BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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メリークリスマスですね。
ガチで難産だった……


魔王のアドバイス

 ウヅキは深いため息とともに公園のベンチへと腰を下ろし、体を背もたれへと預けた。

 体を包む疲労感は重く、首が頭を支える役目を放棄したいとばかりに力を抜いてウヅキの視界を青空で埋め尽くさせる。

 ジャック・オーにピクニックだと言われて混乱するウヅキ達を連れ、彼女はとにかくあちらこちらへと歩き回った。

 何故か一緒に連れ出された飛鳥と名乗ったもう一人のシャーレの先生共々、ウヅキ達はずっとジャック・オーの気まぐれな散歩につき合わされ疲労困憊だ。

 

「はぁ~~~~……」

 

 再びため息を吐いて、ややはしたないけれど足も投げ出す。

 とにかく疲れた数時間だった。

 キヴォトスに来たばかりとは言え、ジャック・オーは既にD.U.地区ではそれなりに名前の知られた存在だったらしい。

 道行く大人達やヴァルキューレの生徒達から挨拶をされ、時には雑談に応じ、また困っている様子の人がいれば助けになろうとしていた。

 キヴォトスだから当たり前だが、喧嘩(銃撃戦)の場面に遭遇することだってあった。

 ジャック・オーは銃もヘイローも無いのだからと、矢面に立ったのはウヅキ達だ。

 ただ、喧嘩の仲裁をする為に出張ったはいいもののウヅキ達は全員で30人近くにもなる大所帯だ。

 ウヅキ達は単純にジャック・オーや飛鳥達先生を守る為の戦闘を行うだけの認識でも、相手からしたらそうは見えなかったらしく。

 あわやそのエリアをテリトリーにしていた不良生徒達との全面戦争へと発展しかかった。

 ウヅキは必死に事情を説明し、けれど相手は聞く耳を持たず。途中からヴァルキューレまでもが乱入をしてきてもうしっちゃかめっちゃかの大混戦となってしまった。

 そんな状況を引き起こした当の本人はと言えば、なんとも楽しそうに笑いながら的確な指揮でウヅキ達をフォローアップし、最小限の被害でその場を収めていた。

 不幸な誤解があったこと、ジャック・オーの口添えのおかげでウヅキ達も絡んできた不良達も何とかヴァルキューレ達からは見逃されることになった。

 これにはウヅキ達も相手の不良達も思わず安堵のため息を漏らし、そんな自分達の様子を見たジャック・オーはまた面白そうなものを見たかのように笑っていた。

 

「疲れた……」

 

 これよりもキツイ仕事なんていくらでもあったはずなのに、今日はどうしてかやけに疲れた。

 不意にウヅキの耳に歓声が飛び込んでくる。

 声がした方へと視線だけ送ってみれば、そこにはジャック・オーが呼び出したサーヴァント、とかいう2.5頭身くらいの珍妙な生き物がメトを胴上げしていた。

 一体その小さな体のどこにそんなパワーがあるんだ、と言いたくなるくらいには胴上げされていたメトが高く放り投げられていた。

 普段体験できないスリルからか、楽しいんだか恐ろしいんだか分からない声を上げながら落ちてくるメトをサーヴァント達が器用にキャッチして丁寧に地面へ下す。

 それを見た他のメンバーが自分もとサーヴァントへと駆け寄っていき、スリリング極まりない胴上げをされて楽しそうに笑っていた。

 ふと辺りを見渡せば、ジャック・オー本人と和やかにおしゃべりをしているメンバーや、また別のサーヴァントに囲まれて癒されている者など、それぞれが何かしらを満喫していた。

 そんな光景に、ウヅキは思わず目を細めた。だって誰もが仕事をしている時よりも充実した顔をしていたから。

 

「と……隣、良いかな」

 

 不意に若い男の声が隣から聞こえて来て、ウヅキはスッとそちらの方へと目線をやった。

 そこには飛鳥がゲッソリとした表情で虚ろな笑みを浮かべて立っていた。

 

「あ、ああ……」

 

 余りにもあんまりな顔に気圧されて、ウヅキはほんのちょっとだけベンチの端っこへと寄る。

 そんな彼女の様子にも気が付かず、飛鳥はありがとうと小さく呟くと倒れ込むような勢いでベンチに腰を下ろした。

 

「……だ、大丈夫か?」

「大丈夫の定義にもよるね……生命維持活動に支障が出ているかどうかという観点から言うならば大丈夫だけど、今日明日と言った短いスパンでの今後の活動に支障があるかという観点で語るのならば全く大丈夫じゃない……」

