BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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譲れないものの為に

 すっかり日も暮れ、外灯がわずかに辺りを照らすだけとなった薄暗いアビドス高校のグラウンドでホシノはあの大人(フレデリック)と向き合っていた。

 

「……ルールは?」

「どちらかが参ったと言うまでか、気絶するまでだ」

 

 被弾の回数やダウンではなく、参ったと言うまでとは随分な自信だ。まるでホシノが負けるのだと確信でもしているのだろうか。

 そんな思い上がったような態度をとる大人が気に入らなくて、銃のグリップを握る力が強くなる。

 相手との距離は大体3m程度だろうか。

 

「後悔しないでよ。そのルールで行く以上、本当にそっちが気絶するか参ったって言うまで止めないから」

「……おしゃべりは済んだか?」

「ーーッ!」

 

 悪手と分かっていてなお、ホシノは大人の挑発に逆らえず銃を構えて地面を蹴った。

 完全な静止状態から一瞬でトップスピードにまで到達したホシノが大人の懐に潜り込む。

 大抵の敵ならこれで後は銃口を腹部に押し付けて引き金を引く。それで終わりだ。

 けれど、銃口を相手の腹部に突き付けようとする前に視界が何かで埋め尽くされた。

 直後、凄まじい衝撃が顔面一杯に響いてホシノは上体を仰け反らせる。

 何が起きたのか分からない。分からないけれど、とにかく態勢を立て直さなければならない。

 脳が揺れたせいか定まらない思考の中、かろうじてそれだけを考えたホシノは状況を把握しようと大人が立っている場所を睨む。

 だが、そこに大人の姿はなかった。

 どこへ、と考える暇などなかった。その時には地面をしっかり踏みしめられていないホシノの足が何かに払われていたから。

 一瞬の浮遊感。足も、手も地面から離れてしまっている。うつぶせ気味に体勢を崩されたせいで、視界一杯に地面が見える。

 そこへ、あの大人の膝が飛び込んできた。

 

「バンディットッ!」

 

 大人の膝がホシノの腹へと突き刺さり、肺の中の空気が無理やり吐き出させられる。

 

「ごは……ッ!?」

 

 それだけでは終わらなかった。ホシノの腹に突き刺さった膝にさらに力が入ったのが分かる。

 何とかしようにもあの大柄な大人の全体重を乗せたとび膝蹴りの勢いはまだ殺されていないし、何より痛みで体が動かない。

 

「リヴォルヴァー!!」

 

 そうしてホシノは為すすべなく腹に突き刺さった足を振り抜かれて後方へと蹴り飛ばされた。

 勢いよく背中から地面に叩きつけられるも、とっさに後転して後ろ方向に受け身を取る。

 けれど、受けたダメージは思いのほか大きかった。

 

「げほっ……! はっ、はっ、はっ……!」

「どうした、その程度か?」

 

 肩で息をして地面に膝を付くホシノの前には、先ほどと変わらず不遜(ふそん)な態度で仁王立ちをしている大人の姿があった。

 あの鈍器(ジャンクヤード・ドッグ)を背中に担ぎ、こちらを見下ろすその視線はどこか退屈そうな光すら宿している。

 

「こん……のぉぉ!」

 

