BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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決戦に向けて

 すっかり日が暮れて暗くなってどのくらい経っただろうか。

 対策委員会の生徒達はソワソワしながら部室で銃のメンテだったり、情報の整理などを行っていた。

 カイザーPMCの襲撃から街を守って数時間。ジャック・オーはやることがあると一度シャーレへと帰ってしまった。

 だが、状況が変わったことでフレデリックをアビドスに呼び戻したとのことらしく、彼は今日の夕方くらいには帰って来るとのことだった。

 そうして待っていたが、日がとっぷりと暮れてもフレデリックが帰ってくる気配はまだない。

 フレデリックなら大丈夫。そう分かっていても、徐々に不安が対策委員会達の心を(むしば)んでいく。

 その時だった。校門の方から、もうすっかり聞きなれたバイクのエンジン音が聞こえてきた。

 セリカが早足で窓際に歩いて行って、校門の方をじっと見つめる。

 そして、すぐにその顔をほころばせた。

 

「帰ってきたよ!」

 

 セリカの言葉に皆がぱあっと表情に花を咲かせる。

 そんなことがあってから数分と経たずに部室の扉が開けられた。

 数日しか離れてなかったというのに、フレデリックがここにいるのが当たり前にすら感じられる。

 

「悪い。遅くなった」

 

 フレデリックの言葉に、対策委員会の皆が微笑む。

 

「おかえり、先生」

「先生、お待ちしておりました!」

「先生!」

「先生……」

 

 生徒の出迎えを受けて、フレデリックはゆっくりと皆の顔を見回す。

 それから、ニヒルな笑みを浮かべた。

 

「ホシノを助けに行く。だから準備しろ」

「ん、行こう」

 

 シロコが小さく頷く。

 

「あの一人で突っ走るバカを助けて、ここに連れ戻す」

「はい、そう言ってくださると思っていました!」

 

 アヤネが期待していた言葉に喜びをあらわにする。

 

「どこにも行かねぇって言った矢先にこれだ。お前等も言いたいことはあるだろう」

「うんうん! 自分で言ったことを守れなかったんですから、お仕置きです! きちんと叱ってあげないと!」

 

 ノノミが胸の前で拳をグッと握りながら気合を入れる。

 

「連れて帰ったらパーティーでもするか。バーべキューとかな。バースデーソングでも歌ってやるか?」

「うんう……えっ!? 何変なこと言ってるの!? ホシノ先輩の誕生日全然違うでしょ!?」

 

 突然のフレデリックのジョークにセリカが頷きかけて、正気に戻ったのか鋭いツッコミを入れる。

 しかし、周りはそうではなかった。

 

「私はやる」

「え、え!?」

 

 まさかのシロコの悪ノリにセリカがギュン! という音が聞こえそうな勢いでそちらを向く。

 

「いいですね~☆ 対策委員会委員長の生誕祭ってことにしましょうか!」

「えっ、ええっ!?」

「わ、私も。ちょっと恥ずかしいけど、心配かけた罰ゲームってことで……」

 

 ノノミはともかく、普段は真面目なアヤネまでもが悪ノリしてしまった事実に目を回しそうになっているセリカはこらえきれないと言った様子で声を上げる。

 

「か、勝手にして! 私は絶対、そんな恥ずかしいことやらないから!!」

 

 そんなセリカの様子に、悪ノリが過ぎたことは自覚しているのかアヤネが苦笑いをする。

 

「あ、あはは……ではそれはそうとして、救出のための準備を……」

「でも、今の私達だけじゃ勝てない。誰か協力者を……」

 

 アヤネの言葉にシロコがわずかに険しい表情になる。

 今日の戦闘でそれはハッキリした。個としての力は勝っていても、相手との兵力差があまりにも大きすぎた。

 ジャック・オーのサーヴァントがいてくれたから何とか切り返せたものの、相手も次はそれを考慮してさらに数で圧してくることだって考えられる。

 そうなれば、流石に勝ち目はないだろう。

 しかし、こんな自分達に手を貸してくれる人がいるのだろうか。そんな不安がシロコからにじむ。

 

