BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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広がる魔の手

 カイザー理事がアビドス高校を訪れている頃、風紀委員の部室は騒然としていた。

 風紀委員会宛に届けられた一通の封筒。それが原因だった。

 

「もおおおおお! 一体何なんですか!?」

「…………」

 

 どこかと電話していたらしいアコが苛立ちをあらわにしながら受話器を叩き付ける。

 その隣で書類を読んでいたヒナもまた、険しい表情をしていた。

 

「アコちゃん、一体どうしたんだ? その手紙に何が……」

 

 訳も分からずイオリがアコにそう問えば、アコは忌々し気に表情を歪めながら吐き捨てた。

 

「カイザーPMCからの損害賠償です! 先日のアビドスや便利屋との戦闘が行われた場所が、彼らの所有する土地だったと」

「で、私達が暴れたせいで建物とかに被害が行って土地の価値が下がった。だから損害賠償を払え、と。向こうはそう言ってるわね」

「それは……」

 

 アコとヒナの状況説明に、イオリは気まずそうに口をつぐむ。

 状況だけ見れば相手の言っていることは至極まっとうなものだからだ。

 しかし、それで納得していないのがアコだった。

 

「確かに、私達は今回彼らの土地で戦闘をし周囲に損害を与えました。それについて弁償しろと言うのは分かります。ですが、問題はその金額なんですよ!」

「え……いくらって言われてるの……?」

 

 イオリの問いにアコはキッとイオリを睨みつけ、それが八つ当たりだと気づいたのか小さく咳払いをした。

 そんな彼女を見て、ヒナが小さなため息を吐きながらイオリの問いに答える。

 

「1億円よ」

「ハァッ!? いくらなんでもおかしくないかその金額!?」

「そうです!! 金額だけ見れば明らかに高すぎますし、1億払えと言うだけで弁償内容の明細すら送られてきていません!! だから電話して問い詰めてみたら『文句があるなら払わなくても結構ですが、その場合は出るとこ出ますよ』とだけ言って電話を切られたんです!! おかしいでしょうどう考えても!!! せめて明細くらいは出したらどうなんですか!!」

 

 ヒートアップしてしまって大声で、しかも一息で不満を一気にぶちまけたアコは流石に肩で息をしていた。

 普段ならそれを咎めるであろうヒナも、今回ばかりはアコの言葉に同意しているのか特に何も言わなかった。

 

「え……っと。これ、私達どうしたらいいんだ……?」

 

 イオリのか細く漏らされた困惑の言葉は、誰に拾われることもなく部屋の中へと溶けて消えていった。

 

 

 

 同じ頃、ゲヘナのスラム街にて。

 突如ビルの合間の路地から爆炎と煙が勢いよく吐き出された。

 

「なになになになに何なのよ~!?」

「コイツら、カイザーPMC!? なんで……!」

「結構しつっこいよねぇ! アルちゃん、もういっそ全部ふっ飛ばしちゃおうよ!」

「………………ふふ」

 

 路地から飛び出してきたのは便利屋68だった。

 それを追うように路地からカイザーPMCのオートマタ達が彼女達めがけて射撃をする。

 襲われる理由が分からないこと、相手がブラックマーケットでも有数のカイザーグループ企業であること、現時点でカイザーローンに不当な借金を背負わされていることからアルは彼らに遭遇した時点で逃げの一手を取ることを選択していた。

 しかし、相手もかなりしつこくこのままではじり貧だ。

 かといって下手に反撃をし、損害でも与えようものなら借金を吊り上げられかねない。

 

「もう……! どうしろっていうのよ!!」

 

 毒づきながらもアルは路地の壁に立てかけられた端材などを止めているロープを撃ち抜く。

 木材などをまとめていたそれが断ち切られたことで、便利屋達が通り抜けた直後に路地を塞ぐように木材が音を立てて倒れ込んだ。

 幾つも角を曲がり、とにかく追手から距離を取る。

 時々大通りの方からオートマタ特有の重く金属質な足音が響いてきたのに気が付いて、とっさに進路を変更するということも何度かあった。

 

