「走れィ゙!新人共ォ゙!!」
『はい!!!』
(キツイ…!!)
ジードは今、アルバの新人騎士として目茶苦茶に扱かれている最中だ。
試験に合格はしたが、それはアルバに入る資格を最低限満たしただけであり、アルバの騎士になるために必要な事をスパルタで教え込まれている。その一環がこの基礎訓練である走り込みだ。
「一時休憩ィ゙!!飲み物飲んどけぇ゙!!」
「ハァ…ハァ…!」
教官の言葉に足を止めてその場で息を整える。顔や額から止め処無く溢れる汗が地面に落ちていった。そうして息を乱しているジードにカラクリが脳内で声を掛ける。
(フッ…貴様も大変だな)
(他人事だと思って……!)
カラクリは日中は右腕の振りをしているだけなので、特に何時もと変わりはない。そのカラクリに珍しく悪態を吐いていると…
「よっ!…ハァハァ…大丈夫…か…!」
「それは…こっちの…台詞だよ…」
ジードに声を掛けてくる赤い髪の少年が来た。彼の名は
後ろの名前が本人の名前という事で、カラクリは最初不思議そうにしていた。どうやらカラクリの世界では名前が前に、家名が後ろに、が基本だったようだ。家名が無い者も居たが燎赫のような名前の人は居なかったらしい。
ちなみに、この惑星アムスでは燎赫のような名前も沢山いるので、ジードは普通に受け入れた。
「ほい、飲み物」
「ありがと、燎」
燎赫から飲み物を受け取るジード。2人共に、息がある程度整ったのか地面に座って飲み物を飲み始める。
「はあ…此処までキツイとは思わなかったぜ…」
「確か燎は、自分から志願して入ったんだよね」
「おう!…まあ、少し後悔してるけど…」
燎赫は自分からアルバの騎士になりたいと決意してアルバに入ったらしいが基礎訓練のキツさに少し滅気そうなようだ。
「親には反対されたけど、この異能が役に立つなら、それも良いかなってな…」
「…異能とは何だ?」
「うおっ!…急に出て来るなよな…」
燎赫から出た異能という言葉に反応して、カラクリが右手から口を作り燎赫に話し掛ける。
ジードとカラクリの事は知っているが急に出て来ると驚くのか、それを辞めるように促す燎赫。そんな燎赫の言葉を無視してカラクリは質問を繰り返す。
「で、異能とは何だ?」
「はあ…。俺の場合は火を使う異能だな」
「魔法とはどう違うのだ?」
「んー、それは…ジード任せた!」
「確か異能は、魔法と違って─」
異能。それはこの惑星アムスにて発現する、超能力に近い現象だ。魔法との違いは燎赫の異能を参考にすると、魔法には火を使う魔法の詠唱が必要であり、異能の場合は詠唱が必要無く使える事か。
しかしある程度体系化している魔法と違い、異能は自力で技や使い方を覚えなければ行けないので、どちらも一長一短だ。
「成程。詠唱が必要無いのは楽だな」
「だろ?まあでも、今は火を真っ直ぐ放つくらいしか出来ないけど…」
「火力はどのくらいだ?」
「試験のエクルを焼き尽くすくらい」
「……どれほど凄いのか分からないな」
入団試験に合格出来たのだからある程度の火力は有るのだろうが、平均的なエクルの強さを知らないのでどう判断していいものか悩むカラクリ。すると…
「休憩は終いだァ゙!!集まれ新人共ォ゙!!」
「ヤベッ!早く行かないと!」
「遅れるとまた走らされるからね…」
「頑張れよ。人間共」
『こいつ……!』
またもや他人事のように振る舞うカラクリに少し苛立つ2人。しかし怒ってる暇はなく急いで教官の下に向かう。
「次は対人訓練だ新人共ォ゙!!わざわざ来てくれた先輩騎士達に感謝するんだなァ゙!!」
「うげっ!またボコボコにされる…」
「強いんだよね…先輩騎士達…」
対人訓練。悲しい事だが、アルバの騎士は時に同じ人と戦う時も有る。そういった手合いに対処する為に、エクルへの対策だけではなくこうした訓練も必要なのだ。
(フフッ…大変だなぁ貴様?)
