「うわぁあああん! どうしてこうなるのさああああ!!」
連鎖する爆発音。崩れ落ちる建物。絶え間なく響く銃声と、銃弾が壁や道路に撃ち込まれる硬い音。
そんな戦場かと思いたくなるような状況で、モモイが道路をひた走っていくのを飛鳥は必死に追いかけていた。
飛鳥達は今、アリスを見つけた廃墟群のある場所に来ている。
理由は一つ。G.Bibleを見つける為だ。
「お姉ちゃん! 文句言う暇あったら撃って!」
「アリス、光魔法の詠唱に入ります!」
飛鳥としても再び来ることになるとは思っていなかった。
フレデリックとの模擬戦の後、モモイ達が明るくやる気に満ちた顔をしながら部室で新しい企画についてあれこれ話しているのを見ていたからだ。
そして、その話し合いはおおむね順調だった。
モモイ、ミドリ、ユズ、アリスの四人の見ている方向はほとんど一緒で、話し合いが平行線になることもなかった。
それぞれシナリオ、デザイン、企画進行、プログラミングとアサインされた役割をしっかり進められてもいたのだ。
だが、作品が八割ほど完成した、というところでゲーム開発部の生徒達の表情は曇って行った。
『私達の思い描いたものに届いてない!!』
けれど、ゲーム開発部の生徒達の持ちうるものは既に出し切っていた。誰もがベストを尽くして取り組んでいたのだ。
だから”これ以上”を求めたところで、それを実現するためのアイディアが浮かばなかった。
そこでミドリが思い出したのだ。廃部を回避する為に廃墟へ行った時のことを。その本来の目的を。
『きっとG.Bibleがあれば今の私達に足りないものが何か分かるよ!』
酸欠でぼんやりしてきた意識でそんな昨日までの出来事を振り返っていた飛鳥は、全身を覆うように展開しているマナバリアにロボットの銃弾が当たった音で我に返った。
振り返れば、アリスが光の剣で吹き飛ばして爆発炎上したガラクタ達の後ろからぞろぞろとこちらを追いかけてくるロボット達の姿が見える。
既に相当数のロボットを破壊しているはずなのだが、次から次へと出現してキリがない。
「め、面倒くさいなもう……!」
ただでさえフレデリックとの模擬戦の筋肉痛が引いていないというのに、どうしてこう邪魔ばかり。
そんな気持ちが膨れ上がり、飛鳥は酸っぱいものを口に含んだ時のように顔をしかめながら”本”を呼び出して無造作に腕を振る。
それだけで飛鳥の頭上からいくつもの立方体が飛んで行って、道路脇の廃墟へ命中した。
「あ、飛鳥先生!?」
ユズの困惑した声を聞きながら、飛鳥は踵を返して目的地の方へと駆け出す。
「み、皆! 急いで走るんだ!」
躓きそうになるのをモモイに支えられながら走り出す飛鳥の後をユズとアリスが追いかける。
それとほぼ同時に、飛鳥によって崩された廃ビルが飛鳥達とロボットを分断した。
その音を背中で受け止めながら、疲労と酸欠で白っぽくなってきた意識が筋肉痛の鈍い痛みで晴れていき、また酸欠で白っぽくなっていくという地獄のようなループの中で飛鳥は心底実感した。
やっぱり体力作りくらいはするべきだ、と。
ロボット達を何とか撒き、ヴェリタスが特定したG.Bibleがあると思しき座標地点──寂れた工場へ到着した飛鳥達は一休みをしていた。
主に飛鳥が身動き取れなくなったことによる半強制的な休憩だったが、現状を再確認するには十分な時間だった。
とはいえ、決して楽観視できる状況ではない。
飛鳥の体力は勿論、生徒達が持ち込んだ予備の弾薬も底をつきかけている。これ以上の戦闘は避けるべきだった。
工場の中に脅威がないとも限らない。さて、どうするか。
飛鳥が地面に腰を下ろした姿勢のまま顎に手を当てたその時だった。
「アリス……アリスはここを知ってる気がします。こっちです!」
「え……アリス!?」
突然薄暗い通路に向かって歩き出したアリスを、飛鳥は追いかけようと立ち上がろうとして無様に失敗した。
モモイ、ミドリ、ユズに助け起こされる飛鳥だったが、アリスはそんな四人に構わずフラフラと先に進んでいく。
「ま、待つんだアリス……! 皆、彼女を追いかけよう」
そうしてアリスを追いかけた先にあったのは、何故か電源が点いている一台のコンピューターだった。
まるで飛鳥達を待っていたかのようなそれは、彼らを何かしらの手段で検知したのかデータベース内の情報を検索するか、とディスプレイ上で問うてきた。
ただのプログラムに則った動き、と言えばその通りだったが余りにも都合の良い状況に飛鳥は僅かに顔をしかめた。
とはいえ、今のところ実害はない。だから、アリスがG.Bibleとキーボードに入力するのを止めはしなかった。
しかし、その直後に異変が起きた。
エンターキーも押していないのに、システムが
更には音声認識でアリスのことを完全に認識してしまった。アリスが導かれるようにこの場所にたどり着いたことも考えれば、やはりこれは偶然ではない。
だが、システムは飛鳥達に考える時間を与えなかった。
「緊急事態発生。電力限界に達しました、電源が落ちると同時に焼失します。残り時間51秒」
「ええっ!? だ、ダメ! せめてG.Bibleのことを教えてからにして!」
時間が刻々と迫る中、システムは驚くべきことを口にした。
なんと、G.Bibleはこのシステムの中にあるというのだ。
何とも怪しい話ではあるが、真偽を確かめる時間などない。
システムの提案した通りにモモイが持ち込んでいたゲーム機の記憶媒体にデータ転送をしている間、飛鳥は転移魔法の準備をしていた。
これ以上、走るのはお断りだった。
どうやらモモイの努力の結晶がG.Bibleを転送する為に消されてしまったようだが、それでも目的のものは手に入った。
しかし、喜びに浸る暇はない。あちこちからロボット達の重く硬い足音が響きだしたからだ。
「皆、僕のそばに!」
飛鳥の鋭い声に生徒達が反応して、全員が飛鳥の法衣の裾を掴む。
それを確認した瞬間、飛鳥は魔法を発動させた。
ロボット達が飛鳥達がいた場所にたどり着いた時には、そこにはもう誰もいなかった。