BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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彼女達がその手で勝ち取ったもの

 旧アビドス本校舎での戦闘から数日経った。

 街中をバイクで駆け抜けながら、この数日のことを思い出す。

 ほんの数日だが、その間にも様々なことがあった。

 まず、対策委員会は飛鳥の公的な認証によってアビドス高等学校の正式な委員会として承認された。

 そもそも、今回の事件は対策委員会が非公認だったところに付け込まれたというところも大きい。

 今後同じようなことが起きないよう、飛鳥、フレデリック、ジャック・オー全員がそうするべきだと考えての承認だった。

 同時に、対策委員会がアビドス高校の生徒会の役割も担うことになったが、ホシノは生徒会長を断固拒否する構えを取っていた。

 かといって、ホシノがいるうちに二年生の二人に会長をやらせるのもどうなのかということになり、結局生徒会長の席は空席のままだ。

 まあ当面は新入生が来るわけでもないし、直ちに決めなければ支障の出る問題でもないだろうというフレデリックの鶴の一言でその件は見送られることになった。

 便利屋が吹き飛ばしてしまった柴関ラーメンは屋台の形で再スタートを切り、セリカをアルバイトとして雇いつつ繁盛しているらしい。

 ホシノがカイザーに囚われてしまった件は、カイザー理事の独断専行による凶行としてカイザーコーポレーションから声明があった。

 また、既にカイザーコーポレーションはカイザー理事を解雇処理をしたとも発表している。

 一応、一連の経緯を知った連邦生徒会も生徒誘拐事件の主犯として元カイザー理事を指名手配はしているが、連邦生徒会長がいなくなり内部処理もガタガタになっていた彼女らでは手が回らないだろうとフレデリックは内心でため息を吐いた。

 ただ、一応良いこともあった。

 アビドスの借金の金利がフレデリック達が来る前よりのそれよりも少ないものへと引き下げられたのだ。

 当然、一週間以内に3億円の保証金を、という無茶苦茶な要求も撤回。

 それだけではなく、風紀委員との戦闘を理由に請求されていた弁償代も撤回された。これはアビドスだけではなく、便利屋68や風紀委員も一緒だったらしい。

 最も、だからと言ってカイザーに売り払ってしまったアビドスの土地が戻ってくると言う訳でもなければ、借金が全て帳消しになったわけでもない。

 相も変わらずアビドス高校は借金地獄のままで、問題は山のように残っている。

 周囲から見たら相変わらずアビドス高校は風前の灯火のままだ。

 

 バイクを徐々に減速させ、フレデリックはアビドス高校の校門をくぐる。

 一番校門から近い駐車スペースにバイクを止めて、フレデリックはバイクを降りた。

 もうこの動作もすっかり馴染んでしまったな、などと考えながらフレデリックは対策委員会の部室に向かって歩く。

 砂にまみれながら、それでもできる限り綺麗にと掃除された昇降口を通り、廊下をゆっくりと歩く。

 やがて、生徒達の騒がしい声と共にプレートの上から「アビドス廃校対策委員会」と書かれた紙の貼られた教室にたどり着く。

 扉に手をかけて開ければ、中にいた生徒達が一斉にこちらに振り向いた。

 

「先生、おはようございます」

「遅刻よ先生!」

「ん、おはよう。先生」

「おはようございます~☆」

「おはよ~……」

 

 口々に挨拶する生徒達に軽く手を上げて答えながら、最早定位置となった窓際のパイプ椅子に腰を下ろす。

 

「それでは、本日の定例会議を始めたいと思います」

 

 明るい表情でそう宣言したアヤネと、それに合わせて着席する他の生徒達。

 定例で現状を再確認し、これからどう行動していくかについての議題で生徒達は盛り上がっている。

 借金まみれとは言え負担が軽くなったからゆっくりしようと言い出すホシノに、NOを突きつけるセリカ。

 しかし、今やるべきことと持ってきたのは明らかに詐欺と分かる儲け話だ。

 相も変わらず騙されやすい彼女に生暖かい視線を送れば、シロコが性懲りもなく銀行強盗の計画を話し出す。

 それをホシノがバッサリと却下して、話は振出しに戻った。

 これがアビドス高校の日常だ。ホシノが、シロコが、ノノミが、セリカが、アヤネが守りたかったかけがえのない世界。

 借金の有無ではない、皆で一緒にワイワイしながら過ごしていくなんてことのない日常。

 意見をぶつけ合いながらも、生徒達は皆どこか楽し気な表情をしている。

 それを遠巻きに眺めながら、フレデリックは小さく笑った。

 

「ねえ先生」

 

 気が付けば、ホシノがフレデリックの隣に立っていた。

 他の生徒達はそれに気が付いていないのか、これからどうするかについてあーでもないこーでもないと話し合っている。

 

「どうしたホシノ」

 

 チラリと横目で彼女の方を見れば、とても穏やかな微笑みを浮かべていた。

 

「ありがとう。約束を守ってくれて」

 

 そう言ってホシノは笑う。

 それは今までずっとどこか気負い続けていたホシノの、心の底からの笑顔なのだとフレデリックはなんとなく理解した。

 

「気にするな。俺達がやるべきと思ったことをやっただけだ」

「はぁ~……相変わらず素直じゃないよねえ。普通に『どういたしまして』って言えばいいのに。……よっこいせっと」

 

 フレデリックの言葉に呆れたように肩をすくめながら、ホシノはフレデリックの足の間に挟まるように彼の座っている椅子に腰を下ろす。

 

