しかし、それを阻止しようとあちこちからマーケットガードが飛び出してきてフレデリック達を狙う。
「もたついてる暇はねえ。このまま突破するぞ!」
フレデリックの指示に生徒達が了解の意を示し、立ちふさがるマーケットガード達をなぎ倒していく。
敵は次から次へと現れてくるものの、急な支援要請に混乱しているのか分隊規模でしか現れてこないのは幸いだった。
そうしてブラックマーケット郊外へ続く幹線道路をひた走るフレデリック達の前に、突如轟音と砂埃を巻き上げて巨大な何かが立ちふさがった。
「わ、わぁああ!? ま、マーケットガードの大型ロボット!?」
ヒフミの悲鳴に全員が足を止め、そのロボットを見上げる。
全高は3、4メートル程にも及ぶであろう巨躯の
両腕には大口径のガトリングガン、左肩には大型のバズーカ砲が装備されている。
いくら生身で銃弾にあたっても痛いで済む生徒達でさえ、あの大型装備の威力をまともに食らえばただでは済まないだろう。
「散開しろ! ピンク、回避優先でいいから奴の注意を引け! 後の奴らはあのポンコツの腕か足の関節みてえな装甲が薄い部分を狙え。いいか、俺達が逃げる時間を稼げればそれでいい。無理に撃破をしようとするな」
フレデリックは矢継ぎ早に生徒達へ指示を出し、自分は遮蔽物へ身を隠しながらシッテムの箱の子機と連携させたオルガン*1を起動する。
元のオルガンは味方の状況把握しかできなかったが、シッテムの箱と機能連携した今なら敵の位置や危険度の高い攻撃の予兆とその範囲、場合によっては敵情報まで全て表示できる。
そこからの情報をもとにフレデリックはさらなる指示を出した。
「ピンクはいったん引け。ブルーはドローンで装甲の薄い部分を狙え。他の連中はブルーがブチかましたところを集中的に攻撃しろ」
「了解。ユニット起動!」
ホシノが射線から外れる動きをしたことを確認し、シロコは足でドローンを起動させる。
すぐさまドローンが浮き上がって内部に格納されていた小型ミサイルたちが次々に射出されていった。
それらはゴリアテの左腕の付け根から胸部へと着弾していく。
所詮はドローンに搭載される程度のサイズしかないミサイルだ。いくら装甲の薄い部分を狙ったとしても、それだけでゴリアテを無力化出来るほどの威力はない。
けれど、殺傷能力のある爆発物が8発も連続で炸裂したのなら、その衝撃は決して無視できるものではない。
「今だ! 攻撃を集中しろ!!」
ドローンミサイルの攻撃によってほんの数㎝だけ片足が浮き上がったゴリアテに、フレデリックの指示の元覆面水着団の銃弾が雨あられと撃ち込まれる。
ただでさえ体勢を崩しかけていたゴリアテは、その波状攻撃に上がってしまった足を下ろすことが出来ない。
それどころかどんどんと後ろへとのけ反っていって、遂に仰向けになって倒れてしまった。
「ピンク!」
「相変わらず人使い荒いよ……ねっ!」
間髪入れず倒れ込んだゴリアテにホシノが飛び乗り、集中砲火をされていた左腕の付け根にトドメの一撃を撃ち込む。
重い音と共にゴリアテの左腕が地面に落ちたのを見て、フレデリックは覆面水着団に指示を飛ばした。
「よし! 今のうちに行くぞ!」
オルガンを終了させ、フレデリックは走ってゴリアテの左腕側を走り抜ける。
覆面水着団達も後方や左右を警戒しながら足早にフレデリックの後に続いた。
あの巨体を支えるには相当のパワーとバランスが必要だ。ノノミのそれよりも遥かに大口径なガトリングが付いた左腕が一本取れるだけで、重心は大幅にズレる。
そうなれば、自力で再び立ち上がるのはほとんど不可能だろう。それがフレデリックの見立てであった。
その見立て通り、ゴリアテは必至に足や残った右腕を動かしているがまるで立てそうな気配はない。
そしてゴリアテがどうにかこうにか再び二本の足で大地を踏みしめた時、既に覆面水着団達の姿は可視範囲にはいなかった。
