BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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すみません、大分期間が空いてしまいました。
またも仕事でメンタルを壊してしまいまして……

大変申し訳ございませんが、ゆっくりゆっくり更新させてください……


嵐を巻き起こして

 その日、キヴォトスに衝撃が走った。

 

「え!? シャーレが当番制のお手伝いを募集?」

「ええ。飛鳥先生がそのような告知をしたと、先ほど道行く生徒が噂していました。ユウカちゃんは……やる気みたいですね」

「えっ!? い、いや、ノア! これはそういうのじゃなくて!」

 

「ふ~ん。シャーレからお手伝いの募集だってナギちゃん。こんなところで紅茶ばっかり飲んでないでたまには外に行ってみたら?」

「ミカさん……私達にも立場というものがあることを忘れないでください。ティーパーティーのトップがおいそれと席を空けるようなことはあってはならないのですよ」

「同感だね。目新しいものがあると感情のままにすぐ飛び出すのは君の悪癖だよミカ。君だって仮にもパテル派のトップなんだ。一分派を率いるものとしての自覚をもって、その悪癖は改めた方が良いのではないかい?」

「あはっ、セイアちゃん相変わらず何言ってるか分かんなーい。あとその何でも分かってますみたいな感じの物言い、やっぱムカつくなー」

「ミカさん、セイアさん。その辺りにして、そろそろ本題に入りましょう」

「はーい」

 

「シャーレのお手伝い……ね」

「ヒナ委員長、どうかされましたか? って、これは……シャーレのSNSアカウントですね」

「あー、私もさっき見たよアコちゃん。なんか、当番制でシャーレがお手伝い募集するんだってさ」

「お手伝い、と言うとボランティアのようですがどうやらちゃんと報酬も出るそうです」

「希望者がいればシフトや業務の状況と調整してからだったら行っていいわ。手伝いがてら、相談事があればしてくれていいとも書いてあったし行ってみるのもいいかもね」

「そんな暇があればいいんですけどね……」

万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)次第ね。この間の一件でまた難癖付けてくるようになったし」

「ほんっとにあのタヌキ共は!!」

「あはは……」

 

「うへー。また随分と面白そうなこと始めたんだね、シャーレの先生達」

「ん。たまに行ってみたい」

「いいですねー! 今度ジャック先生にフレデリック先生のあれこれ聞いてみたいですし!」

「いや、ノノミ先輩。フレデリック先生困っちゃうからやめてあげなよ」

「あはは……でも、私もちょっと気になっちゃいますね。そ、その……プロポーズの時とかどんなだったのかとか結構気になったり……」

「アヤネちゃん!?」

「ま、いい感じにスケジュール調整して一人ずつ行ってみようかー」

 

「な、なんですってぇぇぇ!?」

「あっはははは!! アルちゃんすっごい目がキラキラしてる~!」

「だって、シャーレのお手伝い……いえ、コラボレーションよ!? ここで上手く伝手を作っておいて、いざという時に大きな仕事を任せてもらえるようになれば……便利屋68がキヴォトスいちのアウトローになる野望へ大きく前進するじゃない!」

「さ、流石アル様です! 私ずっとついて行きます!!」

「まあ、手伝い行った生徒にはちゃんと報酬も出るみたいだし……手が空きそうなときに行ってみるのもいいかもね」

「あれー、カヨコっち珍しく乗り気じゃーん。いつもはこういうの、あんまり気乗りしなさそうなのに」

「べ、別にそんなことないから」

 

「へぇ~……面白いこと始めたね飛鳥君。うん。良いと思うよ? 君は世界を識っていてもリアルを知らなさすぎる。この機会にうんと勉強をするべきだ。……でも、そういうことなら僕もちょっと色々動いてみようかな」

 

 様々な場所で、様々な反応があった。

 そんな一つの大きな嵐を巻き起こしたシャーレオフィスでは、当の先生三人組はそれぞれの自席に座って黙々と書類仕事をしているところだった。

 まさに台風の目と言ってもいい状況だった。周囲は大荒れになりつつあるというのに、その中心は至って静かで嵐が起きていることなど忘れてしまいそうなほどに。

 そんなペンやキーボードを叩く音、紙をめくる音、誰かが体勢を変えて椅子がきしむ音以外響くことのない静かなオフィスで、不意にフレデリックが声を上げる。

 

「それで? 当番制の手伝いの募集ってのはどういう風の吹き回しなんだ、飛鳥」

 

 フレデリックの問いかけに飛鳥が手元の書類から視線を上げてフレデリックの方へと顔を向ける。

 それから、ほんの少しだけ恥ずかしそうに軽くはにかんだ。

 

「アビドスの一件以降、僕はリアルを知らなさすぎるってことに気が付いたんだ」

「ああ? ……まあ、確かにお前は本を通じて世界の状況を俯瞰(ふかん)することは多かっただろうが、表舞台に立ったことはほとんどなかったな」

「うん。それに僕にとっての世界はフレデリック、ジャック・オー君達と、レイヴンやイノ、師匠といった限られた人しかいなかった。元の世界にいた頃ならそれでも良かったかもしれない。けれど……今の僕はシャーレの先生だ」

 

 飛鳥の言う事を引き継ぐようにジャック・オーが頷く。

 

「そうね。私も、自分の世界にいるのはフレデリックと飛鳥君。それからカイとディズィー、シン、ラムレザルにエルフェルト、イリュリアの王様達位だったわ。でも、こっちで先生をやるならそれじゃ足りないわよね」