 再び地面を蹴って即トップスピードへ。

 ただし、今度は大人の懐ではなくその一歩手前でステップが踏めるような力加減で接近する。

 そして狙い通りの位置に自分の足が置かれた瞬間、ホシノは思いきり足に力をこめて地面を蹴飛ばした。

 ホシノの体が宙を舞い、大人の頭を飛び越えた。

 宙返りの姿勢からショットガンを構える。しかし、次の瞬間ホシノは己の失敗を悟った。

 何故なら、アイアンサイト越しに大人と目が合ってしまったからだ。

 だが発砲しない選択肢はない。どうあってもこの距離なら当たるし、撃たなければ着地の隙を狙われる。

 だからホシノは引き金を二度引いて、着地しながら思い切り相手との距離を取った。

 だんだん頭が冷えてきた。そもそも相手は近接武器なのだから、わざわざ相手の土俵に付き合ってやる必要などない。

 先の宙返り射撃に効果がなかったのは見なくても分かる。模擬弾が硬いものに弾かれるような甲高い音が響いていたから。

 でも、それで分かったこともある。模擬弾の中身は通常の散弾とほとんど変わらない。

 つまり、中距離を維持すれば相手の動きは制限しやすい。

 あの鈍器に当たって甲高い音が鳴るくらいには硬いということは、当たれば相当な痛みを与えられる。

 それは向こうも分かっているはずだから、何としても被弾を避けようとするだろう。

 わずかな時間でも、ホシノはあの大人に勝つための作戦を頭の中で展開していた。

 ホシノは即座に横方向へ走り出す。視界には常に大人を捉えられるよう、相手を中心とした円を描くように走り続ける。

 この模擬戦、こちらに分があるのは間違いなかった。

 グラウンドは広く、遮蔽物がない。あの幅広い鈍器がかろうじて盾代わりになるかもしれないが、それでこちらの散弾を防げる範囲も限界がある。

 そして得物のリーチは圧倒的にホシノが上だ。攻撃範囲だって同様である。

 耐久力は……あの大人に懐に入られたらかなりマズいと言ったところだ。何度もあんな攻撃を食らってしまったら、流石のホシノでも耐えられないだろう。

 案の定、大人がこちらに攻撃をする為に距離を詰めてきた。

 相手に照準を合わせて発砲。発砲。発砲。

 一発目、二発目は避けたけど三発目は直撃コースだ。

 それも防がれたけど、相手の動きが止まる。その隙にホシノはまた距離を取って懐の弾丸を四つ鷲掴みにして二つずつ二回に分けて素早くリロードをする。

 けれど、そんな隙を見逃してくれる相手でもなかった。

 ホシノがリロードを終えた時、既に大人はホシノの目と鼻の先に迫っていた。

 そんな大人に対して、ホシノは冷静に銃口を相手の顔面右側を目掛けて突き出す。

 が、それはあっさりと手で払われた。銃口が左側へと逸らされる。だが、それでいい。

 かなり力強く銃を払われたけれど、その分の勢いをそのまま利用してストックを相手へ叩き付ける。

 それすら読まれて防がれたものの、狙い通りだとホシノの唇が三日月状に歪む。

 大人がこちらの意図に気づくその前に、ホシノは引き金を引いた。

 直後、ショットガンの排莢口から空薬莢が飛び出して大人の顔面に叩き付けられる。

 別にこれでダメージを与えられるとは思っていない。それでも、意表をついて隙を作るくらいはできる。

 

「チッ……!」

 

 案の定、大人は驚いたのか一瞬動きが止まる。

 その隙をホシノは見逃さなかった。

 フリーになった銃を腰だめで構えて即座に発砲する。

 ギリギリのところで大人が鈍器を前に構えて防ごうとするけどもう遅い。

 発砲。散弾の大半が体に当たったのか、大人がよろめく。

 それでも鈍器を盾の様に構えていられたのは大したものだ、と思いながらもホシノは銃口をずらす。

 狙いは防御できていない足だ。

 発砲。銃弾が地面をえぐっただけだった。

 

「ッ!?」

 

 さっきホシノがやったように、大人が空中に飛びあがっていた。 

 あの体勢からよく飛べたものだ、と忌々し気に大人を睨みながら銃口を持ち上げる。

 空中に浮いていたのでは回避など絶対に不可能だ。それに、先ほどよりも距離が離れた。

 この距離なら広がった散弾を防げたとしても、衝撃で後ろに追いやられる。

 そうしたらホシノと大人との距離は離れるのだから、またその隙にリロードをして──。

 

「何勝ち誇ってやがる」

 

 飛び上がった大人の言葉に、ホシノの背筋が凍った。

 まずい。早く撃ち落さないと。

 本能的にそう思わずにはいられなくなり、ホシノは大人めがけて引き金を引いた。

 が、その直前に空中に橙色の魔法陣のような物が浮かび上がり、大人はそれを蹴りつけていた(空中ダッシュ)

 結果、ホシノが狙い撃った弾は大人の体を捉えることが出来ず──そして空中で鈍器を振りかぶった(ジャンプS)大人の姿がホシノの頭上に迫っていた。

 これは避けられない。とっさに銃を横に構えて大人の鈍器を受け止める。

 

「オラァッ!」

「グッ……ぅ……!?」

 

 重い。余りにも重すぎて受け止めきれない。そもそも、この威力を受け止めきる前に間違いなく銃がダメになる。

 

「う……ぁああ!!」

 

 だからホシノはありったけの力をこめて受け止めたショットガンの銃身を傾けて鈍器を横に逸らした。

 耳障りな金属音を響かせながら鈍器の刃の部分がホシノの銃を滑っていく。

 

(とにかく……距離を……! あと盾も……!)

