かつて繁栄を極め、キヴォトスで最も強大な都市と言われたアビドス。
その中心地だった元アビドス本校が戦場となってどのくらい経ったのか。
「ホシノ、前に出て奴の攻撃を受け止めろ! シロコ、ノノミ、セリカはホシノのフォローだ。ムツキ、ハルカ。指定したポイントにありったけの爆薬仕掛けてこい! カヨコはアルのサポートだ。アル、隙をついてゴリアテの胴体にもう一発ぶち込め。アヤネはドローンでゴリアテの動きの確認と攻撃の予測、それの連携を他の奴らにしてくれ」
「うへ、人使い荒いなあもー!」
「ん、任せて」
「はーい☆」
「今度こそ終わらせるわよ!」
「くふふっ! 任されたよー!」
「わ、分かりました!」
「了解」
「分かりました!」
フレデリックの指示に対策委員会と便利屋がそれぞれの役割を果たすために駆け出していく。
一方別の場所では飛鳥が風紀委員会のメンバーに指示を出していた。
『空崎さん、回り込んでゴリアテの動きを止めて。銀鏡さん、ゴリアテの動きが止まったら損傷した部位への攻撃を。火宮さんは負傷した生徒のフォローをお願い。天雨さんは皆へのオペレートを』
「分かったわ」
「任せて!」
「了解しました!」
「言われなくとも!」
また、ジャック・オーも同じタイミングでカタカタヘルメット団へ指示を出す。
『ウヅキちゃん、何人か連れてヒナちゃんに、メトちゃんは対戦車ランチャー持った子を連れてイオリちゃんに、ナツキちゃん達はホシノちゃんに合わせて!』
「分かった! 行くぞお前等!」
「了解! さあ、行こう!」
「任せるっすよ!」
『くっ……! このクソガキ共がァ!』
シャーレの指示を受けて、本来なら足並みをそろえることなど到底望めないような複数の集団がまるで一つの群体として動き出す。
そこから繰り出される攻撃にゴリアテは押し込まれ、中々攻撃に転じることが出来ない。
自身を攻撃するものへ反撃しようとすれば正面にいるホシノやナツキ達に邪魔をされ、そんなホシノ達を攻撃しようとすればヒナや対策委員会に邪魔をされる。
そうして動きを止めてしまえば、アルやイオリ、メト達からの援護射撃によって手痛い攻撃を食らってしまう。
それを嫌って逃げ出そうとすれば、便利屋が仕掛けた爆薬によって瓦礫の下敷きにされそうになる。
それでも理事もまた戦い慣れているのか、致命的な攻撃だけをフォルトレスディフェンスで的確に防いでいた。
だが、それでもゴリアテは徐々に押し込まれていった。
その証拠にウルツァイトコーティングされ、鉄壁の防御を誇っていたはずの漆黒のボディには胴体部分だけではなくあちこちにひびが入っている。
四勢力による総攻撃、そしてそれを的確に指揮するシャーレの前に理事は攻めに転じることが出来ずにいた。
このままいけば勝てる。そんな予感を生徒達が持ち始めた時だった。
『ッ! 対戦車ランチャー、もうありません!』
『こっちも弾がもうないよ!』
「わ、私達もそろそろ限界です……!」
残酷にも、ゴリアテを撃破する前に生徒達の弾薬が底をつきかけていた。当然と言えば当然だったかもしれない。
どの集団も、ここに来るまでに何度も戦闘をしていたのだから。
だが、弾薬が底をつきていたのはゴリアテも同様だった。
いくら大きな体とは言え、補給も無しに戦い続けられるほどの弾薬を載せておける構造ではない。
生徒達の攻撃が収まってきたことに気が付いたゴリアテが腕部ガトリングを近場の生徒に向けたが、砲身がむなしくから回るばかりで弾は出なかった。
しかし、それでもその巨体による質量は人には脅威である。
理事もそれを理解しているのか、防御を捨てて生徒達の方へとゴリアテをすさまじい勢いで突進させ始めた。
シャーレの三人が生徒達に回避行動をとらせる。
その巨体と勢い自体は脅威だが、同時に細かい軌道変更も出来ないことはすぐに分かった。
また、突進を止めた直後が隙だらけになっていることも。
当然、生徒達もそこを攻めるが理事もそれを分かっていたのだろう。突進後の隙にはフォルトレスディフェンスを展開してダメージを無効化した。
そんなことが何度も続くが、ゴリアテ側がフォルトレスディフェンスを使えなくなる気配はまるでない。
状況は完全な膠着状態、否。弾薬がどんどん減っていく生徒達側が圧倒的不利な状況になっている。
