環境の変化に体を慣らしていかないといけないので、更新ペースは落ちると思います。
『なるほど。非常に精巧に作られたロボットが、ビデオ・ゲームを通してどんどん多彩な感情表現を獲得していったのか。まあでも、予想の範疇だっただろう?』
「そうだね。そもそも趣味趣向や性格に明確な指向性を持たせられなかった高度な知性体は無地のキャンパスのような物だ。そんな存在にあれだけ目まぐるしく色々な感情を刺激するような体験をすれば、当然とも言える」
アリスがテイルズ・サガ・クロニクルをクリアしたその日、飛鳥はフレデリック達への報告を兼ねて一度シャーレオフィスに戻ってきていた。
ただ、タイミングが悪かったのかフレデリックもジャック・オーもシャーレを離れていたようでオフィスには特に誰もいなかった。
仕方がないので軽く体を清めた後、温かいコーヒーを入れながら飛鳥は”飛鳥”へ法力通信を繋いだのだった。
『しかし、突然この世界から消えた時はさしもの僕も焦ったけれど、なかなかどうして分からないものだね』
「どうかしたのかい。ラジオかあるいはバトルメソッドチューリング*1の研究で何か行き詰ったことでも?」
飛鳥の問いかけに”飛鳥”はクスクスと笑った。
『いや。君が思った以上に積極的に他者とコミュニケーションを取りに行くようになっているということに驚いているんだ』
「それは……それが今の僕の役割でもあるわけだし」
『それでも、さ。フレデリックやジャック・オーもそっちにいるんだろう? 前の君なら、彼らに任せてサポートに徹していたと思うけどね』
”飛鳥”の指摘に飛鳥は小さく唸ることしか出来なかった。確かに、言われてみればその通りだろうと思ってしまったからだ。
『それで? どんな風に感じたんだい?』
「え?」
『君はアリスがゲーム開発部の子達と遊んで、様々なことを学んでいったのを間近で見たんだろう? その時君はどう感じたのか、教えてくれないかな』
問われ、飛鳥は困ったように眉間にシワを寄せる。
「……正直、自分の中でもまとまっていないんだ。ちゃんと論理的に説明が出来る気がしない」
『声に出す、紙に書き出す。いずれにしろ、そういったアウトプットをすることによって整理できる事柄だってある。試してみる価値はあるんじゃないか。いいじゃないか、話を聞くのは”僕”なんだ。今更恥ずかしがるような仲でもないだろう? 僕が作られるまでの君の過ちは、全て僕も覚えているんだし』
そう言って笑う”飛鳥”に飛鳥は観念したようにため息をついて話し始めた。
「そうだな……どこから話そうか。そもそも、ビデオ・ゲームに触れたのなんて百年以上ぶりだったからね。当時の記憶は流石に朧気だけど、レトロゲームと言われる割には僕の知るそれよりもずっと高度なゲームだったことに驚いたかな。しかも、それを年端も行かない子供達が作ったっていうのだから驚きさ」
『キヴォトスには将来有望な若手が大勢いるわけだ。いずれ、君に並びそうな生徒は見つかったかい。”先生”?』
「茶化すのは止してくれないか。これでもまだ、あんまり先生としての自覚を持てたとは言えないんだ」
『そうかな。僕達、案外教師に向いていると思うのだけど』
「知識を与える、という一点に限ってであれば確かに適性はあると僕も思う。でも、どうもこっちで言う”先生”っていうのはそっちで言うところの教師とは色々勝手が違うみたいでね。何というか……勉強を教える為の存在ではないんだ」
『中々興味深い話だね。詳しく聞いても?』
「なんていうのかな……ある時はカウンセラー、ある時は職業紹介所、またある時は良き隣人……みたいな感じだよ。まあ要するに、学校の授業では教えてもらえないようなことを教える立場というか」
飛鳥の説明に、今度は”飛鳥”が小さく唸る番だった。
『それは確かに、僕達には難しいかも。話を聞く限り、生徒との意思疎通がかなり重要そうな役回りのように思えるし』
「うん。話が逸れたね。それでまあ、アリスがゲームをクリアして涙を流したんだ。彼女は言ってしまえばロボットだ。師匠が作ったアリエルスみたいな概念としてのロボットじゃなく、ちゃんと機械が組み込まれた人型の造形物。そんな彼女が、ゲームに感動をして涙を流した。何度も繰り返すことになるが、彼女の学習能力は非常に高い。そういった感情表現を学んだと言えばそれまでかもしれないけど……それでも、あの涙にはそれ以上の何かがある気がしてね。なんというか、色々感じるものがあったよ」
飛鳥の言葉に”飛鳥”はそれまでのリラックスした口調から僅かに声のトーンを落とし、真面目な口調で答える。
『君は、僕を含めそれなりの数の人間を作ってきた。そのどれもに君は”そうあれかし”と望んだものをこめてね。アリスもまた、造物主からそう望まれていたのかもしれないよ』
「そうであることを信じたい」
『というと?』
「アリスは……連邦生徒会が出入りを禁じていた廃墟で見つけたんだ。何年も放置されていただろうそこにずっと放置されていた、高度な知性を持ったロボット……それも、彼女の本来の名前……いや、機体名であるAL-1Sと記載のあった台座に寝かせられているのをね」
ミレニアムからシャーレに帰る途中、アリスについて考えを巡らせていた飛鳥はアリスが作られた理由について考えていた。
