BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
助かってます。本当に。


真のアウトロー

 陸八魔アルは汗でブラウスがびちゃびちゃになるのにも構わず必死に道を走っていた。

 覆面水着団はマーケットガードと戦闘をしながらブラックマーケットの外に逃げ出すだろうから、あわよくばピンチの彼らに追いついてかっこよく登場しようと思っていたのに。

 けれど、走れど走れど追いつかない。なんなら覆面水着団に負けたのであろう隻腕のゴリアテに何故か敵認定され、ソイツに僅かとは言え足止めを食らってしまい腹立たしかった。

 八つ当たり気味に手負いのゴリアテありったけの気合い(神秘)を込めた銃弾を叩きこんで木っ端みじんにした後、しばらく必死に走っているとようやく前方に見覚えのある集団が見えてきた。

 アルに気が付いた覆面水着団は警戒を露わに銃口をこちらに向けてくる。

 まずい。確かにこの状況で走って追いかけてきた姿だけを見たら追ってかと思われても仕方がない。ここは何とか誤解を解かなければ。

 

「はあ、ふう……ま、待って!! 私は敵じゃないから……」

 

 息を整えながらホールドアップの体勢を取って敵意がないことをアピールする。

 そんな彼女の姿を見た覆面水着団達は、どうするべきか小声でやり取りしているようだった。

 だが、そんなことよりもアルには彼女達に伝えたいことがあった。

 はたから見たらおかしなことを言うように見えるかもしれない。それでも、アルにとっては伝えたいことだ。

 

「ぎ、銀行の襲撃! 見せてもらったわ! ブラックマーケットの銀行をものの5分で攻略して見事に撤収……あなたたち、稀にみるアウトローっぷりだったわ」

 

 ああ、ダメだ。あの興奮が蘇ってきて冷静ではいられない。

 ほんの数十分前のことだから、ハッキリとあの瞬間のことを思い出せる。

 外壁に穴をあけての派手な登場、警備や警報の無力化、目標の素早い確保からの手際のよい撤退。挙句の果てにはマーケットガードの封鎖と追跡すらも完全に(かわ)して逃げおおせる実力。

 どれをとっても理想的なアウトローそのものだ。

 

「正直、すごく衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆なことが出来るなんて……感動的というか!」

 

 今思い出しても心臓がドキドキする。特にそう、あのバッドガイと呼ばれていた大人は最高だった。

 視線を少し動かしてみれば、そこにはあのヘンテコな(ちまき)覆面を被った大柄な男が立っている。

 その男を視界に収めた瞬間、アルはすぐさま彼の目の前へと駆け寄った。

 

「特にあなた! 最高だったわ! 堂々とした立ち振る舞いに、他のメンバーの指揮までこなして……まさにアウトローって言葉はあなたの為にあるんだって思っちゃったの!」

「そうか」

 

 男の声はひどく平坦なものではあったけれど、そんなことにも構わずアルは思いをぶちまけ続ける。

 

「わ、私も頑張るわ! 法律や規則に縛られない、本当の意味での自由な魂! そんなアウトローになりたいから!」

 

 アルの決意表明に、男の雰囲気がわずかに変わった。

 敵に向けるそれとはまた違った威圧感のようなものがその男から放たれる。

 それに気が付いたアルは、休に心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。

 さっきまで走り通しで出ていた汗とはまた違う、いやな感じの汗が全身から吹き出し始める。

 

「あ、えっと……き、気に障ったのならごめんなさい……! わ、私、何か間違えたかしら!?」

 

 しどろもどろになって、恐ろしさに涙が出そうになるのを必死でこらえながらそれでもアルは男を見上げた。

 覆面の向こうから覗く二つの瞳と目が合う。覆面のせいか仄暗くさえ見える瞳に強烈な威圧感を感じて反射的に目をそらしそうになった。

 それでも気丈に目を逸らさずにいるアルに対して、男は言葉を発さない。痛いほどの静寂と張り詰めた空気が辺りを包み込み始める。

 そうなってからどのくらい経っただろうか。ほんの数秒だったような気もするし、何十分もそのままだったような気もする。

 永遠にも続くかと思われたその瞬間は、不意に男が口を開いたことによって終わりを告げた。

 

「アウトローってのは文字通り法に縛られない悪党のことを指す」

「えっ……?」

 

 アルは男の問いの意味が一瞬理解できず、間の抜けた声を出した。

 そんなアルに構わず男は続ける。

 

「法ってのは人を守るためのもんだ。この世界に生きてる奴らは皆、多かれ少なかれ法によって守られてる。その法の庇護下から抜けた奴らは、大体がその有難みも知らずに馬鹿をやってるチンピラか、あるいはそもそも最初から法に守ってもらえないような事情を抱えた奴らだ」

