「ここがブラックマーケット……」
「わあ、すっごく賑わってますね?」
便利屋68の襲撃を受けた翌日、対策委員会はフレデリックと共にブラックマーケットへとやってきていた。
フレデリックの調査の結果、カイザーローンの所在がブラックマーケットにあることが分かった。
結局アビドス高校の借金をカタカタヘルメット団へ横流ししていた証拠を手に入れる具体的な作戦(もちろん合法の範囲で)は思いつかなかったので、とりあえず敵情視察するかとなったのだった。
『皆さん、気を付けてくださいね。そこはキヴォトスでも中退、休学、退学……様々な理由で学校を辞めた生徒達が集まった場所です。何が起こるか分かりませんから』
「ま、ブラックマーケットってのはいつの時代、どんな場所でも似たようなもんだな。表通りを歩けない連中の寄り合い所って訳か」
アヤネの言葉にも特に気負うことなく、フレデリックは目だけで辺りを見回した。
清潔という言葉なども法と共においてきたと言わんばかりに道の隅には空薬莢だのチリ紙だのプラゴミだのが散乱している。
乱雑に建てられた建物の隙間の裏路地に至っては、陽の光が届かないこともあって真昼だというのに底なしの闇がぽっかりと口を開けているような印象すら抱かせる。
表通りは何人もの不良生徒が行きかっており、誰もが獲物を探しているかのような鋭く、そしてどこか淀んだ瞳をしていた。
そんな中を対策委員会の生徒を引き連れて歩くフレデリックの姿は、良くも悪くも目立っていた。
彼に気づいた、それも不幸なことにそれが誰だか知っている不良達は顔を引きつらせて目立たないようにその場を後にする。
「なんか、周りの生徒達が離れってってない?」
「確かに……どうしたのかしら」
そんな様子に首を傾げながらシロコとセリカが首を傾げながら辺りを見回す。
「おい。あまりキョロキョロするな。場慣れしてないのがバレる」
「それの何が悪いのよ」
フレデリックがそんな二人を咎めれば、セリカが何が問題なのかと唇を尖らせた。
「こういう場所にいる連中は特に余所者に対して警戒心高いんだよ」
「でも、日々いろんな人が出たり入ってりしてるんでしょ? そんなに気にすることかな」
「あんまり気にせずに道に残ってる方々もいますし……気にしすぎではないでしょうか」
ホシノとノノミの問いかけにフレデリックは首を横に振る。
「これは指示し忘れた俺のミスだが、お前等の恰好が問題なんだよ。こういう場所に来るにしては綺麗過ぎるんだ」
フレデリックの言葉にシロコが再び首を傾げる。
「どういうこと? 綺麗だと警戒されるの?」
「さっきアヤネが言ったろ。ここは学校を辞めた連中が集まる場所だと。今のお前等は言っちまえば丸々と太った家畜が肉食獣のテリトリーに入ってきてるようなもんなんだよ」
『フレデリック先生……言いたいことは分かりますが例えが最悪です……』
分かりやすさ重視で今の対策委員会の置かれた状況を説明したフレデリックだったが、アヤネを含めた対策委員会全員から呆れたような、責めるような視線を投げかけられて頭をガシガシとかく。
太ったも家畜も年頃の少女に向かって使うには余りにもあんまりな例えなので当然と言えば当然だった。
「チッ……とにかく堂々としてろ。じゃないとカモだと思われて――」
フレデリックの言葉を遮るように銃声が響き、すぐ先の角から薄めの金髪を二束のおさげにした身なりの良い少女が何かから追われるように飛び出してきた。
「うわああっ!? まずっ、まずいですー!! ついてこないでくださいー!!」
「そうはいくか!! 待て!!」
直後、銃を持った不良生徒達が数人彼女を追うように飛び出してくる。
その様子にフレデリックがため息を吐いて、続きを口にした。
「ああなる」
「なるほど、納得」
「こんな嫌な納得できるシチュエーション聞いたことないわ……」
シロコがスッキリした表情で手を打ち、セリカがげんなりとした表情でため息を吐く。
そうこうしている内にも追われた生徒とフレデリックとの距離はどんどんと縮んでいく。
しかし、追われている生徒は後ろばかりを気にしているのか、まるでフレデリック達に気づいた様子がない。
その場の誰もがこれはぶつかる、と思った時にようやく追われた生徒がフレデリックに気が付いた。
「わわわっ、そこどいてくださいー!!」
もはや自分の動きを変えられない生徒は慌ててそう叫ぶものの、フレデリックは微動だにしなかった。
二人がもうぶつかる、という時になってフレデリックはようやく動いた。
衝突の直前、片手で走ってきた生徒の胸倉をつかみ上げる。
だが、それだけでは彼女の運動エネルギーは殺し切れない為、掴み上げながら後ろを振り返った。
そうしてある程度の勢いを殺したフレデリックは、そのままパッと手を放す。
当然、体を持ち上げられた生徒は尻をしたたかに地面に叩きつけられることとなった。
「いったぁ……」
強打した尻をさする生徒に、シロコが手を差し伸べる。
「大丈夫……なわけはないか。追われてるみたいだし」
「あっ、ありがとうございます。それが……」
シロコの手を取って立ち上がりながら、その生徒は困ったように追跡者の方を見る。
「なんだお前等は!? どけ!! アタシ達はそこのトリニティに用がある」
「わ、私の方は特に用はないのですけど……」
不良生徒の言葉に、追われていた生徒が困ったように眉を潜めた。
「やれやれだぜ。大方身なりの良さから拉致でもして身代金ふんだくろうって魂胆だろ」
『あ! 思い出しました。その制服、キヴォトスいちのマンモス校の一つ、トリニティ総合学園です!』
フレデリックの予想を裏付けるように、アヤネの言葉で追われた少女の所属が明らかになる。
そして、それを聞いた不良生徒達は愉快そうに目を細めた。
「そう、そしてキヴォトスで一番金持ってる学校でもあるなァ! だからそこのオッサンの言う通り、拉致って身代金をたんまりもらおうってことよ!」
「拉致って交渉! なかなかの財テクだろう?」
何とも分かりやすい魂胆といかにもな言動に、フレデリックは呆れたように眼鏡のブリッジを指で押し上げてため息を吐いた。
面倒ではあるが、こうなってしまってはシャーレとしてやるべきは一つである。
既にシロコとノノミがフレデリックの背後から離れ、不良生徒の背後へと移動していた。
それにも気づかず、不良達はあろうことかフレデリックと対策委員会を勧誘してきており、その様子は滑稽ですらあった。
シロコとノノミが配置につき、後はフレデリックが合図をするだけで二人が目の前の不良を無力化できる状況になる。
「ん?」
そこまで来て、ようやく不良生徒が二人に背後をとられたことに気づいた。
だが遅すぎた。
「やれ」
「了解」「了解です!」
フレデリックの合図と同時に、シロコとノノミの蹴りが不良生徒の鳩尾に吸い込まれる。
不良達はくぐもった悲鳴と共に通りの奥まで吹き飛ばされていった。
「さて」
降りかかる火の粉を払ったフレデリックが追われていた生徒に向き直る。
「お前はここで何をしてたんだ?」
「へ……? あっ、えっとぉ……これ、私ピンチです?」
この後の展開をどうしようかいまだに迷ってます
どうしよう