「あ、改めてありがとうございました。みなさんがいなかったら、学園に迷惑を掛けちゃうところでした……」
「ハァ……じゃあ何だ。生産終了した限定品の為に校則を破ってまでブラックマーケットに来た。そういうことか?」
不良に追われていたトリニティ総合学園の生徒――
既にキヴォトスに来てかなりの回数ため息をついている現状に、幸せが逃げてしまうなと益体もないことを考えてしまっていた。
なんといってもヒフミが求めたものの正体がコメントに困るデザインの手のひらサイズのぬいぐるみだったのだ。
ペロロさま、と呼ばれるマスコットとアイスクリーム店のコラボグッズとのことだが、白を基調にした一頭身の……形容しがたいがペンギンがモデルのキャラの口にアイスクリームを強引に押し込まれているというものだった。
正直、非常にコメントに困る。というか、フレデリック的にはセンスがないの一言で片づけたかった。
しかしとても得意げにペロロさまを含むモモフレンズというマスコットシリーズについて語るヒフミと、それに同調するノノミを前にその一言は飲み下した。
どんなに好みが合わなかろうが、人の趣味にとやかく言うのは野暮だというのはフレデリックだってよく知っているのだから。
が、他の委員会の生徒達は素直に二人の話について行けないなと苦笑いをしながら話していた。
「ところで、アビドスのみなさんは、なぜこちらへ?」
ヒフミからの問いかけにホシノとシロコが答える。
「私達も似たようなもんだよ。探し物があるんだー」
「そう。ちょっと普通じゃ手に入れられないものなんだけど、ここにあるってことを突き止めた」
「そうなんですか、似たような感じなんですね」
生徒達がそんな会話をしている時にフレデリックがやや離れたところから騒がしいものが近寄ってきていることに気づくのと、アヤネがドローン越しに敵対勢力の接近を警告したのはほぼ同時だった。
「皆さん、大変です! 四方から武装した人たちが向かってきています!」
「全員戦闘態勢に入れ。ヒフミ、お前にも手伝ってもらうぞ」
「えっ!? あっ、はい!!」
「アイツらだ!」
「よくもやってくれたな!? 痛い目にあわせてやるぜ!!」
路地の向こうから走ってきたのは先ほどシロコとノノミが蹴り飛ばした不良生徒と似たような格好した別の不良だった。
全員が全員目を吊り上げているあたり、お礼参りに来たのであろうことは明白だ。
「ったく! なんで私達こんなのばっかり絡んでくるんだろうね? 私たち、何か悪いことした?」
「俺達は相手の縄張り荒らしてんだよ。文句言ってねえで構えろ」
「ここは公共の場じゃないの!?」
フレデリックの言葉に文句を言いながらもセリカは油断なく戦闘態勢を整える。
他の委員会の生徒達も同じく戦闘態勢を整えきっており、ヒフミだけが若干遅れていた。
とはいえ、その差もほとんど誤差であり所属学園やその雰囲気からは想像しにくいがヒフミがそれなりに荒事になれているのが見て取れる。
「準備は良いなお前等? ……戦闘開始だ。派手に行け!」
フレデリックの号令にそれぞれが了解の意を示し、戦闘が始まる。
「ホシノ。先行して正面の奴をぶっ飛ばせ。シロコ、セリカはホシノの援護。ヒフミ、ノノミは後ろから来る奴らをけん制しろ」
フレデリックの指示を受けてホシノがタンッと地面を蹴って正面から走って来る不良集団の先頭を走るチンピラとの距離を一瞬で詰める。
軽く地面を蹴ったにしては余りにも速い――いや、疾すぎた。
「な――」
結果、先頭のチンピラが驚きの声を上げ切る前にホシノのショットガンが火を噴き、チンピラが気を失う。
「テメ――がっ!?」
「おいっ!? やりや――ごっ!?」
一番槍を崩されて動揺したチンピラのこめかみにシロコとセリカの射撃が命中し、同じように意識を刈り取られる。
「後ろから挟むぞ!! 挟めばまだ――」
そんな先行部隊の様子を見たチンピラの誰かが大声で指示を出すも、その言葉は途中で途切れる。
「さ、先に襲ってきたのはそっちですからね……!!」
ヒフミの射撃だった。荒事は余り好きではないのか、僅かに苦そうな表情をしているがその射撃は正確だ。
「り、リロードします!」
やがてヒフミのマガジンの中身が空になり、ヒフミが建物の角に隠れながら同じく背後の敵に牽制をしていたノノミに声をかける。
だが、その声を聞いたチンピラ達はここぞとばかりに数で圧そうと一気に飛び出してきた。
「出てきましたね。じゃあ、お仕置きの時間ですよー☆」
そこへノノミのフルオート射撃が路地一杯にばら撒かれる。