「便利屋は?」

「確かにセリカちゃんの言う通り、あの人達は私達のことを助けてくれましたが……もう一度お願いしても良いのでしょうか」

「大丈夫だって! まだどこに行ったんだか知らないけど、ここまで散々迷惑かけられてきたんだから、これくらいのお願いは聞いてもらわないと!」

 

 敵との戦力差に頭を悩ませる生徒達に、フレデリックは不敵に笑った。

 

「安心しろ。俺に考えがある」

 

 

 

 翌朝。

 ゲヘナ学園の正門に飛鳥はいた。

 外に出るのは気が進まなかったけれど、最早そんなことを言っていられる状況ではないのはフレデリックとジャック・オーからの報告で明らかだ。

 そう思って自分を奮い立たせながらもここまでやってきたところまでは良かった。

 

「あれ、えっと……飛鳥、先生……だっけ? 何してるんだ?」

 

 ゲヘナ学園は飛鳥の想定よりもはるかに遠かった。

 いや、実際に歩いている距離なんて大したことではなかったと思うのだけれど、人前に白昼堂々身を晒して行動することなんて数百年ぶりだったから、慣れない感覚に疲れたのだ。

 電車に乗るのに切符を買わなきゃいけないのか、シャーレ名義で発行したカードで乗れるのか。その辺りもよく分かっておらず、電車の運行をしている学園の生徒からはやや不審がられながらもカードで乗車できることを教えてもらったり。

 年若い少女達しか乗っていない電車の中、一人ポツンと大人の自分が座っているという状況のせいで周りの生徒達から好奇の目で見られたり。

 とにかく、ここまでの道のりは飛鳥の体力を削り切るには十分すぎるほど試練に満ちたものだった。

 その結果、今飛鳥は疲労のあまりゲヘナ学園の正門前で膝を付いて(うづくま)っていた。

 ふと聞き覚えのある声に反応して飛鳥が顔を上げると、銀鏡(しろみ)イオリが不審なものを見るような目で飛鳥の顔をのぞき込んでいる。

 

「あ、ああ……銀鏡さんか。ちょうど良かった……空崎ヒナさん、いや。君達風紀委員会に頼みたいことがあって……」

「え? 私達にか? ……最初から土下座って、何を頼むつもりなんだ?」

「いや、これはちょっと色々と事情が……その話をする前に、別件で一つ頼まれて欲しいんだけど……」

「ええ? 今度は何?」

 

 藁にもすがる思いで飛鳥はイオリの足首を掴んで彼女を見上げる。

 

「ひゃん!? お、おい!? 何を──」

「み、水を頂けないだろうか……? もう喉がカラカラで……」

「えぇ……?」

 

 今にも死にそうな顔で飲料水を要求してくる飛鳥に、イオリがドン引きをしていたその瞬間だった。

 

「なんだか楽しそうね?」

 

 イオリの背後からヒナが歩いてきていた。

 

「い、委員長……?」

 

 このあまりにも誤解を生む要素しかないこの状況をどう説明しようか、イオリが言葉を選んでいると案の定変に誤解したらしいヒナが話し始めてしまった。

 

「……自分の望みの為に膝を付く姿なら、これまで何度も見てきた。でも、生徒の為に跪く先生を見たのは初めて」

 

 ひどく関心したような様子で飛鳥と視線を合わせるようにヒナが膝を付く。

 

「あなた達には助けられた恩もある。言ってみて、私に何をしてほしい?」

 

 真剣な表情で、心から飛鳥の期待に応えようとするヒナを前に飛鳥はとてもいたたまれない気持ちになる。

 けれど、それ以上に喉の渇きが限界を振り切りそうで今にも意識を失いそうだった。

 

「えっと……話すと長いんだけど……その前に水を……貰えないかな?」

 

 飛鳥の要求にヒナがキョトンとした表情になり、ゆっくりとイオリの方を見上げる。

 イオリは困ったように眉尻を下げながら、愛想笑いをした。

 そこでようやくヒナは自分が大変な思い違いをしていたことに気が付いたらしい。

 そしてほんの数秒前の自分の言動がいかに的外れであるかということに思い当たって、ヒナは顔を真っ赤にして声にならない叫び声をあげたのだった。

 

 

