BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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ブルアカフェス、最高でしたね。
自分は一日目のみの参加で、二日目は配信で見ましたが情報供給過多で死にそうでした。

そしてアビドス編3章が決定してしまったので、それまでにはアビドス編のケリをつける必要が出てきました。
下手にここからアビドスに関する重要情報が増えてしまったら加筆修正が出て来て死ぬかもしれないので……
先に書いちゃえばほら「うるせえ知らねえ!」出来るしな!

ということでどうぞ


ケイオスを追って

「委員長……その、姿は……?」

 

 フレデリックがアビドス対策委員会と便利屋68、そしてゲヘナの風紀委員たちがにらみ合っている現場にたどり着くのとほぼ同時に現れた一人の生徒。

 風紀委員長であろう彼女の頭に被せられた悪趣味なマスクを見た時、フレデリックは一気に頭に血が上るのを自覚した。

 

「ケイオスッ!!」

「そんな、アレは……!」

 

 フレデリックの隣にいる飛鳥も、動揺を隠しきれずにいる。

 あの赤を基調とした出来の悪いウサギの耳みたいなものが生え、耳元まで達するほどの大きさをしたグロテスクな口が気色悪い笑みを浮かべた悪趣味なマスクは二つとない。

 忘れるはずもなかった。あれはフレデリック達がキヴォトスに来る前、ホワイトハウスでケイオスの操り人形になった合衆国の兵士達が被っていたものだ。

 それはつまり、彼女がケイオスによって操られていることに他ならない。

 

「やあ、アビドス高校、ゲヘナの風紀委員、便利屋68の皆。今日は良い天気だね」

 

 へらへらとした口調で風紀委員長の後ろから現れたのは、紛れもなく今彼女を操っているハッピーケイオス本人だった。

 

「テメェッ!! ソイツに何をさせるつもりだ!!」

「そう怒鳴るなよソル。生徒達が怯えるじゃないか」

 

 フレデリックをからかう様に笑うケイオスに対し、フレデリックはジャンクヤードを即座に転送して構える。

 そんな彼の姿にケイオスは軽く両手を上げてホールドアップするかのような態勢を取った。

 

「おいおい、君はもう少し人の話を聞こうとする態度をとるべきじゃないかい?」

「テメェのままごとに付き合うつもりはねぇ。今すぐその生徒を自由にするってんなら見逃してやる」

「酷いなあ。彼女には空崎(そらさき)ヒナっていうちゃんとした名前があるんだよ?」

「じゃあそのヒナをどうするつもりだ」

 

 フレデリックの問いかけにケイオスは愉快そうに目を細める。

 それから、指を鳴らして二人の背後に車を出現させた。

 唐突な魔法じみた現象に辺りの生徒達の目が驚きに見開かれる。

 けれど、そんな彼女達の視線など気にすることもなくケイオスはフレデリックの問いに答え始めた。

 

「彼女はね、争ってばかりの今のゲヘナの内部や、ゲヘナと対立しているトリニティとの関係を何とかしたいのが願いなんだってさ? だから、今度ゲヘナとトリニティの間で取り交わされる条約を確実に成功させたいらしいんだ」

「そう。だから、ちょっと試してみたいことがあるの」

 

 ケイオスの言葉を引き継ぐようにヒナが喋る。

 その声はどこかくぐもった音になっており、声色から感情を読み取ることは難しい。

 例の悪趣味なマスクを被せられているせいで、その表情すら伺い知れない。

 

『委員長、試したいことって……いえ、それよりもそこの不審者は一体誰ですか?』

「初めまして、天雨アコちゃん? 僕はハッピーケイオス、そこの飛鳥君の先生だよ」

『……一体委員長に何をしたんですか。返答次第では……』

「おいおーい、何でもかんでも答えから欲しがるのは現代人の悪い癖だ。子供なんだから、もっと想像を膨らませてみようよ」

『ッ! この……!』

 

