そして話は前に進まない。
ゲヘナの風紀委員との奇妙な共闘から二日経った。
流石に色々ありすぎたということで、フレデリックはあの日対策委員会の生徒達が帰る前に二日は休めと言い渡していた。
よって今日まで委員会は動かない。
とはいえ、その間何もしないというのはフレデリックの性には合わない。
昨日はこれまでの情報をシャーレにいる飛鳥とジャック・オーに共有して今後の方針についてたっぷりと会議をしていたが、今日は彼らもやることがあると言って会議は無しになっていた。
ノノミに紹介された借家のベッドで一人寝転びながら、フレデリックはケイオスについて考えを巡らせる。
ケイオスによってもたらされた情報や、その狙いは相変わらず読めない。
ハッピーケイオス。あるいは、第一の男。フレデリックや飛鳥、各国の政治中枢達の幾多の作戦や対策。その全てをたった一人で上回った世界一の大魔導士。
カイを通して聞いたダレル*1の話、それからホワイトハウスでケイオスと直接話した飛鳥の話、フレデリック自身がケイオスの口からきいた話から、ケイオスには分かりやすい目的と言うものはおおよそないらしいということは分かった。
どの話にも共通しているのは、ケイオスが真実のリアルだとかドラマ、脚本……そう言ったものにこだわっているということ。
ダレルとの会話では、例えば最強の盾を造る為と言う目的があった時、やることは最強の剣を造ることだと言ったらしい。何故なら最強の盾を造るという目的を果たすために、人々がありとあらゆる可能性を尽くす。その過程で生まれるドラマが見たい、と。
その話を聞いた時、フレデリックの脳裏に
あの時、フレデリックはカイに今の人間達の在り方がいびつに見えると話した。
法力と言う魔法を得て資源を奪い合う必要もなくなり、確かに社会は安定し完成に近づき、平等で豊かになっていった。
だがその一方で、人は何かを選択する権利も失っていっているのだと。
それはケイオスの言うドラマから限りなく離れた人の姿だ。
飛鳥とホワイトハウスの制御権*2を奪い合った時には、ケイオスはまさにフレデリックが口にした言葉とそっくりなことを語っていたらしい。
曰く、窓も出口もない真っ白な部屋に独りぼっちで居させられて、しかし病気やケガに苦しめられることもなく、食料も十分にある。
電話を使えばいつでも誰とでも話せる状況で、ある日突然声が聞こえてくるのだ。『ここから出てはいけないよ、皆もそうしているから君もそうしなさい』と。
そして、今の人間達がそんな白い部屋を作っているように見えるとケイオスは言ったとのことだった。
白い部屋。言い換えれば選択の権利のない世界。あるいは、
「花火……か」
ふと、フレデリックは自分の頭の中に浮かんだフレーズを口にした。
そう、花火だ。元居た世界では、誰も彼もが自分の望む世界を掲げてあちこちぶつかってきた。
その様をフレデリックは花火だと表現した。
そんな奴らがたくさんいたから、フレデリックは自分を独りではなく一人だと認識できたのだ。
不意に脳裏に浮かんだのはホシノのことだった。
初めて会った時の独りであることに努めようとしている目。
便利屋68と初めて戦った時、シロコが傷つきそうになったことに怯えたあの姿。
世界と一人、どちらを取るのかと問いかけてきて『一人を救ってから、自分達がこれからも生きられるよう最後まで諦めない』と返したフレデリックの答えに『そんなおとぎ話みたいになるわけがない』と吐き捨てたあの小さな背中。
自分とは歩んだ道が全く違うだろう。それでも思い起こされたホシノの姿にフレデリックは過去の自分の面影を感じた。
ギアという化物になり、全てを壊せという本能に必死で抗いながら、真っ当な未来をどこかで諦めて人を寄せ付けないように振舞い続けたあの百年。
ギアと言う人間の欲望が生み出した罪を、その一端を担ってしまった者として全てのギアと飛鳥を殺すと心に決めていたはずなのに。
ジャスティスの娘であるディズィーを見逃し、彼女とカイの子でありギアの血を引いたシンを育てた。
フレデリックと言う名前も何もかもを捨てたはずなのに、読まない本みたいに積み上がっていた大事な何かをこれ以上失うことを恐れて周りと深くかかわることを拒み続けた。
「……ったく、ひでぇ話だ。いくら隠居を始めたからって、過去を見つめなおす日が来るとはな」
自嘲しながらベッドから体を起こす。本当はずっと薄々感づいていたのに、もしかしたら直視することを避けようとしていたのかもしれない。
別に恥ずかしい過去だとは思わない。それでも何度も見返したいような記憶でもないのは確かだ。
全ての因縁にケリをつけた今、過去よりも現在、未来に目を向けるべきだと思っていた。
けれど、それだけではダメなのかもしれない。
そう思いながら、フレデリックは思考を再びケイオスのことへと戻した。
ケイオスはもしかしたら、ホシノのような生徒が増えることを忌避したいのかもしれない。
その為に、最強の盾と言う課題を目についた生徒……あるいは学園に与えようとしている。
もし合っているのだとしたら、とんでもない荒療治だ。課題を出された側からすればとんだ迷惑である。
確かに課題を達成できれば生徒達はよりデカい花火になれる。
その為の手助けをするのが、自分達の役割なのかもしれない。
「やれやれ……ヘヴィだぜ」
ため息を一つ吐いて、フレデリックはベッドから立ち上がる。
結局、またケイオスの手のひらの上ということになる。
気に入らないと言えば気に入らない。
かといって、ケツをまくって逃げるというのはもっと気に入らない。
年端も行かないガキ達が未来を悲観する様なんて、見ていて気持ちのいいものではないのだ。
大体、誰かの手のひらの上で転がされるのは
なら、精々自分の好きなようにやってしまえばいいだろう。
そんなことを考えながら外に出る為の恰好に着替え、スマホをポケットにしまい、シャーレのコートを羽織った。
「……とりあえず学校に顔を出してみるか」
思い立ったが吉日だ。どのみちじっとしているのも性に合わないのだから、ちょうどいい。
部屋に鍵をかけて、フレデリックは駐車場に止められていた自分のバイクに跨った。
空は、これ以上ない位に晴れ渡っていた。
「ツーリングには悪くねぇ」
そう笑って、フレデリックはバイクを走らせた。
お気に入り、感想、誤字指摘ありがとうございます。
前回の話でカヨコがアルちゃんを「アル」と呼び捨てたことに対して「社長では?」といくつかご指摘をいただきましたが、これは意図したものになります。
一応公式コミカライズ作品の一つ、便利屋業務日誌では実際にカヨコがあるちゃんを呼び捨てにするシーンがあります(ゲームの方ではまだ確認できてませんが……)
なので、ご指摘いただいたのに恐縮ですが特に修正はしません。よろしくお願いします。