BlueArchive -Strive-   作:笹の船

54 / 148
HEAVY DAY

 カイザーコーポレーションはアビドスのどこかにある何かを探している。その為にアビドスの土地を一つ残らず買い占めたい。

 その目的が分かった対策委員会とフレデリックは、これからの行動方針を話し合うことにした。

 

「でも、アビドスにお金になるような物はないのよね?」

 

 腕を組んで難しそうな表情をしながらセリカが唸るように呟く。

 

「そうだね。もしもそんな都合の良いものがあるんだとしたら、前の生徒会達だって、それこそ私達だって飛びついていたはず」

「ホシノ先輩の言う通りです。石油など、お金になりそうな地下資源なんかは何一つ残っていません。……はるか昔に、既にそう言う調査結果が出ているんです」

 

 ホシノが眉間に皺をよせ、アヤネが眉尻を落としなが等彼女の言葉を肯定する。

 そんな彼女達に、フレデリックはふと顔を上げて問いかけた。

 

「……エネルギーリソースでもない、もっと別のもの……か?」

「え……? フレデリック先生、それってどういう……」

「例えばの話だ。アビドスはかつて大規模な自治区だったと聞く。なら、初めてアビドスに目を付けた奴らは何をもってここにデカい街を(おこ)した?」

「まさか、宝物があることを知っていて……それを守るとか、その為だったりとか?」

「そんな都合の良い話があるわけないじゃない! 大体、そうだとしたらなんでそのことを誰も知らないのよ!」

 

 フレデリックの説にセリカが声を上げて反論する。他の生徒も概ね同じ考えなのか、そうだったらいいのにと言いたげな表情で視線を僅かに下に落としていた。

 しかし、フレデリックは小さく肩をすくめてセリカに語り掛ける。

 

「最初からそのお宝が隠されていたとしたら? 秘匿された情報ってのは数十年もあれば簡単に失われるぞ。なんせ語る人間がほぼいなくなるんだからな」

 

 それこそ、フレデリック達の世界のホワイトハウスがまさにそれだった。あの敷地が100年前に丸ごと宇宙船に改造されていると知っていたのは飛鳥と、ケイオスの二人だけ。アメリカ合衆国の現大統領でさえ、その秘密を知らなかった。

 しかし、そんなフレデリックの言葉にシロコが疑問を投げかける。

 

「じゃあ、どうしてそんな忘れられたはずの秘密をカイザーの奴らが知ってるの?」

 

 シロコの言う通りだ、と他の対策委員たちの視線がフレデリックへと集まる。

 しかし、フレデリックはまたも肩をすくめるだけだった。

 

「知るか」

「知るか……って。先生、冗談を言ってる場合じゃないでしょ~?」

「冗談のつもりはねえ。が、あくまで完全な憶測の話だ。仮にこの憶測が正しかったとしても、カイザーの野郎どもがどうやってそれを知ったかまでは俺には分からん。とにかく、奴らは何かを狙ってる。その何かが分かれば、最悪先手を取ってこっちがそれを確保しちまえば交渉に持っていくくらいは出来るかもな」

「でも、手がかりが何もないんじゃあ……」

 

 ノノミの弱気な発言に、部室にどんよりとした空気が漂い始める。

 言ったはいいものの、フレデリックとしてもこの広大なアビドスの中からあるかどうかも分からないお宝を探し出せる確証はほとんど持てなかった。

 そんなギャンブルに興じるくらいなら、カイザー共の不正を暴いてこちらに有利な話し合いをする方が余程勝算がある。

 だが、相手もそれなりの企業だ。アビドス高校から返済された借金を使って刺客を差し向けた証拠となる集金記録と、ブラックマーケットで違法取引されている商品の取引記録。この二つ程度ではいくらでも言い逃れできてしまうだろう。

 何か、もっと決定的な証拠が必要だった。

 せめて、便利屋68への恐喝の証拠が残っていたら。と考えてからフレデリックは首を横に振る。

 アルはあの時の通話内容を記録していないと言っていた。過ぎてしまったことをうだうだ言っても仕方がないだろう。

 その時だった。

 

「っ!? 大型車両が学校の敷地に向かってきています!」

 

