BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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テイルズ・サガ・クロニクル

 飛鳥がモモイに引きずられてたどり着いたヴェリタスの部室には、既に誰もいなかった。

 飛鳥達が廃墟からミレニアムに帰ってきた時には既に20時を回っていたのだから、当然と言えば当然だったのかもしれない。

 ともかく、アリスの学生証を偽装する依頼の出来なかった二人は仕方なく部室へと戻ることにした。

 部室に戻ってきた二人が目にしたのは、ミドリとアリスが並んで何かのゲームをやっている姿だった。

 だが、何か様子がおかしい。アリスがコントローラーを握ったまま硬直している。

 

「お! テイルズ・サガ・クロニクルやってるの!? どこまで行った?」

 

 二人がやっているゲームが何であるか、モモイはすぐに分かったらしい。

 どんなゲームなのだろう、と飛鳥が考えているとそれに気づいたらしいモモイが得意げに胸を張りながら解説を始めてくれた。

 

「あ、先生このゲーム気になる? これはね、私達が作った最初のゲームなんだよ!」

「ああ、これが君達の数少ない成果なんだね」

「ぐ、数少ないって痛いとこ突くじゃん先生……いやまあそうなんだけど……」

「ご、ごめん」

 

 事実は時として人を傷つける。分かっているはずなのに軽はずみな発言で生徒に不快な思いをさせてしまった自分の未熟さを飛鳥は恥じた。

 

「で、えっと、まあネットでの評判はアレなんだけど……私は面白いと思うんだよこのゲーム!」

「お姉ちゃんの主観はさておき、クソゲーなのは確かだと思うよ私は……」

 

 モモイの言葉に対して、ミドリが若干げんなりしたような様子で返した。

 

「ミドリ! なんてこというの!」

「事実は事実としてしっかり受け止めるべきだと思うのお姉ちゃん。ていうか、学生証はどうしたの?」

「行ってきたんだけど、遅い時間だったからか誰もいなかったの。また明日行く。で、どこまで行ったの?」

「まだチュートリアル。武器を装備するところでアリスちゃんが指示通りにBボタンを押して爆散したところだよ」

「し、指示通りに操作をして爆散……?」

 

 姉妹の会話から導き出された答えに戸惑いを隠せずに呟く飛鳥に、再びモモイが得意満面の笑みで話し始めた。

 

「そう! ここは指示通りじゃなくてAボタンを押すのが正解なんだ! やっぱり予想出来る展開ほどつまらないものはないじゃん?」

「な、なるほど……完璧な計画よりも行き当たりばったりの方が優れている、的なやつ……なのかな?」

「おお! それそれ! そんな感じだよ先生! やっぱり予想もつかないスリリングな展開の方がインパクトも感動も作れるってもんじゃん?」

「絶っっっ対違うから。お姉ちゃんのそれはただの考えなしでしょ。いくらなんでもチュートリアルでこれは酷いと思う」

 

 得意げに持論を展開するモモイに毒を吐くミドリの横で、ずっと硬直していたアリスがコントローラーを握りなおした。

 

「も、もう一度始めます……」

 

 その様子に、飛鳥は固唾を飲んでアリスと、モニターに視線をやった。

 けれど、その視線はすぐにアリスへと向けられることになった。

 

「再開……テキストでは説明不可能な感情が発生しています」

「これは……もしかして」

「あっ、私それ分かるかも! きっと『興味』とか『期待』とか、そういう感情だと思う!」

「どう考えても『怒り』か『困惑』だと思うけど……」

 

 それぞれアリスの抱いた感情について語るのを見ながら、飛鳥はアリスとモニターを注意深く観察する。

 これまでのアリスの言動から、学習能力は相当に高いことは予測できていた。

 それでも、ゲームをプレイすることでこれほど劇的な変化が発生する兆しが見えるとは思っていなかったのだ。

 これは果たしてアリスの性能が図抜けているのか、あるいはモモイ達が制作したこのゲームのポテンシャルなのか。

 

