書いてて楽しかったから許して。ミリタリー知識間違ってたら優しく指摘して。
あんまりぐっさり行かれると心折れちゃうから
朝の静まり返ったアビドス高校のグラウンドは、一転して戦場へと早変わりしていた。
「ハルカ、アンタは前衛を! ムツキ、アビドスの連中をけん制して!」
「カヨコ! アナタもハルカ達を手伝って! 私が後ろから援護するから!」
便利屋68のメンバーがそれぞれに指示を出して動き出す。
大声での連携なので、全て丸聞こえだがソレは対策委員会側も同じことだった。
「シロコちゃん、セリカちゃん! あのムツキって子をお願い! 私はあの前衛のハルカって子を抑える!」
「私が後ろからサポートします!」
『相手の狙撃手の位置特定は私が! 皆さんはひとまず目の前の三人に集中を!』
体育館内からドローンでオペレートをしているアヤネの声に各々が頷いてグラウンドを駆けだす。
「アル様のご命令なのでッ、死んでください死んでください死んでくださいッ……!」
「うおっとぉ!?」
凄まじい勢いでショットガンを構えてツッコんできたハルカの銃口をホシノがとっさに自分の銃でそらす。
が、間髪入れずにハルカが蹴りを繰り出し、ホシノはそれをギリギリで防御した。
蹴りを防がれて忌々し気に顔を歪めるハルカの顔面に向けてホシノは防御の際に引き戻したショットガンの銃床を叩きつける。
「ギッ!?」
決して痛打になったわけではない。が、数㎏もの重量がある物体をそこそこの勢いで顔面に叩きつけられた衝撃はハルカをのけぞらせるには十分だった。
その隙はホシノがハルカの胴に銃口を向けるには十分すぎるものだ。
けれど、ホシノが引き金を引くよりも先にホシノの体を衝撃が襲う。
「うぐっ!?」
「やらせな――うわあっ!?」
「よくも先輩を! くっ!」
ハルカを撃とうとしたホシノをムツキが攻撃し、そんなムツキにシロコが横槍を入れる。
ムツキに意識が向いたシロコの急所をカヨコが的確に狙って妨害をした。
「う、うわあああああああ!!」
絶叫めいた雄たけびと共に体勢を立て直したハルカが目の前のホシノに向けて
なんて厄介なんだ、とホシノは内心で舌打ちをした。こんなことならライオットシールドも一緒に持ってくるべきだった。そうすれば、この散弾の嵐を強引に耐えながら距離を詰めて反撃できたのに。
ショットガンは他の銃種と違い、攻撃できる範囲が点ではなく面であることが特徴の銃だ。
密着距離でクリーンヒットでもしようものなら、瞬間的な攻撃力は重火器にだって劣らない。
だがそれは、クリーンヒットをすればの話だ。薬莢の中に収められた散弾は、距離が離れれば散らばってしまい一発当たりの威力が落ちてしまう。
言い換えれば、ある程度離れていれば精密な射撃をしなくても目標に攻撃が出来るというメリットとも言えるかもしれない。
しかし、ことキヴォトスの生徒に対して攻撃力の低下は攻撃面積の増加というメリットよりも攻撃力低下のデメリットの方がはるかに大きいのだ。
ましてや、アビドスで最も戦闘経験を積んだホシノを前にそのデメリットはより顕著だった。
嵐のような散弾の暴風を前に、ホシノは冷静にハルカの銃口と視線から射線を見切って有効打を受けないように回避を繰り返す。
確かにそこらのチンピラなど比べ物にならない銃捌きだ。適当に乱射しているように見えて、一射一射全てホシノの動きに銃口を合わせている。
それでも、この状況は長く続かない。ショットガンは一発の火力は破格かもしれないが、弾倉に収められる弾の数自体はそう多くないのだから。
(放っておけるような子じゃないし、あのハルカって子は一気に落とそう)
内心でそう呟いて、ホシノは回避重視の足さばきを緩める。
ハルカの放った散弾がそれなりに命中し痛みと衝撃がホシノの体に叩き付けられるが、それを無視して思い切り地面を蹴飛ばして前へ――ハルカの方へ跳ぶ。
「なぁっ!?」