 アビドス高校が用意していた警戒網に何者かの反応があったことをアヤネが知らせる。

 その瞬間、フレデリック含め全員が臨戦態勢を取り始めた。

 カタカタヘルメット団は既にいないが、かといってカイザーが新たに傭兵を雇わないとは限らない。

 アヤネが接近してきているのが何者か確認している間に、他のメンバーは素早く装備のチェックを進める。

 

「ドローン、対象を捉えました! ……これは、カイザーコーポレーションの軍用車両!?」

「っ!?」

 

 今の今まで話題を上げていた敵性存在の登場に、部室内の緊張が一気に高まる。

 その緊張感のせいか、セリカとシロコが眼光を鋭くして今にも飛び出そうと態勢を整えているのにフレデリックは気が付いた。

 感情に任せて飛び出すのはおそらく悪手だ。故に、彼女達を止めねばならない。

 

「全員、俺の指示があるまで部室から出るな」

「っ!? なん――」

「カイザーが戦いに来たんじゃないなら、最初から銃を構えて出て行ったら不利になるのは俺達だぞ。野郎どもに隙なんか晒してみろ、体よく借金を増やされかねん」

 

 フレデリックの言葉にセリカは悔しそうに歯噛みをしながら拳を握りしめた。

 まだ理屈を説けば押さえられる辺り利口だと、フレデリックは内心でセリカを褒める。

 だが、今はそれを表に出している場合でもない。そうこうしている内にカイザーの軍用車両が学校の前に止まった。

 

「ホシノ、アヤネ。俺と一緒に奴らを出迎えるぞ。ノノミ、シロコとセリカと一緒に昇降口で待機。ちゃんと二人の面倒見とけよ。何かあれば合図する。そしたら出てこい」

「は、はい!」

 

 そう言ってフレデリックは早足で校門へと向かう。

 生徒達もその後ろについてくるが、フレデリックの指示通りノノミ、シロコ、セリカは足を止めた。

 

「行くぞ。いいか、俺が良いと言うまで銃を構えるなよ」

 

 校庭に出ながらフレデリックは後ろについてくるホシノとアヤネは小さく頷く。

 それを確認してから校門まで歩くと、既にそこにはカイザーPMCのワッペンをつけた兵士達がずらりと並んでいた。

 その中央に、ひと際大柄で仕立ての良いスーツを身にまとったロボットがいた。

 

「これはこれは。ごきげんようアビドス高等学校の諸君。……それと、君はシャーレの先生かな?」

「そうだ。連邦捜査部シャーレ所属、アビドス高等学校アビドス対策委員会顧問のフレデリック=バルサラだ」

 

 フレデリックの自己紹介に目の前のロボット――一応人としてのコミュニケーションは取れるようなので男としよう――が彼のことをまじまじと見つめる。

 

「ふむ……シャーレの先生と言うのはまた、随分とガサツな男のようだ。仮にも大人だというのなら、もう少し身なりを整えたらどうかね?」

 

 シャツの第二ボタンを開け、ネクタイは明らかに緩められ、若干シワのついたシャーレのコートを羽織ったフレデリックの姿を見た目の前の男は嘲笑と共に聞いてもいないアドバイスを投げかけてくる。

 だが、あからさまな挑発にもフレデリックは全く動じなかった。

 

「そいつは悪かった。なんせアビドスは俺の基準じゃ暑い気候でな。大の大人が生徒の前でぶっ倒れたんじゃ格好もつかねぇからな。体調を優先させてもらっていたと言う訳だ」

「それはそれは。こんな辺鄙(へんぴ)な学校の顧問にさせられるとは、心から同情をするよ」

 

 もはや隠そうともしないアビドスを見下す態度に背後からの気配が強くなる。

 実際見てみないと分からないが、恐らくホシノとアヤネがかなり険しい表情をしているのは想像に難くなかった。

 フレデリックとしても聞いていて気持ちのいい話ではない。故に、本題に入らせることにした。

 

「それで? カイザーコーポレーションの……見たところお偉方のようだが。一体アビドス高校に何の用だ?」

「ああ、自己紹介が遅れたな。私はカイザーコーポレーションで理事をやっているものだ。……さて。先日、我が社が所有する土地で未認可の戦闘行為が行われていると通報があってね。幸いその周辺に住んでいる()()()の方々には怪我がなかったようなのだが……建物にはそれなりに被害が出たのだよ」

 