 ケイオスの物言いにドローンから投影されていたアコの表情が憎々し気に歪む。

 しかし、次の瞬間銃声がその場に響き渡った。

 直後、ケイオスの眼鏡のテンプルが粉々に砕け散って彼の顔から眼鏡がずり落ちた。

 

「アコちゃん、こいつの言う事なんて聞く必要ないよ。どう考えても委員長に危害を加えた不審者だ。とっ捕まえて、その後で尋問すればいい」

 

 そう言って銃口をケイオスの眉間へピタリと合わせたのは銀髪ツインテールのイオリと呼ばれていた生徒だ。

 けれど、そんな危機的状況にもかかわらずケイオスは愉快そうに唇を歪めた。

 

「んふ。君、中々狂ってるね。僕がキヴォトスの外から来た存在で、銃弾をまともに食らったら痛いじゃ済まず死んだりしたら、とか考えなかったんだ?」

「ヘイローがあるんだから、どうせ食らったところで痛いで済むんだろ。適当言うな」

 

 ケイオスの頭の上に浮かんだヘイローによく似た円形のものへ一瞬視線をやってからイオリはそう吐き捨てる。

 

「なるほど、確かに一理ある。だったら試してみると良いよ、と言いたいところだけど……」

 

 ケイオスがチラリとヒナの方へ目配せをすると、ヒナは小さく頷いてケイオスをかばう様に彼の前へと立った。

 これに動揺したのは風紀委員だ。

 

「委員長!? 一体何のつもりですか!?」

 

 チナツの言葉にヒナは肩にかけていた機関銃のグリップ握り、銃を構える。銃口を向けた相手は、自分の部下たる風紀委員達だ。

 

「エデン条約は、ゲヘナとトリニティの間で紛争が起きた場合に両校の中心メンバーが参加する中立機構が紛争解決をするという不可侵条約。かみ砕いて言うなら、共通の敵が現れたら手を取り合ってその敵を排除しようというものよ」

『ひ、ヒナ委員長……?』

「今、この場には敵対しているグループが3つある。アビドス、便利屋、風紀委員会。そして名目上は完全中立のシャーレ。状況としてはちょうどいいと思わない?」

「君は、まさか……」

 

 ケイオスを庇い、自分達の方へ銃口を向けるヒナに飛鳥は驚きに目を見開いた。

 その場にいる他の生徒は、ヒナの言葉を飲み込めないでいるのか銃を構えることすらできていない。

 そんなその場の全員を見渡して、ケイオスが愉快そうに両腕を広げて高らかに語った。

 

「人間が一番手を取り合う状況ってなんだか知ってるかい? それはね、共通の敵が現れた時だよ。でも、いつでもそうなるとは限らない。共通の敵を前にして、自分達の利益を最優先したくて結局争うなんてことも珍しいことじゃあないよね? だからヒナちゃんは確かめたいのさ」

「エデン条約が締結されたとして、私達はちゃんと共通の敵を前に手を取り合えるのか。それが証明できたなら、私の……そして風紀委員皆の負担だって減るはずだから」

 

 くぐもってはいるものの、ヒナの言葉にはその場の誰にも伝わるような温もりがあった。

 それを直に感じ取れてしまった風紀委員の士気はもうメチャクチャだ。

 尊敬する委員長が自分達を気遣ってくれている、けれどどう見ても彼女はあの不審者に操られているようにも見える。

 今の言葉が委員長の本心からのものなのか、不審者の洗脳から出た嘘なのか。そもそもあのヒナ委員長と戦わなければならないのか。

 混乱するその場の生徒達に良く見えるようにケイオスが車のトランク部分に立って高らかに宣言する。

 

「そういうわけだからさァ! 生徒の皆には今からヒナちゃんと戦ってもらいまーす! あ、僕は用事があるからここで失礼するんだけどね」

 

 そう言ってケイオスがトランクから降りて運転席へと乗り込む。

 

「なっ……待てケイオス!!」

 

 それを止めようと飛び出したフレデリックだが、そんな彼の眉間をめがけてケイオスが無造作に発砲した。

 

「クッ……!!」

 