(…無視、無視)
その様子を脳内でカラクリがからかって来るが、下手に反応すると喜ばせるだけなので言い返す事はしなかったジード。
「次!ーー番!」
「はい!」
「・・・」
そうしてカラクリの言葉を聞き流していると、自分の番が来たのか番号を言われる。この訓練では基本的に番号で人を管理しているので名前では呼ばれない。そして先輩騎士の前に立つと…
(あっ、前と同じ人だ。確か名前は…)
(劔と名乗っていたな)
「両者構え!」
「対人鉤爪!」
(了解)
「・・・」
その声にジードは普通サイズの右腕と鉤爪になるようにカラクリに頼む。その声に合わせて脳内でカラクリが返事をすると右腕は変化した。それを見ながら劔は静かに剣を構える。
「始め!」
「ハッ!」
ジードはその声の直後に右腕で殴り掛かるが…
「隙だらけだ」
「ガハッ…!」
ジードの攻撃を真っ直ぐに立っていた左足を軸に、半身になって躱すとそのまま右手で持っていた剣をジードの頭に振り下ろす劔。
その攻撃をまともに受け、ジードは地面に倒れる。刃は潰しているとはいえ鉄の塊を頭に受けて意識が揺らいでいると、その隙を見逃さずに劔は右足を高く上げてジードの背中に踵を落とす。
「ガッ…!ハァ…!」
「右腕の大きさを変えたのは良いが、愚直に攻めすぎだ。もう少し考えて攻撃しろ」
「あ、有難うございました……」
体中が痛むが、劔に礼を言うジード。前に戦った時は大きな右腕を上手く対人戦で扱えずにボコボコにされた。なので今回は普通のサイズにしたが、単純に対人経験の無さから負けたようだ。
「うわあああぁぁぁ!!」
「…あっ、燎が投げられてる」
燎赫の相手は柔術に長けているようで投げられてるようだ。こうして何度か、色々な相手に稽古をつけてもらったが単純な経験不足から全く歯が立たないジードであった。
「痛え…体中ボロボロだぜ…」
「一撃与えるどころか、数十秒も保たないね…」
「2人揃って情けない事だな」
訓練も終わり、団員寮の部屋で反省会を開くがどうやっても勝てなそうな先輩騎士達に意気消沈する2人。そんな2人を見てカラクリは悪態をを吐いた。
「幾ら復元装置が有るからって、容赦無く骨を折ってくるからな…」
「最初は悲鳴が飛び交ってたけど、最近は他の皆も慣れてきたみたいだね…」
復元装置。どんな傷でもこの装置に入れば元通りという、とても便利な装置だ。
しかしこの装置は色々と難しい技術を使っている為か戦場には持って行けないらしく、専ら訓練の後に使われる事が多い。
「治るとはいえ、痛えものは痛えんだよなぁ…」
「だね…」
なまじ回復手段がある為に先輩騎士達の手加減が無い事、無い事。先輩達曰く…
『戦場で死ぬのは駄目だが、訓練ならば一時的に死んでも構わない』
との事。
実際即死状態でも無い限りは復元装置で治せる。直ぐに処置すれば、ほぼ死んでるような状態からも復活出来るので、先輩騎士達の稽古に慈悲はない。そんな事を話していると…
「──ご飯の時間だ!」
「よし!行くぞ貴様!」
「…お前等、食事の時間は正確に覚えてるのな…」
そう言うやいなや、部屋を出て食堂に向かうジードとカラクリ。機械に疎い時があるのに、食に関しての事は機敏なジードに燎赫は少し呆れた。
「美味い〜〜〜!!!」
「うん!これもイケるぞ!」
ジードは幸せそうに食べ物を味わっていく。ちなみにカラクリの味覚はジードと一時的に同期する事で同じような感覚を味わえる。なので今のカラクリは美味な食べ物を食べれて上機嫌だ。
(ある程度力を貸す事でこれを味わえるならば、今の生活も悪くないな…)
美食に舌鼓をうちながらそう考えるカラクリ。実際、今の生活でのカラクリの役割は訓練の時に力を貸すだけだ。
なので自由に動けないというマイナス点はあるが、それ以上に色々な食を味わえる事でプラスの要素の方がマイナスよりも大きい。
「よく食うな。ホントに」
毎回の事だが大量に食べるジードとカラクリに驚く燎赫。
「はあ…にしても、何とか一矢報いたいぜ…」
「先輩達のこと?」
「ああ、異能使おうにも、その前にぶっ倒されっからな…」
ある程度食事を終えた燎赫が愚痴をこぼす。その様子に、一旦食事を止めるとジードが質問する。
