BlueArchive -Strive-   作:笹の船

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魔王フレデリック

 モモイからアリスの学籍が確保でき、次は武器の調達をすると連絡があった飛鳥は集合場所に指定されたエンジニア部の部室に向かって歩いていた。

 

「……まさかついてくるとは思わなかったよ、フレデリック」

 

 自分の後ろを歩く心なしか足取りが軽そうに見えるフレデリックの方へチラリと振り返りながら、飛鳥は苦笑した。

 

「ま、ちょうど仕事も落ち着いたところだったしな。技術的な話じゃ話題に事欠かないミレニアムのエンジニア部ってところに俺も興味がある」

「モモイさんからの話だと、武器の修理や改修も請け負ってるってことらしいよ」

 

 飛鳥の言葉にフレデリックはニヤリと笑った。その目は、彼が研究室で新しい発見をした時と同じような輝き方をしている。

 こういう目をしたフレデリックは研究方面で歯止めが利かなくなりがちであることを、飛鳥は知っていた。何なら一緒になって夜通し研究に付き合ったことも一度や二度ではない。

 が、流石に生徒相手ではマズかろうと飛鳥は若干焦りを覚えたので止めることにした。

 

「頼むから生徒達に変なことを吹き込まないようにね?」

「変なことって何だ。至って真面目な”技術交換”をするだけのつもりだが?」

 

 真面目とは言うが、フレデリックは趣味で射手への大きなリスクは有れど出力上限のない法術エネルギー(オラトリオ聖人)を暴走させることなく指向性を持たせて射出できる武器を大剣サイズに小型化するくらいにはメカギーグである。

 繰り返すが、ハードウェア面においては飛鳥達のいた世界でも有数の技術を趣味で実現するのがフレデリック=バルサラという男である。その男の言う”真面目”が生徒達にとって無難なものになるとは思えなかった。

 とはいえ、もうエンジニア部の部室は目の前だった。ここまで来て今更フレデリックに帰れとも言えず、飛鳥は一抹の不安を抱えながら部室の扉をノックする。

 

「はーい、どちらさまかな?」

 

 飛鳥のノックに答えたのはすみれ色の瞳と長髪をした少女だった。腰の工具ポーチや、作業中だったのか手放していなかったスパナを見るにエンジニア部の生徒だろうか。

 そう考えた飛鳥に対して、目の前の少女は一瞬キョトンとした後にふわっと笑顔を浮かべる。

 

「ああ、あなたが飛鳥先生か。私はエンジニア部の部長を務めている白石ウタハだ。モモイ達はもう来てアリスの武器を見繕っているところだよ。さ、入ってくれ」

「ありがとう。ちなみに後ろの彼も僕と同じ先生なんだ」

「フレデリックだ。俺は単に見学に来ただけなんでな、あまり気を遣わなくていい」

「おや、そうだったのか。ふふ、ここでは色んなものを造っているからね。もし何か気になることがあれば私や、他の部員に聞いてくれたまえ」

「なら、そうさせてもらおう。飛鳥、お前はモモイとかいう奴らの方へ行ってやれ」

 

 そう言うなり、フレデリックは飛鳥を置いて部室の中にずんずんと入って行ってしまった。そんな彼の後ろ姿に苦笑いをこぼしながら飛鳥は辺りを見回してモモイ達を探す。

 部室、と言ってももうほとんど格納庫と言えるような広さではあったが、部室いっぱいに元気な声が響き渡った。

 

「説明が必要なら、いつでもどこでも答えをご提供! エンジニア部のマイスター、コトリです!」

 

 飛鳥が声のした方を見るとアリスの傍にブロンドのウェーブのかかったショートヘアに眼鏡をかけた少女が嬉々とした表情でとあるものを手で指し示しているのが見えた。すぐ傍にはアリスやモモイ達、それとフレデリックもいた。

 少女が指し示しているものは、武器ではあるのだろうが人が持てるようなサイズのものではなかった。

 はて、今日はアリスの武器を見繕いに来たのではなかっただろうかと内心で首を傾げながら飛鳥は皆の元へと歩み寄る。

 

「これはエンジニア部の下半期の予算、そのうちの約70%近くをかけて作られた……エンジニア部の野心作、『宇宙戦艦等採用レールガン』です!」

 

 少女の言葉にフレデリックがほう、と小さな声で呟いた。飛鳥は背筋に冷たいものが走った。この流れはマズい気がする。でも、不思議と止める気にはなれなかった。

 何故なら飛鳥も興味があるからだ。この世界での大砲の有効射程は、威力は、動力は? その仕組みについて知り、解き明かしたいという研究者としての血が騒いで仕方がない。飛鳥だって研究者だ。未知に触れたらそれを解き明かしたいという欲は誰よりもある。

 

「宇宙戦艦か。スペースシャトル程度なら俺も自作したが、戦艦となるとまだやってなかったな」

 

 フレデリックの言葉にエンジニア部の部員の視線が一気に彼へと集まった。その目はどれもが期待に輝いている。その輝きは、飛鳥にとってとても馴染みのある物だった。

 

「それは本当かい、フレデリック先生? それは実に興味深い。戦艦ではなかったとしても大気圏外での航行を可能にした乗り物を実際に開発した人にしか分からないものもあるだろうし、是非とも色々話を聞かせて欲しいところだね。ああ、そうだ。先生達にも紹介しよう。こっちの眼鏡をかけた子が豊見コトリ、猫耳と尻尾のある子が猫塚ヒビキだ。どちらも一年生だけど、優秀だよ」

「説明や解説が必要なら、私に任せてください!」

「よろしく、先生達」

「ああ」

「うん、よろしく」

「それじゃあ早速フレデリック先生が自作したというスペースシャトルについて──」

「ちょ、ちょっと待ったー!?」

 

