BlueArchive -Strive-   作:笹の船

39 / 148
多分今年最後の投稿です

引き続きヘルメット団の話です。
次からギルティ勢と本筋に戻る予定


ただ一人の女の子に

 金田メトは自他ともに認めるのんびり屋だ。

 自分でそう言ったことは一度たりともないけれど、何故かカタカタヘルメット団の副リーダー的ポジションにいる。

 まあリーダーのウヅキだけでは手が回らない、もしくは不在という時に団をまとめていたのはメトだ。そういう扱いをされるのはさもありなんと言ったところだった。

 でも自分ではそんな立場、柄じゃないと思う。もっとのんびり気ままに生きていたいと心から願ったことも少なくない。

 だけど、それを周りに漏らすことはしなかった。いや、出来なかった。

 だって、幼馴染のウヅキが弱音一つ吐かずにリーダーを務めあげていたから。

 幼い頃からずっといる仲だ。女の子にしては荒っぽい口調だから勘違いされることもそれなりにあったけれど、ウヅキは元々悪いことをするのに向いていない性格だということメトは知っている。

 言葉遣いが乱暴なだけの、どこにでもいるちょっと面倒見が良い普通の女の子。それがメトの知る片寄ウヅキという子だった。

 そんな彼女が不良グループのリーダーとして必死に自分達を引っ張ってくれている。その光景を前に自分が嫌だと駄々をこねるわけにはいかなかった。

 一つ、不満を上げるなら。

 カタカタヘルメット団を結成してから、ウヅキはメトに自分を名前ではなく「リーダー」と呼ぶように強いてきたことだ。

 メトだけを特別扱いは出来ない。出来る限り全員が平等でないと、きっとすぐにバラバラになってしまう。ウヅキからはそう説明された。

 理屈は分かる。団、なんてついてはいても所詮はまともに学校も行けない不良達の寄せ集めだ。

 同じ目標や夢などを持った同士で集まった部活なんかとは訳が違う。そこにある結束力はただのハリボテだ。小さなはずみでバラバラになってしまうだろうことはメトにだってなんとなく分かっていた。

 それでも、ずっと一緒にいた彼女の名前を呼べないのは辛かった。

 ずっと一緒にいたのに、今でも隣にいるはずなのに。ウヅキとの間に底の見えない谷があるように思えたことが何度もあった。

 

「皆に、話があるんだ」

 

 そのウヅキが、涙でぐちゃぐちゃになった顔を制服の袖で乱暴にぬぐいながら語りかけてくる。

 明るいところでヘルメットをかぶっていないウヅキを見るのは久しぶりだ。

 ヘルメット団を結成してからは、薄暗いアジトにいるとき以外は基本ヘルメットを被っていたから。

 

「これまでずっと、アタシ達は生きる為に悪いことをやってきた。そうしようと言い出したのはアタシだし、そうするしかなかったってのはある。……でも、もう辞めたいんだ」

 

 ウヅキの告白に、自然と彼女の近くへと集まっていたヘルメット団達は何も言わなかった。メトも同じだ。

 

「アタシは……本当は悪いことなんてしたくないんだ。怒られるのが怖い。クソ野郎だって責められるのも怖い。そんな心配なんてしなくていい、普通の生活がしたいんだ」

 

 普通の生活がしたい。その言葉に、メトは小さく頷いた。

 メトも気持ちは同じだ。こんな生活、本当はまっぴらごめんだった。

 耳を澄ませば、小さな声で自分も嫌だとか、普通の生活に戻りたい、といった声が聞こえてくる。

 

「でも、アタシは悪いことをするしか生きていく方法を知らない。今更普通に学校に行きたいって言われても、アタシは何にもしてやれない。だけど、もう……辞めたいんだ、悪いことも、リーダーやることも……ごめん」

 

 最後に小さく謝って、ウヅキは俯いた。

 そんな彼女を見て、メトの口が勝手に動き出す。

 

「……ずるいよ、リーダー」

「え……?」

 

 メトの言葉にウヅキが顔を上げる。その顔は驚きと、怯えの入り混じった表情を浮かべていた。

 それでも、メトの口は……溢れ出したものは止まらない。

 

「ずるい。仕方なかったのは確かにそう。でも、ヘルメット団を結成してずっとリーダーやってくれて……だから私は我慢してきたのに」

「が、まん……? メト……?」

 