「そ……れは……」

 

 男の言葉にアルは言葉を詰まらせる。

 自分はキヴォトスいちのアウトローになってみせると息巻いてゲヘナを飛び出した。

 結果、風紀委員に口座は凍結され、違法なことをやっているクライアントに騙されたことだって一度や二度じゃない。

 そして、そんな憂き目にあってもアル達を助けてくれる存在なんていなかった。それどころか自分達が違法な存在として風紀委員に追い回されるばかりだ。

 法律や規則を守って生活していたら、きっとこんなその日食べる物に困るようなことなんてなかったかもしれない。

 

「テメェが欲しいものはなんだ? どんなものが欲しくてアウトローを目指す?」

「欲しいもの……」

 

 男の問いにアルは俯く。

 自分は、キヴォトスいちのアウトローになってどうしたかったんだろう。

 ただ何となく、人の言うことに従っているのが気に入らないからアウトローになろうとしたんだろうか。

 答えられないアルに失望したのか、男は小さくため息を吐いた。

 

「自分が欲しいものもハッキリしないアウトローなんざ、そこらのチンピラと変わらん」

 

 男の言葉に、アルは崖から突き落とされたかのような感覚を覚えた。

 足から力が抜けて行って、今にも座り込みそうになる。

 チンピラなんかと一緒にされたくない。でも、否定する言葉が見つからない。

 指先が急速に冷たくなって、喉がきゅっと締め付けられるような感覚がする。

 どうしたらいいか分からなくなって、目の前がにじんだ。 

 

「ちょっと。黙って聞いてれば随分と好き勝手にアルちゃんをいじめるじゃん」

 

 不意に横から苛立ちを(あら)わにしたムツキの声が聞こえた。

 アルがハッとしてそちらを見れば、ムツキが銃口を男の顔に突き付けている。

 それを見た覆面水着団全員が殺気立って銃口をこちらに向けてきた。

 

「ムツキ()めな――」

「アルちゃんは黙ってて」

 

 いつになく真剣なムツキの声色に、アルは気圧されその口を閉じる。

 気が付けば、アルを囲うようにカヨコとハルカが傍に立っていた。二人共、ムツキと同様に怒りや不快感をハッキリと顔に浮かべながら男を睨んでいる。

 

「ねえ、おじさん。人のやりたいことをコケにするんならさあ、おじさんこそソコの奴らそそのかして銀行強盗したことはどう説明するの?」

「そうだね。銀行強盗なんて派手な真似をしたんだ。よっぽど大したものが欲しいんでしょ?」

「アル様を侮辱するなんて許せません。返答次第では――」

 

 ムツキ、カヨコ、ハルカの全員が男の眉間に狙いを定める。

 ああ、ダメだ。今ここで彼女達が覆面水着団を刺激して、戦いになってしまったら何かのはずみで本当に男を撃ってしまうかもしれない。

 止めなきゃ。でも、どうやって……? 一体自分はどうしたらいいんだろう。

 どうしたら良いか分からずパニックに陥るアルを余所に、男は便利屋社員達を真っすぐと見据えて口を開く。

 

「簡単だ。俺達に喧嘩を売った気に入らねえクソ野郎をブチのめす。その為にあの銀行に運び込まれたクソッタレな証拠が必要だった」

 

 男の答えにムツキが(あざけ)るように鼻を鳴らす。

 

「ふん! どんな理由が出てくるかと思えば、そんな子供みたいな理由? それでよくアルちゃんに向かってそこまで偉そうにできたね!」

「ちょっとは期待した私が馬鹿だった。ウチの社長をコケにした落とし前、どうつけようか」

「おおっと、それ以上動かないでよ。変な動きしたら撃つからね」

 

