BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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フレデリックの思惑(2)

 カヨコの威嚇射撃(パニックブリンガー)にヘルメット団達の動きが完全に固まり、静まり返った体育館。

 そこに軽く手を叩きながら歩いてくるものがいた。

 

「ハイハイ、皆落ち着いて。フレデリックももっとちゃんと説明してあげないと皆が不安になるでしょ!」

 

 ジャック・オーだった。あんまりにも雑な説明をしたフレデリックに近寄ると腰に手を当てて叱るような声色で話しかける。

 

「どう考えても違法な武器を所持したヘルメット団の子達じゃシャーレの仕事を頼んだとしても出先で何かあった時に話が(こじ)れるし、いずれ足が付くことを危惧したカイザーローン? とかが必ず痕跡を消しに来る。だったら、いっそのこと痕跡を消しやすいように武器を一か所にまとめた上で向こうに壊して貰う。私達の手札は向こうには晒さずに済むし、向こうも満足してそれ以上ヘルメット団を追ったりしない。さらに一度まっさらになったヘルメット団の子達には合法な装備を渡せる。そうすればシャーレの仕事を任せても出先で変にヴァルキューレや各学園の自治組織に睨まれることもない。違う?」

「やれやれ……これからそれを説明するところだったんだよ」

「安心させる前に不安を煽ったんじゃ意味ないじゃない!」

「やかましい。伝えるべきことは今お前が伝えてくれたんだからそれでいいだろ」

「良くない! 貴方ってホントどうして説明しようとするとそう雑に――」

 

 その場にいる生徒達にとってはとても不思議な光景だった。

 シャーレの暴力教師と恐れられた男が、超が付くほど美人な大人の女性に言い負かされてバツが悪そうにしている。

 あれは本当に自分達の知っている大人なのか。あの不敵で大胆で無茶苦茶を形にしたみたいな男なのか。

 誰も口には出さなかったけれど、その場の生徒達全員がそんなようなことを考えていた。

 

「なあもういいだろ。話を先に進めるぞ」

「……まあこの辺にしておきましょうか」

 

 しかし、そんな状況はフレデリックが耐えかねたように声を上げ、ジャック・オーがそれを良しとしたことで終わった。

 咳ばらいを一つして、フレデリックは便利屋68たちの方へ向き直る。

 

「ま、見ての通りだ。ヘルメット団達に戦う力はない。奴らの無力化が目的なら、飯食って大人しく帰ってくれ」

 

 フレデリックの言葉に、便利屋68一同は顔を見合わせる。

 

「いいわ。私達の仕事はヘルメット団の無力化だもの。依頼を果たした以上、そこの連中がどうなったって私達には関係のないことだわ」

 

 そう答えたのはアルだった。

 他のメンバーも特に異議はないのか、小さく頷いたりしている。

 

「そいつは良かった。じゃあ、ゆっくり飯でも食ってから依頼主に報告するといい」

「ええ。そうさせて貰うわ。……ところで、お……おかわりを貰っても?」

「社長……いや、せっかくだし私も貰おうかな」

「あー! アルちゃんもカヨコちゃんもズルい! 私も私も! ほら、ハルカちゃんも!」

「ええ!? わ、私なんかもいいんですか!?」

「もう味噌汁しかねえからな。早いもん勝ちだぞ、他の奴らも欲しいやつは並びに来い」

 

 そう言って給食鍋へ歩くフレデリックの姿に、何人かの生徒がお椀をもって弾かれたように立ち上がる。

 それから先ほどまでとは違う、和気あいあいとした騒がしさが一時体育館の中に響き割った。

 


 

 フレデリックの用意した朝食が完食されてから少しして、便利屋68のメンバーはその場を立ち去って行った。

 彼女達の後ろ姿が見えなくなったころ、見送りに来ていたジャック・オーが隣のフレデリックに問いかける。 

 

