分達に向けて銃口を向けるアビドス生達の後ろに立っていた大人がまたも素晴らしい質問をしてきた。
そうそう。そういう質問も待っていた! だが、彼は別にターゲットではないし万が一でも流れ弾に当たったりしないようどこかに避難してもらわなければならない。
「仕事よ。カタカタヘルメット団、その体育館の中にいるんでしょう? 私達はアイツらに用があるの」
言外にお前達に用はないからどけと告げる。
だが、そんなアルの意図は相手には伝わらなかったらしい。
いや、伝わったかもしれないが無視をされたのかもしれない。
「何の話だ。この中にはヘルメット団なんて物騒な連中はいねえな」
そう答える大人は身長2m近い大柄な男。
黒いスラックス、やや皺のあるワイシャツにワインレッドのネクタイを緩めに着用している彼は、アルが見たことのない何かをまとった不思議な人物だった。
一見だらしない格好だが、男の立ち振る舞いがそうさせるのか。だらしがない男ではなく、器用に爪を隠した猛獣のような危うさというかそういう雰囲気がにじみ出ている。
もしもこれでタバコなんてモノをくわえでもしたら、そう。
彼こそが完璧なアウトローに違いない。
だが、そんなもしもは今考えても仕方がない。
「あら、アイツらはこの辺じゃ悪さばかりするチンピラでしょ? 庇ったってしょうがないんじゃない?」
自分達はカタカタヘルメット団を無力化しろ、という依頼を受けてここまで来た。
既に彼女らの武装の大半は社員たちの破壊工作により粉みじんになっている。残るはヘルメット団達本人のみだ。
依頼は必ず遂行する。それが便利屋68のモットーだ。例えターゲットに聞くも涙、語るも涙の物語があったとしても情けは無用。
「俺の仕事はこのキヴォトスの生徒達の助けになることでな。今日は食いっぱぐれた迷子共に炊き出しをしなきゃならん。揉め事なら他所でやれ」
ああ、どうやら話は平行線のようだ。
周辺の偵察は既に済ませている。周囲にヘルメット団は見当たらず、隠れた形跡もない。周辺に残された足跡の向きと数から、全員が装備だけを置いて遠くに行ったって言う線もなかった。
あれだけの武装をこのアビドス高校の前に置いておきながら、近くにヘルメット団が一人もいないなど有り得ない。
だってあれらはそこらのチンピラが手に入れられるようなものではないほどの数と質だったのだ。
チンピラでなくたってあんなものを手放して遠くへ逃げ出すなんてことはしない。依頼がなければむしろ自分達のものにしたかったくらいだ。
で、あればやはりヘルメット団達はあの大人の背後の体育館に隠れていると見ていい。
「最後にもう一度だけ言うわ。どきなさい。私も無関係の人に手荒な真似はしたくないの。そんなのクールじゃないし」
アルの言葉に大人の前に並び立ったアビドス生達が一気に戦闘態勢へと入る。
それを見て他の便利屋社員達も銃を構えた。
一発触発の雰囲気だ。もはやどんな軽い弾みでも銃撃戦が始まってもおかしくはない。尻尾巻いて逃げ出すならもう今しかないだろう。
まあ彼は賢い大人なんだし
「……そうだな。便利屋、新しい刺激ってのは好きか?」
「……はい?」
限界まで張り詰めた緊張感の中、目の前の大人が突然そんな問いを投げかけてきた。
「便利屋っていうんだから毎日刺激的な体験をしてるんだろうが……そうだな、競合他社に出会ったことはあるか?」
競合他社。成程、そう呼べる存在にはあったことがない。
何せ自分達とまともにやり合える存在と会ったことなど数えるほどしかいないし、そのどれもが会社としての方向性が違いすぎて競合しない。
だが、目の前の大人は競合他社がいると言った。
「へえ、その口ぶり……まるで私達と張り合える存在がいると言っているように聞こえるけど?」