やはりまだ経験が浅いのか。あの猛攻に対して回避に徹するどころか、自分に向かって一直線に突進してきたホシノの姿にハルカの表情が驚きと僅かばかりの恐怖を浮かべる。
それでも勘か、あるいはセンスはずば抜けているのか。ツッコんできたホシノのゼロ距離射撃に対して、先ほど自分がそうされたようにハルカは自分の銃身で相手の銃口をそらす。
しかし、ホシノはそれでは止まらなかった。銃口をそらされた勢いをそのまま使って銃床で追撃したのだ。
ハルカはそれに反応できず、もろに腹部に銃床を叩きつけられる。
「グッ……!!」
体をくの字に折り曲げたハルカに対し、ホシノは容赦なくショットガンを跳ね上げる。
腹部への強烈な衝撃に瞬間的に息が出来なくなっていたハルカは悲鳴も上げられず、額に銃床を食らって上体をのけ反らされた。
「これで終わり――ッ!?」
無防備になったハルカの体に銃口を押し付け、今度こそ引き金を引く。
重い銃声と共に確かな手ごたえを感じたホシノは、けれど戦慄の余り一瞬硬直してしまった。
ハルカはゼロ距離の、完全密着状態からのショットガンの射撃を腹部にまともに食らって吹き飛ぶどころか耐えていた。
それだけではない。彼女はホシノの銃を抱え込むようにがっちりと両手で握りしめて離そうとしなかった。
血こそ吐いてないものの、その口からはよだれと胃液が僅かに逆流している。
それだけのダメージを受けておきながら、目の前の少女はホシノの銃を掴むことで彼女の動きを封じ込めたのだ。
銃撃戦が日常的に発生しているキヴォトスでさえ、こんな蛮行をしようとするものなどいない。
だって、銃弾を食らってもちょっと怪我をするくらいとはいえ、痛いものは痛いのだ。
こんな自分を傷つくのを前提にしたやり方なんて、誰だってやりたがらない。
しかし、ハルカはそれでもやり切った。大きなダメージを受けて口の中のツバを汚く吐き散らすのにも構わず、己が役割を果たしたことをありったけの声で叫ぶ。
「ガ……ぁ、アル……さ、まあああああああ!!!」
「ッ!?」
全てはこの瞬間の為に。最初からそうするつもりはなかったかもしれない。
それでも、ハルカは対策委員会との戦闘中上手く身を隠した
「よくやったわハルカァ!! アナタは私の自慢の社員よ!!」
ハルカの猛攻をもしのぎ切れるだけの俊敏さと判断力を持つホシノを数秒間、完全にその場に釘付けにさせた。
そのチャンスを、便利屋68の狙撃手を務めるアルが見逃すはずがない。
ホシノがアルに狙われていると気が付いた時、既にアルは引き金を引いていた。
ホシノのそれに比べればはるかに軽い銃声がグラウンドに響き渡り、直後ホシノの体が横に弾き飛ばされた。
「先輩ッ!? わぁっ!?」
「やってくれましたね!!」
『狙撃手、本館昇降口真上の窓です!!』
ホシノの被弾にセリカが隙をさらし、そこにカヨコが一瞬で距離を詰めてセリカの銃を蹴り上げる。
そこをノノミがガトリングガンで掃射し、カヨコの追撃を阻止した。ノノミの掃射はそれだけでは止まらず、アヤネによって特定されたアルの狙撃場所まで鉛玉の嵐を振り回す。
「ハルカちゃん! ぐっ……!?」
「先輩を撃ってタダで帰れると思わないで!」
体を張った足止めによるダメージでその場にうずくまったハルカをフォローしようとしたムツキに、シロコが目を吊り上げながら攻撃をする。
「ジャマしないでよねぇ!!」
ムツキもそれに合わせて撃ち返すが、アサルトライフルに比べ小回りの利かないではどうしてもシロコに弾を命中させられない。
しかし、それでよかった。ムツキの本命はそこにはないのだから。
攻撃を避けながらムツキまで後数メートルというところまで来た時、シロコはムツキの唇が愉快そうに歪むのを見た。
「ッ!!」
「はい、ドーン!」
シロコが慌ててバックステップを踏むのと、いつの間にか手にしたリモコンのスイッチをムツキが押すのはほぼ同時だった。
直後、シロコの足元で爆発が起きる。とっさに後ろに跳んだこともあり地面に足のついてなかったシロコは、爆風に押されてそのまま後ろに吹き飛ばされていく。