 ああ、さっき飛鳥先生と話していたウヅキちゃんはきっとこんな気持ちだったのかな、とどこか他人事のように感じながらメトは胸の内から漏れ出すそれを目の前の親友に叩き付ける。

 

「誰もやりたがらないことをずっとやってくれた! 私達の為に一番辛いことをしてくれた! なのに……私は一度だって辛いってリーダーから聞いたことがない!! だから、私も辛いのずっと我慢してリーダーを支えられるように頑張ってきた! ホントは嫌だったの!! こんな……誰かに指示出したりとかそういうことするのも、あっちこっちで乱暴なことするのだって!」

 

 手のひらに爪が食い込んで痛い位に拳を握りしめる。目の前がぼやけて、鼻水が垂れそうになった。

 はしたなく音を立てながら鼻をすすって、でももうウヅキの方を見ることも出来ずに地面に向かってこみあげて来たものを叩きつける。

 

「なのに、リーダーは一度も辛いって言わなかった!! なんで今更……なんでもっと早く辛いって言ってくれなかったの!? そしたら、そしたら私だって……我慢しなくてよかったのに!!」

 

 この気持ちは、今口にしていることはメトのワガママだ。

 ワガママを言ってられるほど余裕のある生活なんて送ってこれなかった。

 そんなことは分かってる。分かっていた。

 でも、ウヅキちゃんだってようやく我慢してたことを告白したんだ。

 じゃあ、私が言ったっていいじゃないか。

 そんな子供みたいな気持ちの濁流に耐えることすらできず、メトは全部を吐き出す。

 

「大っ嫌い!! 私達に辛いって言ってくれなかったリーダーも! リーダーだけに辛いこと押し付けて守られるばっかりだった自分のことも!! 私達を守ってくれなかったキヴォトスも皆、みんな!!!」

「メト……」

「なんでよ! なんで今までずっと我慢してたの!! なんで辛いって言ってくれなかったの!! 辛くて泣きそうになってたときなんか、何度もあったのに!!」

 

 メトは知っている。ウヅキが今朝のように独りで何かに怯えるように膝を抱えて泣きそうになっていることが何度もあったことを。

 けれどその度に大丈夫、と聞いてもウヅキはまるでそんなことはなかったかのように毅然(きぜん)とした態度で問題ない、としか返してこなかった。返してくれなかった。

 

「そんなに私達は……私は頼りなかったの!? 私達、小さい頃からずっと一緒にいたのに!!」

「それは……だって、アタシが皆を悪いことに引き込んだんだ。悪いヤツに行き場なんてないし、行き場がないから集まったのにそこに引き込んだアタシがウジウジしてたらダメじゃんか」

 

 ああ、知っているとも。私の一番の友達は、本当に口調と態度で分かりにくいだけでとても優しいってことくらい。

 その優しさがカタカタヘルメット団を繋いでいたことも。

 行き場のない不良集団でしかないはずのカタカタヘルメット団が30人という1クラス分にも匹敵する人数までに膨れ上がって、それでも破綻なく今日まで活動できたのはひとえにウヅキのその優しさに皆が()てられたからだ。

 副リーダーとして皆を見る機会の多かったメトはずっと前から気づいていたし、入って日の浅いヒラのメンバーだってそれには気づいている。

 知らないのは、今日まで弱音を吐けずに必死に前だけを見ていたウヅキだけだ。

 

「誰もリーダーが弱音を吐いたくらいで見放すようなことしたりしないよ! いたら私が叩き出してやる!! リーダーを笑う奴がいたら誰が相手だってボッコボコにする!! だから、だからさ……」

 

 もうメトの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。とても人に見せられる顔じゃない。

 それでも顔を上げてウヅキを真っすぐに見つめる。

 ウヅキは見たことがない表情をしていた。驚きか、後悔か、怯えか。だけど、そんなのは関係ない。

 今はただ、この心からの願いを伝えたかった。

 

「もっと、私を頼ってよ。リーダーとメンバーとしてじゃなくて、また友達としていさせてよ……また名前で呼ばせてよ……ウヅキちゃん……」

 

 結局のところ、メトの願いはそれだけだった。

 この願いを伝えるのに、一体どれくらい遠回りしたんだろう。

 言いたいことは言えた。でも、この気持ちはウヅキにちゃんと届くだろうか。

 胸の内に溜まっていたものを全て吐き出して疲れたのと、そんな小さな不安からメトはその場に座り込んでしまう。

 膝や太ももに小石が当たって痛いけれど、それでももうメトには顔を上げてウヅキの方を見る元気も勇気も沸いてこなかった。

 瞳からこぼれるものでスカートが濡れるのも構わずメトが俯いていると、不意にウヅキのつま先が視界に入ってきた。

 次に、ウヅキの制服の赤がメトの目に突き刺さる。

 そして最後に、ふわりとした感触が体全体を包み込んだ。

 それが、ウヅキが自分を抱きしめてくれたことだと気づくのに時間はかからなかった。

 