「先生! あのバリアはいつ切れるの!?」
セリカのいら立ちをあらわにした問いかけにフレデリックは眉間にしわを寄せる。
「あのバリア……フォルトレスディフェンスは燃費が悪い。だが、こうして何度も展開しているということはおそらく機体を動かす分だけリソースを回復する手段があると見ていい」
「つまり!?」
「アイツの動きを止めておかないとバリアは消えねえってことだ」
「じゃあ、無理ってことじゃない!」
セリカの叫びに他の生徒も顔をしかめる。
実際、弾薬が少ないこの状況でゴリアテを留め続けられる余力など既にない。
このままではジリ貧になって全滅……いや、その前にフレデリック達が大変な目に遭う。
『どうしたゴミムシ共! さっきまでの勢いはどこへ行ったァ!?』
度重なる生徒達からの妨害に、最早正常な思考など投げ捨てたのか。気味の悪い笑い声を上げながら、理事はゴリアテで突進と停止を繰り返している。
そんな様子にフレデリックはため息を吐き、無線のオープンチャンネルで飛鳥とジャック・オーへと声をかけた。
「おい。そろそろ頃合いだろ」
『フレデリック……まさか?』
「野郎が使ってるのは俺達の世界の技術だ。大方ケイオス辺りが入れ知恵したんだろう」
『そうね。私達がキヴォトスに来たのが原因でケイオスがこっちに来て、あの兵器を作ったのなら……』
「少なくともあのフォルトレスをどうにかするまでは俺達がやるのが筋だ。そうだろ飛鳥」
フレデリックの問いに、飛鳥はしばし答えずにいた。
しかし、やがて大きく息を吐く音が無線越しに聞こえてくる。
『分かった。出来るだけ手加減をしてみる』
『皆の分は残しておかないとね?』
「全員聞いたな? 今から俺達があのクソ野郎のバリアを何とかする。その間に体勢を立て直しておけ」
フレデリックの言葉に生徒達にどよめきが広がる。
何故なら、先生の誰もが銃を持っていないのだ。全員が不思議な力を持っていて、それなりに強いということはそれぞれ面識のある生徒達にも分かっている。
それでも、たった三人でどうにかしようなんて無茶だと口々に言ってきた。
そんな生徒達をフレデリックが一喝する。
「ガタガタぬかすな! 代案があるなら1秒以内に出せ!」
フレデリックの喝に誰もが押し黙った。代案などないのは皆分かっていたから。
「先生。約束、覚えてるよね?」
そうして生徒達が静まり返ったところで、ホシノがフレデリックに真剣な表情で問いかける。
それに対してフレデリックはニヒルな笑みを返した。
「まあ見てろ。俺達なら、熊からパンダを生まれさせることも不可能じゃあない」
「分かった。……皆! いったん引いて体勢を立て直すよ!」
フレデリックとの問答に満足したのかホシノは一瞬微笑んで、それから真剣な表情で対策委員会や近くにいたカタカタヘルメット団の生徒を引き連れてその場を離れていく。
それと入れ違う様にフレデリックの隣に飛鳥がテレポートで現れ、ジャック・オーも右足につけた鉄球に乗ってフレデリックを挟むように飛鳥の反対側へ降り立った。
「こうして三人で肩を並べるのはいつ以来かな」
「懐かしいわね。ヴィンス教授*1の研究室でギア細胞の研究してた頃以来じゃない?」
「年寄り臭い昔話は後にしろ。コーヒーブレイクはその後でもいいだろ」
「あら、私達もう年寄りでしょ?」
「肉体年齢的にはまだ皆二十代だけど、最初に生を受けた頃から数えればもう一世紀以上も生きてるわけだからね」
「揚げ足取りをしろとは言ってねぇ……飛鳥も話を広げるな」
目の前に自分達を引きつぶせるかもしれない鋼鉄の巨人がいるというのに、フレデリック達を取り巻く雰囲気は仕事の合間の雑談に花を咲かせている時のような穏やかさがあった。
それが逆鱗に触れたのか理事が再びスピーカー越しに怒鳴り声を上げる。
『貴様らッ……私を馬鹿にするのも大概にしろぉぉおおおお!!』
怒鳴ると同時にゴリアテをフレデリック達に向けて突進させる。
三人との距離は見る見るうちに縮まっていき、あっという間に目の前までやってきた。
だが、ゴリアテが三人を踏みつぶすよりも早く飛鳥が虚空から呼び出した本を開いて詠唱をする。
「満たせ」
紡がれた言葉と共に、飛鳥の正面から蒼い立方体が飛んで行ってゴリアテに着弾する。
