BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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役割ではなく──

 ”飛鳥”との通信の後不意にカタカタヘルメット団の生徒達がどうしているかが気になった飛鳥は、モモトークでリーダーのウヅキに連絡を取っていた。

 飛鳥が集合場所に着いた時、既にウヅキと他数名のヘルメット団の生徒達が道端で会話に花を咲かせているのが見えた。

 

「あ、飛鳥先生! こっちだこっち!」

 

 飛鳥が来たことに気が付いたウヅキがその顔に花を咲かせながら手を振った。

 それに微笑みながら小さく手を上げることで応え、飛鳥はウヅキ達に歩み寄っていく。

 

「やあ、待たせてしまったかな」

「んや、そうでもないさ。アタシらもさっき仕事が終わって着いたところだし」

「それなら良かった。まあ、立ち話もなんだしどこかお店にでも入ろうか」

 

 飛鳥の言葉に生徒達の瞳が期待で輝き始める。けれど、飛鳥は生徒達が自分に何かを期待していることだけは分かったものの、何を期待されているかまでは分からなかった。

 とりあえず、思いつくものを口に出してみることにした。これでダメなら記憶して、次に活かそう。

 そう心の中で自分に言い聞かせながら、若干ぎこちなく生徒達の顔を見回して、飛鳥は口を開く。

 

「……えっと。あんまり高くないものだったらご馳走するから」

<<やったーーーーっ!!>>

 

 両手を上げる者、ガッツポーズをとる者、ハイタッチをしあう者。表現の仕方はそれぞれではあったが、皆一様に喜んでいる様を見て飛鳥は思わずホッと息を吐く。

 

「せんせ、せんせ! すぐ近くのファミレスで季節限定のスイーツ出てるんです! そこが良いです!」

「ええー!? せっかくご馳走してもらえるんだからとなり駅のカフェで特大パフェチャレンジにしよーよ!」

「バッカ! こういう時だからこそスイーツパラダイスでお腹いっぱい食べるんでしょお!?」

 

 ぎゃいぎゃいとどこに行くのかで揉める生徒達に、飛鳥はただただ狼狽えるばかりだった。

 飛鳥の心情としては出来るだけ安く済ませたいところなのだが、かといってそれで満足度が下がってしまうのもいかがなものかという迷いもある。

 そもそも、飛鳥に年頃の少女が好むようなカフェテリアなど分かるわけもなかった。

 故に、生徒達のどの意見を採用すれば出費を抑えつつ、それなりの満足度を得られるのか皆目見当がつかなかった。

 

『先生、先生! アロナにお任せください! 近くに皆さんが入れそうでリーズナブルなカフェがありましたよ! そこに行きましょう!』

 

 不意に、懐のシッテムの箱からアロナの声がした。

 まさに天からの救いの声だった。

 

「素晴らしいよアロナ。助かった」

『いえ! 私は先生のサポートをするスーパーAIですから! で、ですね……えっとお……』

 

 懐のシッテムの箱から聞こえてくる声が不意に歯切れの悪いものになる。

 けれど、流石の飛鳥もアロナが何を言わんとしてるかは分かっていた。

 

「もちろん、そのカフェのスイーツをテイクアウトして持って帰るよ」

『わあ! ありがとうございます先生!』

 

 喜ぶアロナの声に、飛鳥も自然と笑みがこぼれる。

 シッテムの箱はキヴォトスに普及している技術と比較してもかなり特異な物であり、どういう理屈だか分からないが現実世界の物品を一部とはいえアロナのいる仮想世界に持ち込むことが出来る。

 感覚的にはおおよそバックヤードに近しいものを感じられる、というのが飛鳥達三人の共通見解ではあるが詳しいことはまだ分かっていない。

 まあ、それは後で考えることにしようと飛鳥は気持ちを切り替える。

 今はまず、目の前の生徒達をアロナが教えてくれたカフェへ連れていくことが優先だ。

 

「皆、僕の方で良さそうな場所を見つけたんだ。そこに行ってみないか」

 

 

 

