BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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才羽モモイ、参上!

「なるほど、これは中々興味深いね……」

 

 心の底から感心したような声を漏らしながら、飛鳥はあごに手を当てて首を縦に振った。

 

「僕達の行動パターンを収集、分析してそれをもとに僕達の現在位置を予測する機器か。対象を”シャーレの先生”に限定している部分がどうしてなのかはよく分からないけれど、でもその発想は悪くない。この理論を応用すれば、僕達が指揮をした生徒達のデータを収集しオルガン*1と併用することでより最適な戦闘指揮やそれ以外の指導にも活かすことが出来そうだね」

「あの、飛鳥先生……?」

「それに既に特許出願されているのかもしれないけれど、この理論を応用して各自治区の校則違反行為や犯罪行為などのデータを収集して、パトロールを強化することで事件を未然に防ぐ一助になるような機器を作ることだって可能かもしれない。それに……」

「それに……?」

 

 この技術を洗練させていけば、僕達が去った後のキヴォトスでも世界平和の実験を誰かに引き継ぐことが出来る。という言葉は飛鳥の口から発せられることはなかった。

 飛鳥が行っている世界平和の実験は”本”*2ありきの実験だ。”本”はその危うさゆえに複製を造るなんて有り得ないし、誰かに渡すなんてことも出来ない。

 

「飛鳥先生……?」

 

 だが、かといっていくら”本”があったとしても元の世界に帰った後でキヴォトスにラジオが流せるかどうかは余りにも未知数だ。

 既に先生としてこの世界に関わった以上、ここを去ったらもう自分達には関係のないことだなんて無責任なことを言える程飛鳥はキヴォトスに無関心にはなれそうもない。

 故に帰る前に”本”の代わりに飛鳥の求める知識をこの世界の生徒にも与えられるようなものをキヴォトスの技術で造り上げる必要があると考えていた。

 そう言った意味で様々なモノを造り上げているミレニアムサイエンススクールには前々から興味があったが、実際に来てみて改めてこの学園には飛鳥の求める”技術”の若葉が存在しているということを実感した。

 

「飛鳥先生ッ!」

「わっ!?」

 

 グルグルとそんなことを考えている飛鳥は突然の大声にびくりと肩を震わせ、その思考を中断せざるを得なかった。

 そして今自分がミレニアムの生徒である早瀬ユウカの案内で学校を見て回っているということを思い出した。

 ユウカのことを完全にそっちのけにして自分の世界に入り込んでしまったことに少しばかり気まずさを感じながら、ユウカの方へと視線をやる。

 

「す、すまない。少しばかり考え事にふけってしまっていたよ」

「ハァー……先生、うちの生徒の特許提案書に興味を持たれるのは構いま……いえ、あの案は流石にプライバシーの侵害だと思うのでダメですが。まあ戻ってきていただけて何よりです」

「クスクス。残念です。特許の条件を満たしたうえで、キヴォトスでの需要もあるので通せそうだったんですけれどね」

 

 ユウカの言葉にクスクスと笑いながら茶々を入れたのは、飛鳥を思考の海に潜らせるきっかけとなった特許の提案書を彼に渡した生徒──生塩(うしお)ノアだった。

 ノアの言葉にユウカが何を言っているんだと困ったように眉尻を下げながら声を上げる。

 

「ノア! もしそれが通っちゃったら大変なことになるのは飛鳥先生達なのよ! 先生に迷惑をかけるわけにはいかないでしょ!」

「それは、ミレニアム生が先生に迷惑をかけたら先生と会うのが難しくなるからですか?」

「ノア!? 違うわよ! 常識的な意見に基づく至って当然の指摘に決まってるでしょ!」

 

 明らかにノアにからかわれて肩で息をしているユウカに助け舟を出そうと、飛鳥は彼女に安心材料を提供することにした。

 

「早瀬さん、別にそのくらいで僕達は怒らないよ。サンプルの一つでも手に入れば探知をキャンセルできる機械もすぐに造れるし、そもそもそんなものを造らなくたって僕達には対抗手段になりうる”技術”もあるからね。あ、何なら試してみるかい? 何処か完全に通信を妨害出来ている部屋にでも行けば実証できるのだけれど」

 

 よし、こういえば早瀬さんも安心するだろう。と飛鳥はユウカに微笑みかける。

 けれど、飛鳥の想像に反してユウカは何とも言えないような微妙な表情を浮かべていた。

 

「いえ、その。先生? そもそもご自身のプライバシーを侵害されそうになっているという部分に危機感を抱かれた方が……」

「でも、子供の悪戯みたいなものじゃないか。僕は大人だし、ちょっとくらいのやんちゃは見逃した方がいいかなって思うんだけど」

「あら……キヴォトスでも有数の技術を持ったミレニアムの特許提案書にも出来るようなものを”子供の悪戯”で済ますなんて……飛鳥先生の知識と技術、大変興味をそそられますね」

