BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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感想、いつもありがとうございます。
返信は出来てませんが読んでいます。励みにもなってます。
引き続き拙作をよろしくお願いします。


パーティ結成!

「せ、先生! あとちょっと!」

「す、すごい……! ここまで来れた人、ユズ以外に初めてだよ……!」

「なるほど。理解したよ。これでどうかな」

 

 飛鳥がもはや瞬間移動かと言えるような速度で落下してくるL字型のブロックを回転させながら、綺麗に隙間へとはめ込む。

 L字ブロックをはめ込んだことで横三列が綺麗に埋まり、その部分が軽快な効果音と共に消えた。

 その瞬間、ファンファーレがモニターから鳴り響き画面には「congratulation!」の文字が表示される。

 

「わああ! すごいすごーい! 先生今日が初めてなのにテトニスオールクリアしたー!!」

「ほ、本当に凄いです! 私だってここまで進めるのが精いっぱいなのに!」

「二人の教え方が良かったんだ。様々な角度からの攻略方法を教えてくれたおかげで、このゲームにおける僕なりの最適解というのを見つけるのがとても楽になった。やはり、こういった研究が必要な分野における先駆者の存在というのはとても大切だと、あらためて実感したよ」

 

 飛鳥が彼の肩につかまっていたモモイとミドリの方へ振り向いてさわやかに笑えば、二人も照れくさそうにしながら釣られて笑った。

 飛鳥は正直なところ衝撃を受けていた。世の中に、こんなに面白いと思えるものがあったなんて知らなかったのだ。まさに世界が広がった……いや、こじ開けられたような感覚だった。

 モモイとミドリに教えられたおかげですぐになれることが出来たということ、二人が後ろであれこれ楽しそうにしているのに釣られて自然と自分の気分も上がっていたこともあるだろう。

 しかし、それを差し引いてなお次々にゲーム側から出される課題に対して素早く解を出していくという工程がこれほど難しく、やりごたえがあり、達成した時はそう快感を感じられるとは思わなかった。

 飛鳥の研究は、どれも結果が実るまで時間のかかるものばかりだった。テストをして、想定と違う箇所があればその原因となる被疑個所を探し、それを見つけたら改善するための案を出して……。

 言葉にすればテンポよく進めそうなものだが、実際は一つの工程で延々と時間がかかってしまうということも珍しくない。

 それこそ、GEAR計画を進めていた時にフレデリックが『ヴァルガヘクタシン』*1を細胞の成長過程でこれを変異分岐させる研究で煮詰まっていたようにだ。

 勿論、あちらはあちらで進捗があった時の喜びや達成感もひとしおなのは間違いない。

 けれど、そう快感や達成感のインスタントさで言えば、ゲームというのは研究に比べてはるかに優れていると言わざるを得ないだろう。

 故に、飛鳥はおおよそ初めてと言っていいほどゲームに熱中をしていた。

 

「さて、次はどんなゲームをやろうか」

 

 そう。自分から”次”を求めていこうとするくらいには、ゲームがもたらす快感の虜となっていた。

 飛鳥の言葉に、モモイとミドリがこれ以上ないくらい目を大きくしながら笑顔になる。

 

「「じゃあ次は……」」

 

 モモイとミドリが声を揃えてそれぞれがやりたいと思った床に散らかったゲームのパッケージ達の中から拾い上げようとしたその時だ。

 

「随分と、お楽しみみたいですね? 飛鳥先生」

 

 絶対零度のごとき冷え切った声が、部室の入り口の方から飛鳥達を刺し貫いた。

 飛鳥、モモイ、ミドリの全員がオイルを注していないロボットが首を動かした時のような擬音がピッタリの動きをしながら振り向けば、とても良い笑顔のユウカがそこには立っていた。

 

「や、やあ早瀬さん。うん。楽しませてもらっているよ」

 

 ずっと年下の少女が相手のはずなのにどうしてこんなに胃が締め付けられるようなプレッシャーを感じているんだろうと頭の片隅で考えながら、飛鳥は声が震えないように十分に注意を払いながら正直な感想を述べる。

 そんな飛鳥の答えにユウカは眉間にしわを寄せながら胡散臭そうに目を細めた。

 しまった、怒らせてしまったか。一体どうしたらいいんだ。

 そんな言葉が飛鳥の頭の中を駆け巡った時だ。

 ユウカが肩を落としながら大きく肩を落とした。

 

「ハァ……先生が楽しんでいただけていたのなら何よりです。本当は今日一日、ミレニアムの色々な場所を案内したかったのですが……それはまた今度にしましょう」

「え……ゆ、許してくれるのかい?」

 

 ユウカの言葉がすぐには呑み込めなくて、飛鳥は思わずそんな言葉を口にした。

 するとユウカはまたキッと目を尖らせて飛鳥を一瞬睨んでから、そっぽを向きながら声を上げる。

 