 

 あんな攻撃を銃で受けていたら間違いなく銃が故障する。今の一撃でもかなり怪しい位の衝撃とテンションが銃身にかかったはずだった。

 凄まじい威力の攻撃を銃で受けてしまったことで、バックステップを踏みながらとはいえホシノの意識が一瞬銃へと向けられる。

 それは己が半身のように銃を使うキヴォトスの生徒なら当然の、そして絶対にやるべきこと。ことアビドスにおいて誰よりも銃撃戦の経験が豊富なホシノだからこそ、出来てしまったことだった。

 けれどその一瞬は、あの大人相手にはあまりにも致命的過ぎた。

 気が付いた時には、ホシノは胸倉を掴まれていた。

 

「しま──」

「終わったぜ」

 

 相手の足がまるで野球漫画のピッチャーみたいに高く振り上げられる。

 その足を振り下ろすその勢いで、ホシノを掴む腕が持ち上げられた。

 マズい、と思う隙すらなかった。

 次の瞬間にはホシノの背中は地面へと思い切り叩きつけられていた。

 

「ぐはっ……ぁっ……!!」

 

 目の前がチカチカと明滅する。

 飛びそうになる意識を必死で繋ぎ留めながら、ホシノは体を起こそうとするけれど上手く立てない。

 

「メンドクセェ、そのまま寝てろ」

 

 あの大人の忌々しい声が遠くから聞こえる。

 確かに、いつもだったらここで意識を手放したのかもしれない。そもそも、こんなになること自体ほとんど初めてだったような気もするけど。

 でも、ここで倒れるわけにはいかない。

 だってここで自分が倒れてしまったら、誰が後輩達を借金地獄から解放するというのか。

 きっと、あの子達は借金がなくなるまで本気で戦い続ける。そう言うことが出来てしまう。

 でも、それは全部ホシノが始めたワガママに付き合っているだけに過ぎない。

 あんな優しくていい子達を、これ以上こんな地獄に付き合わせるわけにはいかないのだ。

 

「だから──ッ! こんなところで、私は……!」

 

 体中が痛い。銃と盾がこんなにも重く感じるのはいつ以来だろう。

 萎んだ肺に無理やり空気を送り込んで膨らませた。

 ちょっと砂っぽい、けれど新鮮な空気が流れ込んで呼吸が再開する。

 

「まだやんのか?」

 

 四つん這いの体勢からゆっくりと身を起こすホシノの背後から、あの大人の呆れたような声が聞こえてきた。

 怒りは感じない。と言うより、それ以上に負けられないという気持ちがホシノを奮い立たせる。

 

「当たり前だろ……! 私が負けたら、誰が……誰があの子達をこの借金地獄から解放するんだ!! 私が、皆を護るんだ!!」

 

 叫び、ホシノは反転して発砲した。

 当然防がれるけれど、構わず弾倉に残った弾を全て吐き出す。

 即座にチャージングハンドルを引いて固定し、薬室に直接弾を装填。ハンドルを戻す。

 それを見た相手がこちらに向かってツッコんでくるのを見て、ホシノは盾を展開した。

 すっかり忘れていたけれど、今のホシノは対策委員会の委員長だ。

 生徒会副会長だった頃とは違う。守るよりも攻めることが役割だったあの頃とは、違うのだ。

 倒すためでも、壊すためでもない。

 大事なものを護る為にホシノは今日まで戦ってきた。この盾はその誓いそのものだ。

 構えた盾に相手の拳が突き刺さる。ものすごく重い衝撃が来るけれど、これくらいなら耐えられる。

 足を肩幅くらいまで開いてどっしりと構え、相手の攻撃を全て受け止める。

 盾を構える手に伝わる衝撃が、相手の攻撃のすさまじさを物語る。

 ショートアッパー(近S)ボディブロー(遠S)と来てから、相手が右手に持った鈍器を振り抜いてきた(立ちHS)

