フレデリックはブラックマーケットでたい焼きを食べていた。
アツアツの生地に、ほんのりとした温かさと甘さのあんこがちょうどいいハーモニーを奏でている。
口の中一杯に感じる甘味に僅かばかり気持ちが落ち着くのを感じるものの、その表情はどこか遠くを見ていた。
「あ、美味しい! いいですねこれ!」
「ん、このカスタード入りたい焼きもいい感じ」
「ホシノ先輩、はいあーん♪」
「あ~ん。……んー、いいねえたい焼き」
「なんか、良いのかなこんなことしてて……」
対策委員会とヒフミがたい焼きに舌鼓を打っているのを横目で見ながら、フレデリックは空を見上げる。
チンピラ達との戦闘の後、マーケットガードに絡まれるのを避けるべく移動したフレデリックは事前に調べていたカイザーローンが経営している闇銀行へと向かうことにした。
だが、結局そこに至るまでカタカタヘルメット団達からの情報の裏を取る為の作戦は何一つ思いつかなかったのだ。
対策委員会が返済した借金が、犯罪資金に横流しにされているという証拠を掴む為にどうするべきなのか。
煮詰まってしまったのと、ノノミがたい焼きの屋台を見つけてそれをせがんだので流されるままに人数分のたい焼きを買ったのだった。
そう言えば、とフレデリックは少し前のことを思い出す。
フレデリックらは朝早くからアビドスを離れた為出くわさなかったが、先ほどアヤネからカイザーローンが月々の集金に来たと言っていた。
おおよそ800万円近い現金を一人で用意するのは大変だったと苦笑いをするアヤネの話に疑問を抱いたフレデリックがどういうことなのかを聞いてみれば、返済は必ず現金という縛りがあったことをホシノ達から教えられた。
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カード決済や電子決済は利用者の身元が保証されていないと利用できないことが多い。所持金を管理する為に銀行で口座を開設するとなればなおさらだ。
だが、ブラックマーケットに出入りするような生徒達はアヤネの言う通り学園に所属していない。
それはつまり、大体の場合において公的に自分の身分を証明してくれる後ろ盾を持たないことを意味する。
カタカタヘルメット団はその典型だった。……状況証拠だけであれば、もはやカイザーローンは真っ黒だ。
(問題は、その物的証拠をどうやって手に入れるかだ。取引現場でも直接抑えられれば早いが……取引現場……?)
その時、フレデリックはあることに気が付いた。
カイザーローンはカタカタヘルメット団にアビドスから支払われた借金を横流しにしていた。
だが、全額そっくり渡していたわけではないだろう。ある程度は確実に自分達の手元に来るようにしていたはずだ。
そして、数百万単位の現金を運ぶには当然相応の準備が必要になる。
フレデリックは口の中で咀嚼していたたい焼きを飲み込み、アヤネのドローンに近寄った。
「アヤネ、一つ確認させろ」
『えっ、はい。なんでしょうか』
「俺達が出発した後に来たカイザーローン、お前達が用意した現金をどうやって持って行った?」
『えっ……え、ええと、現金輸送車に積み込んでいきましたが……』
「やはりな。アヤネ、その現金輸送車の走行ルートは割り出せるか?」
『や、やってみます!』
アヤネがそう答えて調査を始める。
「先生、何か気づいたの?」
その様子を見ていたシロコがフレデリックに問いかけてきた。
シロコの問いにフレデリックは眉間に皺を寄せながら、自分の推測を話し始める。
「カイザーの連中がアビドスの借金を犯罪行為への資金源としてた証拠の入手方法だ」
「えっ、皆さんあのカイザーローンに借金してたんですか!?」
フレデリックの言葉にヒフミが驚いたように声を上げ、それに対してホシノが苦笑いする。
「話すと長くなるんだよねー。借りたの私達じゃないしさ」
『先生、すみません……どうやらあの現金輸送車、データは完全にオフラインで管理されててヒットしませんでした』
「ま、だろうな。まあどのみちソイツはあの銀行へ来るはずだ。アヤネは監視を頼めるか」
『はい!』