 すんでのところでジャンクヤードで銃弾を防ぐが、その一瞬でケイオスは車のエンジンをかけ終わっていた。

 

「ソル、せっかくだからこの間のツーリングの続きとでも行くかい?」

 

 にやりと笑いながら、それだけ言い残してケイオスはアクセルを踏み込んで車を発進させた。

 

「クソ! 飛鳥ッ!!」

「うん。君はケイオスを。ここは僕がなんとかする」

 

 フレデリックは即座に反転し、アビドス生徒達の傍に止めたバイクへと駆け寄る。

 バイクに飛び乗りながら、いまだ混乱しているのであろうアビドスの生徒と便利屋の面々にフレデリックは声をかけた。

 

「いいか、お前等。俺は奴を追う。お前等は飛鳥の指示に従え」

「えっ、先生……!?」

 

 彼女達の返事を聞く間もなく、フレデリックもバイクのアクセルを吹かして急加速させた。

 バイクのエンジンの咆哮と、タイヤが地面を蹴りつける耳障りな音でこちらに突っ込んでくると気づいた風紀委員たちが慌てて道を開ける。

 再び一陣の風となったフレデリックを、しかしヒナはチラリと見ただけで特に止めようとはしなかった。

 フレデリックを全く妨害してこなかったことにケイオスの洗脳の効力が薄いのかとフレデリックは疑問に思ったものの、ヒナのことは一旦思考の隅へと追いやる。

 幸い、ケイオスはまだ道をまっすぐ走っているだけのようだった。スピードを上げていけばすぐに追いつける。

 バイクのギアを上げてさらに加速する。

 みるみるとケイオスの乗る車のテールライプが近づいてきた。

 そしてフレデリックは気づく。以前、初めてケイオスと遭遇した時のようにオートパイロット状態の車のトランクにケイオスが仁王立ちをしていることに。

 

「やあ、こうして一緒にツーリングするのも久しぶりだね?」

「誘い文句にしちゃ芸がねェな。来た道を引き返せ。牢屋にデートスポット特集の載った雑誌くらいは差し入れてやる」

「悪くない提案だけど、僕好みのスポットは載っていなさそうだから遠慮しておくよ」

 

 会話をしながらもケイオスは車を減速させることもなく、かといって逃げる為に加速するようなこともない。

 明らかにどこかへと誘われている。その事に気づいていながらも、ここまで来て引き下がるという選択肢はなかった。

 ここでケイオスを逃せば、相手が何をしようとしているのか分からないままだからだ。

 攻撃を仕掛けるというのもナンセンスだ。今のフレデリックでは不意を打たない限りケイオスの弱点を破壊することは難しい。

 変に刺激を与えてまた転移魔法で逃げられてしまったら時間の無駄になってしまう。

 故に、フレデリックはこのもどかしい時間でできる限りの情報を集めることにした。

 

「ヒナを洗脳してどうするつもりだ。俺の聞き間違いじゃなけりゃ、テメェも生徒達の助けになる為にキヴォトスに来たと言っていたと思うんだがな」

「ああ、それは嘘じゃないよ。だから僕は彼女が本音で話しやすいようにちょーっと手伝ってあげただけ。別に彼女を使って悪いことしようとか、そういうつもりはないんだよね」

「自分の仲間に銃口を向けさせるとは、テメェの親切心てのは他人の血で作られてんのか?」

 

 フレデリックの皮肉に、ケイオスは愉快そうに肩を震わせた。

 

「人間ってのは不思議なものでさあ。言葉以外にもコミュニケーションの手段を持ち合わせてる存在なんだよね」

「……何が言いたい」

「君と飛鳥君と同じだよ、ってことさ。これ以上の説明が必要?」

「…………」

 

 ケイオスの意図していることに何となく気が付き、しかしそれが本当かどうかを信じ切れずにフレデリックは黙ることしかできなかった。

 そんな二人は既に市街地を抜け、砂漠地帯へと突入していた。

 建物はほとんど見えなくなり、辺りにはただ見渡す限りの砂で埋め尽くされ始める。

 