(それを確かめる為にも、僕も彼女達のゲームプレイの様子をしっかりと見ていなければ)

 

 そう心の中でひとりごちる飛鳥の前で、アリスがモモイのアドバイス通りに武器を装備する。

 武器を装備したアリスの操作キャラクターは、モニターの中でまっすぐ進んでいく。

 すると、急にメッセージウィンドウが画面の下の方に現れた。

 

<野生のプニプニが現れた!>

 

 どうやら敵性存在と交戦状態に入ったようだ。

 

「緊張、高揚、興味」

 

 抑揚のない声で、けれど確かにその肩に僅かに力が入っているところから本当に言葉通りの感情を抱いていることが分かる様子のアリスが呟く。

 

「Aボタンを押して! 今度は嘘じゃないから!」

「Aボタン……『秘剣つばめ返し:敵に対して2回行動をする』。行きます、プニプニに対して……」

 

 アリスがキャラクターをプニプニに向かって真っすぐと突っ込ませる。攻撃手段は剣なのだから、当たる距離まで寄らなければならないのは道理だ。

 そして、いよいよアリスのキャラクターがプニプニの目の前に届きそうなところまで近づいた。

 

「秘剣! つばめ──」

 

 出るか、アリスの必殺技! と、思わず飛鳥も拳を握りしめたその瞬間だった。

 モニターから鋭い破裂音のようなSEが響く。

 直後、アリスのキャラクターは倒れた。

 そしてモニターに『GAMEOVER』の文字とそれを伝える気落ちしそうなジングルが流れる。

 

「!?!?」

 

 今、きっと飛鳥とアリスの心は一つになった。そんな気がした。

 直後、GAMEOVERの文字の下に文章が表示される。

 

<プニプニ:どれだけ剣術を鍛えたところで、我が銃の前では無力……ふっ。>

 

「うーん、やっぱりプニプニが『ふっ』っていうのは不自然かな」

「……ツッコみどころはそこじゃないと思う」

「そうだね。極限まで研ぎ澄まされた剣士は、一発の銃弾位なら容易く両断……いや、細切れにするものだし」

 

 言いながら、飛鳥はかつてシミュレーション上で戦ったジェリーフィッシュ快賊団の団長のことを思い出す。

 アリエルス*1をそして絶対確定世界*2の発生を食い止めるべく彼女のいる場所へフレデリック達を送り届けてくれたのが彼の船だった。

 聞いた話と、”本”から得られた情報を基に構築された彼──ジョニーは日本が発祥の地である古流剣術の使い手であり、そんな彼と戦闘に望んだ時ジョニーは飛鳥の魔法をその鋭い剣閃でもってまるで霧をはらう(ミストファイナー)かのように消失させてしまったのだ。

 そんな超一流の剣士を知る飛鳥からすれば、そんな感想が出てくるのも致し方ない。

 けれど、姉妹にとってはそうではなかったらしい。

 

「「えっ」」

「えっ?」

 

 何を言っているんだ、と言いたげな姉妹の表情に飛鳥はハッとする。そう、ここはキヴォトスだ。飛鳥達のいる世界ではない。

 少なくともこの短い期間で飛鳥達は自分達に比肩するほどの戦闘能力を持った存在を認知していないのだ。

 さて、となればどう誤魔化したものか。そんな悩みを飛鳥が抱え始めたと同時にアリスが唸り出した。

 

「思考停止、電算処理が追いつきません」

「あ、アリスちゃん? 大丈夫?」

 

 アリスの言葉に我に返ったらしいミドリが肩に手を置いて心配そうに彼女の顔を覗き込む。

 それに対し、アリスは目を閉じてしばし身じろぎひとつせずにいたが、すぐにまた目を開いた。

 

「リブート、再開します。今度は銃の射程距離把握に努めながら、接近しすぎないようにプニプニを排除します」

「そう、まさにそれ! 諦めずに繰り返し挑戦して、試行錯誤の末に答えを見つける! それがレトロチックなゲームのロマンだよ!」

 