「その……悪かった。メトがアタシをリーダーって呼ぶのがあんまり好きじゃないのは、分かってたつもりだったけど。でも、怖かったんだ。メトだけがアタシを名前で呼んでるのを許していたら、いつか団に入ってきた奴から『アタシはメトを特別扱いしている』って思われてメトがアタシの知らないところで傷つけられるんじゃないかって……そう思ったら、怖かったんだ」

 

 ウヅキがメトを抱きしめる力が強くなる。

 背中に回したウヅキの手が小さく震えているのが感触で良く伝わってきた。

 

「団に入れるヤツはこれでもちゃんと選んだつもりだ。皆元々良いヤツらさ。そんなことはないって、何度も思い直した。自分で誘っといて、何馬鹿なこと考えてるんだって。……でも、結局のところアタシ達は不良だ。犯罪者なんだ。……どんなに元が良いヤツだって、どこでどんな爆弾が爆発するか分からなかった。何が不満になって、爆発して、バラバラになるか分からなかった。自分でワルに誘っておいて、誰かが離れていくのが怖くてたまらなかったんだ」

 

 ウヅキの告白に、メトは何も言えなかった。

 だって、その気持ちは痛いほど理解できたから。ウヅキだけじゃない。メトだって、他のメンバーだって誰もかれもが皆と一線を引いていた。

 学校に行っていた頃みたいな、他愛ない話題でおしゃべりをしてたって心の底から安心なんて一度だって出来なかった。

 皆、どこかで相手を信じられなかった。そんな雰囲気がずっと団の中にはびこっていた。

 いつか起こるかもしれない破綻に、ただただ怯えていた。

 ウヅキだけじゃなく、誰もが皆そうだった。皆それに気づいていながら、それでもずっと見ないフリをしてきた。

 だって、ウヅキが一生懸命リーダーを張っていたから。

 

「……全部言い訳だ。アタシは誰も信じられなかったんだ。最低だ……リーダーとしても、人間としても、友達としても……」

 

 なのに、ウヅキはまた自分だけが悪いんだと一人で抱え込むようなことを口にして笑った。

 

「ち、違……」

「違うっすよ!!」

 

 ウヅキの言葉をメトが否定するよりも早く、怒鳴り声が公園に響いた。

 ウヅキとメトの肩がびくりと震えて、二人とも声がした方を向く。 

 そこには、涙をぼろぼろとこぼしながらも起こったように顔を歪めたヘルメット団のメンバーがいた。

 

「ナツキ……?」

 

 渡瀬(わたせ)ナツキ。ウヅキが立ち上げたヘルメット団に最初に入った古参メンバーだった。

 団の中で誰よりもウヅキを強く尊敬していると言ってはばからない彼女が、ウヅキに対して怒りをあらわにしていた。

 その様子に、ウヅキもメトもあっけにとられて何も言えなかった。

 

「なんで……メト先輩の言ってたことなんも聞いてなかったんすかリーダー!! アンタが最低なリーダーだったら、そもそもオレらはアンタの言う事なんか聞かないっす!! 皆アンタがカッコよかったから、優しかったから付いてきたんすよ!!」

「そんなこと……」

「そんなことあるんすよ! どんなに大人や他の不良達からバカにされたり、騙されたりしたってアンタがずっとオレ達を励まして仕事を持ってきて……少なくとも飯には困らない生活をさせてくれたんす!! ひとりだったり、数人っぽっちで居場所もなくただ腐ってたオレらを拾い上げて居場所をくれたのはリーダー、アンタなんす!! それがワルの道だったからって、なんなんすか!!」

 

 ナツキの剣幕に、ウヅキもメトも完全に気圧されてしまう。

 普段は割とノリが良い団のムードメーカとしての彼女はウヅキを馬鹿にされること以外ではめったに怒らない。

 そんなウヅキファーストなナツキが、ウヅキに対して怒っている。

 ふと辺りを見渡せば、他のメンバー達も皆ナツキの言葉に頷いていた。

 そう言えばナツキは自分よりももっと身近なグループリーダーみたいな立場として動き回っていたっけ。なんてメトはどこか他人事のように頭の片隅で考えた。

 

