お気を付けください
「ああ、そうだ。大事なことを忘れていたよ」
さかのぼること数十分前。
フレデリックとジャック・オーがシャーレのオフィスを出ようとした時、飛鳥が二人を呼び止めた。
「これは僕の提案なんだけど。基本的にキヴォトスで大々的に法力を使うのは控えようと思うんだ」
「……理由は?」
フレデリックが肩越しに飛鳥を見る。
法力は飛鳥達にとって最も身近な"技術"だ。その使用を控えるということは、キヴォトスで置き換えれば銃や携帯端末を使わず生活するようなものである。
「さっき少し話したけれど、この世界に法力技術はない。師匠がかつてそうしたように、僕らがキヴォトスに法力技術を教える……という手もなくはないけど。それはあまりしたくない」
「俺達はいずれ元の世界に帰る。それも何年も先の話じゃあない。……この世界に法力技術が定着するよりも先にその日が来るとなると、ただ面倒事の種をまくだけになっちまうってわけか」
「察しが良くて助かるよ。僕達が所構わず法力を使えば、それに目を付けた誰かがその技術を求める。その誰かが僕達を直接襲えば話は早いけど、これからの僕達はこのキヴォトスの生徒達と関わっていかなきゃいけない」
「つまり、無関係の子達まで争いに巻き込まれるかもってことか。……確かに、あんまり大っぴらには法力を使わない方がいいかもしれないわね」
そう言って、ジャック・オーはフレデリックの方をじっと見つめた。
その視線に気づいたフレデリックが眉間に皺を寄せた後、ふと飛鳥の方を見れば飛鳥も同じようにフレデリックを見つめていた。
「……おい。なんでそこで俺を見る」
「だって、ねえ? 貴方が一番派手にやらかしそうだし」
「君は頭は良いのに、面倒くさくなると全部力押しで解決しようとするからね。くれぐれも慎重に行動して欲しい」
好き放題行ってくる飛鳥達に、けれどフレデリックはその自覚があるのか舌打ちをするだけに留まった。
「じゃあどこまでなら使って良い? 戦闘法力は駄目でも、通信法術くらいならいいだろ?」
「そうだね……まあ、それくらいならいいんじゃないかな。ハンズフリーだって言い張れば問題ないと思う」
「もう一つ。今の俺達にはアロナのサポートが受けられねぇ。その時戦闘に遭遇した場合はどうする? その場合も法力は無しか?」
フレデリックが一瞬だけジャック・オーへ視線をやった後、鋭く飛鳥をにらみつける。
返答次第ではただじゃおかない、という態度がはたから見ても明らかなほどのプレッシャーがフレデリックから放たれていた。
事実、そんなフレデリックをシッテムの箱越しに見たアロナが小さく悲鳴を上げていた。
けれど、並の人間なら固まってもおかしくないプレッシャーをその身に受けてなお、飛鳥は穏やかに微笑むだけだった。
「言っただろう? 基本的に、って。そういう時は使って良いさ。ルールは大事だけど、それ以上に君達の身の安全の方が優先だ。ただ、その場合もあんまり派手に暴れないでくれると助かるけどね」
「ふん……まあそれならいいだろ」
鼻を鳴らしてフレデリックが今度こそシャーレのオフィスを後にし、ジャック・オーは小さく肩をすくめながら飛鳥に手を振ってフレデリックの後に続いた。
『あ、あの……飛鳥先生。本当にお二人だけで行かせて大丈夫なんですか?』
二人を見送った飛鳥にアロナが不安そうに問いかける。
そんなアロナに飛鳥は再び穏やかに微笑みながら答えた。
「大丈夫さ。彼らはとても強いから」
時は現在に戻って。
不良生徒に行く手を塞がれたフレデリックは、バイクを降りながら首から掛けていた身分証明書を生徒達に見せる。(アロナがシャーレオフィスにあるプリンターを使ってすぐに用意してくれた)
「俺達は連邦生徒会長の任命を受けて今日付けで連邦捜査部シャーレの担当になったフレデリックとジャック・オーだ。……道を開けてくれると助かるんだが?」
フレデリックの言葉に道を塞いでいた不良生徒達が顔を見合わせる。
「おい、聞いたか今の?」
「シャーレだってよ。聞いたことあるか?」
「ない。大体、連邦生徒会長って今行方不明らしいじゃん」
しかし、その反応は芳しいものではなかった。
生徒達から向けられる不信のまなざしに、フレデリックはため息を吐く。
「一応『先生』としての役割も受け持っている。俺達は言わば大人としてお前達を指導したりしなきゃいけない立場だってことだ」
これで引いてくれればいいんだがな。と心の中で独り言ちるフレデリックだったが、残念ながらその思いは届かなかった。
「大人? ハッ! 大人ってのはアタシらを縛る邪魔ものみてーなやつってことじゃねーか!」
「アタシらに対して逃げることしか出来ねー大人が、えらそーな態度とってんじゃねーよ!」
そう吠えて不良生徒達は銃口をフレデリック達の方へ向ける。
