「な、何だこれは!?」
ジードの目の前に降りてくる小さな鉄の塊の物体を見て、カラクリは驚きの声を上げる。
「飛行機って言うんだけど……カラクリが居た世界には無かったの?」
「無いな。…ヒコウキか…」
変わったイントネーションで発音すると、カラクリは飛行機をペタペタと触って感触を確かめている。
「食べちゃ駄目だよ。高いから」
「……了承した」
その様子を見て釘を刺すジード。カラクリも食べたい気持ちは有るが、無理して食うほどではないかと素直に諦めた。そうして話していると飛行機から降りてきた女性が話し掛けてくる。
「君がジード・グラウト。でいいのかな?」
「あっ、はい。ジードと…」
「…一応、カラクリと呼べ」
カラクリもいちいち別の名前で呼ばれると面倒臭いと思ったのか、ジードの着けた名前を使用するようだ。
そして名前を聞いてきた女性は名簿を見ると間違いがないのを確認して、ジードとカラクリに飛行機の中に入るように促す。
「時間が出来たら帰ってくるから〜〜!!」
「気をつけろよー!」
「またねー!」
ジードは見送りにきた村人達に大声を上げて挨拶すると、村人達もその声に反応して声を返す。そしてダンドワをチラリと見るジード。
『・・・』
ダンドワはジードにはついて行かない事にした。ジードも子供ではないので1人でも大丈夫だろうという思いと、村を守るために自分は外に離れないほうが良いと判断したからだ。
(恐らくは、ジードが遭ったようなエクルは、これから増えていくだろう……)
飛行機の中から手を振るジードに手を振り返しながらそう考えるダンドワ。そしてジードを乗せた飛行機はマドラノムに向けて発進した。
「村長」
「…戻ったか。どうであった?」
「大型はまだいません。…ですが、エクルを見掛ける機会が多かったです」
「…そうか。ふむ…」
飛行機が去った後に村の男がダンドワに小声で話し掛ける。この男はダンドワがジードから事情を聞いた後にエクルの調査を任せた者達のまとめ役だ。
そのまとめ役の男から報告を聞くとダンドワは顎に手を当てて考える。
「…今の内に守りを固めるぞ。村の魔法使い達に声を掛けてくれ」
「分かりました。…戦える者は念のため警戒に?」
「…そうだな。そうしてくれ」
「はい。命令通りに…」
そう言うとまとめ役の男は魔法使い達の家に向かった。ジードが居たベーグ村もなにやら騒がしくなっているようだ。
「着きました!荷物をお忘れにならないよう!」
「どうも有難う御座いました!」
「うーん…飛行船のようなものか…?」
マドラノムに着いたジードとカラクリ。ジードはパイロットの女性にお礼を言うと荷物を纏める。
と言っても荷物はバック1つなので余り多くはないが、そんなジードの行動を尻目にカラクリは飛行機の中をジロジロと見ている。
「じゃあ、出るよカラクリ。飛行機ならまた見れるから」
「ふーむ。気にはなるがそう言うならば仕方ない。またの機会にするか」
ジードがそう話し掛けるとカラクリも納得したのか、飛行機の中を見るのを辞める。そして2人は飛行機から降りた。
「……何だこの街は」
「…やっぱり慣れないなぁ」
今、2人が居るのはアルバの本部がある建物の屋上だ。アルバはこの都市でかなりの大きさの建物であるため、街の景観を一望出来る。
「まず、あれは何だ?」
「確か…ビルって言う建物かな?」
カラクリは見た事が無い建物を指差すとジードに質問していく。マドラノムの街並みは一言で言えば、混ざり合った世界であろう。
ある方向を見れば洋風の建物、またある方向を見ればビル等の建物が所狭しと並び、他には自然を想わせる建物も有る。これがジードがマドラノムを苦手に思う理由だ。色々な文化が混ざり過ぎて気持ち悪いのだ。
「……成程。貴様が嫌がったのも少しは分かるな」
「でしょ?」
カラクリもこの景観に思う所が有るのか珍しくジードの意見に同意する。そしてある程度マドラノムの景色を見終えた2人は屋上からドアを通り、アルバの施設に入っていく。
「荷物の中身を見せてもらっても?」