 飛鳥がゲヘナ学園を訪れている頃。

 阿慈谷ヒフミはトリニティ総合学園のテラスにて、口の中をパサパサにしながら目の前の先輩の返事を待っていた。

 今朝方、少し前にブラックマーケットで知り合ったアビドス高校の子達経由でシャーレの先生からお願いが来た。

 カイザーPMCにホシノが捕まったから、力を貸してもらえないかティーパーティーに掛け合ってほしいと。

 こんな話、首を突っ込めば自分も危ない目に合うどころか学園にも迷惑がかかる。だから、ここは断った方が賢いだろう。そこまでする義理だってないはずだ。

 それでも、先生達には危ない所を助けてもらった恩もあるし、何よりアビドスの皆は良い子達だった。

 そんなアビドスの皆が理不尽な目に合っているのをヒフミはどうしても見過ごすことが出来なかった。 

 全く知らない人だったなら、断ったかもしれない。

 だけど、もうそう言って割り切るにはヒフミは彼女達のことを知りすぎてしまっている。

 だから、今こうして自分が持ちうる中で最大の伝手──トリニティの生徒会長の一人である桐藤ナギサに経緯を全て話して力添えをして貰えないか直談判しているのだ。

 優雅にティーカップを傾け、唇を湿らせるナギサを固唾を飲んで見守る。

 

「……なるほど、ご説明ありがとうございます。ヒフミさんが仰ってることはよく分かりました。その先生の言葉が本当だとすると、このまま聞き流すわけにはいかなそうです。例の条約も目前に迫っていますし、今は下手に動くわけにはいかないのですが……」

 

 ナギサの言葉に、ヒフミの喉が鳴る。

 そうだ、エデン条約を目前に控えた今、下手な動きは政治的な問題として不要な争いの種になりかねない。

 ましてや他校の自治区への介入など、普通に考えればあまりにもリスキーすぎる。

 

「……ただ、そのPMCという企業の存在が、わが校の生徒達に良くない影響を及ぼしそうなことは確かですね。今回はちょっとした例外ということで、何か考えた方が良さそうです」

 

 リスクは承知。その上で、ヒフミの力になるとナギサは言ってくれた。

 そのことに、自然とヒフミの頭が下がる。

 

「あ、ありがとうございます、ナギサ様……」

 

 そんなヒフミにナギサはクスリと笑いながら続ける。

 

「そうですね……確か丁度、けん引式りゅう弾砲を扱う屋外授業の予定があったはずです。せっかくですし、ちょっとしたピクニックなどいかがでしょう」

「えっと、けん引式りゅう弾砲ということは……L118の……?」

「はい。他ならないヒフミさんですし、全てお任せします。細かいことは私の方で。愛は巡り巡るもの……ヒフミさんが何時か私に愛をお返ししてくれる時を、楽しみにしておきますね。ふふっ」

「あ、あぅ……」

 

 ナギサの上品な、けれど遠回しに一つ貸しだから後で何か返すようにという言葉に、ヒフミは思わずたじろいだ。

 それでも、これでアビドスの皆を助けられるかもしれない力は手に入った。

 これで皆を助けに行こう。

 そう意気込んだヒフミは、だからこそナギサの小さな呟きを聞き取ることが出来なかった。

 

「それにきっと……いえ、間違いなく。【シャーレの先生】には借りを作っておいた方が良さそうですからね」

 

 

 

 同じ頃、アビドスの市街地の外れ。

 小さな屋台から食欲をそそるラーメンの匂いが漂っていた。

 

「580円の柴関ラーメン4杯、お待ち!」

 

 屋台のカウンターに明らかに麺も具も盛りだくさんのラーメンが4杯並べられる。

 

「これ、また量を間違ってる気が……?」

 

 値段に対して明らかに量が多すぎるラーメンにカヨコがツッコむが、けれどそんなことは些事だった。

 便利屋68の面々は特盛のラーメンを前にいただきますと声を揃えて箸をつける。

 自分達の手違いで店舗を吹き飛ばしてしまったものの、こうしてまた美味しいラーメンが食べられることに各々が頬を緩める。

 賑やかに、それでいて穏やかな時間は便利屋68の皆をほんのひと時、裏社会を騒がせるアウトローではなくどこにでもいる普通の女の子にさせた。

 そんな光景を見て、柴大将は眩しいものを見た時のように目を細める。

 そうこうしている内に便利屋達はラーメンを完食する。

 

