鼓膜ごと吹き飛ばしてしまいそうな爆音と空気の揺らぎ、それから肌を焼くような熱さを感じながらも飛鳥は胸をなでおろしていた。
フレデリックがタイランレイヴを放つ前に展開した不可視の結界のおかげで、飛鳥のフォルトレスディフェンスに直撃してなおすさまじい破壊力をまき散らしたそのエネルギーは結界が砕ける時のガラスが粉々になったような音と一緒に霧散していった。
とはいえ、フレデリックのやったことは大人として少々目に余る。彼の機嫌を損ねるような言動をした飛鳥自身にも責任は有れど、いくら何でも子供達の前でこれほどの破壊力を持った法術を発動するのは危険すぎた。
「……フレデリック。今のは──」
「す、すごぉぉぉぉい!? 何今の!? 先生達今何やったの!?」
流石にフレデリックに一言言わねばと眉間にシワを寄せた飛鳥が文句を言うよりも前に、今日誰よりも目を輝かせたモモイがこちらに駆け寄って来る。
ふと見回せば、エンジニア部の生徒達も口には出さずにいるもののフレデリックのジャンクヤードや飛鳥の手元にある”本”へ熱い視線を投げかけていた。
「ね、もう一回! もう一回やって先生!!」
「え、ええ……? いやでも今のかなり危なかったんだよ?」
「私達としても興味が尽きないね。飛鳥先生もフレデリック先生も突然手元に物体を転送した上に、あの凄まじいエネルギー……いったいどんな技術が使われているのかな」
「さっきの爆発……もしかしたら光の剣よりも破壊力は上かもしれない……」
「光の、剣?」
ヒビキの光の剣、という単語にアリスが反応する。
そんなアリスにコトリが眼鏡のフレームを指で押し上げながら得意満面の顔で語り始めた。
「よくぞ聞いてくれました! この宇宙戦艦搭載用レールガン、正式名称を『光の剣:スーパーノヴァ』と言いまして! その──」
「これ、欲しいです!!」
この場の誰にも負けないほどその目を輝かせながら、アリスは光の剣を指さしてコトリの説明を遮りつつ新しいオモチャをねだるように言った。
そんなアリスの熱い要望を受けて、けれどエンジニア部の面々はどこか困ったように眉尻を落とす。
それをこの武器が欲しいという情熱が足りなかった、と解釈したのかアリスは至って真剣な表情でウタハの方へ向き直った。
「偉大なる鋼鉄の職人よ、あの龍の息吹が欲しいのだ」
アリスにそう願われたウタハは、何と説明したものかと言いたげに苦笑をする。
そこを引き継いだのはコトリだった。
「申し訳ないのですが、それはちょっと出来ないご相談です!」
「なんで!? この部屋にある物なら何でも持って行っていいって言ったじゃん!」
コトリの言葉にモモイの目が吊り上がる。が、飛鳥もフレデリックもコトリの言葉には頷いていた。
「モモイさん、少し考えてみて欲しい。このレールガン、戦艦に搭載するのだから当然だけど携行武器としては少し大きすぎるとは思わないかい?」
「えっ……うーん、まあ……」
「サイズがデカけりゃ当然それだけ重くなる。ガキが担いで走り回るにはヘヴィだろうな。仮に走り回れたとして、その大きさだ。発射時の反動もそこらの武器とは比べ物にならねぇだろ」
「その通りなんです! 光の剣の基本重量だけで140㎏以上で、ここに光学照準器とバッテリーを足して砲撃を行えば瞬間的な反動は200㎏を超えます!」
コトリの説明にアリスやモモイ、ミドリの眉間にしわが寄る。飛鳥としては学生にしてはとてもわかりやすい解説だと思ったのだが、どうやらゲーム開発部の面々にはそうではなかったらしい。
そんな彼女達の様子を見かねたのかフレデリックが口を開いた。
「まあ要するに、200㎏の重さの鉄の塊がすごい勢いで自分にぶつかってくるようなもんだってことだ」
「うっ……それは流石に死んじゃうよ。うーん、こんなカッコいい武器なのになあ」
「もったいないけど、アリスちゃんには別の武器を探してあげた方がいいかもね……」
「これをカッコいいと言ってくれただけで、私達は嬉しいよ。ありがとう。持っていけるのならば、本当に上げたいところなのだけど……」
欲しいものは目の前にあるのに届かない。そんな状況にどこか生徒達の雰囲気がしんみりとしたものになっていく。