 頭に血が上った社員達が銃のセーフティに指を伸ばした瞬間、男の後ろに控えていた覆面水着団のピンク(ホシノ)が底冷えのするような冷たい声で警告した。

 既に向こうのセーフティは解除されており、その銃口はしっかりと便利屋68全員を射程範囲に収めている。下手に動けば、先にやられるのは間違いなくこちらだった。

 皆を止めなきゃいけない。そうしないと、自分のせいで皆が傷ついてしまう。

 そう思うけれど、アルの体はピクリとも動かない。呼吸の仕方すら忘れてしまったような気すらする。

 そんなアルを差し置いて、ムツキもカヨコもハルカも、アルが見たこともないような恐ろしい顔で男を睨んでいた。

 それを見たアルは不意に思った。私、こんなところで何をしてるんだろう。

 そもそも、どうしてこんなことになったんだっけ。

 カイザーPMCにハメられて、借金まみれでご飯を買うお金も無くなる前に銀行で現金を下ろそうとして。

 でも結局先を越されてどうしようってなったところに、覆面水着団達が銀行強盗に来て。

 相手がどれだけ強大だったとしても怯まずにやると決めたことをやり通すその姿に感動して、その姿に勇気を貰ったからそれだけでも伝えたくて。

 アルの中で何かがカチリ、とハマったような感覚がした。

 改めて辺りを見回す。

 何を考えているのか分からない瞳でこちらを見据えるアウトローを体現者ともいうべき男。

 そんな彼がアルを貶めたことに対して怒りを露わにして銃口を向ける便利屋社員達。

 男に危害をくわえようとしている社員達に殺気を隠さず銃を向けて来ている覆面水着団達。

 状況はどう考えても劣勢だ。何かのはずみで戦闘が始まれば、不利なのは自分達なのは間違いない。

 なら、社員達を守るのは社長の役目だ。

 そもそも、社員達をこんな状況に追いやったのはひとえに自分が不甲斐ないからだ。

 そんな自分の為にムツキが、カヨコが、ハルカが傷つくのなんて間違ってる。

 在りし日のアルはどんな物にも縛られない真に自由な存在に憧れた。それをアウトローと呼ぶことをその時知った。

 それが間違っているとは思わない。

 でも、もしそうなら今社員という他人に縛られてどうするべきか考えている自分は真のアウトローとは呼べないのではないか。

 けれど、アルはそれでもいいと思えた。

 だって、自分の為にこんなにも怒ってくれる彼女達を見捨てて好き勝手やるのはクールじゃない。それじゃ我が身可愛さに部下を見捨てるただのゲスになってしまう。

 リーダーというのは、いつだってその背中で部下達に在り方を示すものだ。敵前逃亡するリーダーなんて、格好悪くて仕方がない。

 そんな格好悪いリーダーを、一体誰がアウトローと認めてくれるだろう。少なくとも、アルは断固として認めたくない。

 自ら便利屋68の看板を掲げ、その社長を名乗る以上はリーダーに恥じぬ在り方を部下達に見せなければならない。

 再びアルの中で何かがあるべき場所に収まったようなあの感覚がした。

 それと同時に、アルは体に活力が戻ってきたことに気が付いた。

 今にも座り込みそうになっていた情けない足は、いつの間にかしっかりと大地を踏みしめてアルの体を支えてくれていた。

 膨らみ方を忘れていた肺がしっかりと膨らんで、ちょっぴり砂っぽいけれど新鮮な空気を体の中に取り入れてくれる。

 あんなに冷たかった指先に血が通い始めて、じんわりと温もりが戻ってきた。

 

「あなた達、銃を下ろしなさい」

 

 自分でも驚く位にハッキリとした声で、アルは社員達へ銃を下げるように指示を出す。

 

「アルちゃん……?」

 

 心配そうな表情でこちらを見ながら銃を下ろす社員達の顔を見て、アルはなんだか無性に彼女達が愛おしくなった。

 

「ムツキ、カヨコ、ハルカ。心配かけてごめんなさい。それと、私の為に怒ってくれてありがとう」 

 

 そう言ってアルは三人の肩を抱き寄せる。

 温かかった。ずっと走ってきたからみんなちょっと汗臭いけれど、それすらも愛おしい。

 そうだ。皆大切なアルの部下(ともだち)だ。

 皆がいてこその便利屋68だ。誰一人だって欠けさせない。

 目を閉じて深呼吸をする。もう迷いはなかった。

 真っすぐと男の瞳を見つめる。今度は目を逸らしたりなんかしない。

 

「みっともないところを見せたわね」

「気にするな。それで? テメェがアウトローになってまで欲しいものってのは何なんだ」

 

 男の問いに、アルは不敵な笑みを浮かべて再び社員達を抱き寄せる。

 

「私が欲しいものは便利屋68(わたしたち)こそがキヴォトスいちのアウトローだっていう証よ! 法律だろうと規則だろうとどんなに強大な相手だろうと、()()()()()()()()()()依頼を達成してみせるわ! もちろん、あなた達が敵だったとしてもね!」

 

 声高らかに宣言したアルに、男は満足そうに覆面の下の目を閉じて笑った。

 

「ふん。上出来だ。それなら、こいつ等(覆面水着団)ともカチ合うことになるかもしれねぇな」

「上等よ! 敵でも味方でも歓迎するわ!」

「ま、頑張れよ。……撤収だ。帰るぞお前等」

 

 アルの宣言に満足したのか、男は背を向けて覆面水着団と共にその場を後にする。

 けれど、その前にアルが呼び止めた。

 

「ねえ! 最後に、あなたの名前を教えて! ミスターアウトロー!!」

 