何とか燎赫は先輩達に一撃与えたいようだが、燎赫は手からしか火が出せないので火を放とうとするとその予備動作でバレるらしい。
「純粋な疑問だけどさ、手以外からも出ないの?」
「えっ?…そりゃあ……あれ、どうなんだ…?」
「モグッ…モグッ…」
ジードが手以外からも火を放てないのか聞くと、燎赫は試した事が無いらしく疑問の声を上げる。そんな2人を気にせずカラクリは食事に夢中だ。
「…出来たわ」
「良かったね…」
「早く戻れ。馬鹿共」
試しに近くの訓練場で手以外から出ないか試してみるとあっさりと出た。2人は喜ぶでもなく、ただその火を見つめていた。カラクリは食事の邪魔をされてご立腹のようだ。
「…よしジード!俺は先輩達に一泡吹かせるぜ!」
食堂に戻るとそう言い放つ燎赫。どうやら今の異能の使い方で何かを閃いたらしく、その目は自信に満ち溢れている。
「じゃあどうせだし、俺も頑張るよ」
「ホントか!?…なら勝負と行こうぜ!」
「…モグッ…モグッ」
そんな燎赫に付き合うつもりなのか、ジードも先輩に一泡吹かせるように言う。すると燎赫はそれを喜びながら勝負を仕掛けてきた。
「負けた方が飯奢りな!」
『!?』
その言葉に無視していたカラクリも反応する。その2人の様子を見て、やはりこれで釣れたかと思う燎赫。
「ルールは…?」
「至ってシンプル!先輩相手に長く戦えた方の勝ちだ!」
ルールは先輩騎士相手に最後まで立っていた時間が多い方の勝ちらしい。
「勝負の日は此処だ!」
「だいたい1週間後くらいかな…?」
カレンダーのある日を指差す燎赫。その日付は、今から1週間後の対人訓練日を指していた。
「よし!頑張るか、カラクリ!」
「仕方ない。私も手を貸そう」
燎赫の奢りに、カラクリも興味が有るのかやる気のようだ。
「じゃあ1週間後な!」
「分かった!」
そうして2人は食堂をあとにした。
「次!ーー番!」
「はい!」
1週間後。勝負の日は訪れた。先に戦うのは燎赫らしくジードとカラクリはそれを見守る。
「両者構え!」
(相手は劔先輩か…)
(あの男は、先輩騎士達とやらの中でも上位だろうな)
燎赫が戦う相手はあの劔先輩だ。合図に合わせて燎赫は棍棒を構える。それに合わせて劔も剣を構えた。
「始め!」
「燃えろ!」
「!」
「…棍棒が燃えてる?」
燎赫が叫ぶと棍棒に火が纏わりつき、傍目には燃えているように見える。
しかし棍棒は燃えずにそのまま原型を保っている。恐らく燎赫が燃えないように異能を調整しているのだろう。燃えている棍棒を見て、劔も少し驚いたようだ。
「
燎赫は火を纏う棍棒を振り回し、火の玉を劔先輩に向けて放つ。その火を回避しながら劔は燎赫との距離を縮める。
「ラアァッ!」
(躱しにくいな…)
火を纏う棍棒の薙ぎ払いを躱すが、その棍棒が辿った軌跡の後から火が少し遅れて出てくるので、間合いを測るのが面倒だと思う劔。
「…此処か」
「!?」
しかしある程度棍棒の動きを見ると慣れたのか、隙を突いて燎赫の懐に入り込む劔。その速さに一瞬驚く燎赫だが…
(──今だッ!)
「!」
燎赫は口を膨らませると劔に向けて火を吐く。これはジードが指摘した時に試した技だ。
燎赫は劔がいずれかは火を纏う棍棒に対応してくると予想し、懐に入られた時に使おうとこの技を温めていた。
(どうだ!)
火で前が見えないが、あの距離で躱すのは無理だと判断した燎赫は内心で喜ぶ。しかし…
「ガッ…!」
「…まさか、新人にこれを使わされるとはな」
突如、頭に衝撃が走る燎赫。後ろにはいつの間にか劔が立っており、剣を振り下ろしていた。
(今のは足に…)
(ああ、何やら魔力を込めた瞬間、奴の姿が消えた)
それを見ていたジードとカラクリも驚く。燎赫のタイミングはバッチリだった。しかし劔が足に魔力を込めた瞬間、いつの間にか燎赫の後ろに姿を現し、剣を振り下ろした。
外野から見ていても分からないその技に、他の新人騎士達も驚いてるようだ。倒れた燎赫が外に運ばれると…
「次!ーー番!」
「あっ、はい!」
自分の番号を呼ばれる。今の技が何かは分からないが、そのまま戦いに赴かなければ行けないらしい。
「両者構え!」
(…よし!やるか!)
