爆発。銃声。
飛鳥達が目指す建物―シャーレの部室そばのエリアでは、紛争地域かと見紛うレベルの戦闘が行われていた。
「早瀬さん。2時方向から不良生徒2名が来るから、射撃してけん制を。守月さん、早瀬さんのけん制で動きを止めた生徒の無力化を」
「はい!」
「了解です」
黒いジャケットにミニスカート、水色のネクタイをした生徒―早瀬ユウカが通信機越しに聞こえてきた飛鳥の指示を受けて前進する。
そのほんの少し後ろを銀髪にグレーのジャケットとミニスカートという制服の守月スズミがついて行く。
数秒後、飛鳥の言葉通りに不良生徒が勢いよく飛び出してきた。
それを視認すると同時にユウカが数発発砲する。
「いてっ!? くそっ、やりやがったな!」
間違いなく鉛玉を胴体に受けながらも、しかしスケバン姿の不良はひるまずに銃口をユウカへ向ける。
けれど、ユウカはそれに慌てるどころか目つきを鋭くしてスリングにかけていたもう一丁のSMGのグリップを握った。
「まだ終わらないわよ!」
気合と共にユウカは二丁持ちをしたSMGの引き金を引き、マガジン内の弾を不良達に向けて全て吐き出した。
「い゙っ!? いでででで!!」
いくら小口径の銃弾を使う銃とはいえフルオートで、それも片手に一丁ずつ持って射撃などすればまともに狙いも定まらない。
それが飛鳥達の世界の常識だ。
だが、ここキヴォトスにはその常識は通用しないのだということを飛鳥、フレデリック、ジャック・オーは今目の当たりにしていた。
確かにSMGの二丁持ちをしたユウカの弾丸の狙いは多少バラけた。
しかし、そのほとんどは不良のどこかしらにヒットしていたのだ。
しかも銃撃を受けた不良は先ほど同様ひるむだけで出血すらしない。
その様子を見ていたジャック・オーが面白いものを見たかのように笑う。
「まるでハリウッド映画みたいね。実は皆中身ロボットだったりとか?」
「は。未来から来た殺人ロボットだってあんな無茶は出来ねえだろ」
「あら、それって最後はサムズアップしながら溶鉱炉に沈んでいくやつ? 随分と古い映画じゃない。懐かしー」
間違いなく戦場であるはずなのになんとも緊張感に欠ける会話を楽しむ親友達の声を背中に受けながら、けれど飛鳥は穏やかな笑みを浮かべた。
他愛もない会話に花を咲かせる二人の姿は彼にとって心から望んだ光景だったから。
「腰を抜かさせてあげましょう!」
そんな彼らの前では、ユウカの掃射に怯んだスケバン達へ向けてスズミが閃光弾を投てきしているところだった。
ピンを抜いて閃光弾を放り投げるのと、スケバン達が体勢を立て直すのはほとんど同時だった。
「やりやがったなああ!」
カッとなったスケバンが目を吊り上げて銃口をユウカに再び向ける。その足元にコトンと音を立てて閃光弾が転がった。
ユウカとスズミが即座に閃光と爆音から身を守る為に近くの遮蔽物へ身を隠す。
直後、スケバン達を光と音の暴力が襲った。
「羽川さん、
「了解です」
「了解!」
閃光弾に無力化された味方に気をとられた不良達に横っ面にハスミのライフル弾が、チナツの拳銃弾が突き刺さっていく。
そうして不良達が地面に倒れ伏した後、辺りにはひと時の静寂が訪れた。
「……周囲に敵反応なし。戦闘は終了だね」
「さすがは魔王様だ。人を顎で使うのはお手の物か?」
「こーらフレデリック。そんな言い方ないでしょ!」
やや棘のあるフレデリックの軽口をジャック・オーがたしなめる。
とはいえ、この程度は飛鳥にとって全く未知の経験というわけではなかった。
前線指揮官として戦闘指揮をするのは確かに初めてかもしれない。それでも、ギアプロジェクトのリーダーとして幾人もの部下を従えて来た時代がある。
聖戦が始まって以降は人知れず盤外から戦況を操作するようなことだって幾度もやってきた。
あの頃と全く同じ、とまでは行かないがそれでもその時の経験は応用できる。
味方の位置や能力を把握し、適切に運用する。ある意味では、それはずっと飛鳥がやってきたことと言えるのかもしれない。
それが分かっているからこそのフレデリックの軽口なのも、飛鳥は分かっていた。
本人達の了承も碌に得ず勝手にフレデリックとアリア*1の体を改造した自分の過ちに対して、フレデリックが未だ僅かながらの不満を滲ませてしまうことも。
そこまで考えて、飛鳥はわずかに顔を伏せる。
自分という人間はいつもそうだ。良かれと思ってやったことはいつもやり方や伝え方に問題がある。
だから結果的に事態が良い方向へ向かっても、褒められたり感謝された回数より非難された回数の方がずっと多い。
少なくとも、キヴォトスに来る前は史上最悪の大罪人とまで呼ばれていた。彼の行いが結果的に世界を救ったものだとしても。
「なんだか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします……」
「……やっぱり、そうよね? これが先生の力……」
「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」
「え……」
だからこそ。
先の戦闘を終え、飛鳥の指揮能力の高さを目の当たりにした生徒達から感心したような言葉や感謝の言葉を投げかけられた時、驚きを隠すこともできなかった。
「いや……僕は大したことしてないから。戦闘を無事に終えられたのは、君達が優秀だった。それだけだよ」
絞り出すような声で口にしたのはそんな自己否定の言葉。
飛鳥自身、自分の能力を低く見積もっているわけではない。
己の能力をもって指揮をすれば、この結果が導き出されることなど当然だとも思っている。
それでも。自分の働きが誰かに感謝される、認められるということに対しては肯定的にはなれなかった。
「何言ってるんですか! この結果は飛鳥先生の力あってのものです! 私達だけではもっと消耗していたんですから」
「そうですね。その点には同意します」
「そもそも皆たまたま同席した別の学園の生徒達です。即席の部隊で、先生の指揮なしにこれだけの連携をすることは不可能でしょう」
ユウカ、チナツ、ハスミが次々に飛鳥の言葉を否定する。
自分を否定される。それは辛いことだけど、仕方のないことなのだと飛鳥はずっと思ってきた。
そして今、飛鳥は自分の言葉を否定されている。
けれども、どうしてか。ほんの少しだけ心の中が温かくなったような気がした。
「……ふふ。ありがとう」
願わくば、この温もりが彼女達にも伝わりますように。
そう思いながら飛鳥は生徒達に微笑みかけたのだった。
飛鳥君は褒められたりした時に思わず否定するようなことを言いそうだと思っています。
本文でも描写した(つもり)ですが、別に自分の能力に自信がないからというわけではありません。
自分がやらなければ、と思って行動した結果周囲からひんしゅくを買うことが多かったために潜在意識下で「自分の行動は他人を不愉快にさせることはあっても、喜ばせたり感謝されるようなことはない」と思っているのではないかと思っています。
アーケードモードでも人の心が分からない自分が腹立たしい、とは明言されていますし他人とかかわった時の自分の言動に対して自信がないのかなと。
そんな飛鳥君もキヴォトスでいろんな生徒とかかわって自信つけてほら。