これは良くないと飛鳥が何か声を掛けようとするけれど、どんなことを言ったらいいのかが全く頭に思い浮かばなかった。
どうしたものか、と自分の顔がだんだんと険しいものになっていくのを感じながらなおも考えているその時だ。
何かに気づいたかのように、アリスの表情がぱあっと明るいものになった。
「汝、その言葉に一点の曇りもないと誓えるか?」
「ん? この子、また喋り方が……」
どうやらゲームの影響を受けすぎたらしいアリスの芝居がかったセリフ回しにウタハが困惑していると、慌ててミドリが翻訳をする。
「た、多分ですが『本当なのか?』って聞いてるんだと思います」
ミドリの言葉に、ウタハがアリスの方へ顔を向ける。その目はどこかアリスの言葉を信じられないという風に僅かに細められていた。
「勿論嘘は言っていないが……それはつまり、アレを持ち上げるつもり、ということかい?」
けれど、そんなウタハの疑いの視線などどこ吹く風と言ったようにアリスは笑顔のまま頷き、光の剣に歩み寄る。
そして、側面に取り付けられた取っ手を掴んで小さく息を吸い込み、真剣な表情になる。
「この武器を抜く者……」
取っ手を掴む小さな手に力が込められ、アリスが声高々に決め台詞と思しき言葉を口にした。
「此の地の覇者になるであろう!」
アリスの言葉にコトリが微笑ましいものを見るように笑い、ヒビキが心配そうにアリスのことを見つめていた。
その場にいる全員の視線を浴びながら、アリスは力みながら光の剣を持ち上げようと試みる。
何処かハラハラとした心持ちで飛鳥も見守っていると、光の剣が僅かに動いたように見えた。
見間違えか、と改めてアリスと光の剣を注視しようとしたその時だった。
あの大きな光の剣が飛鳥達の前でグイっと一気に持ち上げられた。
「……も、持ち上がりました!」
「う、嘘……信じられない……」
その小さな体には到底見合わないほどの大砲を持ち上げるアリスを前にして、ヒビキがポツリとこぼす。
口にこそ出さないものの、その場にいる他の人間も概ね同じように驚いた表情をしていた。
フレデリックだけはやや険しい表情をしていたが。
彼には後でアリスについてちゃんと説明しないと、と飛鳥が脳内のやることリストに追加をしていると。
「えっと、ボタンは……これがBボタンでしょうか……?」
「ま、待って……!」
我に返ったヒビキの慌てた言葉に飛鳥がアリスの方を見れば、彼女は既に光の剣の砲口を天井へ向けていて。
「……っ、光──」
「おい、待て」
慌てて飛鳥が先程フレデリックのタイランレイヴを防いだものと同じ結界を張ろうとする前に、いつの間にかアリスの傍に駆け寄っていたフレデリックが彼女を止めた。
「ムッ! ここにきてまだ邪魔をするのか魔王め!」
盛り上がった気分を邪魔されてご立腹なのか目を吊り上げて頬を膨らませるアリスだが、フレデリックはどこ吹く風と言った様子で彼女を諭す。
「まずは落ち着け。お前は新しい武器を手に入れたら所かまわず振り回すのか?」
「新しい装備を手に入れたら使い心地を確かめるのはゲームの基本です! アリスは何もおかしなことをしていないと思います!」
アリスの言葉にフレデリックの表情がげんなりとしたものに変わり、そのまま飛鳥の方へ顔を向けた。
言葉にこそしていないが、その顔には「お前、どういう教育をしてんだ?」と言っているのは丸わかりである。
飛鳥は直接顔を合わせたことはないものの、”本”やシミュレーター、それから”飛鳥”からの話で一時期育てていたシン*1の知識や言動がロイヤルファミリーらしからぬ野生児めいたものになっていることを知っている。
それを考えれば一体どの口で、と言いたいところだがそれをここで話しても仕方がない。
「彼女は少々純粋でね。最近はゲームをたくさん遊んでいたから、ちょっとそれの影響を受けているだけだよ」
「限度ってものがあるだろうが。……まあいい。おいアリス」
「む、アリスに決闘を申し込むというのか! ならば引く道理などない! 勇者として47回目の魔王との闘い、今度もアリスが勝手人類に平和をもたらして見せよう!」
「会話にならねえ……シンの方がまだ聞き分けがよかったぜ……」