「それで? これからどうするのフレデリック」

「ジャック・オー。お前にはヘルメット団を引率してシャーレに戻れ。アビドスに居させるのは余り良くねえだろうしな」

「まあそうね……カイザーローンって組織があの子達をどうにかしようとするかもしれないし……でも、シャーレにだってあの人数分のベッドはないわよ?」

「飛鳥に送ってもらったあのビーズクッション持って行かせてしばらくは体育館とかにいてもらうしかねえだろ。流石に野宿しろってのも酷だしな」

 

 そう言って頭をガシガシとかくフレデリックは、大きくため息を吐いた。

 

「ったく……柄でもねえことしちまった」

「そうね。ギアプロジェクトに関わってた頃の貴方に今の貴方の話したら、きっと頭を揺すられて『頭でも打ったか?』って言われそうだわ」

「やめろ。クソ……否定できねえのがめんどくせえ」

 

 そのシチュエーションを想像したのか、苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめるフレデリックを見てジャック・オーはクスクスと笑う。

 

「でも、いいじゃない。私も貴方も、前より世界が広くなったってことなんじゃない?」

「……まあ、そうだな。この世界はデカい花火だ。花火ってのは数が多い方が見ごたえがある。だろ?」

「そうね。いろんな花火を見に行きましょうよ」

「その為にも、アイツらには安全なところに行ってもらう必要がある。頼めるか?」

「ええ。任せて。貴方はどうするの?」

 

 ジャック・オーの問いにフレデリックが直ぐ後ろに立っていた対策委員会の生徒達を見やる。

 

「俺は対策委員会達とヘルメット団の奴らから貰った情報の裏を取る」

「どうするの?」

「カイザーローンの銀行へ行く。あそこならアビドスの借金をヘルメット団へ横流しにしていた証拠も手に入るだろ」

 

 フレデリックの言葉にシロコが目を輝かせる。

 

「それってつまり、銀行強と――あいたっ!!」

 

 シロコがそれを言い切る前にフレデリックがデコピンをして遮った。

 

「テメェはさっきまでの俺達の話を聞いてなかったのか。率先して信号無視をする教習所の教官を、誰が信用するんだ」

「うう……残念」

 

 本当に残念そうに俯くシロコの態度にこめかみのあたりを抑えてフレデリックがため息を吐く。

 

「だがまあ、真っ当な方法で手に入れられそうな証拠でもねえのも確かだ。作戦が必要だな」

「じゃあ、とりあえず下見も兼ねて一回カイザーローンの銀行のある場所行ってみる?」

 

 提案したのはホシノだった。声は普段通りの脱力気味のものだったが、その目は鋭くなっている。

 しかし、そんなホシノの提案にフレデリックは首を横に振る。

 

「いや、今日は休め。お前等も便利屋と戦って疲れてるだろ。それに、カイザーローンの場所も調べないとならねぇしな」

「……まあ、確かに。校舎もちょっと荒れちゃったし、その辺の応急処置もしないとだしねえ。先生が指揮してくれたらスマートに勝てたと思うんだけどなぁ」

 

 ほんのちょっぴりだ恨みがましい視線を送るホシノにフレデリックは小さく肩をすくめる。

 

「許せ。同格の相手がいるって言っちまった手前、俺が口を出して変にゴネられても面倒だったしな」

「ふぅん? それで私達が負けそうになったらどうしたのさ」

 

 フレデリックのそんな言葉に、とうとうホシノが露骨に不機嫌そうに唇を尖らせた。

 

「その時は口を出したし、万が一の時は俺のジャンクヤードで援護しただろうな」

 

 それが当然だ、と言うように即答するフレデリックだったが、それでもホシノが自分を若干睨みつけてくるのを見て小さくため息を吐いた。

 そして、ホシノを見下ろさないようにその場にしゃがんで視線を合わせる。

 

「悪かった。次からはちゃんと相談するさ」

「……ッ! 別に、私はいいよ」

 

 フレデリックにまっすぐと見つめられた上で真摯に謝罪をされたことに意表を突かれたのか、ホシノは思わず視線を逸らす。

 それから風が吹けばかき消されてしまいそうな小さな声で、ホシノが乞うように呟いた。

 

