「で、どこまでがお前の計算だ?」
戦いを終え、アリスがヒビキに連れられて行った後でゲーム制作への想いを昂ぶらせるモモイとミドリを見たフレデリックが飛鳥に突然問いかけてきた。
飛鳥がそちらを見れば、やや眉間にシワを寄せてこちらを軽く睨むフレデリックと目が合った。
「酷いな。なんでも僕が悪だくみしてるみたいな言い方は、流石にちょっと傷つくよ?」
「そりゃあ悪かった。じゃあ聞き方を変えるさ。最初からこうなることを予想して俺と戦わせたのか?」
「ほとんど変わってないじゃないか……まあ、正直に白状するとほとんど予想外、かな」
飛鳥の返答にフレデリックが僅かに目を見開く。まるで、意外なものを見ているようなその表情に飛鳥はほんのわずかに唇を尖らせた。
「君ね、僕を何だと思ってるんだい。いくら僕でも、何でもかんでも計算づくってわけじゃないんだよ」
「くっく……ソイツはすまねぇな。あいにく、俺はどこぞの魔王にアゴで使われた経験しかないもんでよ」
「フレデリック……君、案外根に持つね」
「100年何も聞かされずに戦わされたんだ。これくらい可愛いもんだろ」
それを言われてしまえば飛鳥としては何も言い返せない。実際、何の説明も相談もなくフレデリックをギアに改造して長い時間戦わせたのは事実だからだ。
けれど、親友に対して行ったそんな非道を当の本人から軽い調子で、悪戯っぽい笑みすら浮かべて言われてしまえば飛鳥も笑うしかない。
長い間、二人の間にあったわだかまりはホワイトハウスでソル=バッドガイという男と共に供養されたのだ。
「ふふ。確かに、君にはそれくらいの恨み言を言う権利はある」
「だろ? オラ、分かったらお前が考えてること全部吐け。俺の穏やかな隠居生活の為にもな」
「そうはいうけどね。本当にこれ以上語るようなことはないんだよ。ひとまず部員はこれで最低限揃ったし、あとはゆっくりモモイさん達とゲーム制作を──」
「「先生ー!!」」
そこまで飛鳥が言いかけた時だった。モモイとミドリが飛鳥とフレデリック達の元に凄い勢いで駆け寄ってきて、飛鳥の服を掴む。
「わ……ど、どうしたのかな二人共?」
真剣な表情で自分を見上げる才羽姉妹に飛鳥が少したじろいでいると、モモイが目を輝かせながら口を開いた。
「飛鳥先生とまお……フレデリック先生、二人とも魔法つかえるよね!? ちょっと見せてよ!!」
モモイの言葉にフレデリックが眉間にシワを寄せる。
「あァ? さっき散々見せただろうが」
しかし、フレデリックの言葉にモモイはブンブンと首を横に振った。
「ちーがーうーのー! 飛鳥先生とフレデリック先生とで魔法使い同士戦って見せて欲しいんだよ!」
「え、ええ……? それはちょっと……」
モモイの言葉に飛鳥は困ってしまった。
戦うこと自体にそれ程忌避感はないけれど、何せ自分もフレデリックも一度その気になったら加減するのは難しい方の人間だ。
いくら結界を張ってある程度の被害を抑えられるとは言え、それでもエンジニア部の部室で二人が戦い始めたら部屋がめちゃくちゃになってしまうのは明白だ。
かといって、これから大規模な戦闘をするから場所を貸してくれなんてセミナーのユウカやノアに言っても聞いてもらえるかどうかはかなり怪しい。
それに、これから危険な行為をするので場所を貸してくれ、といきなり言われてはい分かりましたと首を縦に振ってくれる人など普通はいないことくらい、いくら人の心が分からない飛鳥でもそれくらいは理解できる。
というか、ギアという危険な兵器研究に携わっていたのだから──もちろん、飛鳥の意志ではなかったが──その辺りの危険なもののテストを行う際の場所の確保の大変さは身に染みて知っているつもりだ。
故に、助けを求めるようにフレデリックの方へ視線だけ送れば、フレデリックもまた難しそうな顔をしていた。流石の彼もモモイの頼みを受け入れることが困難であると考えているようだ。
「お願いします! さっきの戦い、ユズだけはいなかったからユズにも見せてあげたいんです! 私達だけはなんだかずるいし、それにきっとユズにとってもいい刺激になると思うんです!」
そんな飛鳥達へ畳みかけるように、真剣そのものといった表情でミドリが訴えかけてきた。
ミドリの言葉と、彼女とモモイの真剣な表情。それに飛鳥の心は揺れ動いていた。
決して彼女達が真剣な表情をしたところを見たことがないとは言わない。
ゲームをプレイしている時、そんなゲームについて語り合っている時にだってゲーム開発部の皆は真剣な表情をしていた。
けれど、今目の前にいる姉妹の表情は今まで見てきたどんな物よりも真剣であるというのが、なんとなく飛鳥には分かったのだ。
飛鳥とフレデリックの戦いは間違いなく危険だ。けれど、そもそも飛鳥がここにいるのはゲーム開発部の廃部を食い止める為でもある。
部員が揃うだけで問題が解決するのならそれで良いのだが、初めてモモイにあった日ノアは確かに言っていた。
相応の結果も残さなければ、どの道先はないだろうと。
であれば、ここで二人の要求を呑んでゲーム開発部全体のモチベーションとインスピレーションに刺激を与えてしまった方が結果的に良いのではないか。
「……フレデリック。久しぶりにバトルメソッドチューリングの実験でもやらないかい」
飛鳥の言葉にフレデリックがわずかに目を見開いて、それからため息を吐いた。
「お前、正気か? 大体、どこでやるんだ。これから派手に暴れますっつって、はいどうぞと場所を貸してもらえるアテでもあんのか?」
フレデリックの言葉は最もだ。飛鳥自身ですらそう考えたのだから。
それでも、飛鳥はミドリ達の期待に応えたいと思った。だから、彼はフレデリックの方を真っすぐと見つめながら答えた。
「僕が何とか、早瀬さん達に頭を下げて場所を貸してもらうよ」
そんな飛鳥にフレデリックは仕方がないといったふうに肩を小さくすくめるのだった。