「構いません」
(危険物は……)
アルバの施設に入ると男性の施設員に簡易的な持ち物検査と身体検査をされる。ジードも慣れているのか、それを受け入れる。
「ん?貴方の右腕…」
「ああ…それに関しては─」
体を機械にスキャンされるとアルバの施設員が疑問の声を上げる。ジードはカラクリの事を軽く説明した。
「異流体が体に……」
「…やっぱ駄目ですか?」
「うーん。そうですね……」
異流体が体に入り込む事例は、過去にも有ったので其処は良いのだがカラクリの様に意思を持っている例は無く、その部分で悩んでいるようだ。すると…
「あっ!中に有る手紙を見てくれませんか!」
「?…これかい?」
ダンドワに、困ったらその手紙を見せろと言われたのを思い出したジードは施設員にそう言った。施設員はバックの中の手紙に軽く目を通す。
「ああ…!君が連絡にあった子かい」
手紙の中を見ると何やら納得した様子を見せる施設員。
「君は確か、アルバに入りに来たんだよね?」
「はい。そうです」
「そうか。なら少し待っててくれ」
そうジードに言うと施設員は何処かに連絡を取りに行ったようだ。
「ええ…先日報告された子だと思います」
「…面倒だな。この街」
「…ハハッ」
連絡を取る施設員を見ながら小声で呟くカラクリ。言葉にはしないがジードも同じ気持ちなのか、その言葉に苦笑いで返す。
「ジード・グラウト君。君はこの階に行ってくれるかい?」
「分かりました。ーー階ですね」
そうして少し待っていると準備が整ったのかエレベーターの前に案内されるジード。エレベーターを見てカラクリがまた驚いたが、其処は割愛だ。そして目的の階に到着する。
「…結構人居るなぁ」
ジードはエレベーターから出ると溢れんばかりに居る人々に驚く。カラクリは右腕のフリをしていて喋らないが同じ気持ちなのか、脳内回線で同意の言葉を投げかける。
「…あそこが受付かな?」
人が一番多く居る場所を、遠目に見つけたジードはその場所に向けて歩き出す。
そして人が並んでいる最後尾に辿り着いた。そして暫く待っていると自分の番になったのか受付の人に呼ばれる。
「アルバへようこそ!入団試験を受ける方で間違い有りませんね?」
「入団試験…はい。そうです」
「でしたら─」
ダンドワにこの方法でアルバに入るにはちょっとした試験があると言われていたのでその事かと納得し、受付の女性に返事をする。すると受付の女性は慣れた様子で説明をすると、番号が書かれたカードをジードに渡した。
「そのカードが光ったら、あちらのドアをお通り下さい」
「成程…。有難う御座いました」
「また会える事をお待ちしています!」
説明が終わるとジードは受付の女性に礼を言う。それに彼女も返事を返すとジードはその場をあとにした。
「ひ、人が多い…」
(大変だな)
自分が呼ばれるまで其処らの椅子に座っていたが、人の多さに少し疲れてくるジード。カラクリはそんなジードを見て他人事のように適当な声を掛ける。
(それにしても、見た事有るような戦闘装束も有れば、そうでない者もいるな…)
(マドラノムは色々な人がいるからね〜)
目だけを動かして周りを見ると、脳内でそう感想を溢すカラクリ。その言葉にジードが適当に返事をしていると…
「おっ…?」
(光った。…ということは貴様の番だな)
「よし!行くか!」
持っていたカードが光った。ようやくジードの番が回ってきたらしい。ジードも人の多いこの部屋からやっと出られると、急いでバックを背負い説明されたドアの中に入る。
「わぁ…機械だらけだ」
(私はまだ、その機械というのが分からんぞ)
ドアの中に有る、矢印の方向に進んで行くと沢山の機械が有る広い部屋に辿り着く。その部屋の機械の多さに驚いていると上のスピーカーから声が聞こえた。
【君は確かジード君だったか?】
「はい!そうです!」
【説明はダンドワから聞いている。カラクリ君とやらも隠れずに出て来てよいぞ】
「はぁ…またか」
スピーカー越しの人はどうやらダンドワと知り合いらしく名前を聞いた所、マストーニと名乗った。ジードの状態を詳しく知っているようだ。
