食レポ系配信者 in ゾンビパニック   作:カナブン

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筆が乗ったので前倒しで投稿


ゾンビ狩り

俺、飯田直人という男は物心ついた時から食に関心があった。どれくらい興味があったかというと自身の将来を即座に調理師か食品メーカー勤務かの2択に絞ったほどだ。

 

義務教育を無難に終え、安定して金銭(食事代)を稼げるということで食品メーカーに就職成功。1年の研修を終えて遂に仕事に携われる、その矢先に起きたのがゾンビ発生であった。

 

「今、自衛隊とかどうしてるんだろうなぁ」

《回答: 4月2日、雷旋柱現象及び変異種の発生を確認。恐らく周辺の自衛隊は交戦の末に敗北済み》

「最悪な回答が飛んできやがった……」

 

 ゾンビに対する研究・究明が続かない理由の一つがこれであった。まるで狙い打ちするかのように数多の異常現象が発生し、研究機関や軍隊を襲うのだ。結果、本来研究や対策をするはずの者たちが全滅し、俺みたいなやつが代わりにする必要が出てきたのである。

 

そう、改めて説明するが現れたのはゾンビだけではない。異常事態が同時発生した結果がこの地獄だ。そもそも核や宇宙飛行の技術を持つ人類が、たかだか疫病モドキ一つで終わることなどない。

 

 実際アメリカは核を自国に打ち込むことでゾンビの大半を殺すことに成功したらしい。だが続く異常現象に巻き込まれ全員ゾンビ化した。

 

 全ての異常現象は一つのモノから生まれている。俺の直感はそう言っているのだが、証拠がイマイチ集まらない。というかそんなことより来年以降の食糧確保の方が急務なんだよな。ゾンビ発生前に造られた多くの食材がダメになるし。やっぱり農業でも始めようか。でも人足りないんだよな。

 

「俺も自衛隊に守られてぬくぬく生きたいよ」

 

 そうぼやきながら改めて周囲を見る。現在地は大阪府の少し南側にある繁華街である。これから北上し目的地にたどり着くには、ゾンビの群れを突破する必要があった。

 

 串カツを食べ終えて既に時刻は夕方。暗くなる時間帯はゾンビの動きも鈍くなる。

 

《解説:「成り損ない」の本体は人体の器官及び磁場を用いて周囲を探知します。そのため夜は視覚という最重要機関が使えなくったり転倒のリスクが上がったりするため、脅威が減少します》

 

 脳内にまた謎の声が響く。この落ち着いた女性の声とは、既に1か月近い付き合いになる。そういえば彼女は一体どんな存在で、なんという名前なのだろうか。先ほど討伐したおかげでゾンビのいない街を足早に進んでいく。

 

《疑問:今更ですか》

「余裕が出てきたから気になっているんだよ」

《回答:私は幻聴やファンタジーな存在ではなく、合理的に設計され有機的に稼働する理性的な生命です。詳細は好感度を上げることで開示されます》

「好感度とかあるの!?」

《注釈:適当を言いました》

「最重要情報を適当にはぐらかそうとしないでくれますかね」

《返答:テヘペロ》

 

 もうこいつのノリがさっぱりわからない。静寂が漂う繁華街を抜け、さびれた道を進んでいくと脳内から急に声がした。

 

《警告:次の交差点左方向に「成り損ない」2体》

 

 一つ確実なのは、この声は敵対的な存在ではないということだ。今までの経験からその警告を疑うことはしない。

 

「他のルートは?」

《回答:非推奨。西と東、共に「成り損ない」が複数存在します。このルートが最小です》

 

 どうやって探知しているのかはよくわからない。以前聞くと《磁場》という端的かつ参考にならない答えしか帰ってこなかった記憶がある。それはさておき日が沈むまであと1時間。街灯の光がない昨今において、夜の移動は人間にとって危険だ。暗視ゴーグル、という手もあるのだろうが店から収奪できる品だと性能が低く使い物にならない。