 カイザー理事の言葉にフレデリックは内心で舌打ちをした。

 相手が話しているのは明らかにゲヘナの風紀委員長のヒナと戦闘を行った時のことだからだ。

 そして、そこを突かれてしまうのはフレデリック達に取っては都合が悪い。カイザー理事の被害者でこちらが加害者というのは一応は正しいのだから。

 だが、フレデリックはそんなことをおくびにも出さずに会話に応じる。

 

「そいつは災難だったな。俺はまだこの街に来て日が浅いんだが……そういうことはキヴォトスじゃ珍しいことじゃないんだろ?」

 

 あえてバカな振りをしてそう問いかけてみれば、カイザー理事はやや不愉快そうにカチャカチャと指の可動部を鳴らしながら拳を握っては開くと言った動作をした。

 

「……どんな切れ者が出てくると思えば、下らない茶番をしてくるものだ。カタカタヘルメット団と便利屋を言いくるめたのは、金と権力にモノを言わせただけなのか?」

「ほう? 面白そうな話じゃねぇか。詳しく聞きてえな」

 

 ヘルメット団のことも、便利屋達とのことも外部には特に漏らすようなことはしていない。

 知っているとしたら、それは彼女らを雇ったカイザーの人間がその動向から正しく情報を整理して推測するくらいのものだ。

 つまり、フレデリックからすればこの時点で一連の事件の黒幕だとカイザー理事が自白したようなものだ。

 だが、その程度で潰せるほど相手も甘くないだろう。仮に甘かったとして、そんなミスを帳消しにして余りある切り札を用意していると考える方が自然だ。

 そして、フレデリックの懸念通りカイザー理事は苛立たし気に本題に入った。

 

「貴様らが勝手に暴れたせいで、土地の価値が落ちたんだ。これは我が社の資産に対する攻撃と捉えられるのだよ。つまり、我々は貴様らに損害賠償を請求することが出来る」

「証拠はあるんだろうな?」

「下らん言い逃れは止めた方が良いぞ若造。こちらには十分な目撃情報があるのだからな」

 

 若造か、とフレデリックは思わず忍び笑いを漏らしてしまった。実際は明らかに自分の方が歳上だろうに。

 それが(かん)(さわ)ったのかカイザー理事は目を細めた。

 

「……何がおかしい?」

「いや、なんでもない。……で、いくら払えってんだ?」

「ああ、金は必要ないんだよ。我々の要求は一つ。……小鳥遊ホシノの身柄だけだ」

「っ!?」

「なんだと?」

 

 カイザー理事の言葉に背後のアヤネとホシノが息を呑み、初めてフレデリックの表情が険しいものへと変わる。

 そんなフレデリック達にカイザー理事は気を良くしたのかややトーンアップした声色で続けた。

 

「ああ、そうそう。要求に応じてくれるというのならアビドス高校の借金も帳消しにしよう。どうかね? そちらにとっても悪い話ではないだろう?」

「そんな……そんな横暴な話が通るはずがありませんっ!!」

 

 カイザー理事の言葉に耐えかねたように声を張り上げたのはアヤネだった。

 けれど、カイザー理事はそれにため息を吐くだけだ。

 

「横暴? これは正当な取引だよ。君達は自分達がどれだけの借金を抱えているのか正しく理解しているのかね? そもそも、この借金は君達が背負うべきものですらない。私としては可及的速やかにこの土地を明け渡して転校することをお勧めしたいのだがね?」

「それは……それはできません!」

 

 やや気圧されながらも、それでも毅然とした態度でアヤネがカイザー理事の言葉をはねのける。

 しかし、カイザー理事はそんなアヤネに呆れた態度を隠そうともせず続けた。

 

「何故かね? 学校に通うだけならここでなくてもできる。それこそ皆一緒に同じ学校へ転校すれば場所が変わるだけで、これからも仲良く学校生活を送れるではないか」

「この学校は、この街は私達の街です! 簡単に諦められるわけありません!」

「は! その為に何百年もかけて借金を返すというのかね? その後にこの砂まみれの何の価値もない街を再興すると? その時に自分が生きているかも分からないのにか?」

「それでも……それでも私達は諦めません!」

 

 なおも食い下がるアヤネにカイザー理事は今度こそ大きなため息を吐いた。

 

「私から言わせてもらえばな、君達こそがアビドスの疫病神なのだよ」

「……え?」

 

 カイザー理事の言葉にアヤネがうろたえる。

 

