BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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年明けから割と好調で嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。


予期せぬ同盟(1)

「さて、それじゃあ皆。私の実験に付き合ってもらおうかしら」

 

 フレデリックがケイオスを追って走り去り、彼のバイクの音も聞こえなくなった頃ヒナがポツリとそう口にした。

 それに待ったをかけたのは飛鳥だ。

 

「待って欲しい、空崎ヒナさん。君は師匠……ケイオスに本当に操られているのかい?」

 

 飛鳥の問いかけにヒナは小さく肩をすくめた。

 

「YESかNOで言えばYESよ。でも、どういうわけだか彼は私を完全には支配下には置かなかったみたい。ある程度は彼の都合の良いようにしか思考が回らないようになっているみたいだけど、かといって何もかも彼の思い通りになるようにはされてないようにも感じるわ」

「つまり、ある程度であれば会話する自由はあると言う訳だね」

「そうね。……まあ、あくまである程度よ。洗脳されてる身で言うのもおかしな話だけど、こうしてのんきに会話できる時間はそう長くはないわ。聞きたいことがあるなら手短にお願い」

 

 ヒナはその言葉の通り、構えた機関銃の安全装置を外した。その姿に否が応でも周囲の警戒心は跳ね上がる。

 そんな中でも飛鳥は至って冷静にヒナを見据えて質問を繰り出した。

 

「君はエデン条約、というものが締結されてなお自分達が共通の敵を前に手を取り合えるかを証明したいと言ったね」

「ええ。証明が出来ればゲヘナの治安維持を担う私達風紀委員の負担は確実に減るから。ただでさえ毎日パトロールや治安維持活動で忙殺されているんだもの。楽が出来るならそれに越したことはないでしょ?」

「なるほど。……ところで、その証明が必要な理由は本当に風紀委員の負担が減るという確証を得たいってだけなのかい?」

「………………」

 

 飛鳥の問いにヒナは黙り込む。それは、誰が見てもそれ以外の理由があるというこれ以上ない回答だった。

 

「言いたくないのならこの場で無理に言わなくていい。ただ、一つ聞かせてくれないか」

「……何かしら」

 

 マスクでくぐもった声も相まって今一つ感情の読み取れないヒナを、飛鳥は真正面からしっかり見据えた。

 

「君が語れないその本音。誰かに相談したことはあるのかい?」

「それ、は……」

 

 飛鳥の問いにヒナが声を詰まらせる。

 普段どんな相手であろうと冷静さを保ち、堂々とした背中を見せてきた風紀委員長が明らかに動揺したその姿に風紀委員のメンバー達は少なからず衝撃を受けた。

 そんな隙を晒したことに苛立ったのか、ヒナが腰を落として機関銃の発射体勢へと移る。

 

「話はお終いよ、シャーレの先生。怪我をしたくなければ下がっていて。……出来れば、今すぐこの場から立ち去って」

 

 言うと同時にヒナの背中の翼が広がり、辺りに強烈なプレッシャーが放たれる。

 もはや戦闘が始まるのは時間の問題だ。

 だが、余りのプレッシャーに風紀委員の何人かは完全に腰が引けてしまっている。

 普段ヒナと共に活動しているであろう、イオリやチナツでさえ一歩後退っていた。

 飛鳥がチラリと周囲を視線だけで見回せば、アビドスの生徒達や便利屋メンバーも額に汗を滲ませているのが見えた。

 

「……年端も行かない子供なのに、随分とすごいプレッシャーだね」

「失礼を承知で言わせてもらうわ。年頃の子供に子供扱いをするのは返って反感を買うって教育実習で習わなかった?」

「不愉快にさせたなら謝るよ。僕は単に、その若さでここまでのプレッシャーが出せるようになるまでに努力をした君の強さに感心しただけだったんだ」

「……ッ! 私、アナタのこと苦手だわ。悪いけど、手加減は出来そうにないから覚悟して」

 