 

 楽しそうにしていたジャック・オーとは余りにも対照的にやつれた飛鳥へと恐る恐るウヅキが声をかけてみれば、返ってきたのはそんなよく分からない答えだった。

 

「えーと、つまり……なんか難しい話をするくらいには大丈夫ってことだよな……?」

「いや、もう今すぐシャーレに帰って眠りたいくらいには大丈夫じゃないってことかな……。大体僕はインドア派だから、こうして外を出歩くのは得意じゃないんだ。ジャック・オーには外出も必要とか言われたけど、別に自分の足を使う必要はないと思わないかい?」

「そ、そうか……大変そうだな」

 

 息も絶え絶えと言った様相で引きこもりのテンプレートみたいなセリフを吐く飛鳥にちょっと引きながら、けれど自分も疲れていることを思い出してまた空を見上げた。

 

「……私も、今日は疲れた」

 

 暖かい寝床に美味しいご飯、虐げられることや騙されることに怯えなくていい穏やかな時間。

 ほんの数日前までとは何もかもが違うこの時間が失われるかもしれないという不安感。今朝のメトから名前を呼んでもらえないこと、それによって感じた彼女との間にある厚い壁。

 これから自分がやりたいことが何なのか、思い浮かぶその願いを口に出してもヘルメット団の皆は許してくれるのか。

 たった半日で余りにも多くのことがありすぎた。

 視界いっぱいに広がる空の青さと広さが、かえってウヅキの心を締め付ける。

 余りにも広いこの空の下で、自分はなんてちっぽけな存在なんだろう。

 どこまでも広がるこの空の中、これからどこへ向かえばいいんだろう。

 もう何も考えないでここでぼーっとしていたい。

 そんなことをぼんやりと考えていると、隣からさっきよりはマシな声になった飛鳥が問いかけてきた。

 

「え、と。片寄さん、だったよね」

「……ああ」

「僕で良ければ話を聞こうか」

 

 飛鳥の言葉に、ウヅキはゆっくりと彼の方を見る。

 すると、こちらを見ていた飛鳥と目が合った。

 先に目をそらしたのは飛鳥の方だった。どこか困ったような、そんな笑みを浮かべながら彼が口を開く。

 

「いや、別に何かいい話をしてあげられる保証はないんだ。だから、聞くだけになると思う。ただ、悩みを吐き出すだけでも楽になることっていうのはあるからさ」

 

 そんな飛鳥の物言いにウヅキはキョトンとした。

 だって、フレデリックとジャック・オーという二人の先生は力になるとかそういう感じのことを言ってきてたのに、この大人だけは話を聞くだけだと何とも消極的なことを言ってきたのだ。

 そんなウヅキに気が付いたのか、飛鳥はバツが悪そうな顔をした。

 

「フレデリックやジャック・オーと違って、僕は人に伝わる言葉を選ぶのが苦手なんだ。論文とかを書くっていうなら得意なんだけど」

「じゃあ、犯罪者が立派に更生して幸せになる理論とかないのかよ」

 

 口を出たのはそんな意地の悪い言葉。言ってしまってからウヅキは自分の過ちに気が付き、飛鳥から顔を逸らした。

 

「ふむ……君達のやってきたことを全て数えた場合、1年から2年の停学処分とその間矯正局での奉仕活動が課せられるね。自首した場合であれば若干の融通も利くだろう」

 

 けれど、返ってきたのはそんな思ってもみない言葉。

 ウヅキは再び飛鳥の方を見た。今度は、驚きに表情を染めて。

 そんなウヅキを横目でちらりと見てから、飛鳥はどこか遠くを見つめるように目を細めて語りだした。

 

「そして、君達はアビドスの自然災害という情状酌量の余地がある。最近入団した子達は難しいかもしれないけど、少なくとも片寄さん。君が初めてカタカタヘルメット団という集団を立ち上げた時のメンバーには、君達を守るべき存在からその責任を果たして貰えなかったという情状酌量の余地があるんだ」

「だけど、やっちまったことはやっちまったんだ。無罪放免ってわけにはいかないし、きっとこれからアタシらはどこへ行っても犯罪を犯したクズってレッテルが付きまとうんだろ」

「確かにそうかもしれない。犯した罪は償う必要がある。……それは、人類(ヒト)人間(ヒト)でいようとする限りどこに行っても変わらないことだ」

 

 飛鳥の言い方にウヅキはどこか引っ掛かりを覚えた。まるで自分も罪人であるかのようなニュアンスが含まれているかのようだったから。

 