そして、アリスが眠っていた場所と彼女が持つ知能の高さから余り穏やかではない想像を膨らませていたのだ。
”飛鳥”もまた、今の説明でそれを察したらしい。
『ただ人間と友好的になる為だけに作られた存在ではないということか。君は、彼女がかつてのエルフェルトのようになる可能性を懸念しているのかな』
「……そうだね。あれだけの性能だ。ただ作って、使い道もないから捨て置かれたとは思えない。何者かが、来る日に備えて眠らせていたという方が自然だ」
言いながら、飛鳥は己の想像に不快感をあらわにするように表情を歪める。
こんなことを平気で考えられてしまうのだから、人の心が分からないのだ。と心の中で自分を責める声がする。
そんな飛鳥の心中を察したのか。”飛鳥”がクスクスと笑った。
『ふふ、相変わらずなんというか……不器用だな君は』
「わ、笑わなくても」
『前にも言ったけど、君は君が思うほど人でなしじゃないと思うよ。じゃあ聞くけど、何故アリスが潜在的な脅威であったら、なんて仮定をしたんだい?』
「それは……」
続けようと思っていた言葉が、自分のどこにもないことに飛鳥は気が付いて愕然とした。
確かに、状況から見てアリスが潜在的な脅威を孕む存在である可能性は大いにある。
でも、そうだという仮定を立てて自分は何がしたかったのだろうか。
仮定が正しかった時のことを想像しようとして、飛鳥は胸の内が締め付けられるような感覚がした気がした。
その感覚は知っている。
アリアがTP感染症であり、先が長くないことを知った時。
アリアを何とか治療する為に冷凍睡眠を提案しながらも断られた時。
フレデリックとアリアに幸せに生きてもらうために、軍部の介入を逆手にとって二人を裏切ることを決めた時。
希望をつなぐためとはいえ、ドラゴンインストールを芽吹かせたフレデリックに向けて裏切りの言葉を吐き、銃口を向けた時。
ホワイトハウスでジャック・オーが自分の存在と引き換えにイノを止めようとした時。
辛い決断や状況に直面した飛鳥が、いつも感じていたソレだった。
そして飛鳥は一つの結論を導き出す。
「…………僕は、嫌なのか。アリスを敵に回すのが」
絞り出すように出した飛鳥の言葉に、”飛鳥”は満足げな声で答える。
『”男子、三日会わざれば刮目してみよ”なんてことわざがこの世界にもあるけど、まさにその通りだね。すごいじゃないか、それが分かるなんて』
”飛鳥”の言葉に、飛鳥はほんの僅かだけ眉をひそめた。
「……君、もしかして僕のことをからかっているのかい?」
『まさか。本心だよ。少なくとも今君は、科学者の論拠ではなく自分の感情を肯定したんだ。大した進歩だと思うよ』
今度の”飛鳥”の言葉にからかう意図は感じられなかった。
けれど、今度はその”飛鳥”が僅かに不満げな声を漏らす。
『正直、アリスたちが羨ましいよ。嫉妬していると言ってもいい』
「君が? どうして」
『前にも言っただろう。証明できないことは、存在しないことと等しくない。僕は君にそれを証明することが存在意義なんだと』
「うん。感じたことを否定する方が非科学的だと僕は返したね。おかげでこっちに来てから悩みの尽きない日々を送っているよ。実に取り組み甲斐のある課題さ」
『本来であれば、その悩みを提供して君の自己肯定の手伝いをするのは僕の役目だったはずなんだけどね。話を聞いていると、そのお役目は随分とアリス達に持っていかれてしまったように感じているよ』
「そうでもない。僕がそもそもアリス達を見て色々感じたのは、君に歩き続けろと言われてそう宣言したからなんだ。つまり、君が
『ふふ、まさか君にそんな言葉をかけられる日が来るとはね』
「たまには違う視点に立ってみるのも悪くないものだよ。多くの気づきを得られるしね」
『残念だけどそれはもう知っているよ。誰かさんが引きこもっている間に、僕は世界を巡っていたわけだし。正直、君も外に出るべきだとは思っていたんだ。そっちなら君を魔王と呼び忌む者もいない。そういう意味では、今回の件は幸運だったとすら言えるかもしれないね』
「確かに。月にいてラジオを放送しながら研究をするだけでは得られない経験は多いね」
言いながら、飛鳥は今日までの出来事を思い返す。
まだキヴォトスに来てから長い時間は経っていないはずなのに、随分色んなことがあったようにも思う。
今でさえこれなのだから、きっとこれからもっと色々あるのだろう。
「……一人で静かに、というのは難しそうかな」
『賑やかなのも悪くないんじゃないかな。自分の世界を広げるチャンスだと思えばさ』
「世界、か。まさかこの期に及んで、こんな未知と出会える機会が来るとはね」
『世界を救った魔王へのご褒美かも』
「はは、それにしてはハードな気もするよ」
『世界平和よりは簡単さ』
それから二人は近況報告の続きや、特筆すべき出来事などについてを話し合い通信を終えた。
通信が切れたことを確認した飛鳥は、ふとカタカタヘルメット団の生徒達のことを思い出す。
彼女達は、今どうしているだろうか。
そんな疑問と共に、飛鳥はモモトークを開いたのだった。
感想、評価いつもありがとうございます。
感想は基本返せていませんが、ちゃんと読んでます。励みにもなってます。
もう少しメンタルに余裕が出てきたら、返せて行けるようになれたらいいなとは思ってます。