「そうだろう? 返せもしない借金を返すために必死になって死に体の学校を守る……ああ、実に悲劇的な物語としてウケるだろう。だが、その為に君達はあったかもしれないこの街の未来をどれだけ貪るつもりだ?」

「そんな……貪っているのはあなた達の方じゃないですか! アビドスの土地を次々に買い占めて、土地から人を追い出して行って……!」

「人聞きの悪いことをいうのは止めてもらおうか。我々はあくまで合法的にアビドスの土地を買い上げただけ。売ることを決めたのは君達アビドスの生徒会だ。ああ、そう言えば思い出したよ小鳥遊ホシノ。君の隣には随分と頭の悪い生徒会長がいたな?」

「っ!! アンタ……!!」

 

 カイザー理事の言葉に、それまで無言を貫いていたホシノが初めて反応を示す。彼女は、必死に怒りを抑えるように唇をきつく噛んでいた。

 

「出来もしない理想を語ってただただ自分のエゴで借金を返して廃校を先延ばしにする……これが疫病神でなくて何だというのだね? いっそ我々に土地を明け渡してしまえば、金のない君達よりもずっとずっとこの街を再興する為の活動が出来るというのに」

「……っ!!!!」

 

 カイザー理事の言葉にホシノの目が開かれ、そして力なく伏せられた。

 その直後だった。

 

「さっきから聞いてれば好き勝手言って!! ここは私達の学校(いばしょ)よ!? 見捨てられる訳、ないでしょ!」

「セリカちゃん!? 待って!!」

 

 辺り一帯に響き渡るほどの大声を上げながら走ってきたのはセリカだった。後から慌てたように走ってくるノノミとシロコを見るあたり、二人を振り切って飛び出してきたらしい。

 そして、完全に頭に血が上っているのであろうセリカは銃口をカイザー理事へと突き付けていた。

 そんなセリカを前にして、しかしカイザー理事は愉快そうに鼻を鳴らす。

 

「ほう? 随分と威勢のいい生徒が飛び出してきたが……ソレをこちらに向ける意味が分かっているのかね?」

「セリカ、銃を下ろせ」

 

 これ以上はマズい。フレデリックがそう思いセリカを制止するも、セリカはキッとフレデリックを睨み返して言う事を聞こうとしない。

 

「先生は黙って!! コイツは――」

下ろせ

「ヒッ……!?」

 

 ヒナが発したあの圧倒的プレッシャーすら霞むほどの威圧感がフレデリックから漏れ出し、それをもろに浴びたセリカは一瞬で顔を青ざめさせた。

 

「な、なんでよ――なんでよ先生ッ……!!」

「文句ならあとで聞く。だが今は大人しくしてろ」

 

 普段のちょっとぶっきらぼうなくらいの声色に戻ったフレデリックの言葉に、セリカは力なく銃を下ろした。

 それを見てから小さく息を吐き、フレデリックはカイザー理事に向き直る。

 

「ウチの生徒が悪かったな。コイツにはあとでキッチリ言って聞かせておく」

「別に構わないとも。それで? 我々の要求は呑んでもらえるだろうか」

 

 カイザー理事の言葉にフレデリックはチラリと後ろにいるホシノの方を見る。

 ホシノは俯いており、その表情は伺い知れない。

 だが、その両手がきつく制服のスカートを握りしめているあたり、かなり精神的に追い詰められているのは明らかだった。

 今彼女に決断を託すのは最悪の展開になる。フレデリックにはその確信があった。

 

「この学校の、生徒達の先生として生徒の進路に関わる問題を今ここで決めさせる訳にはいかねぇな。だいぶ刺激的な講義もして貰ったんで、ウチの生徒達も興奮しちまってる。いったん落ち着く時間をくれ」

 

 フレデリックが選んだのは時間稼ぎだ。今この場で起死回生の一手は打てない。その手札はフレデリックの手の中にはない。

 だが、だからと言ってここで引き下がるわけにもいかない。それだけはダメだ。

 しかし、カイザー理事はそれを許すつもりはないようだった。

 

「何を言っているのかね? これはお願いなどではないのだよ。命令だ。何なら、こちらが本気だということを教えて差し上げよう」

 

 そう言ってカイザー理事は懐から携帯端末を取り出してどこかへと連絡をし始めた。

 

「私だ……そうだ……進めろ」

「な、何……? 今の『進めろ』って」

 