その事実にカラクリは自分の存在を知る者が多い事に溜め息を吐きながらも渋々と出て来る。
【おお…!…っといけないいけない。先ずは試験だな】
カラクリの姿を見るとマストーニが興味深そうな声を上げる。しかし今は試験の方が大事だと仕切り直して試験の説明を始める。
【試験は至って簡単。其処に現れる、シュミレーション上のエクルを倒す事だ】
「しゅ、しゅみ…?」
【簡単に言うと、出て来るエクルを倒せという事だ】
「な、なるほど…」
ジードも機械の事は詳しくはない。なので何のことを言っているかジードが困惑していると、マストーニが噛み砕いて説明してくれる。
【さて、それでは始めるが…良いか?】
「…よし!やるぞカラクリ!」
「生き残る為だ。協力してやろう」
カラクリもアルバに入れなければ自分の命が危ないと察してか、ジードに協力してくれるようだ。そしてジードは右腕を構える。
「鉤爪!」
「了解」
そう叫ぶとジードの右腕は巨大化して、その右手はあの時戦ったエクルを想わせる凶悪な鉤爪に変化した。
【…試験開始!】
『!?』
「ウォォォ!!」
その様子を面白そうに見つめた後、マストーニは合図を出した。すると部屋の中がガラリと変わっていき、最終的には何も無い更地になった。
2人がそれに驚いていると巨大な、狼人間のような姿をしたエクルが現れる。
「ウォッ!」
そのエクルは右足で大地を強く蹴ると、ジードに向けて飛びかかる。そして自慢の右爪をジードに振り下ろすが…
「ウォッ!?」
「受け止めて、からの…!」
ジードは右腕を自分を覆うようにすることで敵の攻撃を防ぐ。そしてその防いだ相手の右手を鉤爪の付いた右腕で掴み、思い切り上に投げ飛ばす。
「ウゥ゙…!」
「ハアッ!」
エクルは空に投げ飛ばされた。
空中では少ししか身動きが出来ずに藻掻いていると、そのまま下に落ちてくるエクル目掛けてジードは鉤爪を振り下ろす。
「…!」
エクルはその攻撃を食らうと縦に引き裂かれた。最後は声すら上げられずに、その体は消えていく。
「あれ、消えた?」
「何だ…食えないのか」
消えていくエクルを見て2人はそれぞれ感想を溢す。ジードはまだエクルが粘ると思っていたのか拍子抜けの様子で、カラクリは単純にエクルを食べれないことが不満のようだ。
「この鉤爪。すごい…!?」
「相手が弱かっただけじゃないか?」
エクルを一撃で倒した鉤爪を見ながら興奮したように言うジード。喜ぶジードを尻目にカラクリは相手が大したやつではないからではと水を差した。
(ふむ。一撃か…)
ダンドワから情報は聞いていたので倒せるとは思っていたが、一撃でエクルを倒した事に少し驚くマストーニ。
(最低限の実力はあるか…)
この入団試験の合格基準はシンプル。エクルを倒せる実力があるかどうかだ。この時期に募集する団員にはある程度即戦力になってもらいたいので、実力さえ示せば余程素行が悪くない限り合格出来る。
しかし、エクルを1人で倒すのは言うは易く行うは難しである。この入団試験で合格している者も志願者の数に比べるとかなり少ない。
まあ…ジードは1人で倒したと言っていいかどうかは判断に悩む所だが、カラクリが居るからこそアルバの騎士になろうとしているのだ。合格でも問題あるまい。
【ジード君!まだ戦えるかね?】
「はい!まだ行けます!」
カラクリと話しているジードに声を掛けるとまだ戦えるそうだ。なのでマストーニはもう少し試験を受けさせる事にした。
【次はこのエクルを相手してくれるかな?】
「アオォォーン!!」
「おお、飛んでる…」
次は大きな鳥の姿をしたエクルが相手のようだ。色々な姿のエクルを見るなぁと少し得した気分のジード。すると鳥型のエクルは空から攻撃をしてくる。
「あぶなッ!」
(羽根を飛ばして攻撃か…)
エクルの鋭い羽根を鉤爪で何とか弾きながら逃げ回るジード。カラクリは、逃げるジードの右腕から目を生やして相手を観察する。
(飛ぶエクルにはどう対応する?)