 

 だからあと1時間以内に目的地にたどり着く必要がある。背中に背負ったカバンからとり出したのは大型の斧。金属製の分厚い刃は分厚い木を切断することに最適化されている。俺は斧を構え、大通りの端を足音を立てないように進む。

 

 交差点の角まで近づき、電柱の陰に隠れると僅かな物音が聞こえてきた。腐った肉が無理やり歩く音、すなわちゾンビの足音。そっと首を伸ばし覗き込むと確かに2体、ゾンビの姿がある。一人は20代の私服の男、もう一人は40代の女である。どちらもやせ細っており、とぼとぼと歩いている。肌は緑色に染まっており、粘液が光を反射している。

 

「さっきの話の続きだけど、お前の名前はなんて言うんだっけ?」

《回答:名称はありません。開発番号は存在しましたがここまで変質した以上、元と同一性があるとは言えない状態です》

 

 すっと物陰から体を出し、若いゾンビの背後を取る。緩慢な動きで振り向こうとするが、それより早く全速力で斧を振り下ろした。バギッという嫌な音とともにゾンビの劣化した頭蓋骨が砕け、腐った脳髄が飛び散る。

 

「でも名前がないといつまでも謎の声、なんていう羽目になるぞ」

《一例:例えばエアという名前はいかがでしょうか?》

「串カツで叫ぶお前には似合わない名前だろ。もっといい名前考えようぜ、食いしん坊太郎とか」

《否定:貴方のネーミングセンス》

 

 謎の声と話しながら処理を終える。多くの人間にとっては恐怖の象徴であるが、今の自分にとっては処理するものでしかない。正しい手順で正しく破壊。

 

もう一匹のゾンビが大通りの中心で俺の存在に気付く。頭をたたき割られたゾンビには目もくれず、俺の方向に向かって一直線に歩き出す。さながらキョンシーのごとく手を前に突き出し、俺の体を捕まえようとしてくる。ゾンビの恐ろしい所、それが噛みつきによる感染。一撃必殺技を持つ痛みを知らぬ化け物が無限に増え続ける、それこそがゾンビの怖さであり、

 

「じゃあエクスとかにしとく? 謎の声(X)、ということで」 

《採点:70点。許容範囲としましょう。今日から私はエクスです》

「なんだその上から目線」

 

 ぶちり、という音が再び鳴り響き、先ほどの再放送かのようにゾンビの脳がはじけ飛ぶ。要は落ち着いて相手に掴まれるより早く脳天をたたき割れば良いのだ。

 

 一見難しく見えるが、ゾンビの動きは単調で緩慢だ。変異種ならともかく通常個体であればこのように瞬殺できる。ゾンビの本質的な恐ろしさとはその戦闘力よりも未知の恐怖なのだろう。

 

「はい終了っと。配信しとけばよかったかな」

《エクス:エクスは配信の意味はあまりないかもしれないとエクスは提案します》

「気に入り過ぎじゃないお前?》

 

 独り言を呟きながら、俺は体についた僅かなゾンビの体液を拭い去り、再び歩み始める。知識と経験は確かに俺を強くしている。そんな実感を抱きながら歩くこと1時間。ようやく目的地に到着した。

 

 駅前の大きな建物であり、周囲には討伐されたゾンビの痕跡が数多残っている。俺は懐中電灯で合図を送る。しばらくすると屋上からこちらに手を振る警察官の姿が見えた。

 

 そう、ここが今日の目的地。通称スーパーマーケットと呼ばれている、大阪最大の集落である。




『変異種』
ゾンビの中には謎の変化を遂げた存在がいる。体が数倍に膨れ上がった者、耳が無数に生えた者。そういった変異種は通常のゾンビに非ざる生態を保有しており、その一体で一種族と呼べる。最も被害を出したことで知られるのは、体長100mを超え全てを食べ尽くす変異種、通称「Fat」であり、核攻撃により殲滅された。

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