「社長、これ……!」

 

 そうして何度目かの進路変更を余儀なくされた時、カヨコがアルへ険しい声色で声をかけてきた。

 アルもカヨコの言わんとしていることに気が付いており、眉間に皺を寄せながら頷く。

 

「ええ……」

「これ、完全に誘導されてるよねぇ……!」

「ど、どうしましょうアル様!?」

 

 ハルカの言葉に、アルはキュッと唇を結んで覚悟を決めた。

 

「このまま、奴らの誘導に従うわよ。……でも、無策では行かない。作戦を伝えるわ」

 

 

 

 数分後、路地からアル、カヨコ、ハルカがゆっくりと歩いて出て来た。

 彼女達の前にはぴっちりとしたスーツを着こなしたロボットが高級そうな車の前に立っている。

 

「初めまして、便利屋68の皆さん。私はカイザーコーポレーションのものです。名前は……まあ適当にフィクサーとでも。本日は貴方がたに御用があってこちらにご招待させていただきました」

「御託は良いわ。要件を言って」

 

 敵意を(にじ)ませるように視線を鋭くさせながら、アルはフィクサーと名乗ったロボットに本題に入るよう促した。

 そんなアルにフィクサーはあからさまにため息を吐くような動作をする。

 

「いけませんよ陸八魔アル様。一流を名乗るのであれば、どんな時でも優雅さを忘れるべきではありません」

「お生憎(あいにく)だけど、挨拶代わりに銃弾を寄越す相手への誠実な対応の仕方というのは習っていないのよ」

「それはそれは……ゲヘナ学園のカリキュラムに礼儀作法の時間割はないようですね。……まあ、構いません。では単刀直入に。先日アビドス自治区の近くで行われたアビドス高校とゲヘナ風紀委員会の戦闘。そこに貴方がたもいることが確認できました」

 

 フィクサーの言葉にアルとカヨコに緊張が走る。

 もしもその後、アビドス高校でフレデリックへ協力要請をしたことまで知られているとなると状況はかなりまずいと言わざるを得ない。

 しかし、天はアル達にほんの少しだけ味方をしたらしい。

 

「我々カイザーは今回の戦闘行為によって発生した損害に対する弁償を、アビドス高校、風紀委員会、そして貴方がたへ請求しております。つきましては、一週間以内に我々カイザーローンに1億円お支払い頂きますように」

「ハァッ!? 1億って、滅茶苦茶じゃない!!」

「そうだね。仮にそちらの言い分が正しいとしても、その金額は明らかに不当だよ」

 

 アルとカヨコの反論に、しかしフィクサーは肩をすくめるだけだった。

 

「勘違いされているようですが、これは交渉の場ではありません。私共から貴方がたへ下す命令です。払うのならそれで良し。払わないのであれば……」

 

 パチン、とフィクサーが指を鳴らす。

 それと同時に、あちこちから銃を構えたカイザーのオートマタが出現しアル達を取り囲んだ。

 緊張に顔を強張らせるアル達を見て、愉快そうにクツクツとフィクサーが笑う。

 

「我々にご同行いただき、目標金額分の利益を出すまで我が社で働いてもらうだけです」

 

 完全に包囲されたアル達を見て、フィクサーは勝利を確信したのか高笑いを始めた。

 

「ハーッハッハッハ! 貴方がたはもう袋のネズミなんですよ! ネズミらしく、大人しく捕まりなさい!」

「あら、それじゃあ。こんな言葉は知っているかしら?」

「……?」

 

 高笑いを遮ったのは、不敵な笑顔でこちらを見つめるアルだった。

 一体何をするつもりなのか。何故この状況でそんな顔が出来るのか。

 そして、フィクサーはようやくある違和感に気が付いた。

 