アサルトライフルでは到底成しえない鉛弾の嵐に、飛び出してきたチンピラ達は次々と倒れていく。
やがてノノミの弾倉が空になった時には、背後から攻撃を仕掛けようとするチンピラはいなくなっていた。
「背後はクリアです!」
「正面も一旦は片づけたよ」
「移動するぞ。前に進む」
周囲を掃討したフレデリック達は前進を始めた。
ホシノが先頭を、その後ろにシロコとセリカが続き、フレデリックを挟むようにして最後尾にヒフミとノノミが続く。
『敵、前方から接近中です! 後方に回り込んで!』
アヤネのナビゲートと同時に全員が建物の影に隠れる。
「くそが! 余所者にデケェ顔させられるか!!」
「行け行け!! まだそう遠くには行ってねえはずだ!」
怒声を上げながらチンピラの5,6人が建物に隠れたフレデリック達の目の前を通り過ぎていく。
クリアリングもせず真っすぐに交戦地点と思われる場所に走っていくあたり、やはり頭に血が上りやすい集団のようだった。
何にせよ、彼女らは無防備にも背中を晒している。フレデリック達にとってはこれ以上ない好機だ。
「やれ」
合図と同時にマズルフラッシュが路地のそこかしこを照らし、そこにこびりついてた闇をほんの少しの間だけ払う。
路地の隅が再び黒く塗りつぶされ、空薬莢が地面に落ちる音がやけにはっきりと響き渡る頃、そこに立っているチンピラは既にいなかった。
それを確認し、弾倉を差し替えた生徒とフレデリックは前進を再開する。
数ブロックほど進んだ頃だろうか。幾重にも重なった銃声が響き渡り、直後に上空から状況を俯瞰しているはずのアヤネのドローンが急降下してきた。
直後、曲がり角に差し掛かったホシノが先の様子を見るために顔を出そうとした瞬間に再び銃声の多重奏が奏でられ、ホシノは慌てて顔を引っ込めた。
『つ、次の角を右に曲がったところに大量の不良生徒!! 一瞬でしたがロケットランチャーを持ったオートマタがいました』
アヤネの言葉にホシノが難しい表情をする。
「チンピラの集団はともかく、ロケットランチャーは面倒だね。速攻で片づけたいけど……アヤネちゃん、そのオートマタの位置はどのあたり?」
『最後方ですね……その前には10人近くの生徒が臨戦態勢で待ち構えています』
「あちゃー……こりゃちょっと強引に攻めるのも難しいかな」
いくら銃弾の直撃を受けてもちょっとした怪我で済むことの多い生徒達であっても、ロケット弾の直撃はシャレにならない。
正面から一発ロケット弾を撃たれる程度であれば見てから回避することなど訳ないが、今はヘイローの無いフレデリックが同行中だ。
仮にロケット弾を回避したとて、後方のフレデリックが爆発に巻き込まれたり、爆発によって吹き飛ばされた瓦礫で怪我をする可能性を考えれば無茶は出来ない。
正直フレデリックとしてはフォルトレスディフェンス*1があるのであまり気にしていないのだが、飛鳥達との取り決めで魔法の使用は控える方針なので、それに頼らない立ち回りを考える必要があった。
「何か……一瞬でいいから気をそらせるもの」
シロコが考え込むように呟いた言葉に、ヒフミが何かを思いついたように目を見開いた。
「あ! あるかもしれません、気をそらせるもの!」
そう言ってヒフミがリュックサックから取り出したのは小さめのフリスビーほどの大きさの円盤だった。
ダークブルーを基調とした円盤で、外周に電球がはめ込まれている。円盤の中央には”FRIENDS”と書かれていた。
「こ、これペロロさまのホログラムグッズです。投影されるの、1/1スケールペロロさまですから結構大きいんですよ」
「具体的にはどのくらいの大きさになる?」
フレデリックの問いにヒフミは待ってましたと言わんばかりのドヤ顔を浮かべた。
「よくぞ聞いてくれました! ペロロさまはですね、なんとあの愛らしいフォルムに反して設定上の大きさはなんと2メートル近くにも――」
「採用だ。ホシノ、シロコ。合図したら飛び出して敵の気を散らせ。セリカは二人のフォローだ。ヒフミは二人が手ごろな場所にカバーしたら道路の真ん中にソイツを投げ込め。ノノミ、お前はホログラムが投影されるのと同時に路地に弾ばら撒いて敵を減らせ。アヤネは戦闘が始まって連中の気が俺達に向いたら上空にドローンを飛ばして敵の位置と数を連携しろ」
「最後まで聞いてくださいよー!」
「よし、行け!」
せっかくのペロロトークを
その瞬間に凄まじい弾幕が張られるが、二人は足を止めることなく左右に分かれて相手の狙いを分散させつつ何とか建物の影に隠れる。