何とか不格好ながらも受け身を取ったシロコが体の痛みに顔をしかめながら、ふと横を見る。
他の便利屋メンバーの援護をしようと考えていたのだろうか。そこには、ちょうど本館校舎の窓から出ようと窓枠に手をかけたアルがいた。
「あ……」
不運なエンカウントにアルが間抜けた声を上げて動きを止める。
だが、シロコの方は即座に足元に落ちた愛銃を拾い上げてアルへ狙いを定めた。
「ちょっ、待っ……!?」
シロコが引き金を引くのと、アルが頭を抱えてとっさに身をかがめるのは同時だった。
が、すぐに弾倉の中身が空になったことに気づいたシロコは舌打ちをして懐から予備の弾倉を取り出す。
その隙にアルは銃を拾って廊下を走りだすが、それに気づいたシロコが弾倉を乱暴に銃に差し込みながら窓枠を飛び越えて廊下を走るアルの後を追いかけ始めた。
「待って待って待っててばああああ!」
「待たない……!」
悲鳴を上げながら廊下をひた走るアルに向かって、シロコは容赦なく銃を撃つ。
何発か背中に弾を受け、その衝撃で転びそうになるのを必死にこらえながら走るが、アルはシロコとの距離がどんどん縮まっているのに音で気づいてしまった。
このままではいずれ追いつかれる。そうなったらお終いだ。ならば。
「しつこいヤツは嫌われるわよッ!」
アルは唐突に足を止めて、羽織った一張羅のコートに手をかける。
そして振り返ると同時にシロコに向けてコートを放り投げた。
「ッ!?」
攻撃力も何もないただのコート。けれど、シロコの視界を完全に塞ぐには十分だった。
シロコが足を止めて、飛んできたコートを手で払い飛ばす。その間わずか1秒足らず。
けれど、それだけあれば十分だった。
シロコの視界が開けた時、そこには膝立ちの姿勢でスコープを覗いてこちらに狙いを定めたアルの姿があった。
あ、やられた。シロコが自身の敗北を覚悟し、すぐに来るであろう痛みと衝撃にギュッと目をつぶる。
「シロコちゃん!」
けれど、その前に窓ガラスが割れる音とホシノの声、次いでアルの情けない悲鳴がシロコの鼓膜を揺らした。
そっと目を開ければみっともなく尻もちをついたアルと、壁に刺さったホシノのライオットシールドがそこにはあった。
「ふぅ~……間一髪だったね」
脱力感のある声を窓枠越しに投げかけて来たのはホシノだった。
「う、嘘でしょ!? 直撃させたのに!!」
半分悲鳴になっていたアルの言葉に、ホシノが頭をさすりながら笑う。
「ほとんど直撃だったよ。実際一瞬意識も飛んだ。アヤネちゃんがドローンで盾持ってきてくれなかったらシロコちゃんは完全に落とされただろうし、やるねぇホント」
のんびりとした口調とは裏腹に、鋭い視線でこちらを見下ろすホシノにアルは歯噛みした。
そんなホシノの後頭部に銃口が付きつけられる。
「隙を晒しすぎ」
カヨコだった。その背後にはピッタリとムツキが寄り添ってこちらに向かって走ってこようとするノノミへ、いつの間にか復活したハルカがセリカに銃を突き付けてけん制していた。
その状況を即座に理解したシロコとアルもお互いに銃口を向け合う。
誰かが撃てば最悪全員がその場で共倒れという状況になり、状況が膠着する。
ビリビリとした緊張感が辺りを支配し、全員が身動きを取れずにいた。
「おい、もうその辺にしておけ。それ以上は校舎の修理代だのが馬鹿にならん」
そこへ今までこれっぽっちもこちらに口を出さなかったフレデリックが歩いてくる。
あまりにも無防備に見えるその様子に、けれど便利屋68は誰一人フレデリックへ銃口を向けられなかった。
もちろん、対策委員会の実力を身をもって知ったが故に隙を晒せないというのもある。
けれど、それ以上にシャーレの暴力教師と呼ばれた男の得体の知れなさに身動きが取れなった。
そんな得体の知れない大人が一か所に集まった生徒達の目の前までやってきて親指で体育館の方を示して言った。
「とりあえず、飯食ってけ」