 空気を切って、なんて生易しいものではない。空気を食い破ると言った方が適切な、ものすごい音と共にこれまでで一番強烈な衝撃が盾越しにホシノの腕を痺れさせる。

 それだけではなく、本気で相手の攻撃を受け止める体勢を取っていたホシノの態勢が僅かに崩れた。

 けれど、大人は攻めてこなかった。いや、距離を詰めてこなかったと言った方が正しいか。

 絶好のチャンスに、一体何を。そうホシノが疑問に思った瞬間、相手は逆手に持った鈍器で地面を払って叫んだ。

 

「ガンフレイム!」

 

 瞬間、鈍器から高さ2mほどの火柱が上がった。

 しかもそれは、こちらに向かってやって来るではないか!

 

「なあっ……!?」

 

 驚きながらもさっきよりも腰を落として低い姿勢で盾を構える。

 どんな衝撃が来ようと絶対耐えて見せると、気合を入れて盾を両手で持った。

 その直後に火柱が盾に着弾、爆発してさっきよりも大きな衝撃がホシノの体を襲う。

 

「くッ……!」

 

 下手をすればそこらのロケット砲と同じくらいの威力だった。こんなものをまともに食らったらマズいのは明らかだ。

 

「ガンフレイム! ガンフレイム!!」

 

 そんな恐ろしい攻撃を、さも当たり前のように目の前の大人は連発してくる。

 それを全て耐えながら、それでもホシノは諦めずに前を見据えていた。

 そして気づいた。相手はガンフレイムを連発しているけれど、火炎放射器みたいに継続的に火柱を出し続けているわけではないし、あれはただまっすぐ進むだけのものだ。

 火柱の幅も精々1~2m位で、横に飛んで回避できない大きさじゃないし、何より弾速そのものは大したことはない。

 そのことに気が付いたホシノの行動は早かった。

 

「ガンフレイム!」

 

 相手の声が聞こえると同時に真横に飛んでガンフレイムの射線から逃れる。

 ちょうど、相手は次のガンフレイムを撃つ体勢を取っていた。

 

(獲った! ここでケリをつけてやる!!)

 

 一度ガンフレイムを撃った後、相手はその反動制御か何かで一瞬動きが止まることをホシノは見抜いていた。

 一秒にも満たない僅かな隙だが、それでもホシノには十分だった。

 地面を蹴飛ばす足に力を込めて、相手との距離を一気に詰める準備をする。

 

「ガン──」

 

 相手の声が聞こえると同時にホシノはそこから飛び出した。

 相手が鈍器で地面を払いそして──火柱は上がらなかった。

 

「かかったか?」

(ッ!!!? 誘われた……!!)

 

 だが、それでも引くわけにはいかない。今から引いても一瞬で距離は詰められるし、何より銃には薬室に放り込んだ一発しか装填されていない。

 ホシノの頭が最適解を導く為に凄まじい勢いで回転し、世界がスローモーションになったように感じられた。

 正面。ダメだ、迎撃される。

 横。速度で勝てない以上対応される。

 ならばイチかバチかで上しかない。あの巨大な鈍器だ。いくら相手が怪力でも、振り下ろすよりは威力が低いはず。

 それなら盾で受けてから、相手の動きが止まったところを撃ち抜く。

 それで倒せれば良し、ダメでも距離を取って再度リロードする隙は出来るはずだ。

 次の行動を決めたホシノは、躊躇いなく再度地面を踏みしめて飛び上がった。

 さっきとは違って少し相手との距離はあるけれど、相手の()()()()()()()()()()()()()()だ。

 なら、盾で受けてから反撃するのではなく頭の上を跳び越すまでの時間はある。

 跳び越してしまえば相手はこちらの攻撃を防ぐことは出来ない。

 今度こそ獲った。そうホシノが自分の勝ちを確信した時だった。

 相手が深く屈んだ。

 

「――?」

 

 今度は何をするつもりだ、とホシノが眉を潜めた瞬間。鈍器から炎が噴き出すのが見えて──。

 

「落ちろッ!」

 

 次の瞬間には目の前に炎をまとった相手の鈍器(S版ヴォルカニックヴァイパー)が迫っていた。

 衝撃。激痛。それから焼けるような熱さ。

 もはやホシノに悲鳴を上げる余裕すらなかった。

 ただただ遠のく意識を必死に繋ぎ留めるのが精いっぱいな彼女は、振り上げられた鈍器をもろに食らった勢いもろくに殺せず二度、三度とはねて、ようやくうつぶせになって動きを止める。