「え、これ私がおかしいの? 嘘でしょ?」

「あらユウカちゃん。飛鳥先生の技術がすごいと言って、先生をお招きしたのはユウカちゃんじゃないですか。せっかくですし、先生にはその技術の一端をお見せいただくっていうのはどうでしょう」

「ああ、いいね。やはり双方の技術レベルを正確に把握しておく方が、互いに実りのある時間を過ごすことが……」

「え、いやちょっと待ってください確かにそれは魅力的な提案ですがそれをしてしまうと恐らく先生が学園全体を回る時間を確保するのがとても難しいことに」

 

 明らかにユウカの反応を楽しんでいるノアと、それに全く気付かず至って真面目に会話を続ける飛鳥。

 その二人を制止しようとユウカが早口であれこれ話し始めたその時だった。

 三人がいるセミナーの部室に向かって、誰かがすごいスピードで走ってくる音と振動が僅かに部室を揺らしていることに飛鳥が気がついた。

 

「ん? 誰かがこっちに来──」

「ユゥゥカァァアアア!」

 

 バーン! と音を立てて部室の扉を蹴破って登場したのはブロンドのショートヘアに、猫の耳を模したような桃色のヘッドホンカチューシャが特徴の小柄な少女だった。

 

「モモイ! 部屋に入るときはノックしてからって言ったでしょう!」

「え? 早瀬さん、今扉蹴破られたけど……」

「先生、キヴォトスでは扉が蹴破られる程度大した問題ではありません、いや問題ではあるんですけど……じゃなくて! モモイ、何の用? 見ての通り、私は忙しいんだけど」

 

 モモイと呼ばれた招かれざる客に対してユウカが腰に手を当ててムッとした表情でそう問いかければ、モモイは目を吊り上げて地団駄を踏んだ。

 

「何の用、じゃないよ~! 昨日の! ゲーム開発部を廃部にするってやつ!! 納得いかないんだけどー!?」

「何かと思えば……前にちゃんと説明したでしょ?」

「納得いくわけないでしょあんな説明で~!」

 

 話すたびに目には見えない、けれど質量を持った音の波でも出しているのかと思ってしまうほどの大声で異議を申し立てるモモイと、それをにべもなくはねつけるユウカの二人。

 その対照的な二人を前に、状況が上手く呑み込めない飛鳥はユウカに事情を聞くことにした。

 

「早瀬さん、廃部……っていうのはどういうことなのかな。言葉的には余り穏やかなものではないように感じるけれど」

 

 飛鳥の問いかけに答えたのはモモイだった。

 我、救世主を見つけたり! と言わんばかりの勢いで飛鳥の目の前に駆け寄り目を潤ませて上目遣いをしながらモモイは語りだす。

 

「誰だか分かんないけど聞いてよ~! あ、私は才羽モモイっていうのよろしくね! それでね! あの生徒会四天王の一人! 『冷酷な算術使い』の異名を持つ会計のユウカがね! いきなり私達の『ゲーム開発部』を廃部にするって勝手に決めて、私達を部室から追い出そうとして来てるの!」

「えっ!?」

 

 モモイの言葉に思わず飛鳥がユウカの方を見やれば、ユウカは頭痛をこらえるようにこめかみに手をやっていた。

 

「モモイ、情報はちゃんと正確に伝えなさい! 先生、その子の言っていることは正確ではありません。確かに私は彼女達が所属するゲーム開発部に対して、現状のまま改善がみられなければ廃部とし、割り当てている部室の没収をすると通達したのは事実ですが」

「なるほど……ちなみに、どうして廃部にすると決めたんだい?」

「先生……先生ってあのシャーレの先生!? おのれユウカ! さては先生を洗脳してどうしても私達の居場所を奪おうっていうんだね! 先生、負けちゃダメだよ! 世界を救うのは先生しかいないんだから!」

 

 モモイの急に芝居がかったワードチョイスに気圧されるように飛鳥は上体を逸らしながら、助けを求めるように視線を泳がせた。

 そしてノアと視線があったが、ノアは変わらず自然体のまま微笑んで小さく頷きながら飛鳥に説明をし始めた。

 

「ゲーム開発部は、現在部活を成立させるうえで必要な部員数4名に達していません。また、ミレニアムの生徒会として各部活動の継続を認める為にはその部活で何かしらの成果を出してもらう必要があります。部活動、とは言いますが基本的にどこの部活も活動内容は研究や技術開発であることが多いですから、活動の為の資金が必要になるんです」

「非情な人力データストレージのノアまで先生の洗脳に協力しているなんて! うう……でも、でも私は諦めない!」

「なるほど。研究はいつだって先立つものがあって初めて成立するからね。そして、成果が出なければパトロンも離れていく。そうなれば、研究は続けられない。ミレニアムでは学園そのものが部活動に対するパトロンというわけか」