「……でも皆が危険に晒されるようなやり方、もうやんないでよ。シロコちゃんなんか結構危なかったんだから」

 

 無意識なのか、ホシノは右手でスカートの裾をギュッと握りしめていた。

 その様子にフレデリックは少しだけ眉間に皺を寄せる。

 小鳥遊ホシノという子供の本質をそこに見たような気がした。

 その時点でフレデリックの返事は決まっていた。

 

「ああ。約束する。……()()()()()()()()()()ご免だろ」

 

 フレデリックの言葉に、ホシノの目が大きく見開かれる。

 その表情はずっと隠してきた秘密が明らかにされてしまったかのような、そんな驚きと戸惑いに満ちたものだった。

 そんなホシノの反応に、フレデリックはやはりなと得心が行った。

 小鳥遊ホシノは、大切な誰かを喪っているのだと。

 

「え……ぁ、先生、知って……?」

「お前の過去なんて知らねえが、お前みたいなやつは山ほど見てきた。ある程度は想像がつく」

「は、はは……そっか。先生は物知りなんだねえ。流石と言うべきなのかな~?」

 

 誤魔化すように笑顔を浮かべて、ホシノは努めていつもの脱力した声を出そうとしていた。

 けれど、その表情はぎこちなく引きつっている。

 だからフレデリックは立ち上がってニヤリと笑って言った。

 

「個別に授業を受けてえってんなら考えてやらないことねえぞ。理数系なら模試で満点取れるまでシゴいてやる」

「うへ……流石にそれは遠慮しておくよ~。おじさん、バラ色の人生には興味ないんだ~」

 

 勉強付けになる自分を想像したのか、今度は嫌そうに顔を引きつらせて一歩後ずさるホシノにフレデリックは喉を鳴らして笑う。

 

「そう遠慮するな。……お前等も受けてみるか? 俺はこれでも理数系は得意なんだぜ」

 

 思わぬ飛び火にホシノの後ろにいた対策委員会の生徒達がサッと顔を青ざめさせて勢いよく首を横に振った。

 

「あら、それなら私が文系を教えたらいいのかしら? 自信あるわよ?」

 

 そこにジャック・オーが悪ノリをしてきたものだから、生徒達は皆信頼を裏切られた時のような酷い顔で互いを抱き合って小さく震えだした。

 そんな生徒の様子にジャック・オーが声を上げて笑い、フレデリックもクツクツと喉を鳴らして笑う。

 

「ま、俺達の補講を受けたくねえってんなら今日は体を休めながらちゃんと勉強でもするんだな」

 

 ひとしきり笑ったフレデリックの言葉に、対策委員会の生徒達は素直に頷くのだった。

 

 

 余談だが、その日からSNSで「シャーレの先生に目をつけられたら朝だろうが夜だろうが模試で満点取るまで寝かせてもらえない」という噂がまことしやかにささやかれるのだが……それはまた別の話である。




ジャック・オーが文系得意、ですがこれはGGSTにて「役割としての知識は1000年分」というセリフから拡大解釈をしたものになります。
アリアという大元の女性はフレデリックや飛鳥同様、バチバチの理系ですが、ジャック・オーとして生まれ落ちた際に付与された知識の中にはそう言ったGG世界的に言うところの古典(現代日本で言うところの現代文や公民・経済)などの知識もあるのかなーと。
流石に歴史系は無理でしょうね。キヴォトスとGG世界では歩んだ歴史が明らかに違いそうですし。

フレデリックが理系得意は設定や作中発言から明らかですね。専攻はおそらく物理系統と思われます。
ギアプロジェクトにアサインされてた以上、生物学も行けるでしょうがソルになってもアウトレイジを作ったり、Xrdのストモで飛鳥にオラトリオ聖人を使うと言われた時、即座に弾体の最適な設定値を伝えられるほどオラトリオ聖人という上限のないエネルギーについて研究を重ねた彼の第一専攻学問は物理系統かなって思います。

フレデリックに物理教わったら俺も物理のテスト赤点回避できたかな……
でも多分ジャックちゃんの文系補修行きたがりそうだな……
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