 飛鳥は油断していた。ナメていたと言い換えてもいい。

 確かに、飛鳥はカタカタヘルメット団の生徒達にスイーツをご馳走すると言った。

 そんなに高くないものなら、という一言も付けて。それで十分だと思っていたのだ。

 

「あ、これ美味しそうじゃない? こっちも頼もうよ」

「いいね! すいませーん、この桃とベリーのパルフェ二つ!」

「あ、プチチョコサンデーもお願いします!」

「アタシはチーズケーキで」

「そうだ、ホットのアールグレイも!」

「ウチはホットのカフェラテ!」

 

 次から次へと頼まれるスイーツやドリンクの数、そしてメニュー表に書かれた値段を見て飛鳥は胃がキリキリと締め付けられるような心地になってきていた。

 確かに、一つ一つはそれほどでもない。ちょっと入って束の間のティータイムを過ごすにはお手頃な価格なのは疑いようもなかった。

 だが、少なくとも飛鳥含めて5人以上いるグループ全員分の会計を一人で負担するとなると話は別だ。少なくとも、飛鳥の今月の給金が振り込まれるまでは研究を自粛する必要があるかもしれない位にはいい値段になる。

 とはいえ、これは仕事だ。そう、仕事なのだ。

 

(……これ、経費で落ちたりしないかな)

 

 メニュー表を手に、窓の外をぼーっと眺めながら飛鳥がそんなことを考えていると、不意に腕を誰かにつつかれた感触がした。

 ハッと我に返ってそちらを見てみれば、ウヅキが快活な笑みを浮かべてこちらを見ている。

 

「ほら、先生も早くなんか頼めよ! 皆で一緒に食べよう!」

「あ、ああ」

 

 ウヅキの言葉に、ウエイターが伝票とペンを持ってこちらを見ていることに気が付いた飛鳥は慌ててメニューに視線を戻す。

 

「え、えっと……じゃあこのコーヒーカラメルプリンとホットコーヒーを一つずつで」

 

 飛鳥の注文が最後だったのか、ウエイターはかしこまりましたと一礼の後キッチンの方へと消えていった。

 それを見届けた後、飛鳥は改めてカタカタヘルメット団の生徒達の方へと向き直る。

 

「それじゃあ、折角こうして顔を合わせたんだし色々聞いてもいいかな。最近のこととか」

 

 飛鳥の言葉に生徒達は一瞬顔を見合わせる。けれど、次の瞬間には皆笑顔を浮かべてそれぞれの現状を語り始めた。

 

「アタシら、今ジャック先生の提案で色んな学区の仕事の手伝いやってんだ。楽しいことばっかじゃないけど……でもまあ、ワルやってた時に比べたらずっといいよ」

「うんうん! 仕事出来たら大体はありがとうって言って貰えるし!」

「報酬もちゃんと貰えるしね」

「帰りがけに今日みたいにちょっとお店寄って美味しいもの食べたりも出来るくらいにはお金貰えてるの良いよねー」

 

 ウヅキ達の言葉に飛鳥はホッと胸をなでおろす。

 

「よかった。どうやら新しい生活は大分うまくいっているみたいだね」

「先生達のおかげさ。あの時、先生達がアタシらを拾ってくれなかったら……今こうしてはいられなかったと思う」

 

 ウヅキの感謝の言葉に、けれど飛鳥は何とも言えない居心地の悪さを感じた。

 彼女達を拾うと決めたのはジャック・オーで、その手伝いをしたのはフレデリックだ。飛鳥自身は彼女達に対して、ほとんど何もしていない。なのに、そんな感謝の気持ちを向けられても素直に喜べなかった。

 そんな飛鳥の気持ちが表情に出ていたのか。ウヅキがクスリと笑った。

 

「もちろん、お世辞とかじゃなくて本当に飛鳥先生にも世話になったって思ってるんだ」

「え……でも、僕は君達に対して大したことはしてあげられていないと思っているんだけど」

「そんなことないさ。だって、あの公園でアタシ達に本音で話す機会をくれたのは、飛鳥先生じゃないか」

 