「本当は! 本当はこの学園のいろんなところをもっと見学頂きたいんです! 先生だって御多忙でしょうし、そういう時間も限られているから! 今日の内に飛鳥先生と各部活のメンバーと顔合わせしていつかやるかもしれない技術や知識の交換会みたいな催しの根回しだってしたかったです!」

 

 どうやらこちらが本音だったらしく、無念さをこらえるように腰の近くでグッと拳を固めながらユウカは早口で想いをまくしたてる。

 

「でも! ……問題ばっかり起こすゲーム開発部のその子達が、楽しそうにしていましたし。何よりそれを受けて先生が『楽しませてもらっている』と言ってくださいましたから。それを無理やり止めさせるのは流石にどうかなと思ったんです」

 

 口惜しさと喜びをないまぜにしたような、なんとも言えない微妙な表情を浮かべながらユウカは両手を腰に置いて再びため息を吐いた。

 そんな様子に、モモイが目を見開いたままポツリと呟く。

 

「あの冷酷な算術使いのユウカが……私達にお情けをかけてくれているなんて……明日は電卓でも降るんじゃ……」

「お姉ちゃんッ……! どうしてそう余計なことを……! 私だってちょっと思ったけど……!」

 

 完全に余計な一言を付け加えたモモイをミドリがたしなめるも、やはり余計な一言を付け加えてしまったがためにユウカのこめかみに青筋が浮いたのを飛鳥は見逃さなかった。

 

「モモイ? ミドリ? そんなに今すぐゲーム開発部を廃部にされたいのかしら???」

「ま、まあまあ……早瀬さん、落ち着いて」

 

 これ以上はマズそうだと慌てて飛鳥が止めに入れば、ユウカは今日何度目かの大きなため息をついた。

 

「もう……。先生に免じてこの場は見逃すけど、どっちにしたってあなた達の部活はこのままじゃ廃部確定なんだからね。それが嫌なら部員を増やすか、部員がいなくても活動を続ける価値があると生徒会が認めるに足る成果を出しなさい。いいわね!」

 

 宿題を忘れた子供に向けて言い聞かせるようにそれだけ言って、ユウカはゲーム開発部の部室を去って行った。

 そーっと部室のドアから片目だけ出してユウカが完全に去って行ったのを見届けると、モモイが止めていた息を一気に吐き出して胸をなでおろす。

 

「あっぶなかったぁ……全く、ユウカったらいっつもあんなプリプリ怒っててさ! カルシウムが足りてないんだよきっと!」

「ユウカが怒ってるの、大体私達のせいな気がするけどね」

「ミドリ、しゃらーっぷ! とにかく! 私達の部活は未だ危険に晒されてる! これを何とかしなきゃいけないよ!」

 

 モモイの言葉にミドリが困ったように眉をハの字にする。

 

「でも、どうするの? 成果って言ったってちょっとやそっとじゃ認めてくれないだろうし……頑張って部員を増やす?」

「うーん……そこなんだよねえ。一番楽なのはそれなんだけど……行けると思う?」

 

 モモイの言葉にミドリがスッと視線を逸らした。それが答えだった。

 

「そんなにゲームって人気がないのかい? とても面白かったんだけど……」

 

 やや沈み込んだ二人に向かって飛鳥がそう問いかければ、モモイが難しそうに顔をしかめながら答えてくれた。

 

「……あんまり自分でこういうこと言いたくないんだけどさ。さっきも言ったけど、私達がやってるゲームって古いんだ。それこそ、10年とか、20年とかそれくらい前の奴なの。ゲームの技術ってすごい勢いで進化してるから、今どきの子達からしたら私達のゲームなんてその……とてもじゃないけど面白くないみたいで」

「もちろん、全く人気がないってわけじゃないんです。でもやっぱり、普通の人は新しいものの方がいいっていうから……」

「なるほど……確かに、技術は発展して利便性が向上すればするほどそれまでのモノは色あせて見えるし、何よりわざわざ不便な頃に戻る理由もないからね」

「ウッ……やっぱりそうだよね……」

 

 自分の指摘に露骨に肩を落としてしまったモモイとミドリを見て、飛鳥はまたも自分が言葉選びを間違えたことを悟った。

 

「で、でもほら! 今から部員を集めればもしかしたら一人くらいは見つかるかもしれない。ちなみに、部員か成果を出す期限っていうのはいつまでなのかな?」

「え……っと。確か、来月の末って言っていたので……」

 

 ミドリの言葉に飛鳥は懐にしまってあったシッテムの箱を取り出してカレンダーアプリを起動する。

 どうやら、期限までは約1か月半ほどあるようだった。

 