フレデリックの指示にアヤネのドローンが高度を上げていく。
それを見送った後、フレデリックは先ほど目の前まで行った闇銀行の方を向いた。
そんなフレデリックの傍にホシノが近寄っていく。
「先生、証拠はどうやって手に入れるの。ていうか、どんな証拠なの?」
ホシノの問いにフレデリックはしばし沈黙していた。
様子のおかしいフレデリックを不審に思ったホシノが彼に手を伸ばそうとした時、フレデリックは大きくため息を吐いた。
「メンドクセェな」
「え?」
ホシノを含む、その場の生徒達はフレデリックの言葉を理解できなかった。
だが、そんな生徒達を他所にフレデリックは頭をガシガシとかきながらヒフミの方へ振り返った。
「おい、ヒフミ。あの闇銀行ってのは犯罪の温床だったりしねえのか」
「ええっ!? え、う、噂程度ですが横領、強盗、誘拐といった様々な犯罪によって獲得した財貨が違法な武器や兵器変えられてるとか……」
「よし。じゃあ問題ねえな」
「はい?」
ヒフミからの情報を聞いたフレデリックは今度はシロコに向き直る。
「おいシロコ。どうせお前銀行強盗用の装備一式持ってきたんだろ」
「っ!! も、もしかして」
フレデリックの問いかけにシロコがこれでもかと目を輝かせる。
そんな彼女に、フレデリックには不敵な笑みを浮かべて答えた。
「ああ。銀行を襲うぞ」
フレデリックの言葉に、シロコが新しいおもちゃを買ってもらった子供の様にウキウキとした動きでカバンの中をあさり始める。
「ちょ、ちょっと待ってください! 無理ですよ! あそこにはこのブラックマーケットでも最上位の治安機関のマーケットガードが警備しているんですよ!?」
無茶なことを言い始めたフレデリックをヒフミが慌てて制止する。
しかし、フレデリックはそれを聞いて思いとどまるようなそぶりを全く見せなかった。
「ヒフミ、このブラックマーケットってのは違法なことを堂々とやってる連中と、そうでない連中ならどっちが多い?」
「えっ……? そ、それは勿論堂々とやってる人たちの方が多いですよ。その方が目立ちませんし……実際私も襲われて、でも助けてくれたのは先生達だけでしたから……」
「だろ? なら別に俺達も堂々と襲ってやればいい。ここじゃ銀行を襲うくらい、よくあることに数えられるだろうしな」
「そ、そんな無茶苦茶な!! ブラックマーケット全体を敵に回すつもりですか!?」
額に汗を滲ませながらフレデリックに必死の説得を行うヒフミだが、もはや気持ちが固まってしまったのかフレデリックは考えこもうともしない。
「大体今までが柄じゃなかったんだよ。俺はチマチマルールを守ってとかそういうの真面目にやってきたタイプじゃねえし、こういう場所は結局強いやつが正義だ。郷に入っては郷に従えってやつだな」
「先生、これ先生と皆の分の覆面。……ヒフミの分はないんだ、ゴメン」
「い、いえ……じゃなくて! やっぱり無茶ですって!!」
「無茶を可能にするための作戦だろうが。まずは情報収集と、変装用のブツの調達だな。流石に覆面だけじゃ身元がバレかねん。手分けをするぞ」
「悪い銀行をやっつけるんですね!」
「私達のお金、犯罪に使ってる証拠ふんだくってやるわ。やるならとことんまでやってやろうじゃない!」
「いやあー、まさか先生がこういう展開に持っていくとはねー」
『せ、先生がそんなこと言いだしたらもう誰も聞く耳持ってくれないですよね。それなら……』
「う、嘘ですよね……」
銀行強盗をすると先生にあるまじき発言を平然と言い放つフレデリックと、それにノリノリな対策委員会生徒達にヒフミは口をパクパクさせる。
そしてさっきからずっと目をそらしていた事実を自覚した。
この人達、もしかしたらめっちゃヤバい人達だったかもしれない、と。
実はこの銀行イベント、やらないと最終編で致命的なフラグブレイクが発生します。
原作最終編読了済みの方ならご存じでしょうが、最後の最後でこの日の出来事が影響するシーンがあったんですね。
なのでちょっと強引ですが実施することにしました。
違法な奴には違法な手段なんだよ!ってフレデリックなら言ってくれる気がします。