BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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すいません、ちょっと仕事があまりにも合わず適応障害と診断されるほどの状態で、更新のスタミナが確保できませんでした。
ちょっとしばらく更新頻度落ちるかもしれません。


出動!覆面水着団!(2)

 陸八魔アルはブラックマーケットの闇銀行を訪れていた。

 とりあえず自分の口座に残っている現金をありったけ引き出すためである。

 元々カタカタヘルメット団の装備を破壊する依頼を受ける前の便利屋68は資金難に陥りかけている状態だったのだ。

 シャーレの先生の情報を明かすだけで莫大な報酬が貰えるとのことだったが、アルとしてはそんな依頼を遂行する気はサラサラない。

 だが、断れば多額の借金を背負うことになる。まして相手はカイザーの人間だ。

 それに奴らのことだから事前にこちらの口座など差し押さえて依頼の遂行をせざるを得ない状況に追い込んでくることだってあり得る。

 

「……遅い」

 

 故に、先んじて口座から現金を落として今後に備えようとしていたのだがどういうわけだか銀行員に手続きが必要だとか、確認事項があるとか言われて待合室で待たされることになってしまった。

 しかし、アル達を待たせた銀行員は待てど暮らせど帰ってこない。余りにも暇な時間が長すぎたせいで、アル以外の便利屋メンバーはお互いにもたれ合いながらスヤスヤと寝入ってしまっていた。

 正直先を越されたかもしれないという不安と待たされ続けた苛立ちも限界で、せめて貧乏ゆすりの一つもしたいところなのだが……ムツキが自分によりかかって眠っていて下手に体を揺らして起こすのも忍びないので我慢をするしかない状態だ。

 何とか気を紛らわせようと体を大きく動かさない範囲で辺りを見回したりしていると、数人のマーケットガードが何やら重たそうなカバンを台車に乗せて店の中に入ってきたのが見えた。

 マーケットガードなどできればお近づきになんてなりたいけれど、いざ事を構えるってなった時のことが頭の片隅にあるせいかその姿を横目でそっと観察をする。

 装備はブラックマーケット最上位の治安機関というだけあってかなり良い。それこそ武器それ自体の品質だけで言えば便利屋68と同等か、それ以上だ。

 だが、ここはキヴォトス。銃の戦闘力は銃本体だけではなく、使い手次第でいくらでも上下するものである。

 そういう意味では、マーケットガード一人一人は大したことないようにも見える。全員で戦えば相手にはならないだろう。

 問題は、その数だ。

 いかに個人としての実力で便利屋68がマーケットガード達に勝ると言っても、戦力差自体は比べるまでもなく完敗している。

 それに、マーケットガードを敵に回せばそれこそ指名手配犯としてブラックマーケット全体から狙われる可能性すらある。

 そうなってしまえば、流石に勝ち目がない。

 そこまで考えて、アルはきつく奥歯を噛みしめた。

 

(くそっ、何よこれ、情けない……キヴォトスいちのアウトローになるって心に決めたのに。私は……依頼人に脅されて、真っ向から戦うどころかとりあえず何とかその場を凌ごうって弱気になって……)

 

 歯を食いしばるだけでは耐えられず、眉間に思い切り皺を寄せて、目もきつく閉じる。

 

(私が望んでいるのはこんなんじゃない……何事にも恐れず、何事にも縛られない、ハードボイルドなアウトロー……)

「……様、アル様」

 

 思い起こされるのは便利屋68を起業しようと決意した時のこと。

 あの頃はどんな圧力だろうと、外敵だろうと、何があっても屈することなく前を向いて突き進んでその名を轟かせる自分を思い描いていた。

 そうなってみせると、これまでやってきた。

 なのに、今はどうだろう。かつて思い描いた自分に、近づけるどころか正反対の自分ではないか。

 

(何を間違えたのかしら……私は、アウトローになりたかったのに……)

「陸八魔アル様!!」

「えっ!? あっ、ハイ!!」

 

 ままならない現実を前に思考の底なし沼へ沈みかかっていたアルの耳元で機械的な声が耳元で炸裂し、彼女はハッと我に返る。

 顔を上げると、自分達を待たせていた銀行員が立っていた。

 

「お待たせしました。陸八魔アル様。貴方の口座の預金の引き落としについてですが……残念なら不可能です」

「なんでよ!?」

 

 アルの叫び声に、便利屋社員達が目を覚ました。

 そんな社員達のことにも気づかず、アルは銀行員に詰め寄る。

 

「大体なんでお金下ろすだけでこんなに待たされなきゃいけないの!? 手続きなんて普通いらなかったはずでしょう!?」

「お言葉ですがアル様、貴方の口座には既に預金などございません。その辺りの経緯や関係各所への確認の為お時間を頂いておりました」

 

 銀行員の言葉にアルが顔を引きつらせる。やはりカイザー理事に先を越されていたようだった。

 だが、そうなると本当に今日からの生活にすら困ってしまう。

 どうする。こうなってしまえば本当にこの銀行で暴れて金を持ち出すのもやむなしだ。

 けれど、暴れてお金を持ち出して……その後は……?