その瞬間、ゴリアテは動きをピタリと止めた。否、止められた。
飛鳥の生み出した立方体は凄まじい量の水を立方体という形に押し込めたものだった。
そんな確かな質量のある物を高速で撃ち込まれれば、それがゴリアテの質量をも食い止めるのに十分な運動エネルギーを持つのも当然だった。
『ぬぅ!?』
そんな動きを止めたゴリアテに向けて、フレデリックが大きく飛び上がった。
そして右手に炎をまとわせ、ゴリアテめがけて一気に急降下しながら拳を振り下ろす。
「バンディットブリンガー!」
フレデリックの拳がゴリアテに当たる直前、ゴリアテの周囲にフォルトレスディフェンスが展開される。
炎の拳はゴリアテに突き刺さることはなく、フォルトレスディフェンスの表面を殴りつけるだけに終わった。
拳を振り下ろした体勢で着地をしたフレデリックは完全に無防備な状態になる。
しかし、そんなフレデリックの隙をカバーするようにサーヴァントを呼び出していたジャック・オーがフレデリックを跳び越すように渾身の力でサーヴァントを蹴り飛ばしてゴリアテにぶつけた。
フレデリックの隙を突こうとフォルトレスディフェンスを解除していたゴリアテはそれをまともに食らって、攻撃の動作を中断せざるを得ない。
「唸れ」
飛鳥の短い詠唱と同時に、体勢を崩しかけていたゴリアテの足元が突然隆起する。
なすすべもなくゴリアテの機体が宙に浮くが、飛鳥の追撃の手は止まない。
「開け」
飛鳥の背後に宇宙空間へ通じるような穴が開き、そこからいくつもの立方体がゴリアテめがけて高速で飛んでいく。
身動きが取れないゴリアテはこれをみてフォルトレスディフェンスを展開する。
次々と襲い来る立方体を全てフォルトレスディフェンスで受け止めたゴリアテが再び地面に着地した時、ゴリアテを包む薄緑色のバリアが明滅して消えた。
『ッ! フレデリック先生! フォルトレスディフェンスのエネルギーリソースは腰に付いた大型のバッテリーパックと思われます! 今、バリアが消えた瞬間にそこのランプが黄色から赤に変わりました!』
ちょうどその時、アヤネからフレデリック達に通信が入る。
それは値千金の情報だった。
「奥空さん、実にいい仕事だよ」
「チョベリグよアヤネちゃん!」
飛鳥、ジャック・オーがアヤネに賞賛の言葉を投げかけると同時にフレデリックがゴリアテに向かって駆けだす。
そんなフレデリックの頭にジャック・オーがサーヴァントを取りつかせた。
いかつい顔つきの男が頭に2.5頭身の珍妙な生物が取りつかせて猛ダッシュする光景は何ともシュールだったが、そんなことなどお構いなしにゴリアテは腕を振り上げてフレデリックめがけて振り下ろす。
だが、フレデリックはそれをかわそうともしなかった。
生徒達がその凶行に息を呑む。
「守って!!」
けれども、振り下ろされたゴリアテの腕はジャック・オーの防御指示によってサーヴァントが張ったバリアにはじき返される。
自身の質量と重力まで加えた渾身の攻撃を反射され、ゴリアテがたたらを踏む。
そんなゴリアテの背後に、いつの間にかテレポートしていた飛鳥が何かを持ち上げるような体勢を取っていた。
「大地よ!」
気合と共に振り上げられた両手に合わせ、先ほどの数倍の高さまで
それをまともに食らったゴリアテがまるでバレーボールをトスしたかのような軽さすら感じる勢いで仰向けの体勢になって真上へと打ち上げられた。
「「フレデリック!!」」
ジャック・オーと飛鳥の声に応えるようにフレデリックがゴリアテの真下に潜り込み、地面にジャンクヤードを突き刺す。
そして重力に従って自由落下を開始したゴリアテを見上げながら、フレデリックが深く屈みこんだ。
ジャンクヤードに法力を流し込み、術式を起動させる。
同時に足にありったけの力をこめて、ゴリアテ目がけて跳躍。
そこへジャンクヤードから地面に向けて法力エネルギーが放出され、さらに推力を上乗せする。
真上に向かって文字通り射出されたフレデリックが、為すすべなく落下してくるゴリアテに迫る。
「ヴォルカニック……ヴァイパァァァァァア!」
そして炎をまとったジャンクヤードを気合と共に渾身の力で振り上げた。