「あー美味しかった。さて、じゃあそろそろ行く?」

 

 席を立ち、装備を担ぎ上げながらムツキがアルの方へ振り返る。

 

「……社長、本当に行くの? この戦い、私達にはほとんどメリットはない。なのに、戦う相手はPMCなんて……」

 

 割に合わなさすぎる。というカヨコの言葉を遮るようにアルは鼻を鳴らした。

 

「カヨコ課長。あなたの指摘は最もよ。確かに今回の戦い、実入りなんて無いに等しい。でもね……」

 

 淀みない動きで席を立ちあがりながら、アルはスナイパーライフルを担いで社員達の方を振り返る。

 

「あのソル=バッドガイからの依頼なのよ? 私達の、私の目指すアウトローそのものな彼が、私達に『力を貸してくれ』って依頼をしてきたのよ? だったら! その期待には応えるのが一流のアウトローってものでしょう! 報酬なんて、期待されているって事実でも十分じゃない!」

 

 自信満々に胸を張り、目を輝かせるアルの姿にカヨコはハッとしたように目を見開いて、それから微笑んだ。

 

「……ま、社長がそういうなら私はそれでいいよ」

「流石アル様です! 信頼では信頼で報いるってモットーを貫く為なら報酬の有無も気にしないその姿、まさにハードボイルドです! わ、私も真のアウトローになる為に頑張ります! 今度こそ、ちゃんと全部消して見せますっ!!」

 

 熱い尊敬の視線を向けてくるハルカの言葉にアルは小さく笑ってから改めて社員達を見回し、それから軽く髪を払ってニヒルな笑みを浮かべた。

 

「さあ、私と一緒に地獄の底までついてくる覚悟はできたかしら?」

 

 自信満々なアルの言葉にムツキが、カヨコが、ハルカが頷く。

 そんな社員達の姿に満足げに頷きながら、アルは踵を返して歩き出す。

 

(勢いで言っちゃったけど、流石に報酬は欲しいわね……今月の生活費、どうしよう……)

 

 自信満々な態度とは裏腹に、アルは内心でちょっとだけ情けないことを考えていた。

 

 

 

 シャーレの体育館で、ジャック・オーはカタカタヘルメット団と向き合っていた。

 

「事情は今話した通りよ。……私達は少しでも戦力が欲しい」

 

 この数日に間にアビドスで起きた出来事を説明し、その上でカイザーPMCと戦う為に力を貸してほしいとジャック・オーはヘルメット団に協力要請をしていた。

 自分がいかに危険なこと生徒達にお願いしているのはジャック・オー自身理解はしている。

 だから、ほとんどダメ元でのお願いだった。むしろ、断ってほしいという気持ちすらあったくらいだ。

 役割だから、恩義があるからと戦う理由を他に依存したのでは、世界は救えないのだから。

 

「………………」

 

 ジャック・オーのお願い聞いて、リーダーの片寄ウヅキはじっと目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。

 

「分かった。他でもないジャック先生の頼みだもんな。手伝わせてほしい。皆、良いよな?」

 

 他のヘルメット団メンバーの方へ振り返りながらウヅキが問いかければ、皆首を縦に振って口々に同意の言葉を声高に叫んだ。

 

「私からお願いしておいていうのもなんだけど、本当にいいの? もうあなた達は、カイザーと無理に関わったりする必要なんてない。もっと平和に過ごしたいって断ったっていいのよ?」

 

 ジャック・オーの言葉に、ウヅキは憑き物が落ちたような笑みを浮かべる。

 

「確かに、ワルになんてもうなりたくない。わざわざ危ないことに首を突っ込んだりするのだって嫌だよ」

「なら──」

「でも先生。これはアタシ──アタシ達にとっても大事なことなんだよ。アタシ達はこれから今まで犯してきた罪を償わなきゃいけない。そうだろ? なら、これが最初の償いだ。アビドスの連中には一杯迷惑をかけたしな。だからこれはアタシ達が、もう一度胸を張って普通の学校生活を送れるようになるための最初の一歩なんだ」