「期限までは一か月半といったところか……それなら、これから一か月はゲーム制作と部員募集を平行して行い、最後の半月はゲーム制作に専念をする。っていうプランで動いてみるのはどうだろう」

 

 飛鳥はゲームを作るのにどれくらいのリソースと期間が必要かは分からない。しかし、与えられた期間は既に決まっている。

 ならば、ある物でどうにかするしかないだろう。

 そう思ってこれからのプランを頭の中で組み立てようと考えを巡らせようとして、飛鳥はやけに周りが静かなことに気が付いた。

 どうしたものかとモモイとミドリの方を見れば、二人共目を見開いてキョトンとした様子でこちらを見つめている。

 

「えっと……どうしたのかな?」

 

 飛鳥に問いかけられて、そこで初めてモモイがハッとしたように再起動をする。それから少し困ったように視線をさまよわせた後で、手を後ろで組んで上目遣いになってぽそりと飛鳥に質問し返してきた。

 

「その……いいの? 私が言うのもなんだけど、結構無茶な状況に先生を巻き込んじゃってるのに。それでも先生は私達を助けてくれるの?」

 

 まるで大人に怒られるのに怯えた子供──事実そうなのだろう──のような様子でそう問いかけるモモイに、飛鳥はなんだかおかしさをこらえきれなくなって口元を抑えながら笑い声を溢す。

 

「ふ、ふふふ……」

「な、何で笑うの!? 一応これでも私かなり真面目に聞いてるんだけど!?」

「ああ、いや。ごめんよ。才羽さんの言ってることがおかしいとか、そういうんじゃないんだ。ただ──」

「「ただ……?」」

 

 モモイとミドリが揃ってあげた声に、飛鳥は爽やかな心地で笑いながら答えた。

 

「まさか、僕が自分からこんな面倒事に首を突っ込むなんて──それも理屈じゃなく単に『もったいないな』って感情で動こうとしてるのが、なんともおかしくてね」

「も、もったいない?」

 

 飛鳥の言葉の意味を飲み込めないといったような表情でオウム返しをしてくるモモイに、飛鳥は頷く。

 

「うん。こんなに楽しいゲームを知っている君達の『世界』が無くなってしまうのは『もったいない』って思ったんだ。そしてそんな世界にいる君達から作り出される何かを見る機会が無くなってしまうのもね」

「先生……」

 

 ホワイトハウスでフレデリックに改めて決意を表明したあの日以来。飛鳥は、自分の意志で自分の行く道を、やるべきことを定めた。

 それまでの流され、辻褄を合わせるようにするような、自分が世界に存在する責任を何かに預けるような生き方を辞めた。

 だからだろうか。まさかこんな、なんてことのない感情が自分を突き動かすことになるなんて、想像もしていなかった。

 けれど、悪くない気分だった。

 だから、飛鳥は親友(フレデリック)がそうしていたのを思い出して少しだけ真似をした。

 

「それに、僕達はもう”仲間”なんだろう? 仲間は困難を前にした時、互いに助け合うものだ。違うかい?」

 

 そう言って飛鳥が不敵に微笑みかけると、モモイとミドリは互いに顔を見合わせてから花を咲かせたように満面の笑みになった。

 

「うん、うん!! それじゃあゲーム開発部、打倒セミナーの為にがんばるぞー!」

「い、いや……廃部を回避するだけだからセミナーをやっつけるのは違うんじゃない?」

「はは。でも、成果を認めさせるっていうのはある意味で彼女達に君達の価値があると分からせるってことだし、見方によっては打倒と取れなくもないね」

「せ、先生まで……」

 

 そうして、小さな勇者二人に世界をこじ開けられた元魔王の三人パーティが結成されたのだった。

 

「ところで、才羽さんとあと……なんて呼べばいいかな?」

「あ……私も才羽です。才羽ミドリ。モモイはお姉ちゃんです。そういう先生の名前はえっと……」

「ああ、そう言えば自己紹介してなかったね。ボクは飛鳥。飛鳥=R=クロイツっていうんだ。よろしくね。才羽さん……だと紛らわしいか」

「ミドリ、と呼んでください。飛鳥先生」

「えーっ!? 飛鳥=R=クロイツなんてめっちゃかっこいいじゃーん! 先生そんな名前だったんだ! もっと早く教えてくれたらよかったのに!」

「もとはと言えばお姉ちゃんがいきなり飛鳥先生を引っ張ってきたのが悪いんでしょ!」

 

 世界を救うにしては少々賑やかすぎるかな。そんなことを考えながら、飛鳥はモモイとミドリのやり取りを見ながら微笑んだ。

 飛鳥の広がった世界を冒険する旅が、ここから始まろうとしていた。

*1
ギア細胞に含まれる成分のひとつである自己複製型非必須アミノ酸の名前

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