 確かにウヅキの言う通りだった。けれど、それは彼女達を導くとかそういうつもりで言ったわけではない。その気がなかったと言えば、勿論嘘ではあるのだが。

 それでもあの時、ウヅキに本音でヘルメット団の生徒達と話すことを提案したのは、単に彼女達に過去の自分達の姿を重ねて口を突いて出てしまったという側面が大きかった。

 

「飛鳥先生があの時どこまで考えてたかは分かんないけど……あれがあったからアタシらは今、それぞれバラバラになるような形になっても色んな所に行って仕事が出来るようになったんだ」

「……それは、どういう?」

 

 ウヅキの言葉に、飛鳥は思わず聞き返してしまった。

 飛鳥には、本音で話したという事象とヘルメット団がバラバラになって活動できているという現状が良いものであるという結論の行間が読み切れなかったからだ。

 飛鳥の問いかけに、ウヅキは穏やかな笑みを浮かべながら続ける。

 

「あの時。飛鳥先生に背中を押されて皆で本音で話し合えたから、アタシらはこれから自分がやりたいことについてそれぞれ本音で話し合えるようになったんだ」

「そうっすよ。皆一緒じゃなくなることに不安がなかったわけじゃないけど……でも、それぞれがやりたいって思ったことを頑張ろうって考えられるようになったのは、あの時飛鳥先生がウヅキ先輩の背中を押してくれたからっす!」

「確かに。あの日から、お互いどこか遠慮してた雰囲気もなくなって……良い意味で距離が離れたっていうか。そんな気がします」

「なんかあれだよね。前は、一緒にいないと捨てられるんじゃないかって感じしてたけど……今はこう、離れていても心は一緒、みたいな?」

 

 生徒達の言葉に、飛鳥はようやく得心が行った。

 その感覚は、飛鳥にも覚えがあった。それはホワイトハウスの一件以降、たった一人月に移り住んだ後も飛鳥が孤独に(さいな)まれることのなかった一番の理由。

 フレデリックと決闘の末にお互いを許し合えたからこそ得られた、人としての居場所の温もりだ。

 

「そうか……君達は、お互いを許せたんだね」

 

 改めて飛鳥は決意した。彼女達が笑って生きられる未来に歩いて行けるように出来ることをしようと。

 科学者、飛鳥=R=クロイツの最後の課題は世界平和だ。それは変わらない。その為に、透明な数字をラジオで流し続け、いつか善意の集積と呼べるようになるまで続けるという当初の目的もだ。

 それでも、今この場にいるのはギアメーカーでもあの男でも、魔王でもない。

 シャーレの顧問。そして、キヴォトスにおける先生の一人だ。

 師匠の言葉を借りるのなら、そう望まれて飛鳥達はここに来た。役割を任されるのには慣れている。その役割に殉じることも。

 けれど、今は違う。そう望まれたからではない。飛鳥自身が、そうあろうと望み始めている。

 

「なあ、今度は先生のことも聞かせてくれよ。最近、シャーレを離れて色々やり始めたって噂も聞いてるしさ」

「ん? そうだね、それじゃあ……うーん、どこから話そうかな」

 

 だから、もう少し足を前に出してみよう。自分のことを、人に話してみよう。

 

「最近はね──」

 

 そうして飛鳥はウヅキ達にゲーム開発部と出会った日からのことを語り始めた。

 自分のことを人に語ることなんて、これまでほとんどなかった。それも知り合ってそれほど時間も経っていないような、年若い女の子たちになどこれっぽっちもなかったはずだ。

 それでも、今こうして話している。フレデリック達とコーヒーを飲みながらその日の研究内容について語り合っていた、あの頃のように。

 それは、飛鳥達が頼んだスイーツが運ばれた後も途切れることなく続いたのだった。




投稿大分遅れてすみません。
さすがに3か月休職してから新しい現場で働き始めて、中々執筆に回せる体力が残せなくて更新滞りました。
体力的な余裕はまだちょっと出来なさそうなので、更新ペースはしばらくゆっくりになると思います。
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