「おい。何してる」

「いいじゃんいいじゃーん。カイザー理事を失脚させる決定打になる証拠を残したの、私なんだしさー。とっさの機転を利かせた私のこと、もっと褒めてくれてもいいと思うんだー」

 

 にへらと笑いながらホシノがフレデリックの方へしなだれかかって来るのを、困ったように見つめながらもフレデリックはそれを押しのけようとはしなかった。

 ホシノの言葉は事実だったし、他にやり方が思いつかなかったとはいえ模擬戦なんて強引な手段をとったことにはフレデリック自身負い目もあったからだ。

 

「……好きにしろ」

 

 だから、小さくため息を吐いてそう答えた。

 

「うへへ。じゃあ、遠慮なく~」

 

 了承を得られたことで、ホシノが嬉しそうな声で笑いながら後頭部をぐりぐりとフレデリックの胸板に押し付けてくる。

 

「ねえ先生」

「ん?」

「いつまでここにいられるの?」

 

 不意にホシノの声のトーンが落ちた。それは、子供が出張しがちな親にいつまで一緒にいられるのかと聞く時のような不安げな響きを含んだ声だった。

 ホシノとて分かっているのだろう。フレデリックはシャーレの先生であって、アビドスの先生ではない。

 いずれアビドスを離れ、別の学校のフォローに行く必要がある。実際、そんな日は遠くはない。

 だから、フレデリックは正直に答えることにした。ここで嘘や慰めを言っても仕方がないからだ。

 

「少なくとも三日だな。その後どうするかはこれから飛鳥達と決めるが……まあアビドスばかりとはいかねぇだろ」

「そっか……ちょっと寂しくなるね」

 

 三日という具体的な日数を聞いたホシノがわずかに肩を落とす。初対面で銃を突き付けられた時のことを思えば、随分と変わったものだとフレデリックは笑いながらホシノの頭をガシガシと乱暴に撫でた。

 

「うわぁ~。先生、何すんのさ!」

「なんでもねぇよ」

「ちょ、先生なんか笑ってるでしょ!」

「さあな」

「嘘! 絶対笑ってる!!」

 

 乱暴になりすぎない程度の力でフレデリックの手を払いのけたホシノが彼の方を振り返り、やはりフレデリックが笑みを浮かべていることに対して頬を膨らませた。

 

「ほら、笑ってるじゃん!」

 

 そんなホシノにフレデリックは笑いながらあごでホシノの背中の方を指し示す。

 

「定例中だぞ。そろそろ話に参加してやれ」

 

 ハッとしてホシノが後ろを振り返れば、後輩達が何とも穏やかで優しい笑みを浮かべながらホシノのことを見ていた。

 ホシノの背中しか見えないフレデリックからでも、耳の先まで真っ赤になっているのが見えるくらいにはホシノは顔を赤くしているようだ。

 

「や、えっと……これは……!」

 

 しどろもどろになるホシノに、後輩達は皆半分はからかう様に、もう半分はどこかホッとしたような様子で微笑む。

 

「うへ……えへへ……おじさん頑張ったし、たまには……ね?」

「ホシノ先輩、私悲しいです。ホシノ先輩の特等席は私の膝の上だけだと思ったのに……」

「あっ、いや……ノノミちゃんの膝の上は私だけのものだからね!?」

「なんか、子供扱いされてるホシノ先輩見るのって新鮮だね」

「ん。正直可愛いと思った」

「んぇっ!? セリカちゃんシロコちゃん、そういうのはいいってばぁ~」

「あはは……それじゃあいったん定例は中断しちゃいましょうか」

 

 そうして騒がしくも穏やかな時間が対策委員会の部室に流れる。

 本当に色々あったし、結果だけ見れば借金も減ったわけではないからアビドス高校が風前の灯火であることに変わりはない。

 けれども、誰一人委員会のメンバーが欠けることなくこうした時間をまた過ごせるようになった。

 それこそが、対策委員会が今回勝ち取った一番の報酬なのだろう。

 年頃の少女らしく笑い合う対策委員会の生徒達を見てれば、色々と駆けずり回った価値があるというものだ。

 時折耳元で発せられるホシノの大声に顔をしかめながらも、フレデリックは穏やかな気持ちで心の中で呟く。

 

 ──悪くない。全く悪くない。と




これにて原作で言うところのアビドス1章~2章分のお話は終わりになります!!
いやあ、本当に長引きました。
1月のブルアカふぇすでアビドス3章の開始が発表されてから、アビ3のプロローグが来る前に終わらせるはずだったアビドス編も、終わってみれば2月を飛び越して3月になっての終了です。
書けば書くほどあれもこれもともりたくなって盛った結果がこれですが、アビドス編でやりたかったことは全てやり切れたので満足しています。
アビドス編で盛りすぎてるので、正直エデン条約編や最終編がめちゃくちゃ今から不安要素まみれではあるんですが、そこはまあおいおい考えていくとして……

次はパヴァーヌ1章……の前に、何話か幕間の話を挟みます。
また、アビドス編に関しては2月いっぱいほとんど毎日投稿を続けていたので、本作の更新速度を一旦落とします。
流石に毎日投稿はしんどかったかもしれない……

書いていてセリフ選びや地の文などの未熟さも目立つので、インプットの時間も欲しいですしこれからは週2~3話くらいのペースに落とそうかなと思っています。

毎話楽しみに待ってくれている人にはちょっと申し訳ありませんが、何卒ご理解いただければと思います。

長くなりましたが、これからもBlueArchive -Strive-をよろしくお願いいたしますm(__)m
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