ゴリアテとの戦闘地点から数㎞離れた場所で、ようやく覆面水着団達は足を止めた。
『封鎖地点を突破。この先は安全です』
「やった! 大成功! あー、早くこのコスプレ脱ぎたい!!」
余程息苦しかったのか、勢いよくセリカが覆面を脱いで大きく息を吸う。
『あはは……フレデリック先生、結構本格的に変装衣装用意しましたよね』
「当たり前だ。むしろ俺は服装と覆面以外だけじゃなく装備だって偽装したかったぐらいなんだがな」
セリカの様子を見て苦笑いをしたアヤネに、ため息を吐きながらフレデリックがちまき覆面を脱いで答えた。
そんな彼に同じく覆面を脱いだホシノが笑う。
「いやぁ、先生がまさかここまで本気になるとはねぇ~」
「やるなら徹底的にだ。それに、その恰好ならブラックマーケットによくいる不良生徒と間違われる確率がかなり上がる」
「それはそうだけどさー。いきなりどこかへ行ったかと思ったら私達の分の変装衣装持ってきて『着替えろ』って言いだすんだもん。びっくりしたよ」
「流石に衣装までは用意してなかった。私もまだまだ」
「いや、シロコ先輩は何を極めようとしてるの? ……ホント、アビドスに来てよかったと思うわ。違う学校だったらもっとヤバいことしてそうだもん」
「そ、そうかな……」
セリカの歯に衣着せぬ物言いに覆面を脱いだシロコが何とも言えなさそうな表情を浮かべた。
そんなシロコ達を他所に、ホシノがフレデリックに近寄って来る。
「それで、先生。集金記録の書類は持ってるよね?」
「ん? ああ。ついでに最近裏で売れてる商品の取引記録もな」
「うへ……抜け目ないっていうか、ちゃっかりしてるっていうか」
「まあこういうのは獲れるうちに獲っておかねえとな」
そう笑いながらフレデリックが持っていたカバンを乱雑に手放すと、ドスンという音が響いた。
その様子を見たホシノがやや顔を引きつらせてフレデリックの方に振り返る。
「先生、書類以外にも明らかに何か入ってる音だよね?」
「知るか。書類が入ってりゃなんでもいいだろ」
「そんな適当な……うわっ! やっぱり書類以外にもカバン一杯に札束入ってるじゃん! ええっと……うへ、軽く1億はあるねこれ」
ホシノの言葉に他の生徒達から驚きの声が上がった。
「せ、先生、お金盗んだの?」
「違う。向こうが勝手に詰め込んだだけだ。変に足が付いても困るし、書類以外は燃やすか」
そう言ってフレデリックがカバンに手を伸ばそうとした瞬間、セリカが目にもとまらぬ速さで先にカバンをひったくった。
「ちょちょ、ちょっと待ちなさいよ!? 1億円よ!? これだけあれば借金返済だって……」
『え、ダメだよセリカちゃん! そんなことしたら本当に犯罪になっちゃう!』
「アヤネちゃん、何言ってるの!? このお金はそもそも私達が汗水流して稼いだお金なんだよ!? それをあの闇銀行が悪いことに使おうとしてたんじゃない! 私達のお金を犯罪に使われるくらいなら、私達が正しく使った方がいいに決まってるでしょ!!」
「私はセリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者の資金ですし、私達が正しい使い方をした方がいいと思います」
『の、ノノミ先輩まで……』
ノノミの同意を得られた為か、セリカが勢いづくように笑みを浮かべる。
「ほらね! これさえあれば、学校の借金をかなり減らせるんだよ!?」
それに待ったをかけたのはホシノだった。
「それはそうなんだけど……シロコちゃんはどう思う?」
問いかけられたシロコは眉一つ動かさず、ホシノの方を見て答える。
「……自分の意見を述べるまでもない。ホシノ先輩が反対するだろうから」
「さすがはシロコちゃん。私のこと、分かってるねー」