やはりこうなったか。とフレデリックは小さく首を横に振ってバイクのボディから愛用の武器を取り出した。
だが、その大きさに見合う重さはあるだろうそれをフレデリックは軽々と持ち上げて肩に担ぐ。
「フレデリック」
「分かってる。派手にはやらねえさ」
派手にやり過ぎてはいけないと釘を刺そうとするジャック・オーにそう返して、フレデリックはバイクの前へと歩き不良達と再び向き合った。
「何を出すかと思えば……アタシ達が持ってるもんが見えねえのか!?」
「銃だな」
そう答えながらフレデリックはゆっくりと不良達の方へと歩みを進める。
一方の不良達はその恐れを知らないと言わんばかりのフレデリックに気圧されたのか、わずかに腰が引けていた。
だが、リーダー格の不良は逆に目尻を吊り上げてフレデリックに銃口を向けなおす。
「分かってんならそのヘンテコなもん地面に置いて、アタシらの言うことを――」
「まあ待て。まあ聞け。こう見えて俺は荒っぽい性格だ。だが、お前達がこの場を穏やかに納める賢さがあれば俺もそれに応えてやる」
歩きながらフレデリックが笑う。あくまで場を収めようと仏頂面よりはマシだろうという判断をしての行動だった。
しかし、不良達にとってはそうではなかった。
ヘイローも持たない人間が銃口を向けられているのに恐れずにこちらへ近づいてくる。その上不敵に笑った。
自分達はナメられている。そう感じたのも無理からぬ話だったかもしれない。
「ふ、ふざけんじゃねええええ!」
そして耐えかねたリーダー格の不良が引き金を引いた。
狙ったのはフレデリックの腹部ど真ん中だった。ヘイローを持った生徒なら、痛みに少しうずくまる程度の場所。
けれどそうでない人間にとっては致命傷になりうる場所。
一発の銃声が当たりに響き渡る。
その銃声で我に返った不良が己の過ちと、目の前に広がるであろう惨状にまで想像を巡らせて、ガタガタと震えだす。
自分は、もしかして人を殺してしまったのでは……? 不良のリーダーの脳裏にそんな言葉が何度も明滅する。
目の前をしっかりと見るのが怖い。見たくない。そこに生意気な大人が倒れて血を流していたら自分は……。
けれど、不良達の前には撃たれてその場に倒れるフレデリックの姿はなかった。
最も、自分の過ちを確かめることが怖くなって目を閉じていた不良のリーダーはそれに気づくことはなかったが。
「……間違えたな?」
フレデリックが鋭い目つきで不良達を睨みつける。
何のことはない。不良が引き金を引くより速く、肩に背負ったジャンクヤード・ドッグを体の前に持ってきて銃弾を防いでいただけの話だった。
だが、ヘイローを持った生徒がやるならまだしもそうでない大人がそんなことをできるだなんて不良達の想像を大きく超えていた。
だから、フレデリックを射殺したと思い込んだ不良のリーダーが彼の声を聞いてパニックになるのもある意味仕方がなかったのかもしれない。
「ヒィッ!? ば、化けも……」
今度こそ完全に恐慌状態に陥った不良のリーダーが銃口を持ち上げるその前に。
「オラァ!」
地面がわずかに陥没するほどの力で駆けだしたフレデリックがジャンクヤード・ドッグを振るう方が先だった。
大きさ相応の重さに暴力的な速度が乗せられ、その運動エネルギーが不良生徒の鳩尾に叩き付けられる。
「ごっふ……!?」
何が起きたかも理解できないまま、不良のリーダーはジャンクヤード・ドッグが振り抜かれるのに合わせて後方へ吹き飛んでいった。
「なっ……!?」
そばにいた他の不良達が吹き飛ばされたリーダーを目で追って出来た隙にフレデリックは手近な生徒の銃を奪い取る。
「あっ!? てめ……」
「ハァッ!」
奪い取った銃で別の不良の銃を殴りつけ、銃身をひしゃげさせる。
力で何もかもを解決する、を地で行くやり方を前にあんぐりと口を開けた不良達は既に戦意を失っていた。
まだ銃を持っている不良達も力なく銃口を下ろしている。
「……まだやんのか?」
そう周囲を睨みつけるフレデリックを前に、不良達は皆その場に装備を投げ捨てて力なく座り込むのだった。
フレデリックは背徳の炎の種を抜かれたことで極端に戦闘力が落ち込んだ、と公式から言及されていますが一方で戦えなくなったともいわれていません。
そもそもギア細胞がなくても超人的な戦闘力を誇る人間はあの世界には多く(チップ、ジョニー、ガブリエルが良い例かと思います)、故に現時点でもフレデリックは相当のパワーを持っていると解釈しました。
流石にGGSTストーリーモードの賞金首を無力化する際にやった地面を踏みつけて壁にする、という芸当は無理だと思いますが、キヴォトスでの生徒達相手に近接戦闘では肉薄できる程度の戦闘力はまだ十分持っていると思います。
今回は不良のどてっぱらにジャンクヤード・ドッグをぶち込みましたが、当然これでも手加減はしています。
生徒を導く先生だからね。大怪我させちゃいけないもんね。