完全に魔王と認識されてしまったフレデリックの言葉はアリスには全く届く気配がないのが再び飛鳥の笑いのツボを刺激しかかったが、そこで飛鳥に天啓が下った。
「……いや、そうだね。ここで魔王大決戦と行こうか」
「ええっ!? 飛鳥先生一体何を言い出すんですか!?」
「おい飛鳥──ッ!?」
ミドリの驚く声とフレデリックの呆れた声を聞き流しながら、飛鳥は”本”を使って術式を行使する。
フレデリックは即座に自分に何かをされたことに気づき、息をのんだ。
「おい飛鳥、これは……」
「以前君とやった模擬戦の時、僕が使っていたものと同じ防御術式だよ。今回は即興だから今僕が持ってる分のマナをリソースとして稼働してる」
「つまり銃弾程度なら重たいパンチ一発くらいの威力に減衰されるってことでいいか?」
「概ねその認識でいいよ。ああ、戦闘が終わった後に所感を教えて欲しい。君、どうせこれからも無茶するだろうからね。色々調整をしたい」
「メンドクセェな……」
突然始まった飛鳥とフレデリックの会話に、その場の誰もが置き去りにされてしまっていた。
いち早く再起動したのはウタハだった。
「えっと……つまり飛鳥先生は今フレデリック先生に特殊なシールドのような物を付与したということかい?」
「察しがいいね白石さん。その通りだよ」
「で、でもどうしてフレデリック先生に……? それじゃあまるでこれからフレデリック先生が戦うみたいじゃん!」
戸惑った声を上げるモモイにフレデリックが大きなため息を吐いた。
「そのまさかだろ。飛鳥テメェ、俺を光の剣の実戦データの仮想敵にする気だな?」
フレデリックの言葉にその場の全員がギョッとした表情で飛鳥の方へ振り返る。
「飛鳥先生!? いくら何でもマズいですよ! フレデリック先生はキヴォトスの外の人なんですから、光の剣どころか銃弾一発でも当たったら大怪我になるんじゃないんですか!?」
「そうだね、流石に私達としても部室で流血沙汰は避けておきたいところだし、処分要請を受けたドローンやロボットもそれなりにある。そちらではダメだろうか?」
コトリやウタハを始めとして、生徒達から一斉に制止の言葉が飛んでくるが飛鳥はクスクスと笑って首を軽く左右に振った。
「大丈夫さ。これでも僕は魔法に自信があるし、フレデリックもそう簡単に直撃を貰うような人じゃない。君達の思うような万が一は絶対に起こらないと保証するよ。それに、フレデリックも暴れたりなかったみたいだし、ね?」
「チッ、テメェ俺がタイランレイヴ撃ったこと根に持ってやがるな?」
「当然だろう。生徒達の前であんな派手な法術を使うなんて万が一があったらどうするつもりだったんだい?」
飛鳥の小言にフレデリックはバツが悪そうに頭をガシガシとかいて再びため息を吐いた。
「しゃあねえな。おら、アリス構えろ。ウタハって言ったか。さっき言ってたドローンとロボットも頼む。まずは雑魚で小手調べしてやらねえとな」
「それならモモイさん、ミドリさんはアリスのフォローに入ってもらおうかな」
「こ、これってもしかして……」
急転直下の展開に目を白黒させながらも、何かを察したモモイにウタハが頷く。
「お察しの通りさ。その武器を本当に持っていきたいのなら……」
「
ウタハの言葉を引き継ぎながら、フレデリックは魔王にふさわしい獰猛な笑みを浮かべたのだった。
BlueArchive -Strive-の初投稿日から一年が経ちました(一日遅れたのは昨日38度の熱を出していたからです……)
ギルティギアという他のクロスオーバー作品と比べれば比較的マイナージャンルのクロスでありながらもハーメルンに投稿して初のいわゆる赤満(評価者50人以上、平均評価8.0以上)を達成できたのも読者の皆様がいてこそだと思います。
投稿開始からリアルでも色々あって、投降ペースはかなり落ち込んでいますがちゃんと最終編までは走りとおしたいと思っているので、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
今年中にエデン編突入という今年の抱負も何とか守りたいところです。がんばります。