「…………」

 

 あっけにとられたようなジャック・オーにウヅキはニッカリと笑って近くにいたメトの肩を抱く。

 

「それにさ! 今は皆がいる! 先生だっている! だったら、絶対負けないだろ?」

「ウヅキちゃん……うん! 先生、大丈夫だよ! 私達、これでもしぶとさには自信があるんだよ?」

「そうっす! オレらの底力ってのをカイザーの奴らに見せつけるっすよ!」

 

 メト、ナツキの言葉に団員達も皆同調して盛り上がっていく。

 その様子を見て、ウヅキは再びジャック・オーの方へと向き直った。

 

「これまでどこか皆、お互いに遠慮してたんだ。でも、もう私達はそこら辺の不良の寄せ集めなんかじゃない。カタカタヘルメット団は、今度こそ私達の居場所になったんだ。そうしてくれたのはジャック先生なんだよ。あの日、アタシ達に手を差し伸べてくれたから……アタシは皆に本音を言えた。そして、これから皆で頑張ろうって胸を張って言えるようになった。だから先生、ありがとう」

 

 お礼と共にウヅキに真正面から見つめられたジャック・オーは、彼女の目の奥に熱く燃え盛る炎の輝きを見た。

 その炎がウヅキをそうさせるのか、顔の形は全然違うはずなのに彼女が浮かべた笑みは、よくフレデリックが浮かべる不敵な笑みを彷彿とさせた。

 ならば、もう言うことはないだろう。

 

「貴方達の覚悟は伝わったわ。それじゃあ、その力……遠慮なく貸してもらうわね」

「ああ、任せてくれ!」

 

 そう言ってジャック・オーとウヅキは固い握手を交わし合った。

 

 

 

 数時間後、アビドス高校の校門前にて。

 

「ん、準備完了」

「補給も十分、おやつもたっぷり入れておきました!」

「こっちも準備できたわ! 睡眠もしっかりとったし、お腹もいっぱい! どっからでもかかってきなさい!」

「私の方も、アビドスの古い地図を全て最新化しておきました。先生に教えて頂いた情報ですと、ホシノ先輩はカイザーPMCの第51地区の中央辺りにいるはずです。一番安全なルートで案内します、行きましょう!」

 

 気合も十分に入った対策委員会の生徒達を前にして、フレデリックは不敵に笑う。

 

「ふ。じゃあ行くか。夕飯までには帰って来るぞ。献立はホシノに決めてもらう。いいな?」

「はい! ホシノ先輩救出作戦……開始です!」

 

 アヤネの号令と共に皆が頷いてホシノの元へと駆け出した。

 

 

 

 便利屋が去り、客のいなくなった屋台で柴大将が遠くの空を見上げて笑う。

 

「……そうだったな。忘れていたよ……ダメになったんなら、またやり直せばいい。大事なのは、ラーメンを食べに来てくれる人の方だ」

 

 柴大将は思い出す。店でバイトしていたセリカを、ラーメンを食べに来てくれる他の生徒達のことを。

 そして、美味しいと顔をほころばせながらラーメンを食べてくれる少女達のことを。

 あの瞬間だけは、どんなに覚悟や重いものを背負った生徒達も一人の女の子だった。

 柴大将は、自分のラーメンで一時でも客が満たされる姿を見るのが、そんな客がごちそうさま、美味しかった、また来るねと言ってくれる瞬間が大好きだった。

 カイザーに土地を奪われ、客も売り上げも減っていく日々でそんなことも忘れてしまっていた。

 けれど、どんなことがあっても諦めない対策委員会やあの便利屋の少女達のおかげでようやくそれを思い出せた。

 

「お客さんがいる限り、店は消えない。そういうもんだ。だから……」

 

 だから、自分は今日もラーメンを作る。それが自分なりの戦い方だ。

 

「行ってこい、対策委員会」

 

 この空のどこかで、大事なものを護るために戦っているだろう対策委員会の生徒達に向けて柴大将は祈るように激励の言葉を呟いた。




上手くいけばこの三連休でアビドス編終わりそうです。
がんばります
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