フレとGGSTやってたら楽しすぎて間に合いませんでした。
ホシノはカイザーPMCによって連れてこられた研究施設らしき場所の一室で目を覚ました。
気分はおおよそ最悪だ。どこにも行かないとノノミに約束をした矢先にケイオスに
「皆、怒ってるだろうなあ……」
自分にはもったいないと思えるくらいに自慢の後輩達だ。きっと今頃、カモフラージュで置いてきた手紙とか退部届を見て混乱してしまっているんだろう。
でも、きっとジャック・オーかフレデリックなら自分の残したメッセージに気づいてくれるはず。
彼らだけが希望だ。
ベッドから体を起こし、無機質な部屋の天井を眺める。
頭に浮かぶのはこれまでの事、これからの事だ。
対策委員会を立ち上げて、皆で借金返済に向けて頑張った。
フレデリック達が来て、状況はどんどん前へと進んでいった。
けれど、ハッピーケイオスというヤバいヤツのハメられてこんなところに来てしまった。
これからどうなるんだろう。先生が助けに来てくれた後、来られなかったその後。
様々な考えがぐるぐるとホシノの頭の中を巡る。
そうしていると、不意に部屋の扉がノックされた。
「ホシノさん。私です」
本当は顔も合わせたくないけれど、ここで駄々をこねたところで状況は良くはならないだろう。
「……開いてるよ」
ホシノの言葉の後、ゆっくりと部屋の扉が開けられた。
パリッと
おおよそ人間とは思えないような男は、ホシノがよく知るいつものうさん臭い態度で会釈をしてきた。
「昨晩はよく眠れましたか?」
「まあ悪くないんじゃない。お客さんをもてなすにはちょっと殺風景すぎると思うけどね」
「クックック……残念ながらあなたはお客人ではありませんから。……しかし、ホシノさん。あなたは少し変わられたようだ」
黒服の言葉には、新しいオモチャを前にとても愉快な気分になったというような響きが含まれていた。
「そう? 私は別に普段通りだと思うけど」
勿論、ホシノはそんなものに付き合うつもりもなかったけれど。
しかし、黒服はどうもそんなくだらない会話に付き合ってほしいようだった。
「いいえ。あなたは変わられた。ほんの数日前まではそう……もっと世界や未来に対して否定的な態度をとっていたように思います。だから、パッと見ただけでもあなたの神秘は私達の実験に最適な状態だと。そう考えました」
神秘だの実験だの、随分ときな臭い話が出て来たものだとホシノは思わず黒服の話を鼻で笑った。
だが、そんな失礼な態度にも黒服は指を鳴らしてまさにそれだと声を上ずらせた。
「そう、それです! その余裕が、以前のあなたにはなかった。いったい、あのシャーレの先生と何があったんです? シャーレの先生……フレデリック=バルサラとはいったい何者なんです?」
矢継ぎ早に投げかけられる質問にホシノは小さく肩をすくめた。
「質問は一つずつにした方が良いって、教わらなかった?」
「ああ、これは失礼。こんな短期間で生徒の、神秘の在り方を変える存在というのがとても興味深く……。ああ、神秘の在り方といえば、ホシノさん。あなたの神秘は私達の実験に最適な状態だったと言いましたが、あれは以前のあなたの話です。今のあなたは少なくとも最適足りえない」
黒服からの言葉に、けれどホシノは特に何の感慨も抱かなかった。
このいけ好かない大人たちの思惑を少しでもめちゃくちゃにできるなら、むしろ望むところだ。
けれど、黒服はそれすらも楽しんでいるかのように肩を震わせる。
「クック……勘違いしないで頂きたいのですが、あなたの変化はとても興味深いのですよ。確かに実験に最適ではない。しかし、だからこそ……我々には予想もつかない結果になるかもしれない。私達はゲマトリア。観察者にして探究者、そして研究者です。未知こそが私達の求めるもの。その意味で、あなたの変化は実に素晴らしいものですよホシノさん」
「それはありがたい話だね。まあ、その自由研究がいつまで続けられるかは分からないけど」
「……どういう意味でしょうか」
ホシノの言葉に初めて黒服が怪訝そうな声色で問うてくる。