「……アンタも、前に何かやっちまったのか?」

 

 だから、聞かずにはいられなかった。 

 目の前の大人が自分達の様に何か罪を犯していたのなら、せめて傷をなめ合って一時の安らぎを得たいと思ったから。

 

「……そうだね。昔、僕は世界を滅茶苦茶にしたことがある」

「……は?」

 

 唐突なカミングアウトに、いやそれよりもその内容に頭がついて行かず今日何度目かの間抜けな声がウヅキの口からもれる。

 そんなウヅキに飛鳥は遠くを見つめたまま語り続けた。

 

「世界最悪の大罪人。魔王。そんな風に呼ばれたりもした。……そうしてでも果たさなければいけない目的があった。その為に、多くの人を犠牲にした」

「…………」

「もう何百年か後、僕のやってきたことの全てが明らかにされて研究された時。もしかしたら僕は人類の救世主、なんて呼ばれているかもしれない。僕の行動は身勝手なもので、けれど世界を守る為には必要なことでもあったんだ。……でも、僕の犯した罪が無くなるわけじゃない」

 

 余りにも突拍子の無い話に、ウヅキは言葉を失うしかなかった。

 からかわれているのかとも思ったが、飛鳥の目にそう言ったふざけた様な雰囲気は感じ取れない。

 膝の上に置かれた飛鳥の手がきつく握りしめられる。

 

「そして、何よりフレデリックが大切な人と生きる時間を長い事奪ってしまった」

「フレデリック……ってあの暴力教師か?」

 

 ウヅキの問いに飛鳥は確かに君達からしたら彼の印象はそうなってしまうね、とどこか仕方のないヤツを見ているかのような笑い方をして続けた。

 

「そうだ。僕と彼、そしてもう一人。僕達は親友だった」

「それは……恨まれたんじゃないのか?」

「それはもう。出会い頭に殺されそうになったりもしたし、その上で僕を恨むことをけしかけさえした」

「なんでそんな……友達だったんだろ。それも必要だったのか?」

「その通りだ。彼には何としてでも生きていてもらう必要があった」

 

 飛鳥の言葉にウヅキは混乱した。どうして生きる為に親友だった相手を恨むような必要があるのか分からなかった。

 

「分かんないよ……なんでそんなこと……」

「僕が目的を達成するためには、彼が必要だったから」

「なんだよ、それ……そんなことをしてまで達成したかった目的って、何なんだ!」

 

 ウヅキは思わず語気を荒げてしまった。

 だって、飛鳥の言った内容は自分達を虐げてくるあのクソな大人達と同じことをしているように聞こえたから。

 自分の利益の為に、他者を平気で騙したり利用したりするクソみたいな大人だ。

 やっぱり目の前の大人は信用できない、という感情が胸の内で燃え上がって来る。

 けれど、そんな気持ちは次の飛鳥の言葉によって一瞬で消火された。

 

「フレデリックが、アリアと……ジャック・オーとまた二人で生きる時間を作ってあげたかった」

 

 それはとても静かで、けれどどこか慈愛に満ちた声だった。

 

「……その為に、世界を巻き込んだのか」

「世界まで巻き込むつもりはなかったんだ。まあ、今更何を言っても言い訳だけどね。……それでも、世界と彼らどちらを取るかと言われれば僕は何度過去に戻ったって彼らを選ぶ」

 

 そう言い放った飛鳥の目は真剣そのものだった。ブラックマーケットなんかじゃ絶対見ないような、真っすぐな目だ。

 ウヅキはかすれそうになる声でかろうじて飛鳥に問いかけた。

 

「例え、世界が滅ぶとしても?」

 

 ウヅキの問いかけに、飛鳥はこちらを見て微笑む。

 

「そんなことはさせないさ。魔王は、自分が欲しいものを諦めたりなんかしないものだろう?」

 

 余りにも迷いなく返された答えに、ウヅキは言葉を失った。

 そして、力なく笑うしかなかった。

 

「アンタは……強いんだな。普通、世界と二人を比べて二人を選べる奴なんていないよ」

 

 ウヅキは再び空を見上げる。さっきと変わらない、青く澄んだ広い空がそこには広がっている。

 

「アタシは……どうしたら良いか分からないんだ。自分がこうしたいって言う事がないわけじゃない。でも、いまさらそんなワガママを言って皆に嫌われたくないとも思ってる」

 

 ずっと心の内に抑えていたものが、少しずつ漏れ出していく。

 ウヅキはそれをもう止められなかった。

 