ここでナメられてたまるものかと不敵に笑ってそう言えば、大人もまたニヒルな笑みを浮かべる。
「ああ。ちょうど目の前にいるだろ。ソイツらも結構荒事には慣れててな。腕は保証できる」
なるほど。確かに良い目をしているように見える。銃の構え方やいつの間にか陣形を整えているのも修羅場を幾つも潜っている証拠なのだろう。
「社長、これちょっとヤバいかも」
いつの間にか自分のすぐ後ろに来ていた
「あの大人、間違いない。最近噂になってるシャーレの暴力教師だ。仮に暴力教師がアビドスをけしかけてきたら、かなりキツイよ」
「分かってるわ。アビドスを退けたとしても、厳しい戦いになるでしょうね」
分かっていると言ったが、アルはシャーレの暴力教師なんて知らない。でも名前は凶悪そうなので、きっとメチャクチャヤバいんだろう。
どうしよう、ちょっとカッコいい。教師なのに暴力とか、なんだかアウトローっぽさある。
「どうする? 逃げるなら今だと思うよ。最低限、ヘルメット団の武装の大半は潰したし依頼は遂行したって言えなくもない」
カヨコの言うこともは最もだ。さっき破壊したヘルメット団の武器の量を考えれば、アイツらに対した戦闘能力なんてもうないだろう。
後は口八丁手八丁で何とでもなる範囲まで仕事は出来た。
今無理を押し通して万が一不覚をとる位なら、ここで引いてそれなりの報酬を貰う方が賢いんだろう。
「……私達も無闇に戦いたくないからさー。出来れば引いてほしいんだよねえ」
敵対心を滲ませながらも笑う様に唇を歪ませてそう言ったのはショットガンを構えたアビドスの生徒だ。彼女が先頭に立って最初に発言した辺り、アビドスのリーダーは彼女なんだろう。
「引いてください。何よりここで戦ったら学校壊れちゃいますし」
「大体! 他所様の学校の目の前で物爆発させといて何偉そうにしてんのよ! とっとと帰れ!」
「帰る前に爆破したゴミは片づけてって」
リーダー格の生徒に続いて、他のアビドス生達も帰れと口々に言いだす。
「でもさー、私達も仕事なんだよねー。ヘルメット団をぶっ潰してこいってクライアントに言われててさ。アイツら出してくれたら大人しく帰るよ? 簡単でしょ?」
「アル様のご厚意を無駄にはしないでくださいぃ……」
もはや衝突は避けられない。おかしい、
だが、こうなってはもう仕方ない。ここで引いたら便利屋68のメンツにも良くない影響が出る。大体、銃を突きつけられて素直に帰るとかそんなのはアウトローじゃない。
「どうしても引かないっていうのなら……」
さっきカッコつけた時とは違う。しっかりと愛銃のストックを肩につけ、いつでもスコープをのぞき込める本気の戦闘態勢をとる。
「ハァ……やっぱりこうなるか」
カヨコがため息を吐きながら、それでも銃のセーフティを外す。話が分かる社員に恵まれたと本当に思った。
「ふ、ふふ……やっちゃいます? アル様、良いんですね?」
「いいね! 盛り上がってきたじゃん!」
ハルカもムツキもすっかりその気だ。ならば、あとは自分が掛け声一つかけるだけでいい。というか、そうするしかもう手がない。
「依頼は最後まで遂行する。それが私達のモットーなの。だから……押し通るわよ!」
内心はどうしてこんなことに、という思いでいっぱいだったけれどこれ以上なくバッチリと決め台詞を言えたことだけは救いだった。
「アル様の為に……死んでくださいいい!!」
「あっははは! 戦闘開始ィ!」
「やれやれ……」
ハルカが飛び出し、ムツキの軽機関銃が火を噴く。
「そっちがその気なら加減はしないよ!」
「お仕置きの時間です!」
「もおおおお! 朝っぱらから何なのよアンタらー!!」
「叩き潰して誰の差し金か口を割らせる」
アビドス生達も素早く動いてムツキの初撃をかわす。
そして、アビドス生との戦いが始まった。