 

 喚き声をあげるモモイの肩にノアが手を置いてにっこりと笑えば、モモイはサッと顔を青ざめさせて飛鳥の服から手を離した。その後、モモイはノアに手を引かれて飛鳥から数歩離れた位置へと連れていかれる。

 その様子を見たユウカがため息をついて、飛鳥の言葉に答える。

 

「理解が早くて大変助かります飛鳥先生。そして、ゲーム開発部は現在生徒会が部活動の継続を認めるに足る成果を出せていません。正直、部員数を規定人数まで増やしたとしても現状のままでは廃部は時間の問題ですね……」

「異議あり! すごくあり! 私達だって全力で部活動をしてるよ! だからあの、何だっけ……上場閣僚? とかいうのもあって良いはずだよ!」

「それ、もしかして情状酌量のことかな……?」

「笑わせないで!」

 

 モモイの言い間違いを穏やかに飛鳥が指摘をしてその瞬間、ユウカがぴしゃりとモモイの言葉をはねのけた。

 その声にモモイと飛鳥の肩がびくりと震える。

 

「全力で部活動をしてる? 校内に変な建物を建てたと思ったら、まるでカジノみたいに装飾してギャンブル大会を始めるし、レトロゲームを探すとか言いながら古代史研究会を襲撃するし……おかしいでしょう!? 『全力』かもしれないけど、部活動としては間違ってるわよ!」

「は、早瀬さん……?」

 

 思った以上の剣幕とモモイの腰が引けた様子から飛鳥が何とかなだめようと声をかけるも、怒れるユウカは止まることを知らぬとばかりに言葉を続けた。

 

「先生、少しお待ちいただけますか? 大体ねえ、これだけ各所に迷惑をかけておいて、よく毎度のように部費なんか請求できるわね!? 真っ当な言い訳くらいしてみたらどうなの!」

 

 傍から聞いても思わず頷くしかないと飛鳥が思ってしまうほどのユウカの正論に、モモイは目を逸らしながらもごもごと答えた。

 

「と、時には結果よりも、心意気を評価してあげることも必要……」

「負け犬の言い訳なんて聞きたくない」

 

 余りにも容赦のないユウカのダメ出しに飛鳥は苦笑いを浮かべ、ノアはにこにこと微笑むばかり。そしてモモイは拳を握ってまたも地団駄を踏んだ。

 

「聞きたいのか聞きたくないのかどっちなのさ!?」

「無意味な言い訳は聞きたくないってことよ。知っているでしょう? ミレニアムでは『結果』が全てなんだから」

「それなら、私達だってちゃんとゲームを開発した結果があるもん!」

 

 モモイの言葉に、飛鳥は不意にこの小さな少女が一体何を作ったのか興味をそそられた。

 ノアに読ませてもらった特許提案書の数々は基準を満たすもの、そうでないものに関わらずユニークなアイディアがたくさんあった。

 であれば、きっとモモイ達の作ったものも飛鳥の知らない未知なる何かがあるかもしれない。

 そんな好奇心が、飛鳥の口を動かした。

 それが、何よりモモイにとってこの状況の突破口になる言葉とも知らずに。

 

「ふむ。僕はゲームには疎いんだけれど、一体どんな物を作ったんだい?」

「あ! 気になる!? じゃあじゃあ、折角だから先生私達の作ったゲームで遊んでよ! 部室に行けばいつでも遊べるようになってるからさ! あと、遊んだら感想欲しいな! 私達の次の成果の参考にもなるはずだし!! ね、ね! 行こう行こう!」

 

 そう早口でまくしたてながら、モモイはその小さな体の一体どこにそんな力があるのだろうと思うほどのパワーで飛鳥を引っ張り始めた。

 

「ちょ、ちょっとそんなに引っ張らないで才羽さん……!」

「ここにいたらずっと生徒会の洗脳パワーで先生のMPがどんどん削られちゃうから! ほら、走って先生!」

「わ、わわ……! 僕は運動はそんなに得意じゃないんだ、もう少し手心を……」

「こ、こら! モモイ! 待ちなさい!」

 

 そうしてユウカの制止の声を背中に浴びながら、けれど大した抵抗も出来ずに飛鳥はセミナーの部室から引きずり出されたのだった。

*1
GG世界で主にサーヴァントの管理をするためのインターフェイス。サーヴァントとの契約・召喚・命令の他、作戦領域全体と各サーヴァントの現在位置が詳細に把握できる。また、マナを消費してアイテムの生成が可能。GG世界におけるシッテムの箱と言っていい。

*2
始まりの書のこと。GG世界における異空間、バックヤードを封じ込めた本。バックヤードはこの世の森羅万象を定義している異空間であり、ここで定義された情報が現世にて現象として存在することになる

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