シャンフロを始めてから数ヶ月今までやって来たゲームの中でもかなり楽しく遊べていると思う。ランスロットと共に弟のオルスロットを踊らせて『阿修羅会』を設立させたり初見でダンジョン攻略したりPKしたりするのは青春を過ごすように時間が過ぎていった。
そんな日々を繰り返す内に一つの隠し通路を見つけた。
それは『千紫万紅の樹海窟』にある苔の一つを触れることで現れた。偶然見つけたその道を今一緒にいないランスロットを呼ぶかどうか悩んだが一人で進んだ。
しばらく続く道を抜けると先に広がっていたのは彼岸花の花畑。その景色に見惚れながら花畑の間を進んで行くと人影を見つけた。
「ここに人が来るなんていつぶりかしら」
そう言ったのは落ち着いた雰囲気を身に纏う白衣を着た女性、ただ幽霊のように半透明となっている事からプレイヤーではない事が分かる。
「私の名前はセツナ、よろしくね開拓者さん」
まるで本当の人間のように笑みを浮かべる彼女に少し驚きながらも言葉を交える。どうやら彼女は本体ではなく残留思念のような物らしいがとてもそうは思えない。
互いに自己紹介したあと様々な会話をした。彼女のことから始まって過去の事やその時の心情、最終的にはユニークモンスターである『墓守のウェザエモン』のこと。一通りの会話を終えた頃には良い時間になったので別れを告げてログアウトしランスロットにこの事を伝えに行く事にした。
「どうしたんですか?そんなに急いで」
「いや、ちょっとね」
望くんの家のリビングに入るとキッチンで料理している彼を見つける。いい匂いがしてくるからもう完成間近なんだろう、多分今日は肉じゃがかな?
美味しそうな料理が少し楽しみになりながらも対面して改めて思う。もう少しセツナのことは秘匿しておこう。
理由は至って単純で普段の自分からは出てこないであろう独占欲、例え相手がランスロットでも今はまだセツナに会わせる気にはなれない。
「ホントに大丈夫ですか天音さん?風引くと不味いんでしっかりしてくださいよ」
「ゴメンゴメン少し考え事してただけだから大丈夫だよ」
「天音さんが考え事....」
「まぁそんな事は置いといてさ今日のご飯は何?いい匂いがするけど」
露骨に話題をそらした私に望くんは少し不思議な顔をするもすぐに料理の会話に付き合ってくれる。
ホント顔だけは良いなぁマネージャーという形で何とか芸能界入りをさせたから行く行くは何処かでモデルデビューでもさせたい所だ。
それから暫く時間が経過し季節はすっかり雪も降る冬となった。多くの少年少女がクリスマスを目標に恋人づくりに勤しむ中私は移動中の車で普段と変わらず望くんから仕事のスケジュールについての話を聞いていた。
佐々木ちゃんがマネージャーの時はよく彼女をいじって遊んでいたが望くんに代わってからはあまりそういう事が出来ていない気がする。
「仕事はいつもの事だから良いんだけどさぁ、望くんいつになったら私のことを名前呼びするわけ?」
そう私が告げると仕事モードだった望くんが明らかに動揺する。普段の彼はボディガードのような動きをしつつマネージャー業をこなしているので業界の人の中では一家に一台と揶揄される程の便利っぷりだが彼も人なので少しイジれば動揺する。
「まぁ、炎上とかも怖いんで名前で呼ぶなんてこと無いと思いますよ」
「フーン、ならさぁ周りに誰もいない時なら名前で呼べるってこと?」
「」
まだ抵抗する彼に向かって追い討ちをかけるように畳み掛ける。まぁ実際望くんには名前で呼ばれたいので100%からかいで言っている訳では無い。
当の望くんはうーんと悩みながら呼ぼうとして止めたりを繰り返し口を閉じていた。もう一押しかなと思い言葉を添える。
「今はさ、周りに誰もいないから言ってみてよ」
「…」
「ほら早く言いなって」
「あーもーやだ、永遠‼これでいい?これで良いよね永遠」
執拗に迫られたことで限界に達したのかやけくそ気味で名前呼びする望くん。なんなら呼び捨てするまでのオマケ付きである。
「うん、満点。これからはそれでよろしく」
私としては普段見れない望くんの表情を見ることができたし大満足である。名前呼びもしてもらえたしそろそろ頃合いかなと思い決断を下す。
「今日シャンフロでちょっと付いてきて欲しい所があるんだけど大丈夫?」
「もちろん」
「じゃ、しっかり準備しといて」
望くんにセツナ及びにウェザエモンの件を伝えない事にしてそれなりに時間が経過した。最近憎くも弟たち『阿修羅会』の馬鹿共が私の動きを怪しいと探っているので早めに伝えておきたかったのだがタイミングが見つからなかった。けれど今回タイミングも良いと思ったので伝えることにした。
「それで?今日はどこ行くの?」
「内緒にしといて欲しいんだけど前に私が発見したユニークモンスターとやらのとこに行こかなってね」
「!?」
シャンフロにインしてから人目につかない場所で合流してこっそりと『千紫万紅の樹海窟』へと向かう。私の発言に驚くランスロットだがどこか覚悟を決めたかのような顔をしている。ウェザエモンの存在を知っているかと思ったが思い違いとして処理する。そのまま洞窟の中へと進んでいき唯一光っている苔に触れる。
「あら、アーサーまた来たのね」
「うん、でも今回は彼と一緒にね」
そう言って後ろにいる周りをキョロキョロしている彼の方を見る。セツナはそんなランスロットの姿を見て何やら得心したかのような顔をしてこちらを見る。その顔はいつもと変わらない笑みを浮かべているがどこか嫌な予感もする。
「なるほどね...君がいつもアーサーが言っている子か」
「初めまして、ペンシルゴンの一番の部下ランスロットだ」
「よろしく、ランスロット。私はセツナ、いつも君の事はアーサーから聞いてるよ。」
あの幽霊本人を前にしてとんでもない事を言い放った。確かに何度もセツナ対してランスロットの話題を出したことがあったが本人に直接伝えられるのは少し恥ずかしい。
だがそんな感情を悟られたくは無いので至って冷静を装ってそのまま会話を続ける。
「セッちゃん、私決心着いたよ。クエスト受けることにするよ」
「分かった、じゃぁ彼の事について聞いてちょうだい」
『ユニークシナリオEX『此岸より彼岸へ愛を込めて』を開始しますか?』
セツナは私の言葉に頷き何度も聞いたウェザエモンの野郎についての話をする。そして今回は今までの会話では知れなかったそのウェザエモンとの対峙の仕方まで教えてくれた。コレでようやく準備が整ったということだろう。
「待っててねセッちゃん。ウェザエモンの野郎は私たちが倒し
てセッちゃんの前に引きずり出してやるんだから」
「ふふ、ありがとうペンシルゴン」
セツナに軽口を言ってからランスロットと共にこっそりと野良プレイヤーや『阿修羅会』のメンバーにも会うことなく『千紫万紅の樹海窟』を出る。外に出てふと空を見上げると綺麗な満月が浮かんでいた。それを見て改めて決心する。
「ランスロット、次の新月までレベル上げしよう出来ればカンストまで」
「もちろん、やれることは全部やろう」
ウェザエモンとの戦いまで残り15日、出来ることは全てしようと頼りになる騎士と共に覚悟を決めたのだった。