その表情は変わらず不気味で悪趣味なニヤケ面のままだけれど、どこか不愉快そうな気配を感じられた。
それがたまらなくおかしくて、ホシノは歯を見せながら笑って言い放つ。
「フレデリック先生が私を助けに来てくれるから。アンタの自由研究が日の目を見ることはきっとないよ」
言っていることはただの他力本願だ。
それでも、目の前の大人のニヤケ面を消してやれるのならちょっとくらいは生意気言ったっていいだろう。
そう思って挑発的なことを口にしたホシノに、黒服が心底不思議そうな声色で問いかけてくる。
「何故、フレデリック先生が来ると思うのですか?」
何故、と来たか。だが、それに対する回答をホシノは持っていた。
「約束してもらったからね。奇跡を起こして、私達を助けてくれるって」
「約束……契約ではなく、約束ですか? そんな何の効力も証明も出来ない、ただの口約束を、あなたは信じられると?」
黒服の言葉に、ホシノはなんだかこの大人が哀れにすら思えた。
彼は、きっと誰かと真正面からぶつかり合って理解し合おうなんてこと、一度もして来なかったんだろう。
多分、そんなことをしなくたって生きてはいける。でも、それがどれだけ大事なことなのかをホシノは数日前フレデリックに教わった。
本人にそれを言っても、そんなつもりはないと否定すると思うけれど。
何にしても、黒服はそういう経験とそれに伴う他者との繋がり、そしてその安らぎを知らずに生きて来たのだろう。
だから、こんな問いかけをしてくるのだ。
「私は先生を信じてる。でも、これはきっとアンタには分からない感覚だよ」
「契約書も無い。その上彼に求めたものは奇跡。……とてもじゃありませんが論理的とは言えませんね。そして、そんな不確かなものにすがっているのにあなたはこれから起こることに不安をそれ程抱いていない。……実に興味深い。フレデリック=バルサラ……あなたへの実験を始めるまでまだ時間がかかりますし、その前に一度お会いしておくのも良いかもしれませんね」
「会うなら気をつけなよ。ああ見えて荒っぽい人だから、会った瞬間に殴られたりするかもしれないし」
ホシノがからかう様に黒服へ忠告すれば、黒服はいたって真面目に会釈をしてきた。
「ご忠告感謝いたします。私もまだ死にたくはないですからね。彼のことは丁重にお出迎えすることにしますよ」
では、と黒服は会釈をして部屋を出ていった。
それを見届けてから、ホシノはずっと押し殺していた不安や恐怖が声や涙となって漏れ出さないように胸の前できつく手を組む。
「先生……絶対、助けに来てくれるよね……?」
ホシノの呟きは、部屋の中に溶けて消えていく。
応えるものは、いない。
アビドスの市街地で爆発音が響き渡る。
「ぐあああぁあああっ!? 貴様ら……貴様らもあと数日以内に1億円を支払わなければならないこと、忘れたのかッ!?」
ジャック・オーの指揮の元大暴れした便利屋68によって、辺り一帯に展開したカイザーPMCの兵士をなぎ倒され、その際の爆発で無様に吹き飛ばされたカイザー理事がわなわなと体を震わせながら叫ぶ。
しかし、そんな理事を相手にアルはこれっぽっちも怯まずに堂々と言い返した。
「うるっさいわね! 知ったこっちゃないわよそんなの! あなたみたいに無茶苦茶言ってくる人に筋を通すよりも、先生達の方がよっぽど信頼できた! それだけの話!!」
「あはっ。そもそも最初に信頼を裏切ってきたのはソッチだもんね? やられたら倍にしてやり返す。悪党の基本だと思ったけど、そんなことも知らなかったの?」
アルに同調してムツキが理事を煽る。しかし、その表情はいつものいたずらっぽい笑みというよりは得物を前にした肉食獣のような獰猛な笑みだった。
カヨコとハルカも、言葉こそ発さないもののそれぞれがカイザー理事に対してプレッシャーを放っていた。
『便利屋の皆さん……』
「そうだね、確かに悪党としては正解」
「おかげで目が覚めました。私達に今、こうして迷っている時間はありません」
「そうだよ! 何よりもまず、ホシノ先輩を取り戻さないと!!」
便利屋68の叱咤と、その後ろ姿に対策委員会の消えかけていた闘志が再び燃え上がる。