 セリカの震えた声に、カイザー理事は愉快そうに目を細める。

 

「残念なお知らせだ。どうやら、君達の学校の信用が落ちてしまったそうだよ?」

 

 理事の言葉の直後、アヤネの懐から着信音が鳴り響いた。

 慌ててアヤネがそれに応答し、そしてすぐ驚きに目を見開いた。

 

「ら、来月以降の利子の金額は9130万円……って、そんなどうしていきなり!? ま、待って下さ……!」

 

 アヤネの制止の言葉も届かなかったのだろう。アヤネはただただ呆然とした表情で通話が切られたスマホの画面を見つめることしかできなかった。

 

「テメェ……」

「これで分かっただろう、シャーレの先生。君にこの状況をどうにかする権利も義務も手段もないのだよ。そして、アビドス高校の未来もな」

「そ、そんな……」

 

 ノノミが絶望に打ちひしがれたような沈んだ声で嘆く。

 その直後、ゆっくりとホシノが顔を上げる。そして、一歩前に踏み出した。

 

「分かった、私が――」

「今月の売り上げ、3億5500万円」

 

 ホシノの言葉を遮るように、フレデリックは記憶にある数字を口にした。

 

「……何?」

 

 その場の全員の視線がフレデリックに集まる。

 生徒達は一体何のことか分からず呆然とした表情で、カイザー理事は思い当たることがあったのかやや怪訝そうな表情でフレデリックを見た。

 それに構わずフレデリックはなおも続ける。

 

内訳(うちわけ)は洗浄済みの違法銃器。拳銃が500丁、ライフルが1000丁、散弾銃が300丁」

「先生? 一体、何の……」

 

 シロコの戸惑った声をあえて無視し、フレデリックはカイザー理事に不敵に笑いかける。

 

「主な取引先は無法地帯を拠点とする違法組織。今回は違法オークションの警備を担当する会社が一番の上客だったか。ああ、そう言えば近い内にゲヘナでも一つ開催されるって話だったな」

「貴様……それをどこで……!」

 

 フレデリックの話す内容にカイザー理事から余裕が消え去っていく。

 これはブラックマーケットの銀行を襲った時に手に入れたカイザーが裏でさばいていた売れ筋商品の取引記録の内容だ。

 この程度、カイザー理事に致命傷を与えることは出来ない。だが、それなりのダメージを与えられるだけの力はある。そう判断してのカミングアウトだった。

 そんなフレデリックの咄嗟の機転に見事にハマってうろたえる理事へフレデリックは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「さて、随分と面白い()()()()だよな? だが、善良なキヴォトスの人間としては犯罪行為が行われるってんならしかるべき場所に通報すべきだとは思わねぇか?」

「この……!」

「そこで取引だ」

「取引……だと?」

「そうだ。テメェの要求を呑むかどうか。その答えを出すのに一週間待ってくれりゃあいい。そうすりゃ俺はこのうわさ話をただの与太話だとして誰にも伝えねぇ。……そっちにとっても悪い話じゃねぇだろ?」

 

 フレデリックの要求にカイザー理事が忌々し気に唸り声を上げる。

 だが、何かに気が付いたようにハッと顔を上げて先程までの余裕を取り戻した。

 

「ならばこちらからも条件を出させてもらおう。そちらが指定した一週間後、残る9億円の借金に対する補償金を我がカイザーローンに……そうだな、3億円預託してもらおうか」

 

 カイザー理事の言葉に対策委員会の生徒達から驚きの声が上がる。

 フレデリックも声こそ上げなかったが、眉間には深いしわが刻まれていた。

 だが、もう後には引けない。

 

「いいだろう」

「では、契約成立としようか。書面は追って送ろう。送り先は……」

「アビドス高校で構わねぇ」

「承知した。ではフレデリック=バルサラ先生、今後ともカイザーコーポレーションをご贔屓に」

 

 そうして高笑いをしながらカイザー理事は軍用車両に乗り込んで走り去っていく。

 その場には険しい表情でカイザー理事が走り去った方向を睨むフレデリックと、途方に暮れて立ち尽くす対策委員会の生徒達が残されるのみだった。




いつもお気に入り、評価ありがとうございます。
もうちょっとで評価者も50人というところまできて、ちょっと夢みたいで浮かれてます。

ここからアビドス編第2章完結まで一気に話が加速する……といいなあ!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。