 マスク越しに不快感、あるいは拒絶に近いネガティブな感情が読み取れる声色でそう吐き捨てたヒナに飛鳥は小さく肩を落とす。

 

「……やっぱり、人の心と言うのは難しいね。一朝一夕に理解できるものではないらしい」

 

 もっと自分に人の心を理解できる器量があれば。そんな小さな後悔を胸の内にしまいながら、飛鳥は深呼吸をする。

 もはやヒナとの衝突は避けられない。ならば、今飛鳥がやるべきは彼女を受け止められるように戦うことだ。かつてフレデリックが自分にそうしてくれたように。ついさっき、カタカタヘルメット団達がそうしていたように。

 飛鳥は付近にいる全ての生徒達へと自分の声が届くように通信を始める。

 

「この場の空崎ヒナさんを除くゲヘナ学園の生徒、およびアビドス高校の生徒達に協力を要請します。現時刻をもって僕、飛鳥=R=クロイツは連邦捜査部シャーレとして空崎ヒナさんの無力化の為の戦闘指揮を担当します。協力に応えてくれる生徒はその場に待機、そうでない生徒は速やかに戦線を離脱してください」

 

 飛鳥の言葉に真っ先に反応したのはアビドスの生徒達だ。

 協力要請を聞くや否や全員が戦闘態勢を整え、銃の安全装置が外れていることを確認する。

 次いで便利屋68のアルもアビドスにならって戦闘態勢を整え始めた。

 

「あれ、アルちゃん戦うの? 今なら何の気兼ねなく逃げられるよ?」

 

 相手をからかう様なにやけた笑みを浮かべながら銃のマガジンを差し込んだムツキがアルに問いかける。

 そんなムツキに対して、マガジンを銃に差し込んだアルが得意げな笑みを浮かべながらチャージングハンドルを引く。

 

「シャーレの先生からの協力要請よ? ここで応えておけば後できっと私達を助け……ごほん! いいビジネスパートナーとしての関係を築けること間違いなし! 出来るアウトローはチャンスを見逃さないわ!」

「うわー、下心ありありじゃんー♪ ま、でも私は面白いからさんせーい!」

「やれやれ……まあ、ここで逃げても問題は解決しないし……ヒナ一人に対してアビドスと一緒にやるなら勝ち目はなくもないか……」

「アル様ッ……! 私はずっとアル様について行きます!」

 

 アルの言葉にムツキ、カヨコ、ハルカが臨戦態勢を整え、それぞれがヒナに向かって銃口を向ける。

 その光景に耐えかねたように声を上げたのは風紀委員のアコだった。

 

『~~~~~っ!! 全部隊に通達!! 現時刻より風紀委員はシャーレの飛鳥先生の指揮下に入ります。飛鳥先生が申しあげたとおり、戦闘の意思あるものはその場に待機! 相手はヒナ委員長です、無理強いはしません。自信の無いものはすぐに作戦領域外に向かって退避してください』

「クソッ……! ああ、もう! やってやるよ!!」

「飛鳥先生がいるのなら、きっと何とかなります!」

 

 アコの言葉にイオリとチナツも戦闘態勢を整える。

 そんな彼女達の姿を見て、全ての風紀委員が同じように戦闘態勢を整えた。……離脱したものは、ただの一人もいなかった。

 その光景を前に、カヨコが呆れたような笑みを浮かべた。

 

「まさか、風紀委員と肩を並べる日が来るなんてね」

 

 そんな彼女の言葉にかみついたのはアコだった。

 

『勘違いしないでくださいカヨコさん! あなた達校則違反者や他校の生徒に委員長を好きにさせる訳にはいかないだけです。いくら委員長が洗脳されてるからって過剰な攻撃を加えようものならあなた達から排除しますからね!!』

「はいはい……こっちだって今回限りのつもりだよ。これ以降はこっちから願い下げ」 

「話は終わった? いい加減待ちくたびれたのだけれど」

『いいえまだです! ヒナ委員長!!』

 

 しびれを切らしたかのように声を上げたヒナに、アコは勢いのまま語り掛ける。

 