「非公認だか何だか知らないし、不法組織だって構わない! そんなことは今、何の関係もない!」
セリカの叫びに対策委員会の皆が頷き、銃を持ち上げる。
「ホシノ先輩を助ける。今大事なのはそれだけ」
シロコの言葉で皆が銃口を理事の方へと向けて安全装置を解除した。
「くっ、この期に及んで無意味な抵抗を……! よくも……!!」
「よくも、はこっちのセリフよ理事」
なおも悪態をつく理事に対してジャック・オーの決して大きくない、けれど低く通る声が突き刺さる。
理事が思わず息を呑んだのがその場の全員に分かった。
対策委員会達はジャック・オーの背後に立っていたから分からなかったが、便利屋は振り返って思わず表情を引きつらせる。
ジャック・オーの表情は、口元こそ薄く笑みを浮かべてはいたものの、その目は絶対零度の冷たさを感じさせた。
「ホシノちゃんのことは、返してもらうわ」
ジャック・オーの視線に気圧された理事は、一方後ろに後退る。
「ふ、ふざけるな女風情が! 貴様にそんな権利が──」
だが、続く言葉は紡げなかった。
何故なら、闘志を隠すこともなく対策委員会と便利屋68が銃口を理事の方へ向けて歩いてきたからだ。
その迫力に気圧されそうになり、けれどそんな自分が認められなかったのだろう。
ちょうど駆けつけてきたPMCの兵士達へと、振り向くことなく理事は号令を出した。
「奴らを──無力化しろ!!」
「皆! もうひと踏ん張りよ!!」
ジャック・オーがオルガンを起動させて生徒達に声をかける。
それに対して、生徒達は思い思いの返事を返した。
次の瞬間には通りは鉛玉の嵐が吹き荒れ始めた。
「シロコちゃん、セリカちゃん! 左側の敵を迎撃! ハルカちゃんは正面で敵の注意を引いて! アルちゃんとムツキちゃんはハルカちゃんのフォロー! ノノミちゃんは右側の敵を一掃して、カヨコちゃんはノノミちゃんが撃ち漏らしたのをお願い! アヤネちゃん、ドローンで上空から
ジャック・オーが指示を出し、生徒達がそれぞれの方向へと飛び出していく。
だが、数が違い過ぎた。
生徒たち一人一人の力はPMC兵士達よりも高く、またジャック・オーの的確な指示によって次々と倒されていく。
それでも、次から次へとやってくる兵士達に徐々に押されつつあった。
「がっ!? あぐぅぅっ……!」
「ハルカッ!!」
そしてついに、ハルカが体勢を崩す。
当然、それを見逃す相手ではない。ほかの生徒達と応戦していた兵士達も含め、全てがハルカの方へ銃口を向ける。
このままではハルカがやられる。気絶で済めばいい。だが、こんな大勢から火力を集中されたらただでは済まない。
そのことに気が付いたアルがハルカの方へ向けて飛び出す。
「ダメ社長! それは──!!」
カヨコがアルを制止するが、既に遅かった。
ハルカの方へ駆けだしたアルを待っていたかのように、周囲の兵士達の銃口がハルカからアルの方へと向けられる。
「あ、アルちゃぁぁぁぁん!!」
ムツキの余裕のない叫び声は、最早轟音と言えるほどにまで重なり合った銃声によってかき消された。
しかし、すぐに異変は現れる。
銃を撃っているのはPMCの兵士たちなのに、バタバタと倒れるのはその兵士達の方だった。
これに混乱したのは理事だ。
「なっ……なんだ!! 何が起こっている!?」
理事の叫びと同時に銃声が鳴り止む。
果たして、そこには血を流して地面に倒れるアルとハルカの姿はなかった。
代わりに、二人を取り囲むように二頭身ほどの丸みを帯びたボディを持った不思議な生き物──ジャック・オーのサーヴァント──達が
そのどれもが青白い球体状の光に包まれている。
「ふう! 間に合ってよかったわ。さあ、反撃よ!」
ただ一人、自らこの状況を引き起こしたジャック・オーだけがその不可思議な光景を前に怯むことなくさらに次の一手を講じた。
「フルチャージ!!」
「アターック!!」
軽快な声と共にジャック・オーがリズムを取って手拍子をするのに合わせてサーヴァント達がPMC兵士達を手に持った武器で殴りつける。
「ぐわあっ!?」