「メト先輩の言う通りっす! ズルいっすよ!! リーダーはワルであることを辞めたらオレらから逃げられるって思ってたんすか!? ワルなリーダーだったからオレらはアンタについてきたって思ってたんすか!?」

「そ、そういうつもりじゃ……!!」

「じゃあいいじゃないっすか!! 辞めちまいましょうよワルなんて!! でもそん時はオレらも連れてってくださいよ! ワルじゃない生き方なんて分かんなくたって、オレらはリーダーがいてくれたらなんだって出来るんすから! 一人じゃ無理でも皆がいればなんとかなるって、そう言ってオレらを引っ張ってくれたのは嘘だったんすか!?」

 

 ナツキの言葉にウヅキが息を呑んだ音が聞こえた。

 確かに、その言葉はメトにも聞き馴染みがあるものだ。

 それはウヅキが事あるごとに口にしていた言葉だ。学区を追い出された時、ヘルメット団を結成すると決めた時、新しいメンバーを団に引き込もうとした時、仕事する前、失敗したメンバーを励ます時。

 本当にいろんなところでウヅキはその言葉を口にしていた。でも、きっと本当はずっと自分を励ますために口にしていた言葉なんだろう。

 だけど、それは確かに団の皆を奮い立たせてくれていた。だから今、ナツキを先頭にヘルメット団の皆が真っすぐな目でウヅキを見つめている。

 

「……いいのか? もう、前みたいに上手くリーダーやれないかもしれないんだぞ……?」

「じゃあ先輩と後輩ってことにしてほしいっす!」

「せ、先輩なのにみっともないところ、もっと見せるかもしれないんだぞ?」

「じゃあオレらのダメなところもたくさんみせるっす!!」

 

 余りにも真っすぐなナツキの返しに、ウヅキの声が震えだす。

 

「アタシでいいのか……?」

「アンタがいいんす!」

 

 ウヅキが耐えきれなくなったかのように顔をくしゃりと歪めて、それから両手で顔を覆った。

 それを見たメトはそっとウヅキのことを抱きしめる。

 肩を小さく震わせて、それでも何かを必死に堪えるように小さくしゃくり上げる彼女にメトはそっとささやいた。

 

「いいんだよウヅキちゃん。私達、もう我慢しなくていいんだよ。もうリーダーとかそういうのにならなくていいんだよきっと。ただの女の子に戻って、きっといいんだよ……!」

 

 最後の方はメトの声もみっともなく震えていた。でも、きっとそうなんだと思えた。そうであって欲しいと願った。

 不意にギュッと、何かに全身が強く圧迫されるような感触がした。

 

「ぐ、くるし……」

 

 ウヅキのそんな小さな呟きは直後に全方向からのメンバー達のガヤガヤした声にかき消されていった。

 メトがかろうじて首を回してみれば、二人を中心として団のメンバーが押し寄せて来ていた。

 

「リーダー……いや、リーダーを辞めるっていうなら……ウヅキ先輩!」

「せ、先輩!!」

「ウヅキ先輩!!」

 

 ナツキの言葉をきっかけに唐突に始まったウヅキへの先輩コールに、当のウヅキは驚きに目を見開いている。

 今日はなんだかいろんな顔のウヅキちゃんが見られるな、なんて思ったメトは自分が笑っていることに気が付いた。

 そうして、もう一度強くウヅキのことを抱きしめる。

 

「また、よろしくね。ウヅキちゃん!!」

「え、あ…………うん。ありがとうメト、皆」

 

 これからはただのメトとウヅキとしてまたやっていけるんだ。

 ウヅキの肩に顔をうずめて、こぼれた涙を隠しながらメトは笑った。

 今はただこの喜びを噛みしめていたかった。




本作を投稿し始めて約二か月半。あっという間でした。
おかげさまでお気に入りは500件超、総合評価も1000Ptを超えられました。
感想やお気に入り、評価など日々増えているおかげで頑張れてます。
これからも更新を続けていけるように頑張りますので、また来年も何卒よろしくお願いいたします。

……って締めみたいなこと書いてますが、めっちゃ筆が乗ればあと一話くらい年内に更新するかもしれません。
まあ、基本的に今回が年内最後の更新って体で後書きの方を〆させてもらえればと思います。
それでは皆様、良いお年を。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。