 アルの言葉に男が足を止める。

 そして肩越しにアルの方を振り向き、名乗った。

 

「……バッドガイ。ソル=バッドガイだ」

「ソル=バッドガイ……」

 

 告げられた名をアルは噛みしめるように口にする。

 

「私! 私も頑張るから! 私達の活躍、ちゃんと見ててよね!!」

 

 アルは去りゆくソルの背中に向かって叫ぶ。

 そんなアルの叫びに、ソルは振り向くことなく片手を上げるだけで応えてやがて消えていった。まさにアウトローの鑑のような立ち去り方だった。

 そんな彼らの後ろ姿をアルはしばらくの間ずっと眺めて動かなかった。

 

「このバッグ、どうしましょう? あの人達が置いて行ったみたいなんですけど……」

 

 そんなしんみりした雰囲気の中、初めにそれに気づいたのはハルカだった。

 ハルカの言葉に我に返ったアルが、ハルカが指さしたものを見る。

 

「ん? これはまさか……ソルさんが私の為に……?」

 

 ソルは頑張れと言ってたし、きっと自分達への選別なのかもしれない。

 何も語らずにそう言うことが出来てしまうのも流石と言えた。

 

「いや、それはな――むぐっ!?」

「きっとそーだよ! ねえねえ、早く中身見てみよーよ!」

 

 何かを言いかけたカヨコの口をふさいだムツキが、アルにバッグを開けるように促す。

 促されるままアルがバッグを開け、バッグを囲むようにして皆でその中身を確認してみる。

 次の瞬間、誰もいない通りに便利屋の悲鳴のような驚きの声が響き渡った。

 


 

 一方、アビドス高校まで帰ってきたノノミがふと呟いた。

 

「あれ? 現金のバッグ、置いてきちゃいました」

「えーっ!?」

「放っておけ。俺達には関係のないことだ。持って帰ってきたとしても俺が燃やすしな」

「そうそう。どうせ捨てるつもりだったんだし。気にしない、気にしない」

「うん。誰かに拾われるでしょ、きっと」

「あはは……良いことをしたって思いましょう。お腹を空かせた人が、あのお金でお腹いっぱいになれると思えば……」

 

 1億円という莫大な現金を持って帰らなかったことに対して、誰もがそんな緩い反応だった。

 ただ一人セリカだけがもったいないと声を上げていたけれど。

 それでも、とにかく状況は一歩前進した。その事の方が対策委員会にとっては大事だった。

 


 

 後日、便利屋のオフィスにてアルの悲鳴が上がる。

 

「なぁぁぁぁにぃぃぃぃ!? 覆面水着団がアビドスで、ソル=バッドガイさんはフレデリック先生ですってえええええ!?」

 

 まさかの憧れの相手が顔見知りだったことを明かされてショックを受けたアルにムツキが爆笑し、カヨコはため息を吐く。

 色々と問題は山積みだけれど、いつもの便利屋68の光景が今日も繰り広げられていた。




これは完全に作者の妄想なんですが、アルちゃんは高校デビューの際にアウトローの概念を知ってルールなんてクソくらえを実現しようとした結果、ハルカを虐めから救ったり、顔つきが原因で勘違いされて面倒事に巻き込まれたカヨコを助けて彼女達の脳を焼いたんだと思います。
どちらの時も助ける際に結構規模の大きい戦闘に発展した挙句、風紀委員に追いかけまわされてしまって巻き込んだことに対してハルカからもカヨコからも謝罪されますが、きっとアルちゃんここで気が付いてしまったんです。「風紀委員を敵に回してでもやりたいと思ったことをやり通した私って超アウトローなのでは!?」と。
そして謝罪に対して「アウトローなんだからこれくらい当然よ! 風紀委員? あんなの大したことないわ!」と自信満々に言い切っちゃったんです。その結果風紀委員の怒りに火をつける結果になって後々いつもの顔になっちゃったりしたんでしょう。
その結果が今のアルちゃんとアルちゃん大好きクラブもとい便利屋68なのかなと。

アルちゃんが欲しいもの、もといGG的に言うところの守りたい世界は便利屋68の皆との日常です。
キヴォトスいちのアウトローは今でも目指すべき目標ですが、きっとアルちゃんにとってはそれは自分一人だけではなく便利屋皆でつかみ取る称号だと思います。
フレデリックもアルのそんな覚悟が伝わったから、なじみ深いもう一つの名前を明かしました。
まあ、今作でこの名前を使うことなんてそんなにないしね。

フレデリックに脳を焼かれるアルちゃんはやりたかったことの一つです。
もうちょっとうまくやりたかったけど今はこれが限界だ……もっと小説上手くなりてぇ~
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