 アリスの状況把握能力、分析力の高さとレトロ・ゲームのロマンについてモモイが楽し気に語る。

 それからはまさに山あり谷ありの冒険がモニターの中で繰り広げられていた。

 ……いや、もっと正確に言えば山を登っていたはずなのに突然谷底に落とされるがごとき仕打ち(仕様)に翻弄され、谷底への下り坂を歩いていたかと思えば空高く射出されるがごとき精神攻撃(どんでん返し)に飛鳥もアリスも混乱の渦へと叩き落とされた。

 その結果。

 

「……電算処理系統、および意思表示システムに致命的なエラーが発生」

「ぼ、僕もちょっと頭痛くなってきたかもしれない……」

「頑張って二人共! ここさえ乗り越えれば待望のクライマックスだよ!」

「ううっ……今のはどう考えても、『草食系』って言葉が思い出せないからって、それを『植物人間』って書いたお姉ちゃんのせいでしょ!?」

「あ、ああ……『ごめんなさい。私は植物人間ですので、女性に対して気軽に声をかけることはできません』というテキストは草食系と呼ばれる男性であることを本人が自認していて、だから女性に話しかけるのはためらわれる、ということを表現したかったのか……」

「そう! そうなんだよ先生! やっぱり先生は私のこと分かってくれるんだね!」

「お姉ちゃん! 今のは私が補足したからでしょ! あのテキストが出て来た瞬間、アリスちゃんは一瞬意識を失うし先生だって呆然としてたんだからね!?」

「……質問。どうして母親がヒロインで、それでいて実は前世の妻で、さらにどうしてその妻の元に、子供の頃に別れたきりの腹違いの友人がタイムリープしてきているのか……いえ、そもそも『腹違いの友人』という表現はキヴォトスの辞書データに登録されていな──」

 

 そこまで早口で質問事項を述べていたアリスが突然口をつぐんだかと思いきや、次の瞬間には天を仰いでから乱暴に髪を掻き上げるように頭に両手を当てる。

 

「エラー発生、エラー発生!」

 

 正直飛鳥も同じポーズをとりたい気分だった。そもそも腹違いの時点で生物学上では血縁だし、世間一般では血縁を友人と表現しない。これまでの緑とのやり取りを聞くに、シナリオテキストはモモイの担当のようだし、モモイの頭の中にはもしかしたら何らかの定義があったのかもしれない。

 けれど、その定義を知りうるような情報はテイルズサガクロニクルの中には未だ提示されていなかった。

 結論。飛鳥にも最早何が何だか分からない。魔王と呼ばれ、始まりの書をその手に収めた世界最高峰の魔法使いをもってしても、この物語は到底理解できそうになかった。

 ただ一つ、飛鳥は現時点でチラリと思ったことがあった。

 師匠、このゲームとても好きそうだな、と。

 飛鳥がそんなことを遠い目をしながら考えている間にアリスが再びリブートし、コントローラーを握りなおしていた。

 それからさらにしばらく経って。

 

「こ、ろ、し、て……」

 

 開発者であるモモイとミドリのサポートもあり、遂にアリスはゲームをクリアしたのだった。

 ただし、当のアリスは例によって電算処理能力を限界まで酷使させられる羽目になり青息吐息だったのだが。

*1
またの名を”慈悲なき啓示”。飛鳥の師、第一の男が造り上げた人工生命体だが造物主に模索するよう命じられた”未来永劫続く人類の幸せ”という命題を実現すべく現人類を滅ぼそうとし、飛鳥とフレデリック達の活躍によって打倒された。その後イリュリア城地下に拘束されていたが、現在は拘束を解かれ城の人間に協力的な姿勢を見せている模様。

*2
現世とバックヤードの境界があいまいになる現象。これが起きると普通の人間は絶滅する。




アリエルスの注釈は独自解釈です。
GGSTのエンディングではどこかで座り込み、恐らくイリュリア兵と思しき人に何かを語る彼女のカットがあった為このように解釈しました。
多分、この辺はアニメで保管されるかもしれませんね。公式と解釈が違ってもその時はその時ってことで。
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