「?」
前に戦った時のように右腕を変化させようとしないジードを不審に思う劔。
「始め!」
(…隙だらけだな)
「………」
始まりの合図を受けても右腕を変化させずに、ただ突っ立ているだけのジードを見て劔は更に疑念の感情を募らせる。
(取り敢えず此方から攻めるか…)
ジードの目を見る限り、やる気が無い訳では無さそうだ。なので劔は足で地面を蹴るとジードに右手で持った剣で斬りかかった。すると…
「…
「!?」
斬り掛かる直前に何かを呟いたかと思うと、その瞬間ジードの雰囲気がガラリと変わる。そして劔の縦に振り下ろした剣を半身になって躱すと、顔に向けて右手で殴りかかってくる。
「クッ…!」
その拳を左手で受け止め、回し切りの要領でジードに剣を当てようとするがジードはその攻撃をしゃがんで避ける。
そしてしゃがんだまま足払いを仕掛けにきた。それをジードを蹴りつける事で後ろに飛び、躱す劔。
(まるで拳法家と戦っているようだな…)
蹴りつけたが両腕をクロスしたように構える事で防いだジード。どのような攻撃をしても対応してくるジードに、劔は内心でそう思う。
「フッ…!」
(…次はそちらからか!)
ジードから仕掛けた攻撃を何とか捌く劔。先程の劔の感想は当たっていた。今のジードは拳法の達人であった人間の動きを模倣している。何故そのような事が出来るかというと…
「達人の動きを模倣する?」
「ああ、達人には達人をぶつけるという事だ」
「それが出来たら苦労しないんだけどね…」
「そのための私だ」
カラクリの言い分に険しい顔をしていると、カラクリはどうやって動きを模倣をするのかを説明していく。
「先ず私が、沢山の人間に寄生して来たのは知っているな?」
「……そうだね」
「その中には色々な技を極めた、達人とも云える者達も居た」
「あれ?もしかして…」
「察しが良いな。つまり─」
カラクリはその達人の技や動きを、ジードにインストールする事でジードを一時的に何かの達人へと変えようとしているのだ。
そして今のジードが模倣しているのは拳法家。特定の武器を扱うのは、模倣しても直ぐには扱いきれないだろうと判断したカラクリが、武器を使わずに戦える者として記憶の中からこの拳法家を選んだ。ちなみに名前は覚えてないらしい。
(速い…!)
そして場面は劔との戦闘に戻る。今のジードは一時的では有るが拳法の達人。手加減をしている状態の劔では相手をするのが厳しいだろう。
そして少しずつ追想演舞が体に馴染んで来たのかジードの攻撃が鋭く、速くなっていく。それに焦り劔も対応しようとするが…
(飛脚…!いや、間に合わ─)
その技を使おうとするが、思考が間に合わない劔。そう考えている内にジードの拳が顔面に迫る。劔もこの攻撃は避けられないとダメージを覚悟したが…
(?…攻撃が来ない?)