『委員長がなんでこんなことになったのかとか、どうやったら元に戻るのかとか……分からないことだらけですが一つだけ言わせていただきます』

「何かしら」

『飛鳥先生言われていた私達にも隠してる本音……後でちゃんと聞かせてもらいますからね!』

「……そういうのは、私を倒してからにして!」

「……ッ!! 全員防御か回避行動を! 盾を持っている生徒は回避の間に合わない他の生徒のフォローして!」

 

 アコの言葉に冷たく突き放すような態度で返したヒナが銃の引き金を引く。

 その瞬間、おおよそ普通の機関銃から出るとは思えないような発砲音が辺り一帯に響き渡った。

 それを察知した飛鳥が即座に指揮下の生徒達に指示を出していたが、紙一重で間に合わなかった。

 フレデリックから共有されたアビドスの生徒達との戦闘ログ、その中で最も兵装が似通っているノノミのそれを遥かに凌ぐ火力を誇るヒナの攻撃が彼女の正面に展開していた風紀委員の生徒達に襲い掛かる。

 飛鳥の指示に反応できなかった大半の生徒は無防備な状態でそれを食らい、次々と倒れていった。

 かろうじて飛鳥の指示に反応して盾を構えていた生徒も、そのあまりの威力の高さにガードを崩されて倒されていく。

 余りにも圧倒的な暴力を前に、それでも冷静さを失うことなく飛鳥はオルガンを起動させて周辺の味方戦力と配置を即座に把握する。

 そして被害を最小限に抑えられるよう生徒達を的確に誘導していった。

 

「風紀委員の第二部隊、後方へ下がって! 第四部隊は第二部隊の援護を!」

『第二部隊は第三部隊と合流じゃなかった!?』

『馬鹿! それは違反者捕まえる時の話だ! 今はもう違うんだよ!!』

『こちら第四部隊! 第二部隊はどこにいるの!?』

『こちら第六部隊! 側面からの突入はどのタイミングで!? 指示を求む!』

『行政官! 指揮系統はどこが最優先ですか!? 最新の指示は飛鳥先生のもので間違いないでしょうか!!』

 

 しかし、飛鳥がいかに人並外れた能力を持っていたとしても実際に動くのは生徒達だ。

 突然の指揮系統の変更、自分の所属する委員会のトップとの敵対と少なくとも風紀委員達にとっては余りにもイレギュラーな事態が重なっており、それがパニックという形で彼女達の動きに如実に表れていた。

 いくら飛鳥が最適な指示を出そうとも、一度起きた混乱を飲み込める生徒達ばかりとは限らない。

 アコやイオリ達が戦闘の意思を見せたことで士気が持ち直したとはいえ、流された生徒も少なくないだろう。

 実際飛鳥が出した指示を聞き洩らした生徒や、聞いたうえでアコに指示を求めている生徒が何人もいた。

 そうしている間にもヒナに撃破される生徒は増える一方だ。

 やはり、自分一人ではどうにもならないのか。

 そう歯噛みした時、飛鳥に通信が入った。アコだ。

 

『飛鳥先生、天雨です! 展開している風紀委員全体の指揮は私達がやります! 奥空アヤネさん、あなたも手伝ってください!』

『へっ!? は、はい!! 飛鳥先生は先輩達と便利屋の指揮に専念してください! 』

「助かるよ天雨さん、奥空さん。アビドスの皆さんは空崎さんの正面に展開した風紀委員と一緒に正面から彼女を削って! 便利屋68の陸八魔さん、浅黄さんはアビドスの後方から援護。鬼方さんと伊草さんは右側面部隊の援護へ!」

【了解!!】

 

 飛鳥の指示を受け、生徒達がそれぞれの持ち場へと駆け出す。

 そんな彼女達に負けじとアコとアヤネは通信で混乱している風紀委員達に指示を出していった。

 