「暖かいベッドで安心して寝て、温かい美味しいご飯を食べたい。悪いことなんてしなくたっていい生活がしたい。皆と、メト達と前みたいに学校行って、遊んで。そういう普通の生活がしたい。でも、誰かが今までカタカタヘルメット団がやってきたことの責任を取らなくちゃいけない。なら、それはアタシがやるべきことなんだ。……だけど、皆と離れ離れになるのは、嫌だ……」

 

 視界がぼやけて、喉がきゅっと締め付けられるような感覚がした。

 それすらなんだかムカついて、ウヅキは下を向いてそれを全部地面に叩きつける。

 

「だって誰も助けてくれなかったじゃんか! アタシ達が学校も家も追い出されて、どうしたらいいか分からなかった時に連邦生徒会は何もしてくれなかった! 周りの大人だって助けてくれなかった! アタシだって悪いことなんてしたくない! でも、他にどうしようもなかったんだ!! 生きてく為にやらなきゃいけなかった!! アタシ一人じゃ何もできないから、一緒に悪さしてくれるヤツが必要だった!! だから同じようなヤツらを集めたんだ!! そうしなきゃ生きていけないと思ったから!!」

 

 大声で、今まで溜め込んだものを全部吐き出して。それでも瞳からこぼれるものは止まらない。

 

「アタシ達、どうしたら良かったんだよ……」

 

 消え入るようなウヅキのか細い声がシンとした公園の空気に溶けていく。

 さっきまで騒がしくしていたはずの誰もが押し黙ってウヅキの方を見ていた。

 その気配になんとなく気づいていながらも、ウヅキはもはやカタカタヘルメット団のリーダーとしての体裁を取り繕うことは出来なかった。

 

「君達のこれまでについてはどうしようもないけれど」

 

 隣で飛鳥が立ち上がる気配がした。

 

「これからをどうにかしていく助けになることは出来るかもしれない。でもその前に、君にはやるべきことがある」

「……え?」

 

 飛鳥の言葉にウヅキが涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げると、優しく微笑んだ飛鳥が公園の中を指さしていた。

 その方向へ視線を移していけば、そこには心配そうな、申し訳なさそうな、どこかほっとしたような。

 様々な表情でウヅキの方を見ているヘルメット団のメンバー達がいた。

 

「君は一度、皆とちゃんと話をするべきだ。自分が感じていること、やりたいこと。やりたくないことでもいい。これがいい、あれは嫌だ。そういったものを、全部伝えなきゃ」

 

 確かに、今ならそれを伝えるには絶好の機会だ。

 これだけお膳立てをされた今なら、きっと皆はちゃんと聞いてくれる。

 けれど、もしそうじゃなかったら?

 ほんの小さな不安がウヅキの足を地面に縫いとめる。

 

「大丈夫さ。もし言葉で足りないとか、上手く伝えられないようなら、喧嘩でも何でもすればいいんだ。案外、その方がさっぱりするものだよ。僕もフレデリックとそうしたし」

 

 そう言って笑う飛鳥にウヅキはちょっぴり驚いたように目を見開いた。

 だってあの暴力教師と、目の前のなよっちい大人が喧嘩だなんてとても想像できなかったから。

 

「それ、アンタがボコられて終わったんじゃないのか?」

 

 涙と鼻水でみっともない顔で、不格好に笑ってウヅキがそう言えば飛鳥はどこかちょっとだけ得意げな顔をした。

 

「いいや。僕が勝ったよ。フレデリックは強いけど、真っすぐすぎるからね。魔王の僕からすれば、ちょっと絡め手を使えば赤子の手をひねるようなものさ。……ほら、行っておいで。あの時ちゃんと話しておけば、なんて後悔は出来ればしない方が良い」

「……アンタが、そうだったように?」

「うん。僕がそうだったように。さあ、行くんだ。こういうのは早い方が楽だよ」

「……魔王様が言うんなら、きっとそうした方が良いんだろうな。分かった、やってみる」

 

 小さく頷いて、ウヅキは胸の前で拳を握る。

 

「……よし」

 

 そうして自分を奮い立たせて、ウヅキは足を一歩前へと進めた。

 さあ、ここ最近で一番大変な仕事の始まりだ。




オリキャラだけで2話、しかも本筋イベントに絡んでこない話とかどう考えてもテンポ悪くなるだろって思う人いると思います。
分かる。俺もそう思う。
でもやりたいこと的にこうしたかったからこうした。


感想、評価ありがとうございます。
感想は返せてませんが読んでます。ありがとうございます。いつも助かってます。

年内の更新はこれか次が多分最後になります。
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