幕末におけるイベントを一言で表すのなら祭りだろう。他のMMOでも同じような性質を持っていることが多いが幕末ほど全てのプレイヤーが集結するゲームはないだろう。
ということで今回の幕末イベント『極限月下』を1位、もしくは上位に入るためにどう攻略していくかを考えようと思う。
「結局レイドボスをどうにかしないと1位にはなれないし難しい所だなぁ、同盟だって信用できるプレイヤーがいない幕末じゃしたくないし」
「なら僕の出番じゃないかな?気がしれてる仲だし」
「まぁそんな事を言いながら首を狙ってる子は嫌かも」
「嫌だなぁそんな訳無いじゃん」
独り言にスッと割り込み会話を始めた少女から少し距離を取る。ニコニコと笑みを浮かべる和服少女の正体は我らが同志の京極ちゃんである。かわいい笑みを浮かべているがさっきから首に殺意がガンガン刺さっている。
どうせいざ殺る時になったら大きく宣言しながら切りかかって来るだろうしあんまり問題ないだろう。
「それで?僕と一緒に行くかい?」
「うーん今回は辞めとこうかな」
「あっそ、僕を振って後悔しても知らないからね」
京極ちゃんに一緒にイベントを走り抜ける提案をされたが今回は断っておく。だって京極ちゃん強いけど搦手に弱いんだもん、幕末だとそれが命取りになるから仕方がない。
僕の隣から立ち上がり去っていく京極ちゃんの後ろ姿を見て染まってくれるなと願いながら彼女の武運を願っておいた。
「天誅!!」
「ぐはぁぁ!!」
「貴様よくも…仇討ち天誅!」
「お前中々やるなぁ、さっきの奴とは大違いだ」
「仲間を愚弄するか!貴様許さん!!」
「はい、漁夫の利天誅」
イベントが始まった、街は狂気に満ち溢れ至る所で殺し合いが起きている。今回のイベント『極限月下』はデスしたプレイヤーがイベントが終了するまで「怨霊」として復活するものである。
総数が減るタイプのイベントと聞くと無限リスポーンのキルスコアバトルの様なイベントより派手さが無いようにも思えるが意外にもそんなことは無い。
「怨霊」たちが自分をキルした人に集って凄い団体行動になっているのだ。こいつらは集団で踊ったり喋ったりしていて絶対生者の集中力を削いでいるだろう。
かくいう僕は一人で潜伏中だ。今回のイベントの狙いは一位のレイドボスさんを後ろから一撃で暗殺だ。正直な話イベント報酬なんかには興味はなくレイドボスことユラさんを殺したという名誉のほうが圧倒的に欲しい。
ただこの案で殺れるのかと聞かれると自信は全くと言っても良いほど無いがまぁ試したことの無い手段だしやってみても良いと思っている。
「それにしてもみんな派手にやってんなぁ」
残り人数はかなり減っているはずなのにも関わらず聞こえてくる喧騒は小さくなるどころか次第に大きくなっている気がする。爆発音に銃撃の音や剣戟の音、そして人を斬られるときの辞世の句という名の絶叫までありとあらゆる音が交じっている。
そんな音を楽しみながらもうしばらくは大丈夫だなと思い目をつむり休もうとする。するとリアルでは祭りの時ぐらいしか匂わないのに幕末だと日常的に匂ってくる危ない匂いがした。次の瞬間全身が逃げろと告げてくる。すぐさま飛び起き全力でその場から退避する。
ドッカーン
爆発音と共に少し離れた所でつい先程までいた建物周囲数棟が吹き飛んだ。こんな事するやつを僕は一人しか知らない。
「まぁたお前かぁ!!紅蓮寧土!!!」
「アレ?槍杖じゃん全然見なかったけど元気だった?」
今の爆発音で大量の点数たちが集まってきた。
多分僕は後ろに誰も付けていないから知らない人からは鴨だと思われているのだろうかなりの視線を感じる。
あの馬鹿のせいでかなり面倒な展開になっている、なんなら暗殺なんてもう不可能なぐらい目立ってっしまっている。
「マジでお前ふざけんなよ、絶対天誅してやるからな」
「来いよ喧嘩は買ってやるよ」
開戦の合図は無かったが戦いは突発的に始まった。
紅蓮寧土のアホとは何度か戦ったことはあるがその戦法はかなり悪質、花火を付けた鍬をぶん投げて来て爆発させるというガード不能なアホ戦法だ。
「この爆発オチ野郎め巫山戯んな」
「お前今なんつった!?」
戦いは続く、僕は爆発を回避しながら紅蓮寧土との距離を詰めていく。一方で紅蓮寧土は近づかれるまでに爆発を当てて殺しきれば勝ちだ。
この状況一見僕の方が有利な展開に思えるかも知れないがそんなことは無い。なぜなら虎視眈々とイカれた幕末プレイヤーたちに首を狙われているからだ。
一般幕末プレイヤーは点数も無い僕を狙う理由は無いが120%幕末に染まっている奴らは違う、獲物と決めた僕を地の果てまで追っかけて天誅しようとしてくる。
「天誅」
「おい、みんな仇討ち天誅だ!!」
「「「おぉ!」」」
「うるさいぞ馬鹿共!!とっとと怨霊になっちまえ」
その結果イカれた幕末患者たちを天誅しつつ紅蓮寧土に近づくというミニゲームと化しているのだ。一人天誅したら二人三人と無限に増えていく。
「おいおい、一体いつになったら俺のとこまで来るんだよ」
「うるさい。あ、天誅!」
「もう飽きてきたしって...」
「急に黙ってどうした紅蓮寧土」
一人を切り殺し紅蓮寧土の方を見上げるとそこには彼の姿はない。逃げたのかと思い周りの点数を全部もらおうかと意識を切り替える。そうやって仲良く切り合いをしていると異様なプレッシャーを感じた。周りの全員がそうなのか切り合いを止めている。
プレッシャーを感じる方向を見てみるとそこにいたのはもうすっかり見慣れたベビーフェイス、レイドボスさんだ。
その姿を見たこの場の全員の意思はすぐさま一つとなった。
「天誅うぅぅぅ!!」
「キエエエエェェ」
「相乗り天誅!!」
「チェストォォォ」
戦闘が開始して10分ほど僕を含めた全てのプレイヤーがたった一人に全滅させられたとさ、レイドボスオチなんてサイテー
槍杖(ランスロット)
幕末における蛮族のプレイヤーネーム。
主に大太刀や農家の使う斧を武器として使用する。
ログイン頻度は高くないが幕末が幕末になった頃にやって来て当時かなり悪名高かった。
最近では他のゲームと比べて体術の使用が少なくかなり武士の様な武器主体の戦いをする。