ゴリアテをも飲み込めるほどの紅蓮の大蛇がゴリアテのバッテリーパックに食らいつき、そして粉々にかみ砕いた。
『ぐおぉぉぉぉぉっ!?』
落下していたところに、更なる衝撃を加えられゴリアテのスピーカーから理事の悲鳴が響く。
フレデリックの攻撃によってさらに打ち上げられたゴリアテが、再び重力によって地面へと吸い寄せられていく。
そして轟音と振動を発生させながら砂埃を巻き上げて地面へと叩きつけられた。
「さあお前等、仕上げの時間だ!」
何事もなかったように綺麗に着地を決めたフレデリックが無線で生徒達に
フレデリックの言葉を受けて、ホシノ、ウヅキ、アルがゴリアテが墜ちた地点目がけて飛び出した。
もうもうと漂う砂埃から、度重なるダメージによってあちこちから火花を散らしたゴリアテが飛び出してくる。
『うおおおおおおおおおおおおっ!!!』
最早人の言葉すら投げ捨て、獣のような雄たけびを上げながら理事がゴリアテの腕を振り上げる。
「やらせない」
「やらせませんッ!」
「させねぇっす!」
そこへヒナとノノミ、ナツキによる三つの鉛玉の嵐が襲い掛かり、ゴリアテは無理やり動きを止められた。
「三流悪党は退場の時間だよッ!!」
「早く消えてくださいぃ!」
「往生際が悪いぞ!!」
そこへムツキとハルカがいくつもの爆弾を投げつけ、それらがゴリアテの振り上げた腕の前まで来た瞬間にイオリが撃ち抜く。
そしてとうとうダメージに耐えられなくなったのか、ゴリアテの右腕が胴体から千切れ飛んで落ちる。
『まだだァ!!』
しかし、これで終わらないとゴリアテが残った左腕を振り上げる。
「邪魔させないよ」
「最後の花火。受け取って」
「さっさと諦めろっての!!」
「ウヅキちゃんの邪魔はさせない!」
ゴリアテが腕を振り上げた瞬間、ホシノ達よりも一歩前に出たカヨコがサイレンサーを外した
その轟音に、理事の操作にほんの僅かに遅れが出た。
ほんのわずかな隙。けれど、生徒達がつけ込むには十分すぎるほどの時間だった。
シロコがドローンから最後の小型ミサイルを掃射し、セリカがそれに続くようにミサイルの着弾地点を攻撃。
更に二人の攻撃によって損傷が激しくなった部分を、メトが正確に後方から撃ち抜く。
そうして、遂にゴリアテの左腕も胴体から千切られた。
最早道を阻むものは何もない。
ホシノ、ウヅキ、アルは誰に言われるでもなく両腕を失ってたたらを踏んでいるゴリアテに肉薄した。
「「「「ホシノ先輩ッ!」」」」
「社長!!」「アルちゃん!!」「アル様ッ!!」
「ウヅキちゃぁぁん!!」「リーダーァッ!!」
【ぶちかませぇぇぇぇぇえッ!】
皆の言葉を背に受け、三人は完全にひび割れて今にも砕けそうなゴリアテのコックピットに向かって跳躍した。
体力、気力、これまでの気持ち。
何もかもを引き金を引く指に込める。
三人の銃口にそれぞれのヘイローと同じ色の光が集まっていく。
それを目の当たりにしてようやく、理事は己の敗北を理解したのか情けない声を上げ始めた。
『ま、待て! 私の──』
「「「
けれど、最早三人にそんな降参の向上を言い切るまで待つ義理もないとばかりに引き金を引く。
限界まで溜められたエネルギーが火薬の爆発と共に一条の光となって放たれた。
それはひび割れたゴリアテの装甲をまるで障子の紙のように簡単に破いて、その奥にいる理事へと迫る。
「なっ……うおおあああああああああぁっっっ!?」
光に撃ち抜かれ、絶叫と共に理事がゴリアテごと後方へと吹き飛ばされていく。
そうして随分と離れたところまで吹き飛ばされたゴリアテは、地面を何メートルも滑って行きながらようやく止まった。
ホシノ達は肩で息をしながらゴリアテの動きを注意深く観察する。
動く様子はない。
そんなゴリアテにアヤネのドローンが近寄っていく。
『……ゴリアテ、完全に機能を停止。カイザーの理事も気絶しているようです』
「それって……」
アヤネの言葉にセリカが何かを期待するようにフレデリックの方へ振り返る。
そんな視線を向けられたフレデリックは、小さく笑いながら無線で繋がっている他の生徒にも聞こえるように応えた。
「戦闘は終了。俺達の勝ちだ。よくやった」
フレデリックの勝利宣言に全員が湧く。
そして、長かった戦いの一日がようやく終わったのだった。
アビドス編、次回エピローグ