そんなシロコの答えにホシノは満足そうに笑う。
一方、思わぬ反対意見にセリカは目を白黒させていた。
「へ!? なんでよホシノ先輩!?」
理解できないと言わんばかりに表情を歪めるセリカへ、ホシノは言い聞かせるような口調で語りかけた。
「私達は元々、私達のお金をカイザーローンが悪用してるっていう証拠を手に入れるためにブラックマーケットに行ったわけでしょ? 別にお金を稼ぎに行ったわけじゃない」
「そ、そうだけど……でも……」
「私達に必要なのは書類だけだよ。確かに今回ここにあるのは犯罪者の資金だ。これを正しく使ったっていいのかもしれない。でも次はどうする? その次は?」
「……」
「こんな方法に慣れちゃうと……ゆくゆくは、きっと平気で同じことをするようになるよ」
ホシノの声に圧はない。けれど無視できない何かがそこには宿っているようにも聞こえる。
それを感じ取っているのか、その場にいた他の生徒達は口を挟むことが出来ずにいた。
「ヒフミちゃんを襲ったチンピラ、見たでしょ。人をさらって身代金要求、なんて普通に生活してたらやっちゃいけないって分ってるはずだ。でも、アイツらは平気でそれをしようとしてた。それも、カタカタヘルメット団達みたいな必死さなんてなくて、楽しんでるようにすら見えたよね。きっと、ああいうことするのに慣れちゃってるんだと思うよ、アレ」
ほんの数時間前の具体的な例を出されて、セリカとノノミはハッとしたように目を見開いた。
それを見たホシノは一瞬だけ優し気に微笑み、すぐに茶化すようないつもの笑い方をして続けた。
「うへ~、このおじさんとしては、可愛い後輩がそうなっちゃうのはイヤだなー。そうやって学校を守ったって、何の意味があるのさ。こんな方法を使うくらいなら、最初からノノミちゃんが持ってるゴールドカードに頼ってたはず」
ホシノの言葉に、ノノミがポケットから取り出したゴールドカードを眺めながらつぶやいた。
「私もそう提案しましたが、ホシノ先輩が反対されて……」
改めてフレデリックはノノミが他の対策委員会の生徒とは違って、財力に余裕があることを認識した。
ノノミの住んでいるマンションはアビドスが災害に見舞われなければ恐らく一等地の高級マンションだ。
そこに一人暮らしが出来ているのだから、そうなのだろうと思っていたがそこまでだったとは思わなかった。
何にしても、ノノミの実家は相当な規模のものであることだけは分かった。
けれど、そんな
そして、それはノノミも同じだったようだ。
「先輩の気持ち、わかります。いくら頑張ったって、きちんとした方法で返済をしない限り、アビドスはアビドスじゃなくなってしまう……」
「うへ、そういうこと。だから、このバッグは置いてくよ。いただくのは必要な書類だけね。これは委員長としての命令だよー」
ホシノの命令に他の対策委員会達の面々も頷く。
そんな彼女達の様子にフレデリックは内心驚いていた。
まだまだ年端も行かない少女達なのに、目的達成の為の手段の良し悪しの判断まではっきりつけられている。
同じ年の頃であれば、自分は彼女達と同じ判断を下せただろうか。
元から聡い生徒だったのか、そうならざるを得なかったのか。
何にせよ、生徒達は大金の入ったカバンを処分することに決めたのだった。
これにて一件落着か。そう思われた時、アヤネが息を呑んだ音がドローン越しに聞こえた。
『待ってください! 何者かがそちらに接近しています!!』
そう言えば銀行強盗イベントを決行するとなった話で、ほとんどの感想が「まあソルならやるよね」とか「むしろよくここまで我慢できたな」って感じのこと言われていて笑いました。
まあソルだからな!で納得できちゃうのすげえよなあ。
実際XXくらいまでは「うぜぇ」「かったりぃ」「邪魔だ」「メンドクセェな」ばっかり言ってたからね仕方ないね。