BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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便利屋68の受難

「いいえ。お断りするわ」

 

 便利屋68の事務所内に毅然としたアルの拒絶の声が響き渡った。

 その様子をカヨコ、ムツキ、ハルカはじっと眺めている。

 

『何故かね? 今回は先ほど依頼したものに比べればずっと楽な仕事だと思うのだが』

「そっ、それは……」

 

 電話相手の問いかけにアルは言葉に詰まる。

 持ちかけられた依頼はアビドス高校とカタカタヘルメット団に与していると思しき”大人”の存在の調査だった。

 それはつまり、先日とても美味しい朝ご飯をご馳走してくれたシャーレの先生のことに違いない。

 今ここでそれが『シャーレの先生だ』と言ってしまえばそれだけお金がもらえる。

 今回の依頼は収支で言えばかなりの黒字だった。ここでさらに黒字にすれば、当分は家賃の支払いにも怯えなくて済むだろう。

 金さえ貰えれば何でもする。公私は区別する。自分達はそういうポリシーでやってきた。

 それでもアルはこの依頼を受ける気にはなれなかった。

 ちょっとしたはした金の為に、あんな美味しいご飯をご馳走してくれた人を売るのか?

 

「それはね、私達は既に別の依頼を受けたからよ」

 

 真っ赤な嘘だった。依頼など受けていないし、何だったらさっきまで実入りの良いやつもう一つくらい……なんて話してたくらいだ。

 それでも、アルはこの依頼を受けるのを良しとは出来なかった。

 しかし、クライアントも引き下がらない。

 

『そうか。だが、これは我々としても重要な問題でね。是非とも優秀な君達に任せたいと考えている。報酬はそうだな……対象がどこの組織の所属か分かるだけで前回と同額、組織の所在地が分かれば2倍、氏名や顔などのパーソナルデータまで分かれば3倍払おう』

「…………」

 

 恐ろしいほど破格な条件にアルの眉間に皺が寄る。

 本当に知ってる情報を喋るだけで今すぐカタカタヘルメット団の装備を破壊した時の3倍の金が貰えると言っていい。

 金か、あの大人達か。悩むに値するだけの状況だと言ってよかった。だって、ここで相手の話に乗ったらしばらく社員達にひもじい思いをさせなくて済むどころか、贅沢だってさせてあげられる。

 皆でカップ麺を分け合うどころか、高級なレストランに連れていける。明日の生活の為に節約なんてさせず、欲しいものをいっぱい買っていいって言ってあげられる。何だったら一流リゾートでバカンスだってさせてあげられる。

 社長として、社員の福利厚生を気にするのは必要なことだ。ここのところは不甲斐ないことにあまりそう言ったことをさせてあげられなかった。

 アルは目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。

 そして、意を決して口を開いた。

 

「申し訳ないけど、今回は力になれないわ」

 

 やはり、こんな依頼無しだった。

 だって、受けた恩を仇で返すなんてそんなのアルの理想とするアウトローじゃない。

 

『……そうか。それは残念だ』

「ええ。残念だけど、またの機会に――」

『ではやはり先日の依頼の報酬も無しだな』

「はぁっ!? ちょっと、それは関係ないでしょう!?」

 

 クライアントの横暴な発言に思わずアルが声を荒げる。

 しかし、クライアントは声色一つ変えずに続けた。

 

『ああ、すまない。報酬は支払おう。だが、君達が先の依頼で破壊した武装……あれは我が社の大事な資産でね。それはキッチリと弁償をして貰わなければ。……おっと、計算してみたら報酬よりも弁償代の方が高くつきそうだ』

「な、なな……」

『おや、便利屋68は我がカイザー系列の銀行を利用してくれているようだな。であれば利子など融通を利かせてもいい。カイザーPMCの理事の紹介と言えば通るだろう』

「ふ、ふざけないで! そんな脅し――」

『そうか。せっかく厚意でアドバイスをと思ったのだが、一流企業を経営する君には不要なものだったかな。これは失礼した。まあなんにしても、請求書はこの後すぐに送らせてもらうよ。くれぐれも返済は期日までに頼むよ? ああそれと、この調査依頼については今日いっぱいは依頼を受け付けておく。気が変わったら連絡してくれたまえ。では』

「あっ、ちょっと待っ――」

 

 アルの言葉を待たずして、クライアントは――カイザーPMCの理事は電話を切った。

 

「社長、何があったの?」

「うーん、アルちゃんいつもみたいに白目むいちゃってるねえ」

「アル様、アイツらのことぶっ飛ばしますか……?」

 

 社員達から声を掛けられるも、アルは受話器を持った態勢のまま固まってしまっていた。

 せっかく実入りの良い仕事だと思ったのに、まさかこんな無茶苦茶なことをされるなんて。

 今回の依頼の遂行に必要だった諸経費、今月の家賃、明日からの食費、クライアントから送り付けられる請求書。

 この後降りかかってくる難題がアルの頭の中を埋め尽くす。

 

「ど……」

 

 ああ、どうしよう。自分が変にアウトローらしさとかにこだわらず、金の為だけに動いていたらこんなことには。

 いや、でも。理想は大事だ。理想も持たずただ金の為に動くのなんてそれこそアウトローじゃない。それはただの金の亡者だ。

 とにかく。なんとかしないと。ああでも今はとりあえず。

 

「どうしてこんなことになるのよぉぉぉぉぉ!?」

「あはっ、まーたアルちゃん変なこだわりで依頼断って無理難題吹っ掛けられたんだね」

「やれやれ……社長、ちゃんと話を聞かせて」

「わ、私は最後までアル様にお供しますから……!」 

 

 アルが白目をむいて絶叫し、それを見たムツキが愉快そうに笑って、カヨコはため息を吐き、ハルカは変わらない忠誠心を示す。

 いつも通りと言えばいつも通りの便利屋68の光景がそこにあった。




カイザーPMCの理事からの依頼をアルちゃんが受けるかどうかは迷いました。
金の為なら何でもする、がモットーなので受けるのもありかなと思ったんですが、職にも困るような状況に度々追い込まれるアルにとって、美味しい食事をご馳走してもらえるというのはかなり大きな恩なんだろうなというのは原作本編を見てても明らかです。
また、そもそも紫関ラーメンで対策委員会をそうと気づかずと仲良くなっちゃった後に彼女達がターゲットと知って参っちゃう、紫関ラーメンの味をいたく気に入って対策委員会が間違えて貰ってきちゃった銀行のお金を多少でもちょろまかせばいいのに負い目から全額紫関ラーメンにあげて結局事務所を引き払っちゃうなどアルちゃん本人は本当にアウトロー適正皆無なレベルで根が善良です。
なので、今回はカイザー理事に頑張ってもらうことにしました。
アルちゃんはいつもの顔になった。
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