 全身を苛む激痛に、意識が明滅する。

 それでも意識を失わずにいられたのは、ひとえに絶対に皆を守るという想いを持っていたからだった。

 けれど、その想いもボロボロと欠け始めて来ている。

 

(私、何でこんなことしてるんだっけ……)

 

 ぼやけていく視界の中、そんな疑問が心を(むしば)み始める。

 

(私はただ、皆を護りたかっただけ……なのに、なんでこんな痛い思いしてるんだろう)

 

 何かが欠けていく音がする。それは自分の中で凄く大事なもののはずなのに。

 

(結局、今度も私は……何も出来ないんだ。なら……もういいよね)

 

 ピシリ、ピシりと。自分の中にあった芯のような物にヒビが入っていく。

 その時だった。いくつかの光景がホシノの頭の中にフラッシュバックした。

 皆で笑いながら食べた柴関ラーメン。覆面をつけ、コスプレまでしてやった闇銀行への襲撃。ついさっきまで部室で笑っていた後輩達。

 そして、馬鹿で間抜けで現実をまるで見れない、なのにいつだって太陽のように笑って夢物語を現実にしようとしていたあの人。

 

「ーーッ!!」

 

 ホシノの瞳に光が戻る。

 視線の先に転がっていた盾に手を伸ばす。

 盾の取っ手を掴んで、ふらふらと立ち上がる。銃は手の届く位置には落ちていなかった。

 

「…………もうやめとけ。勝負はついただろ」

「ルールで……決めたでしょ。どっちかが……参ったっていうか……気絶するまでって……」

 

 息も絶え絶えになりながらも、ホシノは目の前の大人を睨みつける。

 そうだ。何があってもここで諦めるわけにはいかない。だって、自分はユメ先輩を裏切って後輩達を選んだ。

 アビドスが無くなったとしても、残された後輩達の未来の為にとこの選択をした。

 これ以上何も裏切れない。何も諦められない。

 ここで立ち止まってしまったら、今度こそ小鳥遊ホシノは潰れてしまう。

 

「それとも何? そっちが降参する?」

 

 立っているのもやっとなのに、それでもホシノは目の前の大人を挑発した。

 気持ちだけでも絶対に負けてやらないという、彼女なりの抵抗だった。

 そんな彼女の姿に呆れたのか、頭に来たのか。

 目の前の大人は小さくため息を吐いた。

 

「次で終わらせる」

 

 そう言って、右手に炎をまとわせた。

 本当に、インチキだ。そんな魔法を使えるなんてズルい。

 そんな気持ちがホシノの中に湧き上がる。

 相手が大きく飛び上がって拳を引き絞る。

 

「バンディット──」

 

 右手にまとわせた炎の勢いが増し、辺りを眩く照らす。

 ああ、まるで太陽みたいだ。

 これから自分のところにあの太陽が墜ちてくる。太陽(アビドス)を裏切った自分への天罰だとでもいうのだろうか。

 それが何だ。そんなものはクソくらえだ。

 でもまあ、アレは流石に耐えられない。そんな確信がホシノの中にあった。

 だってもう足はガクガクしてるし、盾を握る手だって上手く力が入らない。

 あんな太陽に落ちてこられたら、万全な状態でも体勢が崩れてしまうだろうに。

 だとしても、逃げるわけにはいかない。逃げたくない。

 せめてあの拳を真正面から受け止めてやる。

 

「ブリンガー!」

 

 太陽が墜ちてきた。着弾点のホシノを焼き尽くさんばかりの輝きと熱を感じる。

 その輝きから一瞬たりとも目を逸らさず、ホシノは盾を持ち上げて構えた。

 直後、ものすごい衝撃が盾越しにホシノに襲い掛かる。

 拮抗したのは一瞬だ。当然押し負けたのはホシノの方で。

 

(あーあ。負けちゃったなあ。これからどうしよう)

 

 眉尻を下げながら力なく笑って、ホシノは盾ごと太陽に押しつぶされることを受け入れた。




感想お気に入りありがとうございます。励みになってます。

アビドス2章まで、最速で今週半ばで終わるとか言ってましたが無理です。
とりあえず書きたいことじっくり書いていきます。
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