そんな彼女らを確実に仕留めようと、先頭集団のチンピラ達が射線の通る位置まで移動しようと前進してくる。勿論、中団のチンピラが絶えず二人のカバーした地点を射撃することで反撃の隙を与えないようにだ。
セリカが前進してくるチンピラを射撃するが、2、3回引き金を引いたところでセリカの顔のすぐ横の壁が爆ぜた。
「あああああっぶな!? カウンタースナイプ!?」
『ごめんセリカちゃん! 後方にスナイパーいたのに気づくの遅れちゃった!』
悲鳴にも近い叫び声と共にセリカが体を隠した直後、アヤネが遅すぎる報告をしてくる。
だが、そんなアヤネを責めている時間はない。
「ヒフミ、今だ。そのホログラムを敵の中央に投げこめ。シロコ、セリカ、ホシノ! 敵をけん制しろ、邪魔をさせるな!」
「は、はい!!」
「「「了解!!!」」」
フレデリックの合図を受けて、シロコとホシノ、セリカが路地に躍り出て射撃を開始する。
それを見てから、ヒフミは力一杯ホログラムグッズをチンピラ集団に向けて投げつけた。
銃弾が飛び交う路地の中、ホログラムグッズは奇跡的に全ての銃弾を避けてチンピラ集団のど真ん中に落ちた。
「ぐ、グレネードッ!? に、逃げ――」
それがリーサルウェポンの類だと勘違いしたチンピラが動揺し、一斉に逃げようとした瞬間。
路地のど真ん中に巨大な鳥……のようなものが顕現した。
真っ白で丸々としたボディに釣り合わない小さな翼をいっぱいに広げ、左右に飛んで定まらない視線。
回転しながらひょこひょことその場で足踏みをし、その度にだらしなく開かれたくちばしからピンク色の舌がゆらゆらと揺れている。
妙な効果音と共に路地に現れたそれは、やはり世間一般で言うところの可愛いの概念からはかけ離れた異質な存在と言わざるを得なかった。
そして、そんな存在が突然目の前に現れたチンピラはこの状況を正しく理解できなかった。
というか、理解を拒んだ。それは1秒が大きな意味を持つ戦場において、致命的なまでに大きな隙だった。
「は――?」
誰かがこぼした間の抜けた声。それが最後の言葉だった。
「全弾発射ぁ!!」
気合の乗ったノノミの声共に路地を満たすガトリングガンの雄たけびと共にバタバタとチンピラ達が倒れていく。
先行したホシノ達を倒そうとした先頭集団は勿論、ペロロさまに視界を遮られた状態だった中団、後方のチンピラ達もなぎ倒されていく。
みるみるノノミの足元に空薬莢が積み上がっていき、やがてノノミの射撃が終わる。
『残敵2! 最後方のスナイパーとランチャーを持ったオートマタです!!』
「ここまで来たらこっちのもんだよ!」
ノノミの掃射が終わり、アヤネが残敵の数を報告すると同時にホシノとシロコが路地に飛び出す。
それに気づいたスナイパーのチンピラとオートマタは、しかし冷静に銃を構えて二人に狙いを定める。
「シロコちゃん、後ろに!」
相手の動きを読んでいたホシノが背中に背負っていたライオットシールドを展開したのと、オートマタがロケットランチャーを発射したのは同時だった。
ロケット弾が真っすぐと二人めがけて飛んでいき、直後にホシノが構えたシールドに着弾する。
数メートル離れていても伝わるほどの振動に、ヒフミが思わず悲鳴を上げた。
「ホシノさん、シロコさん!?」
爆発と同時に舞い上げられた辺りの砂ぼこりで視界が遮られ、ヒフミの位置からホシノとシロコの姿が覆い隠される。
「せ、先生!? ホシノさんとシロコさんが!!」
「やかましい。問題ない」
「そんな……そんなわけ――」
ない、とヒフミが言い切る前に路地に舞い上がっていた砂埃が晴れる。
そこには、既にスナイパーを気絶させたシロコとオートマタを完膚なきまでに破壊したホシノが得意げにこちらにピースサインを送っていた。
「心配してくれてありがとー。でもおじさんたちこれくらいじゃ負けないんだよねー」
「ん。余裕の大勝利」
『敵、後退していきます! でも、これは……』
「増援を呼ぶつもり? いくらでも――」
アヤネの戦況報告にまだまだやれると言わんばかりに力んで見せるシロコに、ヒフミが待ったをかけた。
「ま、待ってください! これ以上戦っちゃダメです! これ以上騒ぎを大きくしたら、ブラックマーケットを管理してる治安機関に見つかっちゃいます!」
「……全員戦闘終了だ。この場を離れるぞ」
ヒフミの言葉にフレデリックが同調し、ブラックマーケットでの初戦闘は勝利の余韻に浸る間もなく終了したのだった。
戦闘シーン、書いてる間は楽しいですが気が付いたら文字数が盛られてて終わった後にちょっと笑う。
ゲームじゃ1分ちょいのシーンでも文字で起こそうとするとまあ時間がかかること。
でも楽しいので気力が持つ限りやります。