「一人足りない……? 便利屋68は、4人チームでは……」

「気が付くのが遅いね。だからアンタは私達みたいなネズミにしてやられるんだ」

「ナニ?」

 

 フィクサーがカヨコの挑発に顔を歪め、それにアルが更なる追撃をかける。

 

「知らないようだから一流の私が教えてあげるわ。世の中にはね”窮鼠(きゅうそ)猫を噛む”って言葉があるのよ?」

「まさか……!」

「ま、貴方の場合は”油断大敵”って言葉の方がお似合いだけどね。……ムツキ!!」

 

 ニヒルな笑みを浮かべながらアルがムツキを名前を呼んだ瞬間、アル達の背後のビルの上階が突如派手に爆発した。

 

「なんだ!? ……ハッ、まさか!?」

 

 降り注ぐガラスから身を守るような体制になったフィクサーがアル達の狙いに気が付いた時、彼女らは既に駆け出していた。

 

「ハルカ、先陣切って道を切り開きなさい!」

「は、はい!! お任せくださいアル様ッ!!」

「カヨコ、いつもの(パニックブリンガー)!!」

「任せて社長!」

 

 フィクサーが周囲のオートマタへアル達を追うように指示を出そうとした瞬間、周囲一帯にとてつもなく大きな銃声が響き渡った。

 その音量から、オートマタ達はいずれも砲撃クラスの攻撃が来ると瞬間的に誤認。耐衝撃体勢へと移行しようとしてしまった。

 その余りにも大きな隙を晒したオートマタをハルカが密着での射撃で次々と吹き飛ばし道を強引に切り開いていく。

 

「つっ、捕まえろ! 奴らを逃がすなァ!!」

 

 フィクサーがそう喚き散らしたのを聞いて、我に返ったオートマタ達が銃口をアル達の方へ向ける。

 

「ムツキ! もう一発行っちゃいなさい!」

「待ってましたー!!」

 

 だが、彼らが引き金を引く前にビルから飛び出してアル達に合流したムツキがリモコンのボタンを押す。

 直後、再びビル内から爆発が起きた。

 かなり破壊力のある爆発だったのか、瞬間的に地面が大きく揺れる。

 つんのめりそうになりながらも路地へと走り去っていくアル達を追いかけようとオートマタ達が立ち上がった時だった。

 先程爆発が起きたビルがゆっくりと傾き、フィクサーたちの方へと倒れようとしていた。

 

「ッ!?? たっ、退避、退避しろ―!!」

 

 ガラガラと瓦礫と共にビルが崩れる轟音とフィクサーたちの悲鳴を背に受けながら、便利屋68は路地の向こう側へと姿を消していった。

 

 

 

「ねぇ、ねぇっ! 今日の私達、これ以上ない位完璧にアウトローだったんじゃない!?」

「社長! そう言うのは完璧に逃げ切ってからにして!」

「アルちゃーん、流石に今この状況でフラグを立てるのは良くないよー?」

「アル様に頼ってもらえた、アル様に頼ってもらえた……! 今日はいいことづくめですね……!」

 

 数十分後、ゲヘナのスラムを汗だくになりながら走る便利屋68がそんないつも通りの会話をしていたのは、また別の話。




アビ3プロローグ、来ましたね。
前話でフレデリックがそもそもアビドスの土地に大規模な街が興されたのはなぜなのか、みたいな話をしていましたがまさか本当に川があるとか肥沃な土地だとかそう言う分かりやすくて現実的なものではなく、神秘が絡んだ理由があるかもしれないって情報が出てくるとは思いませんでした。
誓ってフライングでプレイしていたわけではありません。いやマジで。

まだプロローグなので、次が来る前にはアビドス2章までの話は決着をつけたいところです。
毎日投稿が出来れば最速で来週の今頃に決着がつく見込みです。
頑張ります。
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