「どこまで行くつもりだ? 早撃ち対決をしたいってんなら十分おあつらえ向きの景色だろ」

「んふ、懐かしいね。荒野のウェスタンでの決闘か。君も好きなんだ?」

「飛び道具は無粋だと思ってるんでな、やるなら他所をあたれ」

「それは残念。僕としては君とも仲良くしたいんだけどね?」

「人は第一印象が9割って話、知ってるか?」

「先入観で物事を決めつけるのは危ないっていうのも有名な話じゃないかな? まあそうカリカリしないでさ、もうすぐ着くから」

 

 そう笑ったケイオスが言葉の通り車を減速させる。

 それに合わせてフレデリックも一定の距離を保つようにバイクを減速させた。

 

「ほら、あれ見て?」

 

 車から降りたケイオスがある方向を指さす。

 一体何を見せようとしているのか、それともこちらの油断を誘うつもりなのか。

 ひとまず何があっても良いように、と警戒を高めながらフレデリックはケイオスが指さした方を視線だけで追う。

 そこには何か大規模な施設があるように見える。

 砂漠の中にポツンと置かれた、飾り気のない外壁。

 その外壁に印字されていたのは、カイザーPMCの文字と社章だった。

 

「これは……」

「どう? 中々興味深いデートスポットでしょ?」

「これを俺に見せて、どうするつもりだ?」

 

 フレデリックの問いにケイオスは意味深に笑いながら手をひらひらさせて車に乗り込んだ。

 

「ヒントだよ。アビドスを追い詰めようとしているカイザーコーポレーションは、この広大なアビドス砂漠で探し物をしてるらしいよ。僕、それの手伝いを頼まれてるんだよね」

「テメェ……!」

「ああ、僕が関与しているのはあくまでいざという時の兵器の改修だけさ。それをここでやってるから、この場所まで君を連れて来れたってわけ。まあ安心してよ。僕は彼らの探し物に興味はないからね」

「なら、テメェごとこの場所を消し炭にすりゃいいってわけだな」

 

 言うや否やフレデリックは即座にジャンクヤードのアウトレイジ外装を起動させる。

 ジャンクヤードの刀身が展開し、その内側から強烈なエネルギーが発生しているのが分かる光が漏れ出す。

 そんなフレデリックに対し、しかしケイオスはチラリと彼の方を流し見るだけだった。

 

「止めといた方が良いよ。ここで騒ぎを起こせば、君の姿は確実に向こうに捕捉される。向こうだって馬鹿じゃないからね、君がシャーレの所属だってことくらいは簡単に割り出せるだろうさ。そうなった時、一番困るのは誰だろうね……?」

「……チッ」

 

 ケイオスの言葉に、フレデリックは舌打ちを一つして攻撃するのを諦めた。自分の無茶が原因で生徒達を追い込む可能性が高いのであれば、流石に強引に事を進めるわけにはいかなかった。

 それを見たケイオスは満足そうに頷く。

 

「物分かりがいい生徒は好きだよ。まあ、カイザーPMCはアビドス砂漠で何かを探していること、その為にどうしてアビドス高校の子達を追い出す必要があるのか。これを考えてみるといいよ」

 

 そう言ってケイオスは車を発進させる。そうしてそのまま車ごと虚空へと消えていった。

 

「……チッ」

 

 今回のケイオスの行動はほぼ完全にフレデリック達の利になるものだった。

 確かに、シャーレにケイオスが侵入してきた時相手は生徒達を助けるのが役割だと言った。その役割はケイオス自身も担っているのだと。

 だが、相手はあのケイオスだ。嘘を言っている可能性も十分にある。

 うかつに信じるのは良くないだろう。かといって、頭から否定をするには余りに有用な情報だ。

 置いてきてしまったアビドスの生徒や便利屋達、そしてヒナのことも気にかかる。

 とにかく得られた情報が多すぎて自分一人では判断しきれない。そう結論付けたフレデリックはバイクにまたがって来た道を猛スピードで戻り始めた。

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