 ウタハがフレデリックにスペースシャトルについての話を聞こうとしたところを、ミドリが慌てた様子で止めた。

 話の腰を折るんじゃないと言わんばかりに眉間にシワを寄せたフレデリックがミドリの方を睨み、睨まれたミドリは小さな悲鳴を上げた。

 そんな目の前の光景にため息をつきながら、飛鳥はフレデリックに苦言を呈する。

 

「フレデリック、いくら何でも大人げないよ」

「……まだ何も言ってねえ」

「いや、あの睨み方は”邪魔をするな”って怒ってるようにしか見えない。今日の本題はそこにいるアリスの武器を見繕うことだ。スペースシャトルとかについての話をするなとは言わないけど、彼女達の邪魔になるようなことは控えて欲しい」

「チッ……しゃあねえな。そういや、アリスっていったか。お前この大砲を見てたな。コイツが気になるのか」

 

 突然フレデリックに水を向けられたアリスはびくりと小さく肩を震わせながら、けれど目を吊り上げてミドリやモモイの前に歩み出た。

 

「お、おのれ魔王め! 最初からこの龍の息吹を狙ってここに来たのだな!? 世界を征服する為に、この強大な龍を奪い去ろうというつもりで!!」

「は?」

 

 アリスの声はほんのわずかに震えていたけれど、その立ち姿はまさに威風堂々。どんな強大な悪にも屈しないという鋼の意志を見るものに感じさせた。少なくとも、飛鳥にはそんな風に見えた。

 最も、その巨悪として睨まれているのはとてもよく知る目つきの悪い親友なのだけれど。

 

「おい、飛鳥……」

「むっ! そうはさせるものか! 我らが賢者飛鳥先生までもその毒牙にかけようというのなら、このアリスを倒してからにするがいい!!」

「くっ……ふふふ……」

 

 アリスの健気な行動と、事態が全く呑み込めておらず困惑しているフレデリックの表情が余りにもおかしくて飛鳥は思わず口元に手を添えながら小さく噴き出す。

 

「ああっ!? 邪悪なる魔王によって飛鳥先生が混乱してしまっている!? おのれ魔王め、なんて卑劣な手を!!」

「誰が魔王だコラ」

「あ、あははははははははは! フ、フレデリックが魔王……くく、ふふふ……!」

 

 もはや限界だった。こみあげる笑いを抑えることが出来ず、飛鳥は腹を抱えて大きな声で笑い転げる羽目になった。

 これまで魔王と呼ばれたのは飛鳥の方だったけれど、確かに言われてみれば外見的要素に置いて飛鳥よりもフレデリックの方がずっと”適役”ではある。

 それに、今はもうできないだろうけれどドラゴンインストールで変身した彼の姿はまさに本気を出した”魔王”と言ってもおかしくはない。

 飛鳥が権謀術数によって世界を裏から操る悪の魔法使いタイプの魔王なら、さしずめフレデリックは圧倒的な暴力で持って世界を恐怖に陥れるオーソドックスな魔王と言ったところか。

 本当の彼がそんなことをするはずがないというのは分かっているけれど、ことアリスやゲーム開発部の前においては損な役回り妙にマッチしてしまうように見えるのはどうしてだろうか。

 

「あ、飛鳥先生が壊れちゃった……」

「でもあの笑い方、なんというか……見覚えがあるっていうか……」

「思い出した! 前に新作ゲームの案出しやったときに行き詰って、ダメもとでユウカに悪役令嬢の真似をしてもらった時にあまりのハマりっぷりに爆笑してた私だ!」

「あー……あの時のかぁ……あんまりにもユウカがハマり役だったから悪役令嬢転生RPGで一本いけると思ったのに、なんかユウカに作るなー! って怒られて没になったんだよね」

「絶対面白いと思ったのにねー。何がダメだったんだろ」

 

 それは多分、余りにも悪役令嬢が早瀬さんだと分かるような作り方をしようとしたからじゃないかな、と腹を抱えて笑いながら飛鳥は頭の片隅で才羽姉妹へツッコんでいた。勿論、口からは笑い声が未だに漏れているので実際に言葉としてツッコミを入れることはできない。

 

「おい飛鳥、いい加減にしろ」

「ご、ごめ……フレデリック……ふふふ……!」

 

 申し訳ないという気持ちが湧いていないわけではないのだが、それにしてもさっきのやり取りがツボにハマってしまった飛鳥は笑いを止めることが出来ずにいた。

 

「よし、分かった。一発ぶん殴らせろ」

 

 が、どうやら我らが魔王はそれがお気に召さなかったらしい。

 手元にジャンクヤードを転送して、大きくその大剣を振りかぶってきた。振りかぶられたジャンクヤードの刀身が赤熱しているのが見える。

 一瞬で笑いが引っ込み、今度は一気に血の気が引いた飛鳥は大慌てで”本”を手元に転送して自分とフレデリックを覆うように不可視の結界を張り、その上で自分とアリスを守るようにフォルトレスディフェンスを展開する。この間、僅か1秒にも満たない短い時間だった。

 

「加減の必要はねえな?」

「ちょ、フレデリック……!!」

 

 飛鳥が守りを固めたのをしっかりと視認してから、フレデリックが狂暴な笑みを浮かべながらジャンクヤードを振り抜く。

 

「タイランレイヴ!!」

 

 そうして飛鳥の視界は真っ赤な爆炎と轟音に埋め尽くされた。




仕事が始まって二か月。いい加減体力的になれてくるかと思ってましたが全然そんなことはなかった……
相変わらずゆっくりめのペースですがちょっとずつ更新していければと思います。
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