目を瞑った劔だが、一向に痛みが来ない事を不審に思い目を開ける。すると其処には倒れ伏しているジードの姿があった。
「おい!おーい!…大丈夫か?」
「む…り…」
「・・・」
この追想演舞の欠点は、インストールされた動きにジードの体が保たない事だ。
なにしろ模倣するのは誰もが達人の領域。動きを覚えたとはいえ、一朝一夕でどうにか出来る訳がない。達人にはその技を放っても平気な程の体の頑丈さも必要不可欠なのだ。
一時的とはいえ、ジードも頑張った方だろう。そうして動けないジードに声を掛けるカラクリ。少し消化不良の様子の劔と、何とも言えない空気がその場に広がった。
「…救護班!」
劔は心の中で溜め息を吐くと、重症であるジードを救護班に運ばせた。その顔は何処か不満気だ。
(…全く。今日は驚かされてばかりだな…)
燎赫に続き、ジードにもヒヤリとさせられた事に頭を抱える劔。一泡吹かせる事には成功したが、当人達はそれを知らずにどちらも気を失ったままだ。
「はあ…死ぬかと思った…」
復元装置から出るとそう息を吐くジード。事前にどういう事をやるかはカラクリに聞いていたが、此処までキツイとは思わなかった。すると右腕からカラクリが話し掛ける。
「先に言っただろう。どうなるかは知らんぞと」
「奢りに釣られ過ぎたね…」
そう言って反省しているとジードに近寄ってくる女性が来た。
「いやー、訓練であんなに体をボロボロにしてる子は……久しぶりだね!」
「あっ、パナ─」
「ノン!その名前は過去のもの!今はDr.ピオリーと呼びなさい!」
「あっ、はい…」
「…前も違う名前を名乗ってなかったか…?」
この女性は…今はDr.ピオリーと名乗っている。巫山戯た振る舞いだが、腕は確かなので他の医師や看護師からは信頼されている。見た目は二十代後半、髪は長く、茶髪で背は高い。
「…それでジード君は何をしたのかな〜?」
「あーそれは…」
「・・・」
「はい…話します」
ピオリーに話すかどうか少し悩んだが、無言の笑顔から圧を感じたジードは素直に話す事にした。
「…その技、今出来る?」
「どうなの、カラクリ?」
「出来るぞ」
「じゃあ、少し見せてくれるかな?」
追想演舞の説明を聞き終えると、ピオリーはその技を今使えるか尋ねてくる。
この技を使うのはカラクリなのでジードが質問すると、素直に出来ると答えるカラクリ。そして先程使った拳法家の情報をもう一度インストールする。
「ふむふむ…少し触るね~」
「あっ…!」
ピオリーが手を伸ばすと、無意識にその手を払い退けようとする体に焦るジード。
「うーん…成程…」
「──ッ!?」
するとジードが手を払い退ける前にピオリーはその腕を掴んで抑えつけ、更に動き出そうとする体を魔力で出来た鎖で拘束する。
「あっ、抑えつけてごめんね!」
「い、いえ…」
(やはり只者ではないな、この女……)
ジードを拘束した事を謝るピオリーだが、ジードはその無駄のない動きに驚きを隠せず、生返事を返す事しか出来なかった。カラクリは心当たりが有ったのか納得した様子だ。
「結論から言うと、実戦で使うのは禁止!」
「やっぱり駄目ですか…?」
「当たり前!こんな技を実戦で使ったら、周りの迷惑になるからね!」
ピオリーの意見は最もだ。この追想演舞を使えば一時的に達人の領域に入れるが、この技を使える時間は短く、そして負担も大きい。
こんなものを実戦で使えば良くて死亡、最悪の場合は仲間を巻き込んで死ぬ事になる。実際に体験したジードも、この技は危険だと思ったのかピオリーの指摘に納得する。
「まあでも、訓練で使う分には、……今のジード君だと、30秒くらいかな?」
「えっ」
「達人の技を体で覚えられるから、訓練には良い技、とも言えるんだよね~」
てっきり、使う事自体を禁止されると思っていたのか、ピオリーの言葉に驚くジード。
「……最近はエクルも強くなってるし、まあ…許可は出すよ…」
アルバの騎士の本分はエクルを倒す事である。ピオリーも其処は理解しているのか、渋々だが追想演舞を訓練で使うのを許してくれる。
実際、追想演舞を使った事で何となく前よりも上手く体を動かせる気がするので、ジードとしても嬉しい限りだ。それも当然だろう。ジードの体が模倣した動きは達人のもの、一時的にその人物が憑依したような感覚だ。
その憑依が抜けた後も使った技や動きの感覚を体が覚えている。1から技や動きを学んでいる者からしたら、とても羨ましい技だ。
「で!も!30秒以上は使わない事!良い?」
「わ、分かりました!」
追想演舞を30秒以上使うと、先程のように命の危機に陥る。なので追想演舞を使っても安定して治せる範囲を逸脱しないように強く注意するピオリー。ジードもまた命の危機を感じるのは御免なのか素直に頷いた。
「良し!じゃあまたね、ジード君」
「有難う御座いました!ピオリー先生!」
「うーん。…余りしっくりこないかな。この名前…」
〘…何でそんなに名前を変えたがるんだ?〙
最後に挨拶をして名前を呼ぶジードだが、ピオリーはその名前が不満そうだ。何でそんなにコロコロ名前を変えるのか不思議に思うジードとカラクリであった。
CHIPS
火尋燎赫
棍棒使い。その腕は昔から練習していたお陰か、かなりのもの。
鋼劔
今回の事で燎赫とジードに注目している。
ピオリー先生
本名は大嫌いの為、名前をコロコロ変える。