「うわあああっ!?」
「ぬおおああっ!?」
二頭身くらいのマスコットみたいな見た目の不思議生物がその体の大きさに見合う武器で兵士に襲い掛かるという何ともメルヘンな光景とは裏腹に、殴りつけられた兵士は皆例外無く宙を舞った。
「あの妙な奴らを潰せッ!!」
「ッ! やらせない!!」
理事の指示でサーヴァント達に狙いを定めた兵士達に向けてシロコとアルが素早く発砲して兵士を無力化する。
そこからは一方的な戦況となった。
サーヴァントを狙う兵士が生徒達に撃たれ、生徒を狙った兵士がサーヴァントに殴られ宙を舞う。
隙をついてサーヴァントを狙い撃った兵士の弾は、しかしジャック・オーの防御指示によってバリアを張ったサーヴァントによって反射され別の兵士へと跳弾する。
「クソッ、こうなったら……」
「っ! 戻って!」
戦況の不利を悟った理事が悪態をついて後方へと下がろうとする気配を察知したジャック・オーがサーヴァントを全員呼び戻す。
サーヴァントが突然その場から姿を消したことにジャック・オー以外の全員が驚いて動きを一瞬止めた。理事もそれは例外ではない。
「出て来て!」
そんな周囲のことなど気にせず、ジャック・オーは新たに一体のサーヴァントを手元に呼び出してそっと手を離した。
重力に従って地面に向かって落ちていくサーヴァント。
構っていられるかとこちらに背を向けて駆けだすカイザー理事。
理事が逃げ出したことに気が付いたシロコが慌てて銃口をそちらへ向け、引き金を引く。
が、弾は出なかった。弾切れだ。
マズい、逃げられるとシロコの頬を冷や汗が伝い始めたその時だった。
「失礼!」
ジャック・オーの鋭い声が辺りに響き、同時に彼女が何かを思い切り蹴り飛ばす。
それはサーヴァントだった。その細い体のどこにそんな力があったのか、と誰もが目を丸くするほどの勢いで吹き飛んでいくサーヴァントは、逃げる理事の背中に見事にクリーンヒットした。
「ガァッ!?」
背中からの強襲に対応できず、サーヴァントの体当たりをもろに食らった理事が無様に地面を転がっていく。
近くにいた兵士が慌てて理事へと駆け寄った。
「理事! 傷が……! すぐに治療を!」
助け起こされた理事は忌々し気に目の前のサーヴァントへ殴りかかるも、即座にジャック・オーが防御指示を出した為にその拳はバリアに阻まれる。
それどころか、受けた攻撃を反射する性質を持つバリアのせいで再び無様に尻もちをつく羽目になった。
「理事!」
「……~~~ッ!! 一度退却だ! 兵力の再整備にはいれ!!」
「は、はい!」
手近な兵士に指示を出した理事は肩を震わせながらジャック・オーと生徒達の方へと振り返る。
「覚えておけ、この代償は高くつくぞ……!」
そう捨て台詞を吐いて、理事は兵士に支えられながらもその場を後にした。
それに合わせるように他の兵士達もまた退却を開始する。
『敵兵力、退却していきます……』
アヤネの言葉に生徒達が安堵のため息を吐く。
そんな中、逃げ帰っていくPMC達を見てムツキが苦笑いをした。
「いや~、アレこそまさに本物の三流悪党のセリフって感じだね。【覚えておけ―】なんて実際に初めて聞いたよ」
「初動の仕掛けた爆弾での分断と指揮官を狙った強襲作戦、想定通り上手くいって良かった」
作戦の成功にカヨコがどこか満足そうに頬を緩めるのを見て、ジャック・オーもようやく肩の力を抜いた。
ひとまず降りかかる火の粉は振り払ったが、事態は一刻も争う。
とはいえ、闇雲に行動するのも良いとは言えなかった。それに、ホシノが連れていかれた場所の手掛かりは何も掴めていない。
作戦を考える時間が必要だ。フレデリックがどれだけ証拠を集められたかも気になるし、何より生徒達が体を休める時間が必要だ。
「ひとまず、帰りましょうか」
ジャック・オーの言葉に生徒達は頷く。
これで完全にカイザーと表立って敵対した。後はもう、行けるところまで行くしかない。
決戦の時は、もう目の前まで迫っていた。
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