『第二、第四部隊は後方へ退避。ヒナ委員長の正面にいる第一、第三中隊は攻撃をアビドスと便利屋に任せ、委員長の正面で防御に専念! 第六、第八中隊はアビドス高校の奥空アヤネさんに指揮を引き継ぎます!』

『こちらアビドス高校の奥空アヤネです! 後方で待機している風紀委員の第六、第八中隊の皆さん! 今から皆さんの指揮は私が取ります!』

 

 即興ながらも、通常なら考えもしないような連携がその場で急速に構築されていく。

 突然の戦闘開始にガタガタになっていた戦線が少しずつ持ち直しはじめ、ヒナの攻撃に耐えるばかりだった状況が変わり始めた。

 しかし、それでも飛鳥は欠片も安心することは出来なかった。

 そう。今の今までヒナは一歩たりとも最初の位置から動いていないのだ。

 動いていないのだから当然、アビドスや便利屋達から有効打足りえる位置への銃撃を何度も受けている。

 そんな状況なのにもかかわらず、彼女はその場から動かず的確に反撃をしてこちらにペースを掴ませないでいた。

 

「なんで急所に命中してるのに効いてないのよ!!」

「本当に当たったらマズい弾だけうまく避けたり被弾位置を調整してる……! ホシノ先輩以外でこんな芸当が出来る人がいたなんて」

「私、攻撃力には結構自信あったんですがここまで効かないとショックですねー……!」

「顔は見えないけどずっと涼しい顔してるの、なんだか腹が立ってきたわ!」

「相変わらずのバケモノ具合だねー。この人数で攻撃してびくともしてないって嘘でしょ」

 

 アル、シロコ、ノノミ、セリカ、ムツキがヒナの強靭さに頬を引きつらせながらリロードをする。

 正面の主戦力たちからの攻撃が止んだことを察知したヒナが周囲を警戒しながら、同じようにリロードを始めた。

 その様子を確認したアヤネが風紀委員に指示を飛ばす。

 

『第六部隊、迫撃砲発射してください!』

 

 直後、ヒナめがけて複数の砲弾が飛来した。

 砲弾の方向へほんの少しだけ首を回したヒナは、一瞬かがむような体勢を取る。

 その直後には既にそこにヒナの姿はなかった。単純な跳躍運動だけで、彼女は爆発の範囲から抜け出していたのだ。

 そして誰もいなくなった場所へ何発もの砲弾が着弾する。

 

『そんなっ!?』

 

 人並外れたヒナの回避行動にアヤネは驚きの余り指示が出来ずに固まってしまう。

 

「砂狼さん、黒見さん、十六夜さん、浅黄さん! 空崎さんが二時方向から建物の屋根伝いにこちらに向かっている。僕の合図と同時に迎撃を! 精度よりも弾幕を張って! 動きを鈍らせるだけでいい!」

 

 いち早くヒナの動きに気づいた飛鳥が生徒達に指示を飛ばし、生徒達がヒナが来るであろう方向へ狙いをつける。

 飛び出す瞬間を狙われているということが明らかなはずなのに、それでもヒナは迂回もせず真っすぐと飛鳥の方へと向かってきていた。

 そして躊躇うことなくヒナは飛鳥達の傍の建物から飛び出す。

 

「攻撃開始!」

 

 飛鳥の号令と同時に生徒達の銃が火を噴く。

 もはや幕というよりも壁と言っていいほどの密度で襲い来る弾丸を前に、空中で回避行動のとれないヒナは防御を選択するしかなかった。

 だが、それだけの攻撃を受けてなおヒナはひるまない。

 そしていよいよ飛鳥がヒナの射程距離の中に捉えられた。

 

「せ、先生ぇっ!」

 

 セリカが悲鳴にも近い声を上げて飛鳥の方へ駆けだそうとするが、その時には既にヒナの銃口が飛鳥の眉間を捉えていた。

 それを飛鳥は真正面から見つめ返す。もはや回避行動など間に合わない距離だ。

 ヒナの指が引き金にかかる。

 そして辺り一帯に凄まじい銃声が響き渡った。

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