「世界ってのはそう簡単に広げられるもんじゃねえ。が、まあ待ってるだけじゃ広がらねえってのは確かだな。花火を見るにも、見える場所に移動をしなけりゃ見えるのはただの夜空だけだ。……まあ、そういうことならいいんじゃねえのか」

 

 そう言ってフレデリックはクツクツと喉を鳴らして笑って、それからふと何かに気が付いたように飛鳥に問いかけた。

 

「で、当番制って話だがどうやって当番を決めるんだ?」

「え? ああ、とりあえずそれは生徒達からの希望が来てから考えようかなって思っているよ。流石にシャーレ自体の知名度もそこまで高くないだろうし、いきなり大量に希望が来るなんてことは──」

 

 飛鳥がそこまで口にした時だった。

 シッテムの箱のディスプレイに明かりが灯って、アロナのホログラムが飛び出してきた。

 

【あ、飛鳥先生大変です!!】

「アロナ? どうしたんだい?」

【先ほどSNSで飛鳥先生が投稿したお手伝いの希望の件ですが、既に大量の希望が来ていまして!!】

「……ええ?」

 

 アロナの言葉に飛鳥の頬がわずかに引きつる。ジャック・オーは苦笑いをし、フレデリックはあからさまに呆れたようなため息を吐いた。

 

【と、とりあえず今希望が来てる各生徒さんの名簿とそれぞれの希望日程を表にしておいたので確認して欲しいです!】

「わ、分かった。ありがとうアロナ」

【いえ! アロナはスーパーAIですから! これくらいは朝飯前、です!】

 

 ふんす! と腰の手を当てて得意げに胸を張るアロナに飛鳥は思わず頬が緩んだ。

 しかし、それも長くは続かない。

 アロナがまとめてくれた手伝い希望生徒のリストを開いた瞬間に、50人を超える生徒の名前が並んでいた。

 想定以上の希望者の数に、飛鳥は一瞬思考が止まってしまう。

 そして、かろうじて口から漏れたのは純粋な疑問だった。

 

「これは……一体どういうことなんだ……?」

 

 そんな疑問に答えたのはアロナだった。

 

【飛鳥先生、ニュースとかご覧になっていないんですか? 先日、先生達がアビドスでの事件を解決に導いたことがニュースでキヴォトス中に知れ渡ったんですよ?】

「いや、それは見たよ。でも、それがどうしてここまで希望者の数が膨れ上がることに繋がるのか、ちょっと分からなくて……」

 

 飛鳥のそんな言葉に、アロナが信じられないようなものを見る目で飛鳥の方を見てから、子供を叱るように腰に手を当てて険しい表情をした。

 

【先生! 先生達はあの廃校寸前だったアビドス高校の危機を救ったんですよ!? それも、たった半月ほどでです! 連邦生徒会や、他の大規模マンモス校が見放したあのアビドスの状況を好転させたとあれば、生徒の皆さんが頼りたくなるのも当然なんですって!】

「な、なるほど……まあ、理屈は何となく分かったよ。確かに、相談事があればそれも聞くと言った旨も書いたし……」

 

 理解した、とは言いつつも飛鳥はどこか浮かない表情だった。

 なんせ、アビドス高校の危機を救ったと言っても降りかかる火の粉を払う手伝いをしただけだ。その危機だって、別に飛鳥達の基準で言えばそれほど大きな事件でもない。

 そんな飛鳥の表情に気が付いたのか、アロナが若干目を吊り上げる。

 

【飛鳥先生、やっぱり先生がどんなに凄いことをしたのか分かってないですよね!?】

「い、いやその……」 

 

 アロナの語気の強さにほんの少しだけ体を仰け反らせながら、飛鳥は正直に自分の感覚を言葉にすることにした。

 

「正直、僕達の感覚ではどこにでもある普通の事件を解決する手助けをした、程度でしかなくて。迷子のペットの捜索を一度成功させたからと言って、探偵事務所が突然繁盛したりはしないだろう?」

【えぇ……あの事件の解決が、迷子のペットの捜索と同じレベルって……飛鳥先生、一体どんなところから来たんですか……?】

 

 呆れたようにジト目で飛鳥を見てから、アロナは何かに気が付いたようにハッと息を呑んだ。

 

【待ってください。『僕達』……って、もしかしてフレデリック先生もジャック先生も飛鳥先生と同じ意見ってことですか!? そんなことないですよね!?】

 

 救いを求めるようにホログラム体のアロナがフレデリックやジャック・オーの方へと視線を送る。

 けれど、フレデリックは小さく肩をすくめるだけだったし、ジャック・オーも苦笑いを返すのみだった。

 自分の常識が全く通用しないことに耐えかねたのか、アロナがギュッと目を閉じて空を仰ぎながら声を上げる。

 

【わあああん! 一体先生達はどんなところから来たんですかあああ!?】

 

 そんなアロナの言葉に、ジャック・オーがおずおずと答える。

 

「えっと……世界の危機が河原の石みたいに転がってる世界から……かしら」 

 

 ジャック・オーの言葉に、今度こそアロナの表情が固まった。

 それから気持ちを落ち着かせようと深呼吸をして、飛び切りの笑顔を浮かべる。

 

【よし! アロナは何も聞かなかったことにします!】

 

 自称スーパーAIは、想像をはるかに超える常識を持った先生達を前に思考を投げ捨てることにしたようだった。

 とにもかくにも、こうしてキヴォトスには一つの嵐が巻き起こることになるのだった。

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