この試験の目的はジードの対空適正を測るものだ。ダンドワからは、遠距離攻撃もしていたと聞いていたのでそれを使うと思っていたが…
「…今だ!」
「アオッ…!?」
ジードは、羽根を撃ち終わったエクルの隙を突いて右腕を地面に強く殴り付ける。
するとジードの体が跳ね上がり、空に浮かぶ。その様子を見て驚くエクルにジードは鉤爪のある手を向ける。
「伸びろ!」
「アオッ…!」
まさか伸びるとは思わなかったのか、回避が間に合わないエクル。そのエクルの体を伸びた鉤爪で叩き落とす。
「ア…オッ…!」
「…ハアッ!」
地面に叩きつけらたエクルは苦しそうに呻く。其処に鉤爪を下に向けて落ちてくるジード。
「…ァ゙…!」
ジードの鉤爪はエクルの胴体を貫通して地面に突き刺さる。最後に断末魔の小さな悲鳴を上げると鳥型のエクルは消えていく。
「ふう…何とか倒せた」
「やはり消えるか…」
消えたエクルの場所を見ながら、今回は苦戦したなと思うジード。カラクリも同じ場所を見ているがその内容はさっきと一緒だ。
(ほう、上手く倒したな)
遠距離攻撃を使わずに倒した事に驚くマストーニ。しかしジードの戦い方を見て、ある疑問が浮かぶ。
【ジード君。確か君は、他の攻撃方法も取れる筈ではなかったか?】
「ああ…それなんですけど─」
ジードもマドラノムに送られる前に色々な形態を試したのだが、右腕を変化させるのはとても疲れるので、出来るだけ右腕を変化をさせない戦法を取ることにした。
そしてどの形態が一番対応力が有るのかと悩んでいた所…
「あの食ったエクルの一部を再現するか?」
「え、そんな事出来るの?」
カラクリは食べた物を体の中で変換して別の物に変換出来るようだ。その技術で大砲やハンマーに体を変化させていたらしい。
「おお…!何か良い…!」
このエクルの鉤爪を気に入ったのか、ジードはこの形態を基本とする戦いをする事にした。実際、今は役に立っているのでこの判断は正解なのだろう。
【成程、消耗が早いならば仕方ないか…】
「…いい加減、試験は終わったのか?」
ジードの説明に納得している様子のマストーニに、カラクリが苛立ちながら問いかける。目の前で美味そうなものが消えていくのが余程腹立たしいらしい。
【ああ…済まない。試験ならば合格だ】
「やったー!」
(何とかこれで、生き延びたか…)
そう言われるとジードは純粋に喜びを露わにした。カラクリはアルバに入れたので、条件は満たしただろうと心配事が1つ減った気分だ。
【今扉を開けた。其処から出て行くといい】
「おっ、何か出た」
部屋の更地の光景が消えると扉が現れる。その扉の取っ手を掴むとジードは部屋をあとにした。
(もう少し他の形態を見たかったが仕方ない。私の個人的な興味に付き合わせる訳にも行かないか…)
そう心の中で思っているとマストーニに誰かが声を掛ける。
「次の試験始まりますよ!マストー二さん!」
「…おっと、そうだったな。次は─」
彼の名はドルド・マストー二。アルバの騎士になる者達を育成する学校の校長をしている男だ。
CHIPS
アルバに入るには専門の学校に入るか、ジードのように中途入団するかだ。