 そこまで考えてアルが身体を固くした時、突然銀行が真っ暗になった。

 突然のことに辺りの人々が騒然とする。

 

「な、何事ですか? 停で――」

 

 慌てた銀行員が驚きの声を上げ切るその前に、何かが爆発したような轟音と衝撃が銀行全体を揺らす。

 アル達は即座に音の方向を聞き取り、そこからの襲撃に備えて遮蔽物になりそうなものに身を隠す。

 停電により真っ暗になった銀行の中に、いつの間にか一つの大きな光源が出来ていた。

 それが銀行の外壁に開けられた大きな穴であることにアルは気が付いた。

 ほぼ同時に銃の薬室に弾を送り込む音が近くで何回か響いて、足早に移動をするものの足音が響く。

 マーケットガードも同じ結論に至り、襲撃者を迎撃しようとしているのだろう。

 だが、それは余りにも遅すぎる行動だった。

 銃声が数発響き、くぐもったうめき声と共に誰かが倒れる音が2、3回続いた。

 それとほぼ同時のタイミングでマーケットガードのそれよりもはるかに速く、軽やかな足音がタタンと響いてから重い打撃音とマーケットガードの息が無理やり吐きだされる音が響いた。

 丁度その時銀行全体の電源が回復したのか、辺りが再び光を取り戻す。

 そこには覆面を被った女子高生が5人と、身長2メートル近い偉丈夫が堂々と立っていた。

 

「全員その場に伏せなさい! 持っている武器は捨てて!」

「言うことを聞かないと、痛い目にあいますよ☆」

「あ、あはは……みなさん、ケガしちゃいけないので……伏せてくださいね……」

 

 まごうことなき銀行強盗だった。

 我に返った銀行員が周囲を見渡しながら声を張り上げる。

 

「非常事態発生! 非常事態発生!」

「うへ~無駄無駄―。外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからねー」

「ほら、そこ!! 伏せてってば! 下手に動くとあの世行きだよ!?」

 

 「4」と刺繍されている赤い目出し帽の少女が喚いていた銀行員に銃口を突きつけ、その間に「1」と刺繍のされたピンクの目出し帽を被った少女が「5」と書かれた紙袋の少女に指示を仰いでいる。

 彼女達はブラックマーケットでならよく見かけるチンピラと同じような制服を着ており、どこの学校の者かは分からない。

 けれど、その堂々とした立ち振る舞い、そして素早く一帯を制圧し目的に向けチーム全体で連携し、あまつさえ「覆面水着団」と名乗りを上げたその姿は、アルの目にはとっても輝いて見えた。

 

「監視カメラの死角、警備員の導線、銀行内の構造、すべて頭に入ってる。変なことしようとしても気づくから、無駄な抵抗はしないこと」

 

 「2」と刺繍された青い目出し帽の少女が辺りの銀行員達に聞こえるように自分達の優位を宣言する。

 その直後、白を基調としたちょんまげに丸い目、大きな口にちょび髭の生えたモモフレンズ的なよく分からないキャラ(ちまき)の覆面を被ったあの男が非常事態宣言をしていた銀行員に近寄った。

 

「おい、お前。今から俺の言う通りにしろ。ついさっき現金輸送車の――」

「わっ、分かりました! 何でも差し上げます! 現金でも、債券でも、金塊でも、いくらでも持ってってくださいっ!!」

「じゃあさっきの現金輸送車から受け取ったブツと、後最近売れ筋の商品の取引記録ももらおうか?」

 

 覆面の男の要求に、銀行員の動きが鈍る。

 

「そ、それは……」

「アァ? 何でも、と俺は聞いたが?」

「はい只今お持ちいたしますぅぅぅ!!!」

 

 だが、覆面の男の圧にすぐに屈し、あっという間にカウンターの向こう側に引っ込んでいった。

 かと思えば、パンパンに膨らんだカバンを抱えて覆面の男の前に戻って来る。

 その際、ほれぼれするほど綺麗なスライディング土下座を決めていた。

 

「どっ、どうぞ! これでもかと詰めました! どうか命だけは!!!!」

 

 銀行員から差し出されたカバンを見やった覆面の男は一瞬何かを考えたような素振りをしたが、すぐにカバンを拾い上げて入ってきたであろう壁の穴へと歩き出した。

 

「ファウスト。ブツは手に入れた。引き上げるぞ」

「え、せんせ……分かりましたば、バッドガイさん! け、ケガ人もいないようですし、全員撤収で!」

「アディオ~ス☆」

「撤収だー」

 

 そうして、覆面銀行強盗達は風の様にその場を去って行った。

 

「や、やつらをとらえろ!! どんな手を使っても構わん!! 道路の封鎖、マーケットガードへの通報……最悪カイザーPMCに討伐を依頼しても構わん!!」

 

 後には、怒りをあらわに辺りに指示を出しているあの脅しに速攻で屈した銀行員と、アル達だけが残された。

 けれど、アルはそれどころではなかった。

 だって、ままならない現実と不安まみれの明日を前に俯くしかできなかった自分に、覆面水着団はこれ以上ない理想の光景を見せてくれたのだ。

 アウトロー的には不適切かもしれないが、アルは彼女達に勇気をもらったのだ。

 ならばせめて、後進として先駆者には敬意と感謝の意を示さねばならない。

 故に、今やるべきことは一つ。こんな銀行でうじうじしていることでも、厄介事を恐れてブラックマーケットを速やかに離れることでもない。

 

「アナタ達! 覆面水着団を追いかけるわよ!!」

 

 覆面水着団の追跡だ。

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